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平成15年度芸術選奨 受賞者及び贈賞理由

[芸術選奨文部科学大臣賞]
部門 受賞者 贈賞理由
演劇 麻実(あさみ) れい
54歳
 現代能楽集T「AOI/KOMACHI」(川村(かわむら)(たけし)作,世田谷パブリックシアター,11月)における六条の演技は裏切られた女性の怨念を(ほとばし)らせドラマの核心を担った。「(さくら)(その)」(チェーホフ作,シアターコクーン,1月)では屋敷を失う悲しみの中にもパリに思いをはせる退廃をにじませ,新境地をひらいた。
加藤(かとう) 健一(けんいち)
54歳
 昭和55年に個人事務所を作ってから,毎年百本以上の戯曲を読んでやりたい劇を三本選び,舞台一筋に研鑽してきた成果が,今年度の「木の皿」(本多劇場,5月〜6月)と「詩人の恋」(本多劇場,9月〜10月)に花咲いた。ともにシリアスなテーマをぬくもりのあるユーモアと潤いのある親近感にくるんで表現し,観客に手渡したものである。
映画 恩地(おんち) 日出夫(ひでお)
71歳
 映画「わらびのこう 蕨野行(わらびのこう)」は,自然の風物の中から生まれ,そして再び自然に帰っていくという,日本人の伝統的な死生観のひとつの形を,くっきりと目に見え,耳に聞こえるものとすることに成功したすぐれた作品である。自然の苛烈さとやさしさ,そこに生き,死んでいく人間たちの毅然とした姿が,まことに美しく描かれている。
鈴木(すずき) 文夫(ふみお)
67歳
 どんな優れた芸術作品であっても最後の映写の段階で粗末に扱われれば元も子もない。デジタル技術の発展によって映像と音の再生については高い技術だけではなく,創造性が必要とされる。映写技師は単なる職人ではなく,映写環境を作り上げる,映写監督ともいうべき立場でなくてはならない。鈴木さんはこの仕事の重要性に早くから気づいていて,昭和51年に鈴木映画を設立以来,この道の第一人者として活躍,多数の映画監督に頼りにされ,各地の映画祭ではなくてはならない存在である。この顕彰によって,縁の下の力持ちである映写技師の仕事の重要性に映画界が目覚め,映写の仕事を志す人々に勇気を与えることを喜びたい。
音楽 飯守(いいもり) 泰次郎(たいじろう)
63歳
 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を率いて,その実力向上に務め,着実な成果をあげており,また「神々の黄昏」(東京文化会館,9月)の上演をもって完結させたワーグナーの「ニーベルングの指環」4部作において,わが国のワーグナー演奏史に残るべき質の高い演奏と充実した舞台を可能にするなど,指揮者としての総合的な実力が顕著である。
本條(ほんじょう) 秀太郎(ひでたろう)
58歳
 長年にわたる研究の成果を平成5年からシリーズで発表してきた,本條秀太郎の会「端唄(はうた) 江戸を聞く」は,平成15年には「初音(はつね)」(紀尾井小ホール,2月),「面影(おもかげ)」(紀尾井小ホール,7月),「()()」(紀尾井小ホール,10月)のテーマでまとめ,伝統を重んじたすぐれた演奏で,江戸から明治にかけて庶民が楽しんだ端唄の真髄を提示して深い感銘を与えた。
舞踊 吾妻(あずま) 徳彌(とくや)
46歳
 新鮮な感性と優れた技術によって数々の演目に成果をあげた。常磐津(ときわづ)松廼(まつの)羽衣(はごろも)」の天女(日本舞踊協会公演,国立劇場大劇場,2月),清元(きよもと)青海波(せいがいは)」(素踊りの会,国立劇場小劇場,3月),長唄(ながうた)(やぐら)三番叟(さんばそう)」の三番叟(さんばそう)(吾妻会,国立劇場大劇場,4月),一中節(いっちゅうぶし)道成寺(どうじょうじ)」,長唄(ながうた)供奴(ともやっこ)」(徳彌の会,国立劇場小劇場,10月)と枚挙にいとまがない。働き盛りの家元として斯界に与える活力も大きい。
