文化庁主催 コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の流通・契約システムに関する研究会」の成果報告
コンテンツビジネスの未来は輝いているか?

2004年6月28日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟大ホール)
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特別講演
浜野 保樹 (はまの やすき)
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授

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撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
「リング」という映画をリメイクされたプロデューサーの言葉ですけれども、今のアメリカの子どもたちは日本のポップカルチャーに親しんで育った最初の世代であると。要するに最初の子どもたちの日本体験というのは日本の家電でも日本の車でも日本の政治家でもなくて、ポケモンだったりデジモンだったり、遊戯王だったりするわけですね。ですから、自分で映画を選ぶ年齢になれば親の世代がディズニーを愛するように、日本の文化を自然に受け入れるはずだということを言っているわけです。

ここでおもしろい映像があるのでお見せしたいと思います。現在スペインで一番人気のあるテレビ番組は、「クレヨンしんちゃん」です。中国でも人気ナンバー1のキャラクターは20代前後では「クレヨンしんちゃん」。一回もテレビで放送されてないのになぜか人気キャラクターナンバー1になっているわけです。

その劇場用アニメーションの「クレヨンしんちゃん」をスペインで初めて劇場用でプレミア上映したときに、原恵一監督が行かれた時の映像を編集した映像です。余談ですが、私は文化庁のメディア芸術祭の審査員もやっていたのですが、2年前に原さんの「クレヨンしんちゃん」シリーズの「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」というのがグランプリを取られました。その時ちょっとした問題が起こりました。文化庁長官が表彰状で「クレヨンしんちゃん」あっぱれ何とかを読むことになるのですが、口にだすと何となく格好悪いタイトルだったわけです。でも、「クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望」や「クレヨンしんちゃん暗黒タマタマ大追跡」よりいいんじゃないですかと言ったら、それはそうだねと。その「暗黒タマタマ」をスペインでプレミア上映したときの映像です。ちょっとごらんください。

現在、スペインでは36の方言で放送されます。最初は2つの方言だけでやっていたのですが、ものすごい人気で、余りにも要望が多いので36の方言でやっています。

オタクという言葉ができたので、そういった存在がいることを我々は理解したみたいに、言葉というのは非常に大事で、日本の強いポップカルチャーの存在も、海外から指摘されて日本では知ったようなものです。

ダグラス・マグレーという人が2002年、「フォーリンポリシー」でグロスナショナルクールというコンセプトを出して、これまで日本というのはGDPを拡張するということに汲々としてきたわけですが、GDPが世界有数になっても、世界有数の幸せな国民だとは思っていない。経済的には豊かになったけれども、充実感については何か欠落部分があった。実は日本はGDPだけではなくて格好よさ、国の格好よさの総体、グロスナショナルクールにおいても実は日本はすごい、世界一でした。彼はキティのことを非常に評価しているんですが、アニメーション、ゲーム、キャラクター、食事、三宅一生さんを代表するファッション、そういったものが非常にすごいということで、マグレーという若者が「フォーリンポリシー」に書いて、日本の格好よさというのはすごいんだということを言ったわけです。


撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
ただ、そういったことは実は昔からずっと言われてきています。渡辺京二さんという在野の研究者が『逝きし世の面影』という傑出した本を書かれています。明治維新に来日した外人の手記とか単行本を可能な限り読まれて、日本というのはどういうふうに言われていたのかというのを書いておられます。それを読むと、明治維新に来日した外人のほとんどは、日本は子どもを楽しませる仕組みが充実していることを繰り返し繰り返し書いています。ですから、「日本は子どもの天国である」という有名な言葉が当時書かれていますけれども、まさにそういった連綿とした伝統があるわけです。

そして、その格好よさとか魅力がいかに大きな影響力を持つかということで、常に言われることがあるので、余談ですけれども、触れておきたいことがあります。アメリカ軍がマンハッタン計画で原爆をつくったときにフォン・ノイマンというコンピュータの原理を開発した天才的な科学者に、どこに原爆を落としたらいいかということを諮問しました。フォン・ノイマンは京都にすべきだという科学者らしい結論を出しました。原爆の威力を科学的に理解するためには、まだ爆撃されてなくて10キロ四方の平地がある京都がベストであるということをノイマンたち科学者達の委員会は推薦したわけです。しかし陸軍長官のヘンリー・スチムソンが、京都は世界の宝で、絶対に落としてはいけないと命令しました。京都の魅力が抑止力になったという有名な話で、「魅力」の話が出ると必ず出ます。「魅力」を理解してもらい、「魅力」を伝えるということは、これは国防においても、重要なことになるわけです。

マグレーの論文は大きな反響をよびましたが、著者は20代の若者です。今年、ジャパンソサイエティーの招きで再び来られたときに、「日本で一番会いたい人に会わせてあげる」といったら、大友克洋さんの名前を上げました。私は大友さんを知っていたので、大友さんに頼んで彼に会ってもらいました。こんな若い人が日本に魅了されて書いた論文が非常に世界的に大きなインパクトを与えたわけです。
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