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平成22年度芸術選奨 受賞者及び贈賞理由

[芸術選奨文部科学大臣賞]
部門 受賞者 贈賞理由
演劇 津嘉山 正種  津嘉山正種氏は永年にわたって劇団青年座の中心俳優として活躍してきたが,11月の青年座公演アーネスト・トンプソン作「黄昏」で,老いを自覚し死の恐怖と向き合いながら生きる不器用で皮肉家の老教授ノーマンの人柄と,偶然ひと夏を共に過ごすことになった娘の義理の子のビリーとの暮らしによって次第に活力を取り戻していく姿を緻密な演技で見せ,ままならぬ人生と親子夫婦の関係を描いた作品の本質を見事に表現した。
野澤 錦糸  平成7年に始まる竹本住大夫氏とのコンビはいよいよ円熟味を増し,その質の高さと安定感は他の追随を許さない。特に4月の通し狂言「妹背山婦女庭訓」では「妹山背山の段」を端正かつ力強く弾いて,時代物らしい輪郭の大きさをあらわした。また6月の素浄瑠璃の会「桂川連理柵」の「帯屋の段」では,市井の男女の哀歓を余韻嫋々たる響きで細やかに表現した。時代世話を問わない,硬軟自在の撥さばきは,今後の文楽三味線を担う証しである。
映画 柄本 明  映画にとって俳優の存在は大変重要である。映画はシナリオがあって監督がいてカメラがある,映像を創作する側はカメラの前で演じる俳優に全てを委ねなければならない。また俳優の良し悪しは映画の完成度に貢献したかで計られる。柄本明氏は数々の映画に出演し映画の完成度に貢献してきた。本年度の「悪人」の演技はまさに映画の完成度を押し上げた。娘を殺害された父親を演じた氏の存在無しには人間の罪は表現できなかったろう見事な演技であった。更に円熟した俳優とならんことを願う。
瀬々 敬久  瀬々敬久氏の4時間38分に及ぶ長時間の大作「ヘヴンズ ストーリー」は,綿密に構築された脚本,力強い映像によって,見ているうちに映画の描く時の流れに同化して登場人物たちと同じ時間を過ごしている気がしてくることに驚かされる。日本のいまを切り取ったように自然で誇張がないが,そのすべてをわし掴みにして差し出されたような衝撃があることにもまた驚かされる。見て驚き,描かれた人物の行動を通してその驚きが胸にしみる,という映画芸術にふさわしい歓びが味わえたことを高く評価したい。
音楽 砂崎 知子  砂崎知子氏は,伝統的な技法を遵守しつつ,現代的な感覚を盛り込んだ演奏で,古典曲から現代曲にいたる幅広い活動を続けてきた。「協奏曲の夕べ」と題する昨年のリサイタルでは,独奏の箏と邦楽器を中心とする楽器群との合奏に焦点をあてた意欲的なプログラムを企画し,宮城道雄,長澤勝俊,船川利夫,唯是震一の四作品を取り上げて,そのいずれにおいても箏の独奏を担当,作品の時代性と特徴を生かした芸術性の高い演奏を披露した。
沼尻 竜典  沼尻竜典氏は優れた読譜力をもつ指揮者として若い頃から頭角を現し,オーケストラを中心に説得力のある演奏を繰り広げてきたが,近年はオペラの分野でも着実に活動の幅を広げている。平成19年にびわ湖ホールの第二代芸術監督に就任し,日本人歌手,日本人スタッフによるオペラの水準を向上させる上演を積み重ねてきたことは高く評価される。「ラ・ボエーム」,「トリスタンとイゾルデ」などでその力量を存分に発揮したこの一年は,さらなる飛躍を期待させる充実した成果を挙げた。
舞踊 中村 恩恵  中村恩恵氏が作るダンス作品は,流れるような動きがしなやかな肉体造形を作り,行間を匂いやかな官能が浸して,静かな緊張感と深い瞑想に誘う。平成22年に振付し自ら踊った「The Well Tempered」「Les Fleurs Noirs」(黒い花)などの舞台は,テクニックと内面的表現が渾然一体をなし,振付家としても,ダンサーとしても,他に抜きんでた頂点を標した。ヨーロッパのバレエ団で得た豊かな経験が,生来の優れた素質を磨き上げて形成した,類い稀な結実である。