天児(あまがつ) 牛大(うしお)
54歳
 昭和50年に舞踊団「山海塾」を結成し,昭和55年以降,パリ市立劇場を中心に旺盛な作品制作活動を続け,度重なる欧米の巡回公演を通して日本の舞踏を世界のButoh(ぶとう)として認知させた功績は比類がない。平成15年には,日本においても,新作「仮想の庭−うつり」(滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールほか)ほか,旧作3作品を連続的に上演し,その芸術的達成をあますところなく披露した。まさに賞賛に値する。
文学 永田(ながた) 和宏(かずひろ)
56歳
 歌集『風位(ふうい)』(短歌研究社,10月)は,人生と学問の充実期に入った作者が,自己を見つめ,妻の病いや子らの独立を見まもり,師の死去を見とどけるといった重い体験を歌い,さらに学界や学生に対する思いを果敢に作品化し,歌うべきを歌った歌集である。短歌表現の新鮮な開拓を示しながら,自然ののびやかさや,俳諧的趣向の巧みさも併せ持ち,力量の豊かさが感じられる。
宮本(みやもと) (てる)
57歳
 宮本輝氏は美しい小説を書いた。冬が来ようとする頃,蜘蛛の子が糸を吐いて,それに乗って空高く舞い上がろうとする光景が,田園地帯にたまにみられるという。「雪迎え」と呼ばれる,このけなげにも美しい光景を,胸に抱いて生きる,老年,壮年,青年男女を登場人物とする長篇『約束の冬』(上・下)(文藝春秋,5月)において,著者は,今日の日本が失っているあるべき人間像の造型をこころざした。
美術 川田(かわだ) 喜久治(きくじ)
71歳
 平成15年,氏は東京都写真美術館での「川田喜久治展 世界劇場」(3月〜5月)において,代表作「地図」(写真集『地図』,昭和40年),「聖なる世界」(写真集『聖なる世界』,昭和46年),「ロス・カプリチョス」(写真集『世界劇場』,平成10年),「ラスト・コスモロジー」(写真集『ラスト・コスモロジー』,平成7年)など,ほぼ50年にわたる問題作の回顧展をひらき初めてその全貌を見せた。その凄みのある多彩な創造的作品群は多くの人に衝撃と感銘を与えた。また,氏の作品は海外においても高い評価を得ている。
戸谷(とや) 成雄(しげお)
56歳
 愛知県美術館で開催された「戸谷成雄展 森の(ひだ)の行方」(6月〜7月)は,この作家の主要なモチーフとして,昭和59年頃から始められた「森」シリーズを中心に,その後の展開を示した刺激的な展観であった。伝統的な木彫を彫刻思想の土台にしながら極めて斬新な発想をそこに加味し,現代彫刻の可能性をその独特な姿勢は国内外で高い評価を得ている。
放送 石橋(いしばし) (かん)
67歳
 常に新しい手法に挑戦する実験精神。すべての作品に(みなぎ)る人間への暖かい眼差しは,独自の映像世界を構築し,多くの後進たちに影響を与えてきた。ラブストーリーにドキュメンタリーの手法を融合させ,主人公の心情に深いリアリティを与えた「ラブ・レター」(テレビ東京)は,そうした演出姿勢を最も顕著に具現させた秀作といえよう。
大衆芸能 五木(いつき) ひろし
56歳
 自身の構成,演出による「五木ひろしライブコンサート」(日生劇場,9月)において日本の歌謡界に多大な業績を残した古賀政男作品に取り組み,創唱者に敬意を表す一方,自身の個性や持ち味を発揮し存在を強く印象付けた。大衆歌謡を原点に,伝統の継承と現代性を追求し実践。常に意欲的であり,精力的な活動を続けている。
