文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第2部:研究報告

「音楽著作権等の資産評価手法と当該著作権等を用いた資金調達に関する調査研究」

澤 伸恭(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社客員研究員)

澤 伸恭

 ただいまご紹介に預かりました澤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。本日、第2部研究報告といたしまして、私たちが昨年度の調査研究において事務局を務めました「音楽著作権等の資産評価手法と当該著作権等を用いた資金調達に関する調査研究」の研究報告をさせていただきます。皆さんのお手元にあるピンク色の報告書が研究会の報告書です。本日、私がお話をする内容がこちらに書かれていますが、20分程度でポイントを簡単にご紹介させていただきます。

 この研究会の実施概要です。調査研究委員会を組成して実施いたしました。先ほどご講演の朝妻さん、これからパネルディスカッションでお話をいただく皆さんを含めた11名の専門家で構成されております。座長は弁護士であり、青山学院大学法科大学院教授の松田政行先生にお願いいたしました。平成17年7月〜平成18年3月までの期間中に、10回の研究会を開催して、議論いたしました。

 調査研究の背景と目的です。ここで敢えて申し上げるまでもないと思いますが、音楽分野における著作権等の評価手法は、例えば映画や他の分野に比べると、ある程度は明確であろうと言えるかと思います。それは、JASRACを初めとして著作権等管理事業者が利用者に利用許諾を行なっていて、使用料を徴収しており、著作権者等に分配する手法が定着しているので、過去に分配された使用料収入の実績が、各作品の生み出す収益の予測に役立つからです。しかし、音楽ビジネスにもいろいろな関係者がいます。作詞家、作曲家、音楽出版社、実演家、レコード製作者、JASRACを初めとする著作権等管理事業者など、数多くの関係者がいます。その関係者が一体となって音楽ビジネスを構成していますので、資金調達システムを構築する場合には、この関係者間に生じる問題点については整理する必要があります。
 そこで、本調査研究は、資産評価の手法を整理いたしまして、資金調達システムを構築する場合における問題点を整理することを目的として実施いたしました。

 調査の流れです。まず音楽ビジネスの現状のビジネスモデルを把握し、その課題を抽出しました。その上で著作権等を用いた資金調達スキームをいくつか検討いたしまして、スキーム別の課題を検討しました。さらに、その中で実現可能性があると思われるスキームをいくつか抽出し、より詳細に検討しました。

 音楽業界におけるビジネスモデルの現状です。業界の方々にはまさに釈迦に説法になりますが、作詞家、作曲家の方々は著作権契約によって一般的には音楽出版社に著作権を譲渡します。その目的は自らの楽曲の利用開発を促進してもらうことです。その代わり、音楽出版社経由で著作権使用料の分配を受けます。音楽出版社はその著作権を著作権等管理事業者、ここではJASRACを念頭に置いていますのでJASRACと申し上げますが、JASRACに著作権信託契約によって著作権を信託譲渡します。それは、利用許諾その他の著作権管理を目的としています。そして、JASRACから著作権使用料の分配を受けます。まれに作家の方が、直接、JASRACと契約をしていて、直接分配を受けるケースもあります。利用者はこのような仕組みにより、JASRACから利用許諾を受けてJASRACに使用料を支払います。その使用料が音楽出版社、作家へと分配されていく形になります。
 同じようにレコード製作者は音を吹き込んで音源、原盤をつくるため、まず実演家がレコード製作者に専属実演家契約の下、実演にかかわる著作権法上の一切の権利を譲渡します。代わりに、アーティスト印税を受け取ります。レコード製作者は実際にCDとレコードを出す場合、レコード会社と原盤供給契約、あるいは原盤譲渡契約を交わします。その代わりに、原盤印税を受け取るという仕組みです。レコード会社は消費者にCDやDVD等の商品を販売し、その商品対価を受け取ります。そこから原盤印税が支払われ、アーティスト印税が支払われます。このような仕組みになっています。
 ですから、この中で例えば音楽出版社が自ら管理している著作権をもとに資金調達をしたいと仮に考えたとしても、作家との関係、あるいはJASRAC等の著作権管理事業者との関係を明確にしないと、自らの意思だけでは資金調達ができないということになります。

 

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