「誰でもできる著作権契約マニュアル」 第1章 1. (3)

(3)著作者人格権および実演家人格権について

 著作者や実演家は人格的な権利である著作者人格権や実演家人格権を持っていますので、著作物等の利用の方法によっては、著作者人格権等に関して問題が生じることがあります。そのため、必要に応じて、著作者人格権等についても取り決めを結んでください。

(ア) 著作物の公表について時期等を特定したい場合はその旨を規定してください。
  • 著作者の公表権は未公表の著作物を公表するかどうかを決定できる権利ですが、著作物の利用を了解した場合は、その利用に伴って公表されることに同意したものと考えられますし、著作権を譲渡した場合は、譲渡された著作権の行使により公衆に公表することに同意したものと推定されることになっています。そのため、公表権については規定しなくても特段の問題は生じない場合が多いと思われますが、公表日を特定の日以降にしたいような場合は、その旨を契約書に規定しておくことが必要です。なお、公表時期を利用者等に委ねる場合も、そのことを明確にするため、契約書に規定することもあります。
(イ) 氏名表示については必要に応じて取り決めてください。
  • 著作者の氏名表示権は、著作物を公表する際に、著作者名を表示するかどうか、表示するとすれば実名にするかペンネーム等の変名にするかを決定できる権利です。既に公表され、一定の著作者名が表示されている場合には、利用の際にその表示どおり表示すればよいことになっています。そのため、既に公表されている著作物で、著作者名の表示方法を変更しない場合は、契約書に記載しなくてもかまいません。しかし、未公表の著作物を利用する場合や著作者名の表示方法を変更する場合は、著作者名の表示方法について著作者と取り決めておく必要があります(実演家の氏名表示についても同様です。)。
(ウ) 内容等を修正する必要がある場合は著作者からの確認等について取り決めてください。
  • 著作者の同一性保持権は、著作者の意に反して著作物の内容や題名(タイトル)を変更されない権利であり、著作物の内容や題名を変更せずに利用するのであれば問題は生じませんが、変更する場合には、著作者の了解が必要になります。そのため、著作物の内容や題名を変更する場合は著作者の了解を得ることを契約書に明記することがあります(このような規定がなくても、変更する場合は著作者の了解が必要になりますが、このことを両者が確認するため、契約書に明記しておくことが望ましいと考えられます。)。
  • シンボルマークの公募等において、主催者側が採用作品を一部修正することが予想される場合は、その旨を募集要項等に記載しておくことがあります。
  • 実演家の同一性保持権は、実演家の名誉・声望を害するような実演の改変を受けない権利です。実演の収録物等について編集する場合、実演家の名誉・声望を害するような編集が行われることは通常ないと思いますが、必要な範囲で編集することはできるが編集にあたっては名誉・声望を害することがないよう配慮する旨、契約書に規定することがあります。
注:
著作権は譲渡できますが、著作者人格権は譲渡できません。そのため、著作者と著作権者が異なる場合があります。著作者と著作権者が同一者の場合は、利用許諾契約や著作権譲渡契約で著作者人格権についても規定することが多いと思いますが、著作者と著作権者が異なる場合は、著作者人格権に関しては、別途著作者の了解を得ることになります(実演家人格権についても同様です。)。
なお、利用者に自由に使わせる必要があ
る場合などは、著作者人格権を行使しない旨を規定する例も見受けられます。