柳家(やなぎや) 小三治(こさんじ)
64歳
 「円朝祭」(イイノホール,7月)で演じた「青菜(あおな)」をはじめとする滑稽噺の口演に,卓絶した演技を示した。飄々としたと評される芸風に風格が加わり,東京落語の代表的な演者としての位置を占めている。さらに,昭和61年に始まった「柳家小三治独演会」(鈴本演芸場)が5月の公演で第51回を数え,種々の意欲的な企画を試みる場となっていることも,評価の対象となった。
評論等 梅津(うめづ) 時比古(ときひこ)
55歳
 著作『<<セロ弾きのゴーシュ>>の音楽論』(東京書籍,5月)は,楽器・テクニック・音程の三つの視点から,音楽の近代主義(と,同根の反近代主義)を超える地点に,演奏家と聴衆の心身の創造的相互関係としての「音楽」を論じた。発想は宮澤賢治の『セロ弾きのゴーシュ』に発し,諸々の哲学思想や音響論を検証しつつ,終始ゴーシュの世界に立ち還る。全体は賢治論としても優れ,これ自体一つの「作品」とも言える。
志賀(しが) 信夫(のぶお)
74歳
 テレビ評論の重要性が指摘されながらも,目立つことの少ない世界にあって,その世界のパイオニアとして,40年を越えて活動されてきた功績は大きい。ライフワークとして『年間テレビベスト作品』(年間テレビベスト作品出版会,8月)の出版に取り組み,今年で25冊目の刊行となる。平成15年度版も自らの評論を記録し,自薦の優れた番組を活字化して関係者の証言を収録する。氏の長きにわたるテレビ評論の業績は,その努力とともに高く評価されるところである。
平出(ひらいで) (たかし)
53歳
 藤村(とうそん)晩翠(ばんすい)と,「明星(みょうじょう)浪漫主義(ろまんしゅぎ)との谷間にあって,伊良子(いらこ)清白(せいはく)は一冊の詩集『孔雀船(くじゃくぶね)』をあらわして,沈黙した。平出隆氏は著作『伊良子清白』(新潮社,10月)において,若年の頃より終焉せぬ対象として抱きつづけてきたこの詩人の,五拍の連鎖による重心の低い定型詩造形の中に,極度にリゴリスティックで純粋な精神をみいだし,詩作の現場と,ながい沈黙の後半生を描いた。明治文明開化の行進曲として開花した新体詩の根源にある精神のはたらきを,寡黙,沈痛な文体で描いたこの評伝は,近代詩とは何かを,日本語の造形意志と,詩人の生活との両面において凝視した力作である。
[芸術選奨文部科学大臣新人賞]
部門 受賞者 贈賞理由
演劇 石川(いしかわ) 耕士(こうじ)
51歳
 「四谷怪談忠臣蔵(よつやかいだんちゅうしんぐら)」(歌舞伎座,7月)では,有名狂言の()い交ぜと書き替えに,「競伊勢物語(はでくらべいせものがたり)」(国立劇場,10月)では名作の復活と補筆に確かな手腕をみせ,公演の成功に大きな役割を果たした。市川猿之助一門の座付き作者として既に十年,今後の歌舞伎上演にさらなる活躍が期待される。また,歌舞伎演出の要諦である音楽の指定を精緻に書き込んだ独特の台本は,口伝によらぬ演出記録として,歌舞伎伝承の在り方に大きな示唆を与える労作である。
映画 犬童(いぬどう) 一心(いっしん)
43歳
 自由で斬新な感覚を闊達に採り入れながらも,古き良き日本映画の息吹も感じさせる,新鮮な青春映画「ジョゼと虎と魚たち」の演出は,この監督の資質が最もよく表れた仕事として,評価に値する。女性漫才コンビが主人公の「二人が喋ってる。」(平成8年),老人の幻想を扱った「金髪の草原」(平成11年)という,前二作にも共通して存在していた,今を生きる人間に対する健やかな期待のまなざしは,現在とこれからの日本映画界にとって貴重なものである。