山村 若  「江戸土産 慣ちょっと七化(みなろうてちょっとななばけ)」は山村流六世宗家・若が流儀伝承の座敷の舞の地歌「江戸土産」と,歌舞伎七変化所作事「慣ちょっと七化」の復活を試み,一つの舞台空間で構成した作品である。「慣ちょっと七化」は山村流流祖・友五郎が文化十年に振付,三世中村歌右衛門が演じた「江戸土産」の元であるが,「七化」の復活では「江戸土産」を手掛かりに,様々な資料を検証した成果であり,さらに座敷から劇場空間への導きも巧みで,山村流ならではの作品の仕上がりを見せた。
文学 篠田 節子  「スターバト・マーテル」は,推理とサスペンスを通して,現代日本の学歴社会,格差社会の実情はもとより,国際競争のさなかにあって下請会社を痛めつけ,社員を痛めつけてでも生き延びるほかない大企業の姿や,それとともに荒廃してゆく家庭のありさまなどを鮮やかに浮かび上がらせた秀作。作者がこれまでに発表した長篇小説に比べむしろ小振りだが,そのためにかえって手法が凝縮され端的に示されており,ひとつの結節点を思わせ,今後の活躍をさらに期待させる。
辻原 登  「闇の奥」は,熊野の奥にあるという小人たちの集落の伝説から語り始められ,その伝説にかかわるこれもまた伝説的なひとりの民俗学者の足跡を訪ねるというかたちで展開してゆく,奇想天外な冒険物語。台湾へ,ボルネオ島へ,さらにチベットの奥へと,舞台を広げてゆく物語は,コンラッドの同名の小説以上に,作者自身の文壇登場作「村の名前」を思い出させ,作者がひとつのサイクルを終えて,また新たな次元へと踏み出したことを強く感じさせる。
美術 オノデラユキ  「オノデラユキ 写真の迷宮へ」展(東京都写真美術館)は,国立国際美術館における回顧展を除けば国内では断片的にしか紹介されてこなかったこの作家の全貌を明らかにする極めて意義深い展覧会であった。オノデラユキ氏の作品は,写真映像のもつ両義性や曖昧さなどを明らかにしながら写真の存在論的な部分へと切り込むコンセプチュアルなものであり,技術的にはきわめて精緻で職人的でさえある。現代美術と写真といった二つの分野においてこの作家が国際的に高い評価を得ている理由もそこにあるといえるだろう。
隈 研吾  隈研吾氏の近年の活動は,一作ごとに建築材料の選択,構成に新しさを見せるものであり,現代建築の表現の可能性を拡大しつづけている。築地松竹ビル,サントリー美術館,根津美術館などの作品は,都市における建築文化を豊かにすることに寄与するものであった。今回の受賞対象となった高知県梼原町での仕事は,地元の産材を生かし,地方の建築文化を豊かにするものであった。この幅広さと安定した実力は,大きな存在感をもつ。
放送 西村 与志木  ドラマの創り手として,常に可能性に挑む姿勢を貫いてきた西村与志木氏は,映像化は不可能といわれてきた「坂の上の雲」のドラマ化を実現させた。その作業を主導して多くの困難を克服し,積年の夢をかなえた執念と才覚は賞賛に値する。ドラマは壮大なスケールで日本近代の黎明期の鳴動を描きながら,そこにあった青春の光と影を凝視して,観る人に多くの示唆を与えた。
大衆芸能 加山 雄三  若大将・加山雄三・弾厚作。俳優,シンガーソング・ライターとして常に時代を先取りしてきた加山雄三氏。エレキギター,ウクレレを片手にボートを操り,サーフィン。スクリーン,ステージに話題を振りまいて50年。爽やかな素顔は戦後の若者の思考を一変し,加山サウンドは日本のJ-POPの原点になった。ナイスミドルも今や熟年の星。73歳にしてアルバム作りにも挑戦。ザ・ヤンチャーズを率いた東・西「若大将50年!アリーナコンサート」も成功。“君といつまでも”を実証した。
宮川 大助
宮川 花子
(宮川大助・花子)
 宮川大助・花子氏は,夫婦漫才の伝統である女性上位のスタイルを継承,第一線に立ち続けてコンビ歴31年。「子供の教育」「仲直りの方法」など,“近代漫才の父”秋田實が提唱した,日常の話題を無邪気な笑いで表現する漫才を研鑽してきた。その型や内容は二人がそれぞれの大病を乗り越えるごとに飛躍的に進化し,現在は「なんばグランド花月」を拠点に活動中。特に11月の舞台「YESと言おう!」は,テレビサイズに矯正されない本物の漫才芸として,夫婦漫才のひとつの完成形が見られた。
