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国立新美術館
日本の美術界は大雑把に言うとふたつに分かれています。ひとつは、近代以降に成立した美術の枠のなかでその価値観を共有する画壇の世界、もうひとつは、国際的なアートの動向に接続する現代美術の世界です。前者は日展(明治40年に前身となる文展が設立)や二科会(大正3年設立)、日本美術院(明治31年設立)といった美術団体とそこに属する美術家たちが基盤を成し、東京都美術館や国立新美術館などで定期的に展覧会を開き、作品を発表します。ジャンルはおおむね洋画、日本画、彫刻、工芸、書といった伝統的な分類で、アマチュアの作家でも入選すれば出品することのできる公募展です。団体にはそれぞれの設立の経緯があり、美術運動として発足したものもありますが、歴史を重ね、世代交代を重ねるうちに、会としての趣旨や性格付けがうすれ、アマチュアの登竜門から頂点を成すプロの作家にいたるピラミッド型の組織となっている場合がほとんどです。
それに対して後者は、既成の美術団体には属さず個人で活動する現代美術家が中心です。ジャンルは絵画、彫刻に限らず、写真、映像、インスタレーション、デジタルメディア、パフォーマンスと多彩で、むしろジャンルの枠にこだわらない点が特徴といえるでしょう。現代美術で重視されるのは、いかに独自の視点や新しい価値観を打ち出せるかということです。そのため、これまで見たことのないような新奇な表現や刺激的な内容の作品も少なくなく、ときに難解だといわれることもあります。これらの動向は、第二次大戦後に、日本の作家が海外で発表したり、国際的な展覧会に参加することで吸収してきた新しい流れとして見ることができます。
美術館に関しては、この20~30年のあいだに、各都道府県と主要都市には必ずといっていいほど公立美術館が建てられ、長足の進歩を遂げました。建築的にも優れたものが多く、最近では金沢21世紀美術館、青森県立美術館、横須賀美術館などが話題になりました。反面、ハードの充実に比べてソフトがおろそかになりがちで、とくにバブル崩壊後の不況のあおりを受け、どこの美術館も運営に四苦八苦しているのが現状です。21世紀に入ってから国立美術館は独立行政法人に移行し、公立美術館には指定管理者制度が導入されました。美術館運営も民間企業並の知恵と努力が必要とされる時代になりつつあります。
世界的に人気の高い日本のオタク文化をアートに採り入れ、人気を博しているアーティストが村上隆です。彼はアニメやフィギュアといった、これまでサブカルチャーとして考えられてきたオタク系のモチーフを使った作品で海外で評価され、2007年から回顧展が欧米を巡回しました。その作品は高騰を続け、2008年には等身大の青年フィギュアが約16億円で落札されるという記録を樹立。また、ルイ・ヴィトンとコラボレーションしたり、ニューヨークでオタク系アートを紹介する「リトルボーイ展」を企画したり、2008年には『タイム』誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれたりと、いまや社会現象になっているといってもいいでしょう。
現代美術の見本市「アートフェア東京」が始まったのは2005年ですが、この年の売り上げは約2億円でした。しかし、2年後の第2回では約10億円に急増します。日本の景気が急に上向いたわけではなく、このころ潤沢なオイルマネーの一部がアートに流れて世界的バブルを形成し、その余波が日本にも押し寄せたためです。これを受けて、「アートフェア東京」は隔年開催から毎年開催に切り替わります。また、このアートバブルの波に乗ろうと、この2~3年で「東京コンテンポラリーアートフェア」「アート大阪」「アート@アグネス」「ウルトラ」など、現代美術のアートフェアが林立しました。2008年の世界的な金融不安と株価下落の影響が、近年のアートバブルにどの程度の影響を与えるのか、今後の動向が注目されます。
