国語施策・日本語教育

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4 話しことばの問題

(1) 映画・演劇・ラジオ・演芸

 映画・演劇・ラジオ・演芸の方面において,それに特有な語彙(い)や語法の有無を調べたが,別に特殊なことばや語法は見いだせなかった。
 統計によれば,わが国の映画鑑賞者の数字は,西洋映画の場合で1年間の延人員は3億人,日本映画は4億人,16ミリ映画は2億5千万人となっている。映画はこのように大衆との接触面がはなはだ広いから,その影響力もきわめて大きい。ラジオの接触面はさらに広い。しかしラジオの特殊な場合は除外例として,一般に映画・演劇(旧劇の場合を除く。)・演芸などの当事者は,話しことばについての意識,特にその指導的位置にあることを自覚しているものが少ない。この方面の関係者は,この領域において使用される話しことばの効果影響力の大きいものであることをじゅうぶん留意し,話しことばへの関心を寄せ,進んでその研究に従事し,「避けたい話しことば」を整理し「勧めたい話しことば」を使用することが望ましい。ことに上記の統計には,小学生・中学生が相当のパーセンテージを占めるものと推測されるから,その影響力の大きいことを考えて,じゅうぶん洗練されたりっぱな話しことばが使用されなければならない。
 話しことばの基準は,けっきょく日常生活にあるから,日常会話を規制することが先決問題となるであろう。
 この場合注意すべきことは,ひとり話しことばの語彙ばかりでなく,さらにその語法についてもじゅうぶんに研究を重ね,ことばとしてよくわかる通りのよいものを形成しなければならないということである。従来放任されていた話しことばの研究を行い――特に映画界の場合は,話しことばへの関心が少ない。西洋映画の字幕などには,日本語に熟していないものが相当多数見受けられる――特に社会教育の見地から一般大衆と格別接触面の広い映画・演劇・ラジオ・演芸などの当事者の関心をよび起し,パブリックスピーキングのシクテムを構成すべきである。このシステムがある程度形を整えてくれば,「話しことばの文法」を作ることも可能であろう。映画・演劇・演芸などの話しことばは,ほとんど放任されたままであるが,それに比較すれば,ラジオの場合は,視覚形象を欠き,(テレビジョンの場合はおのずから別問題である。)全然音声だけによる関係上,ことばに対しては,おのずから相当の関心が払われている。(N.H.Kはすでに長年にわたって,「話しことば」の本格的な研究を行っている。民間放送連盟などでも「日本語の純潔を保つこと」に深く留意して活動しているようである。)
 漢字および漢文の語法を含む国語は,象形文字に基礎をおき,必然的に聴覚よりも視覚の上で発展する可能性を含むところから,聴覚的にとらえないで気ままに新しい語彙と語法を生じやすく,これを耳にした場合,一方にははなはだしく耳ざわりが悪く,他方にはまったく意味の通じない語彙を生ずる。
 ラジオの異常な発展はこの状勢に対して,多少の阻止的な役割を演ずる機能をもつものといえよう。この意味において,ラジオと「話しことば」との連関はじゅうぶん重視され,かつ利用されなければならない。たとえばシナリオライターなどに対しては,この方面についての関心と注意とをよび起すべきものと考えられる。

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