芸術振興 三輪 眞弘  三輪眞弘氏は,音楽の概念を根本から問い直す作業を通じて新しい音楽の可能性を探求する試みを,最先端のメディアを駆使して重ねてきた。平成22年の新刊「三輪眞弘音楽藝術−全思考1998-2010」には,人間の知覚システムを再考しつつ時間空間の斬新な体験を提案する方法論が集積され,真に前衛的な音楽創作論として話題を集めた。地域と密着した「NEO都々逸」の創作やフォルマント兄弟のプレゼンテーションも秀逸であった。
評論等 晏妮  1980年代半ばに川喜多記念映画文化財団の客員研究員として来日した晏妮氏は,映画史の分野で研鑽を重ね,本書を上梓した。満州事変を皮切りに始まる十五年戦争(中国では十四年抗日戦争)と複雑に関係しあった映画をめぐる支配・被支配,占領・被占領の状況と個々の映画関係者の言説を当時の資料を中心に調査,分析していく精神の強靭さ。中国人による中国映画を製作した川喜多長政の理念が侵略を続ける日本の国策と合致したことも見逃さない。
渡辺 裕  渡辺裕氏は明治期以来の音楽について,単に音楽的側面から考察するのではなく,音楽を社会・政治・歴史等との全体的な枠組の中で捉え,「国民」というキーワードで読み解くことによって,偏りのなく,しかも一貫した文化論を展開している。氏は膨大な,部分的にはこれまで顧みられることのなかった資料を発掘し,既成の価値観に縛られることなくその意味を読み解くという地道な作業を通じて説得的な論を構築することに成功している。
メディア芸術 宮本 茂  日本発の文化として世界中を席巻するテレビゲーム。その根源は,ファミコンを世界中で大ヒットさせる原因となった,宮本茂氏の「スーパーマリオブラザーズ」から始まる。近年では,ニンテンドーDSやWiiの新しいインターフェース開発に従事し,常ににゲーム文化のリーダー的存在として,先頭を走ってきた。「マリオ」誕生から25周年でもある平成22年には,最新作の「スーパーマリオギャラクシー2」で,最先端のCG技術を駆使し,宇宙に飛び出したマリオの冒険ファンタジーを表現。家族全員が隔てなく安心して楽しめる氏の作風は,世界中で評価を集め,国内外でさまざまな賞を受賞している。
[芸術選奨文部科学大臣新人賞]
部門 受賞者 贈賞理由
演劇 鈴木 裕美  あるアパートの一室。その同じ空間を舞台に,四人の劇作家が書き下ろしたまったく別の四作品を連続上演したのが「富士見町アパートメント」である。本公演を企画し,全作を演出した鈴木裕美氏は小劇場から大劇場,ストレートプレイからミュージカルまで幅広い作品を手掛け活躍している演出家であるが,演出家として様々なリスクが予想されながらも観客目線に立った企画と新たな高みを目指す演出家としてのチャレンジ精神と覚悟を見せた。
映画 荻上 直子  「かもめ食堂」において,フィンランドを舞台に,それぞれの生き方を求めた女性たちを絶妙な距離感で描き出した荻上直子氏は,「食へのこだわり」をキーワードに,シンプルな表現力で映画のミニマル・アートともいうべきユニークな世界を創出した。この斬新なスタイルは「トイレット」においては,英語を話さない日本から来た祖母と,外国育ちの孫の関係を軸に,異文化問題から現在の家族関係まで広げることで,独自な展開を見せ今後の展開へ期待を抱かせてくれた。
音楽 藤井 昭子  平成13年6月以来ほぼ2ヶ月に一度のペースで開催してきた「藤井昭子 地歌ライブ」は,さまざまな演奏家を迎え,古典音楽を継承し新しい可能性を探り,質の高い演奏を展開しながら,今年度で50回の節目を迎えた。他に年に一度の「藤井昭子演奏会」(通算11回)や,「JIUTA 地歌 藤井昭子」(英語による解説,通算3回),海外演奏旅行,放送などで,国内外に地歌の真髄の発信につとめており,今後の発展が大いに期待される。
舞踊 小野 絢子  新国立劇場バレエ団入団(平成19年)当初から注目されていたが,平成22年は年間を通じての活動でさらに大きな成果を挙げた。「白鳥の湖」(1月)のオデット・オディール,「カルミナ・ブラーナ」(5月)の運命の女神フォルトゥナ,「火の鳥」(10〜11月),「シンデレラ」(11〜12月)のタイトルロールなど,古典から現代バレエまで幅広いレパートリーの主役を繊細な表現と的確でクリーンな技術で演じきり,バランシン振付「シンフォニー・イン・C」(10〜11月)では豊かな音楽性を印象づけた。バレエ界の明日を担う大器。今後ますますの活躍が期待される。
