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パネルディスカッション


 
   
第二部 パネルディスカッション
   
   
「映像コンテンツ契約の現状と課題」
   
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       しかしながら、先ほど少し、張さんのご説明にもありましたが、韓流ブームがあって、韓国の映像業界は、非常にウハウハであろうというふうに思うと、必ずしもそうではございません。それまで、報酬が少なかったタレントさんや、先ほど張さんのプレゼンの中ではタレントさんの話が多かったのですが、実は監督さんなども、監督さんによって興行成績が異なります。有名監督さんが撮ると、成績がいいということがあるそうですので、監督さんの要求もかなり強いということです。有名監督さんや有名俳優さんを使うと、報酬要求が非常に強くて、それが製作費を圧迫して、実に、売れても赤字になるというような状態に、逆になっているというようなこともある。あるいは、市場があまり大きくないので   大林氏    
    年間映画製作本数が、100本の桁に上ると確実に赤字になってしまうというようなことが、市場としてあるというような状態があるそうでございます。    
       ただ、非常に面白いのは、全体を、通していえることは、どこの国においても、過去の作品の対応には苦慮をしているということでございまして、基本的に、過去の作品については、改めて権利処理をする必要があると。アメリカの場合においては、主として、ギルドを通じての、対応ということになるわけでございますが、それでも、過去のものについては、「ギルドに100パーセント預けていないよ」ということで、個別に問題になるケースがあり、クリアされないこともあるということでございますし、イギリスでは、ライターズギルドの人たちは、かなり、許諾を出さないケースがあるというようなことでした。
   フランスでは、管理団体の方は、できるだけ、管理団体の団体交渉で済まそうとしておりますが、実際に使う側になっております放送局等からは、現実に使えないものが多い、という嘆きも聞こえてきます。ただ、韓国におきましては、特殊でございまして、使えない例の方が少ない。韓流の人気による新しい問題を除けば、まず使えるという状況になっているところでございます。
   というところで、非常に面白い状況でございまして、実は、関本さんの先ほどの講演の中にもありましたが、韓国だけが、インターネット上での利益が出ているということでありまして、それ以外は、インターネット事業からの、映像の配信事業からの利益というのは、ほとんどまだ出ていないという状態でございます。
   ヨーロッパにおきましては、最も大手で売れている配信事業者や、放送局が行っているサイトなども、トータルな、その会社の事業からいいますと、インターネットからの収入は、総収入の5~10パーセントぐらいまでであると。そういうところでございまして、これからはインターネットの時代と言いながら、なかなかもうけに至らないというところでございます。
   また、先ほどお話にありましたように、イギリスにおいては、ライターのみならず、実演家におきまして、先ほど、これも関本さんから、一部日本のプロダクションの方で、絶対に了解をいただけないところがあるという話がありましたが、ビートルズやジミ・ヘンドリックスなどは、やはり、まず殆ど許諾を出さないということで、イギリスの配給事業者や放送事業者は、最初からインターネットに出すのを、そこの部分はあきらめているという話も聞いてきたところでございます。
   以上のようなことを、皆さんのレポートに若干追加させていただきまして、次へ進めさしていただきたいと思います。
   それでは、続きまして、第一部の3つの講演、そして、ただいまありました、4つの国のプレゼンテーションと説明をお聞きになり、現状を勘案して、実演家の立場から、どのようにお考えになるかということについて、大林さんからコメントいただきたいと思います。よろしくお願いします。

大林   専門家の方ばかりの中で、最初に指名されまして恐縮です。私は、一俳優でもあります。こうしてお話しするのが少し僭越かなとも思っておりますが、私が「篤姫」という作品に出演できたのは、第一部の関本さんのお話からいえば、「見逃し」番組としての提供にNOを言わなかった一人だったからかなと、冗談ですが。
今、岡本先生のお話で、10年前に絶望した状況というのは、俳優中心の見方からすれば、ある意味では分かる気もいたします。SAGとかAFTRAという、俳優が労働組合として強い権利主張をするということが、日本では、まず不可能であるからです。
日本は、映画やテレビの両方併せてこんなにも多くの作品本数を撮っているという、世界の中でも、数少ない国の一つであります。日本の俳優の大体の者は、事務所に所属しておりまして、そことの関係で仕事をやっております。ですから、税金申告の時は、個人事業者でやるのですが、アメリカのように個人事業者の労働組合をつくるというわけにはいきません。日本の場合は、事務所とどのような関係を持ちながらやっていくのかというのが、俳優の働き方の上で重要なファクターになっていると思います。
   また、日本の著作権法というのは、フランスでもない、イギリスでもなく、もちろんアメリカのそれとも違います。大陸法といわれているものに、考え方が近いのでしょう。最近、外国で著作権の勉強をしてこられた方が、急に増えて、そのほとんどの方が、アメリカですので、アメリカではこうだ、ああだ、という議論がかなりなされております。
   アメリカは、いわば、個人の家庭やプライバシーを守るためには、ピストルさえも所持できるということを、法律で許している国ですから、個人の権利主張を徹底して出来る国です。日本の場合は、いろいろな形で、違う社会発展をしてきておりますので、そこまで厳しく、権利の話が煮詰まっていかないことがあると思います。
   さて、今日申し上げたかったのは、忘れられている法律があるということです。それは、約10年前に出来た「文化芸術振興基本法」です。日本で初めて、文化に関する憲法が出来たといっても過言ではありません。2001年に公布されましたが、この中に、著作権に言及している部分があります。
   流通を考えることも良いが、同時にきちんと著作者等の権利を保護しなさいと書かれております。その後、2002年に知財の基本法が出来、それを基に議員立法で「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」が出来ました。さらに2006年に、知財戦略推進事務局、総務省、文化庁、経済産業省のオブザーバー参加を得て、経団連が、実演家、放送事業者、映画製作者、番組製作会社を代表する団体、機関を集め、「映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会」を立ち上げました。
   この中に2つのワーキンググループが出来、特に放送番組では、優れたコンテンツの創造及び国際展開を含めたマルチユース、契約の書面化、アーティストの活躍の場の創出、等々のテーマについて議論がされました。そのなかに、契約の書面化というのがあります。当初の出演契約というのが、まだ書面契約ではない状況がある、なるべく書面にしなさいということです。放送番組等に出ても最初にギャラが決まっていなかったり、終わった後にギャラが決まるとか、そういう状況がいまだにまだある状況ですが、このまとめの中でガイドラインというかたちでいろいろなことが合意されております。
すなわち、出演前の慣行として当事者間で確認されるもの、これは書面契約を締結しない場合、それから書面に締結する場合でも参考とされるべきものとしてのガイドラインですが、内容は、契約の目的、契約の当事者、出演条件、出演業務、出演に伴う義務、スケジュールの変更、キャンセル、氏名表示、安全管理、事故補償、そして今日少しかかわってくる問題かもしれませんが、マルチユースということがありまして、これらのもをすべて出演契約として結びなさい、というものです。2年半たってもたぶん出演前に行われているかどうかは、悲しいかな疑問であろうと思われます。
   ただ、このなかで1歩前進というか、安全管理、事故保障に関しましては、民放各局さん在京の各局と某実演家団体との協約の中で、協約本文の中に対応窓口というのが初めて明記されました。NHKさんのほうも部署がきちっと交渉上の文章の中に明記されたということで、そういう意味ではこのガイドラインが出来て少し進歩しているのかなと思います。

   

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