美術館や画廊ではなく、廃校となった学校の校舎、あるいは商店街や民家などの日常空間で作品を見せる試みも盛んです。こうした取り組みは、単に街を美しく飾ろうというのではなく、街なかにアートをしのばせることで都市を活性化させ、住人を制作や展示に巻き込むことで市民の意識を高めていこうとの狙いがあります。2008年の秋だけでも、横浜トリエンナーレの関連企画として私鉄高架下などをアート空間に再利用した「黄金町バザール」、金沢市の民家や神社に作品を点在させた「金沢アートプラットホーム」、取手市の団地の空室を作品化した「取手アートプロジェクト」、東京の私鉄駅に作品を展示した「多摩川アートライン」などがありました。また、2000年から3年に1度開かれる越後妻有アートトリエンナーレでは、過疎地の農村に作品を展開するとともに、廃屋や学校跡を作品化する「空家プロジェクト」が行なわれています。
近年、メディアアートの分野では科学技術やデジタル・メディアと共に様々な分野や文化とも融合しながら未来に向けて新しい可能性が切り開かれています。なかでも、テクノロジーを基盤としたCGアート、インタラクティブ・アートというような分野が注目されています。
海外でも日本のアートとテクノロジーが融合したこの分野での活躍が顕著です。世界最大のCGの祭典といわれるアメリカのフェスティバル「SIGGRAPH」における最先端技術を利用した作品を展示するコーナーでは、日本の大学研究機関の発表が半数を占めています。さらにオーストリアで開催される世界最大規模のメディアアート・フェスティバル「アルスエレクトロニカ」での日本人アーティストの受賞も顕著になっています。2008年のインタラクティブ・アート部門では平川紀道による地球と太陽のモデルを操る作品「a plaything for the great observers at rest」が準グランプリを獲得しました。
文化庁では、海外で人気のある、日本人が得意とするエンターテインメント色の強いマンガ、アニメーション、コンピュータゲームといった分野を、メディアアートとあわせてメディア芸術と総称し、文化庁メディア芸術祭などをとおして、積極的に紹介しています。
美術業界の構造
・ 日本の美術家は、特定の美術団体に所属し、文部省展覧会(文展)を前身とする日本美術展覧会(日展)・二科会による二科展・日本美術院による院展などを通じた公募展を中心に活動を展開する場合と、インディペンデントに活動し、作品を発表する場合(主に現代美術系)とに大別されます。
・ 日本の美術家が作品を発表する場として、主に美術館と画廊があります。通常、美術館では独自のコレクションを公開する常設展示と、企画による展覧会が同時に開催されています。なかには、独自のコレクションを持たずに自主企画による特別展や、スペースを賃貸して、公募展や企画展を行なう国立新美術館、東京都美術館のような美術館も少なからず存在しています。一方の画廊では、展覧会を企画して作品を売るものと、美術家にスペースを賃貸するものがあります。特にスペースを賃貸する画廊は日本独自の制度といえ、賃料さえ払えば自由な作品発表が保証されるというメリットがあり、新進美術家の登龍門として機能してきました。ただし、近年では、現代美術の評価が高まるにつれて、現代美術の企画展を開催する貸し画廊も増えており、その役割は変容しつつあります。
・ また、日本で開催される企画展にはいくつかのパターンがあります。(1)個別の美術館による展覧会、(2)複数の美術館との共同企画、(3)企業と共催する場合があります。特に(3)での新聞社やテレビ局の事業部をはじめとするマスコミ関連企業との共催は多く、日本独自のシステムといえます。マスコミ各社は、戦後の美術館の数も予算も少なかった時代に資金的な援助に加え、海外とのパイプと国内への宣伝力を背景に展覧会を催してきたという歴史的な経緯があります。なかには読売新聞社が中心となって運営する美術館連絡協議会(全国の公立美術館124館が加盟。2008年現在)のように全国的な加盟美術館のネットワークを利用して、各美術館の企画の予算や日程を調整して、加盟館を中心に巡回展を展開するケースもあります。
(出典:1998年発行の地域創造レター7・9・11月号に連載された 制作基礎知識シリーズ美術編(1)~(3)より引用 講師:美術ジャーナリスト 村田真氏 発行元:財団法人地域創造)