文学 城戸 朱理  城戸朱理氏の「幻の母」は,「川の始まり」をめざす現実の,また想像上の旅の行程を良質の抒情的詩想へと昇華した,美しい連作詩篇である。氏のこれまでの作品の特徴をなしていた綺語の戯れが抑制され,静かな声調のうちに人生への思いが沈潜する。「この旅は終わることがない……/始まりを尋ねることは/終わりを問うことではないから」。同時刊行された「世界−海」と併せ,大きな成熟を予感させる一達成をここに見る。
美術 束芋  束芋氏は,立体的に構成したアニメーション映像からなる観る者に身体的な体験を促す諸作品によって,国内外で高い評価を受けている。日本の社会にひそむ残酷さと不条理を,日常生活を題材にユーモアをまじえながら鋭くえぐり出し,人間と外界とのかかわりを執拗なまでに生理を通して追求するなど,その作品は独創性に富む。横浜美術館と国立国際美術館で開催された「束芋−断面の世代」では多数の新作が発表され,そこにはこの作家の類いまれなる想像力と深い洞察力がいかんなく示されていた。将来が大いに期待できる作家である。
放送 渡辺 あや  阪神・淡路大震災当時,小学生と中学生だった男女が神戸の街を彷徨するその追悼の夜から早朝までの時間をオールロケのオリジナル脚本としてリリカルにまとめた。言うなれば草食系男子と肉食系女子の互いの体験の差異を抱えながらの微妙な距離感の表出が何気なさの中に光っている。彷徨の最後に交わす別れのハグが男女の出会いの甘やかな哀しみとなって残り,平成21年の「火の魚」(NHK)に続くドラマの脚本での実力を示した。
大衆芸能 平原 綾香  クラシックの名曲に歌詞をつけ,洗練された編曲と巧みな歌唱で現代に蘇らせる平原綾香氏の試みを集約した平成21年度作品「my Classics!」は第51回レコード大賞優秀アルバム賞を受賞した。その続編となる「my Classics2」ではバロックからジャズやゴスペル,最新のミュージカルまで多彩な曲に挑戦して,単なるカヴァーとは一線を画す創意に満ち,ロドリーゴの<アランフェス協奏曲>を基にした<スペイン>の歌唱など賞賛に値する成果がもたらされた。
芸術振興 中村 政人  アーティストとしての活動と並行して様々な公共的プロジェクトを創設した中村政人氏は,平成10年より千代田区をベースに若い表現者たちの場を開き,「コマンドN」(平成10年・秋葉原)や「KANDADA」(平成17年・神田)の活動を経て,平成22年に廃校となっていた区立練成中学校の再利用計画として「アーツ千代田3331」を開設。多彩な活動が集まるプラットフォームを形成し,ディレクターとして目覚ましい活躍を見せている。
評論等 黒ダライ児  1960年代の前衛パフォーマンスについての,貴重な記録と分析である。パフォーマンスというと演劇との関係に注目しがちだが,本書は美術家たちによる実践の記録である。日本では1920年代から前衛パフォーマンスがあり,決して欧米の影響ではなかったことも,日本社会の異議申し立てのひとつの現れであったことも,本書からわかる。前衛パフォーマンスが日本のどのような歴史や社会と関連があるか,今後さらにその広がりを考察するために不可欠な業績であろう。賞によって人々の記憶にとどめるべき仕事である。
メディア
芸術
クワクボリョウタ  クワクボリョウタ氏は早くからメディアアートに新風を吹き込んできた。「10番目の感傷<点・線・面>」 はありふれた日用雑貨がつくりだす光と影の圧倒的な美しさが大きな反響を呼び,「ニコダマ」は瞬きする 一対の目玉が身の回りのものに存在感を与える意外性とポップなデザインで商品としても高い支持を得た。 一見対照的な二作品は,日本的な感性の再発見,テクノロジーの可視化,使い捨て文化による環境破壊への危機感という点で一貫したコンセプトに基づいている。


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