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ローマ字調査分科審議会総会

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〔開催日〕

昭和25年10月19日

〔出席者〕

安藤分科審議会長,土岐国語審議会長
佐野委員,井上,大塚,桑原,佐野,千葉,福田,松浦,武藤,山崎各臨時委員
原国語課長,ほか関係官



原課長

 本日の総会におきましては,かねてお手もとにおくばりしてある,第2次アメリカ教育使節団の報告書について懇談的に御検討をいただくことになっていますが,この報告書の取扱について一言申し添えておきます。御承知のように,この報告書は第2次の教育使節団がマッカーサー元帥に対して行った報告でありますが,これは単なる勧告であって,これがこのままS.C.A.Pの政策になるのではありません。またこの勧告に基いて,G.H.Q,C.I.Eが直接イニシアチブをとるのでもありません。すなわち,この勧告を基礎として,日本政府が案を作り,その案については,関係当局の許可を要します。たとえば教育行政については,C.I.Eの許可を得て,はじめて日本政府の政策となるのであります。また,勧告の原文は御承知のように英文で書かれていますが,この英文のものが正文となるのではなく,文部省が作る邦訳文が正文になるのです。こういうわけで,文部省は現在,慎重に翻訳を進めており,いまだ定訳はできておりまでん。それで,お手もとにさしあげた訳文は仮訳でありますが,この訳につきまして,何か御意見があったら,承っておいて文部省の訳文を担当しているものに伝え,定訳をつくる参考といたしたいと存じます。

松 浦

 日本側の翻訳文が正文になるということだが,翻訳文についてS.C.A.Pの許可を得たものを正文にするのか。

原課長

 そうである。

安藤会長

 さきほど,国語課長から申し上げたとおり,本日は,この勧告書について,いろいろと意見を承りたい。

原課長

 使節団との折衝について申し上げておく。日本側の主人役というべきものは,教育刷新審議会であった。すなわち,教育刷新審議会から使節団に対して報告書を提出したのである。この報告書は,「教育改革の現状と問題」―教育刷新審議会報告書―として出版されている。また,文部省は文部省としての報告書を提出した。これはやがて文部時報の特集号として出されることになっている。また,使節団との特別会談には,佐野委員が主任となり,安藤正次・土岐善麿・西尾実・有光次郎の各氏が列席して,大倉集古館で国語の現状のあらましについておのおのの分野を分担して簡単な報告を行った。このときは使節団としては,日本側の報告を聞く程度で先方からは何も言わなかった。後に使節団のホックウォルト氏と佐野委員・西尾国立国語研究所長との会談が行われたのである。この会談については後刻佐野委員が出席されるはずであるから,佐野委員からお話を聞きたいと思う。

安藤会長

 報告書について何か御意見があれば言ってほしい。

松 浦

 今回の訳では「some form of Romaji 」を「ある式のローマ字」と訳しているが,1946年の報告書については,同じ「some form of Romaji 」を国語課編の「国語調査沿革資料」(178ページ)によれば,「ある形のローマ字」としるしてある。また,章の終りのほうの箇条書の第1の「a single system of Romaji」を「一つのローマ字式」と訳している。原文では「form」が2か所,「system」が2か所あって,form とsystem と使い分けている,すなわち,つづり方や分ち書きなどをさす場合には,form を使い,漢字かな方式,ローマ字方式という場合には system を使ってちゃんと区別しているのに,訳文はこれを区別せず,まぜこぜにしている。それだから混乱が起きるのである。どんな邦訳でもよいからform とsystem とちゃんと対応しているものにしてもらいたい。私案をいうならば 「a single system of Romaji」は「ローマ字専用方式」と訳せばよい。
 また,訳文の2ページのはじめに「これらの勧告がなされてから早くも4年以上……」とあるが,「早くも」ということは原文には書いてない。どういうわけで入れたのか,非常に皮肉な解釈をすれば,4年間何もせずにいた人にとっては「早くも」であろうが,いっしょうけんめいにやった人にとってはずいぶん長いと感じられたことであろうと思う。
 また,「a restricted list of Kanji characters 」,「an official list of pronunciations」をそれぞれ「制限漢字表(当用漢字表)」,「公用発音表(当用漢字音訓表)」と訳したのはよいが,それならば,「the Institute for National Language Reform」は「国語改革研究所(国立国語研究所)」と訳さなければ,前後が照応しない。

原課長

 「form」と「system」とは,どう区別したらよいか。

松 浦

 どういうふうでもよい。form は形,system は方式でもよい。要するに照応していればよいのである。

原課長

 読んで実態がわかるようにしたい。かっこを入れて,当用漢字表とか,当用漢字音訓表とか示したのもこの意味からである。

松 浦

 「a single system of Romaji」は「ローマ字専用方式」ではないか。

原課長

 そうとは思わない。

福 田

 「some form」は「なんらかの形」というのではないか。

松 浦

 「single system」を「単一の式」とすると,「単一のローマ字の式」とはどういうことか,もし,1式というのなら,前回すでに勧告ずみである。あとに続く2,3,4の各箇条の内容から考えても「single system」はどう考えても「専用」と訳すべきである。


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