文化庁主催 コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の流通・契約システムに関する研究会」の成果報告
コンテンツビジネスの未来は輝いているか?

2004年6月28日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟大ホール)
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特別講演
浜野 保樹 (はまの やすき)
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授

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撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
これまで世界の人々が同時に見て、同時に感動したり泣いたり笑ったりするためには巨大な仕掛けを必要としていました。大がかりで準備に準備を重ねて、オリンピックとかワールドカップ、万博というのをやりました。しかしグローバルメディアが出てきたために、定常的にどんどんあらゆる文化の人々に同じコンテンツを提供できるようになりました。

それの典型的な例が日本のプロ野球の衰退でしょう。コンテンツは文化に依存するため、ベストワンということはあり得ない。コンテンツというのはオンリーワンしかない。例えば「男はつらいよ」を見に行って、満員だから中年男性が主人公の別の映画を見ようなんていうことはあり得ないわけです。見たいものしか範疇にないので、オンリーワンしかありえない。アメリカ文化にのっとったベースボールというエンターテインメントは、アメリカでしか成立しえないわけですから、日本の優秀な選手が当然本場を目指して出ていく。そうすると、日本のプロ野球というのは必然的にアメリカのベースボールの2軍であるということがばれてしまい、衰退していく。エンターテインメント・コンテンツとしてのプロスポーツについて言っているのであって、スポーツそのものについてではないので、誤解のないようにしてください。だから、サッカーだってそういうことが起こるかもしれません。

今、ハリウッドの一人勝ちで何が起こっているかというのは、映画そのものだけではありません。1977年に「スターウォーズ」がすべてのルールを変えました。映画の売上よりも映画から派生したライセンス料の方が初めて世界的に上回りました。世界的にヒットした作品の中でマーチャンダイズの売上の方が映画の興行成績を上回ったというのは「スターウォーズ」が初めてです。それがルールをすべて変えてしまい、まずは映画を宣伝媒体と使い、そのあと小説、ゲーム、キャラクター商品と、ありとあらゆるものに関連づけて商品を売り込んでいく。最近では「マトリックス」くらいからずっと始まっています。

とうとうアメリカで日本のゲーム機の販売台数がアメリカのゲーム機に負けました。大分前から日本のゲームコンテンツは海外では売れなくなっていると言われるようになっていました。ゲームの機能が大きくなって、操作や世界観が複雑になり、初めての人はとっかかりにくくなってしまっています。そのため、世界観や操作性が慣れているシリーズものばっかりが、国内では当たるようになってしまった。そのためのソリューションとして、アメリカは、ビッグヒットの映画で世界観を知っている映画にする。どっちが正義の味方でどっちが悪か、どう戦うか、使う武器は何かって、世界観を刷り込まれているので、すごくプレイしやすい。それに小説とかTシャツとか追いかけて作品を出していくという形をとるので、まずフラッグシップである映画が当たると、追いかけて次から次へと繰り出してくる。コンテンツはだめでも、ハードだけは日本には家電のノウハウがあるから大丈夫だなんて言っていたら、2カ月前にアメリカとオーストラリアでアメリカのゲーム機が1番になってしまった。

努力して海外に発信していく努力を続けなければいけないのですが、我々は1億2,000万とか3,000万の国内マーケットでそこそこ食えてしまうので、そこでリクープしてしまうと、あとの努力が続かないということがあったと思います。

かつて東宝はニューヨークに直映画館をつくったことがありますが、全然利益が上がらないので、もう二度と海外に出ないと森岩雄さんは書かれています。日本最大手のアニメーションの会社がアメリカにオフィスを置くようになったのも、ここ最近のことです。やはり海外に出ていく努力が足りなかったと思います。

韓国政府はコンテンツ産業を、オフライン産業とオンライン産業に大きく分けています。パッケージとか本とか、映画館に見にいくようなものをオフライン産業。将来は全部オンライン産業にシフトするという前提で、オンライン産業に集中的に支援しようとしています。それは1つの見識でしょう。

シンガポールというのはもともと映画産業もなくて、エンターテインメント産業も弱体で、物流のハブや科学技術立国ということでやってきました。しかし、先進諸国の豊かな人々は、欲しい「もの」はほとんどものを持っているわけです。だから、もの余り現象を背景にネットオークションが大流行しています。人々はもう必要以上のものを持っているからオークションが世界中で大はやりなんですが。

だから、ものの行き来で食っていくということは、将来難しくなるかもしれない。そのためにコンテンツ産業起こさなきゃということで2002年に「メディア21」という国の方策が作られ、グローバルメディアシティを目指すと宣言しています。世界のメディアの中核都市になるということで、映画をつくったりアニメーションのイベントを国がやったり、どんどん日本のアニメーターを呼んで講演させたり、有名な工科系の大学にアニメーションのコースをつくったりしています。

フランスにはユニークな制度があります。フランスは文化を国家が管理するという立場をとっています。アンテルミッタンデュースペクタクルというアーティスト認定制度があります。この制度を廃止したいとフランス政府が言ったために、カンヌ映画祭のときに芸術家と大きなトラブルになって、ことしのカンヌ映画祭でいろいろトラブルがあったのはこの制度のためです。

月20時間表現活動で働いたということを何らかの形で証明したら、アンテルミッタンデュースペクタクルという資格をもらえ、国からの支援を受けられます。ですから、つまらない仕事をするよりも、失業してしまって月1,200ユーロもらったほうがいい。安くて劣悪な仕事をするよりは、アーティストであるということを証明して、この制度を使っていくと、ずっと食べていけるわけです。例えば日本で原画の中割りの仕事は1枚170円から300円で月に200枚から300枚しか書けませんから、動画のアニメーターの5万から10万ぐらいの月給しか取れない。フランスなら、そんなことするよりは、失業してしまって、アンテルミッタンデュースペクタクルの制度で1,200ユーロもらっていた方がいいということになるわけです。

こういった制度でアーティストを国が維持してわけです。日本はそういうわけにはいかない。
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