音楽 藤村(ふじむら) 実穂子(みほこ)
37歳
 バイロイト音楽祭(主役級として日本人初)など,ほとんどのヨーロッパ主要歌劇場で活躍する逸材。新国立劇場には平成13年にワーグナー「ラインの黄金」(フリッカ役)で初登場,続く平成14年「ワルキューレ」でも,本場で培った世界一級の実力を見事に証明したが,「カルメン」(タイトルロール)や「ドンカルロ」(エボリ公女)のアリアを歌った文化庁芸術祭オープニング「オペラ・ガラ・コンサート」(新国立劇場,10月)では,卓越した歌唱力と相まって,そのレパートリーの多彩さをも示し,改めて高く評価された。
舞踊 白河(しらかわ) 直子(なおこ)
40歳
 H・アール・カオス公演における大島(おおしま)早紀子(さきこ)振付の「忘却という神話」(世田谷パブリックシアター,3月)などに主演し,鋭敏に鍛え上げた肉体を駆使して人間の生を多彩に表現した。その官能的であると同時に聖なる雰囲気を漂わせるダンスの華麗さは他に例を見ない。今後のさらなる大成が期待される。
文学 内藤(ないとう) (あきら)
49歳
 歌集『(おの)勾玉(まがたま)』(砂子屋書房,8月)は,やわらかな語感と,のびやかなしらべが特色の歌集である。いま伝統的定型詩としての短歌が,文体の面でも用語の面でも深い混迷にある中で,言葉の伝統,歌のしらべを確かに身につけた作者は,短歌本来の特色を守りながら,現代生活を多様に短歌に表現し,更に将来へのより長い発展を期待させる。
美術 岡村(おかむら) 桂三郎(けいさぶろう)
45歳
 個展および新潟県立(にいがたけんりつ)万代島(ばんだいじま)美術館(びじゅつかん)開催「絵画の現在」展(7月〜8月)で発表した「(いずみ)」「(とり)」など一連の作品は,自由で大胆な着想と技法で,自然と生命の神秘とエネルギーを大画面上に力強く描出し,自然を畏れ,敬い,かつ生命を讃歌する日本人の自然観が見事に表現されている。しかし日本画の狭隘な枠からは解放されている。
放送 小泉(こいずみ) 今日子(きょうこ)
38歳
 近年,テレビドラマを中心に,本格的な演技者として着実に芸域を広げてきた。とくに平成15年は「センセイの鞄」(WOWOW)で,適齢期を過ぎたOLの微妙な心の動きを活写したのをはじめ,「すいか」(日本テレビ),「マンハッタン・ラブストーリー」(TBS)など,台本読解力の高さを感じさせる多様な人物像の造型で,今後を期待させた。
大衆芸能 (かつら) 文我(ぶんが)
43歳
 落語一筋に精進してきて24年目。滑稽噺,人情噺,芝居噺と芸の幅を広げ,演目も多くなり,芸の成果が実ってきた。「尻餅」(名張市青少年センター,11月),「蛸芝居」「盆唄」(ワッハホール,10月)など秀逸であった。東京の独演会も軌道にのって好評である。眠っている古典の研究,復活上演にも熱心で,また子供たちに落語に親しんでもらう「おやこ寄席」の活動,その絵本化も実ってきた。落語世界にかける情熱を思うとき,今後のさらなる展開が楽しみである。
評論等 本江(もとえ) 邦夫(くにお)
55歳
 著作『オディロン・ルドン (ひかり)(はら)種子(しゅし)』(みすず書房,7月)は,オディロン・ルドン自身及び周辺の人々の手紙等の記述,さらにルドン作品に寄せられた批評を,深い洞察力によって読み解き,この特異な画家の荘重なる黒の世界,晩年の夢幻的色彩の世界への移行の意味を明らかにして,自然と自己の内奥を追求により築かれた,ルドンの創造の核心に迫る優れた評論である。

※年齢は贈呈式(平成16年3月16日)時点

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