国語施策・日本語教育

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議事 懇談

土岐会長

 自由に発言を願って,これからの運営と仕事について話し合っていただきたい。
 審議会は第1期が終り,仕事が第2期に移るのであるが,第2期は第1期の仕事を受け継ぐか,新しくやっていくか,意見があれば,それからおっしゃっていただきたい。
 審議会は基本的な解釈では,委員は2年の任期ごとにかわっていくという形であるが,仕事のほうは少なくとも前期の仕事を全然無視するということが適当であるかどうか問題である。
 今までの部会の仕事で一応終ったものは,そのままやめておくことにしてはどうか。部会が引き続き行われるときは,前期の部会員・部会長がそのまま引き継ぐか,全然新しくするかなどというむずかしいことが多いから,そういうことについて申し合わせでもしていただきたい。
 なお,ローマ字調査分科審議会の組立について,課長から話をしていただきたい。

原課長

 国語審議会令により,ローマ字に関してはローマ字調査分科審議会を設けることになっている。分科審議会に属する委員については,大臣が指名することになっている。大臣としては審議会長に相談して委員を指名し,審議会の総会に報告するという形になる。ローマ字調査分科審議会の委員については,きょう改選後最初の総会が開かれたばかりなので決まっていないが,次の総会までに大臣に指名してもらうつもりである。

佐 藤

 審議会の仕事については,発表されたものを見て,だいたいわかっているつもりだが,決定されたものの実際の効果,社会的効果がどういうふうに示されているかをお話し願いたい。

土岐会長

 今までに,人名の問題などについては92字を名まえに使ってもいいだろうと決めて発表した。それが戸籍法施行規則に取り入れられた。これなどは具体的に名まえをつけるとき,こういう字を用いることができるようになった。「これからの敬語」についても,それによって国民の敬語の使い方がすぐ変るということにはなるまいが,審議会としての方向づけとして意味がある。改組した審議会は,国民の言語生活を法律で規定することはできないが,正しいと思われる方向の線を出して,社会の方向を見守っていこうというのである。
 なお,そのほか補足意見なり反対意見なりがあれば述べていただきたい。名ざしで失礼だが,京都の遠藤委員のご意見はどうか。

遠 藤

 国語審議会に対して世間はどう見ているかというお尋ねだが,わたくしは,一般の人々はあまり審議会に関心がないような感じを持っている。大事なことは,たとえば,敬語の問題などでも,現場では,審議会から発表された例については処置はできるが,具体的な問題になるとわからないところが出てくる。そこでその処置はどこへもっていけばよいのかで現場は迷っている。すなわち,国語課へか審議会へかがわからないのである。

土岐会長

 国語課は普及実施面を担当し,審議会の事務局の仕事をしている。決まったものの扱いは国語課であり、内容は審議会である。そのほか有力な機関として国立国語研究所がある。

遠 藤

 そういうことは現場ではわかっていない。

小 林

 報告書を送っていただいたが,手にはいったのは最近である。よく読めなかったので残念だ。

土岐会長

 お受け取りになったほうではおそいと思われるだろうが,作ったほうはいそいでやったわけだ。

吉 田

 ローマ字の問題で,つづり方はたいへんむずかしい問題であるが,よくあそこまでこぎつけたものだと思う。まだ,2式が残っているが,それはローマ字教育にとって大障害である。これからの2年間に,実際的な問題としてどうしても解決していきたい。

照 井

 教育部会でも強く要望していた。

保 科

 わたくしはこれまで国語課員として常にオブザーバーであったので,各部会の様子をよく知っている。国語の問題は2年間で完結するということはとうてい不可能である。ある問題は解決できても,全体が解決できることはむずかしい。だから新しい部会は,今までのものを引き継いで,できるだけ完成させるといういきかたをしていただきたい。前会はいろいろ部会が分れていた。あまりにも分れていたので審議を進めていくのがむずかしかった。たとえば,敬語と話しことばの部会で同一問題を取り上げているということもあった。ローマ字の部会もいろいろ分れているので,ローマ字のエキスパートが各部会に2,3名ずつしかいないという状態だった。ローマ字の部会はローマ字問題の部会として一つだけにしたい。そういう点,新しい審議会では考慮していただきたい。

土岐会長

 ちょっと補うが,ローマ字の部会がわかち書きとつづり方とに分かれていたのは,まえにあったローマ字調査審議会の仕事を分科審議会がそのまま引き継いだからだ。
 話が具体的になってきたから,今までの仕事の組立のうえでの整理ということを考えると,公用文法律用語部会は一応建議されたので,仕事を終ったことにしていいのではないか。固有名詞部会も人名用漢字を現実的に処理したのであり,漢字の部会に繰り入れて考えていい。
 敬語については,「これからの敬語」は方向を決めたので,引き続いて具体的な問題があり,そのまま話しことばの部会に続けていきたいと思う。わたくし個人としては,話しことばの問題は決めなければならない重要な問題であると思う。だから,ここで第1期の審議会の部会を整理し,広げていくというふうにしていきたい。

時 枝

 わたくしは,漢字部会長を2年間やっていたが,結論らしい結論が出なかった。部会での問題の取り上げ方や考え方が抽象的であったし,またわたくしの学問のほうの立場から言えば,ことばだけを要素に切りきざんで取り上げていったような感がある。そうではなく,たとえば,教育という面で具体的にはどういう問題があるか,あるいは,一般社会の面ではどうなっているか,印刷の面ではどうなっているか,というふうに機能的に取り扱うべきではないかと思う。

土岐会長

 当然考えられてくる問題だが,今までは国語国字の問題として扱っただけで,教育の面にまでとどきにくかった。2年間の漢字部会の審議の結果は,当用漢字は多少部分的には補正する必要があるが,当用漢字表そのものの精神はそのまま再確認することになった。こんどはこの確認のうえで,教育面はどう取り上げていくかが問題であり,その意味で今までの部会はむだではなかったと思う。

時 枝

 新しい道を切り開かなければ,デッド・ロックに乗り上げたままのような感がある。

堀 内

 ローマ字の問題で伺いたいことがある。講和条約発効と内閣訓令の関係はどうか。訓令は今まで眠らされていたような感がある。行政協定などに,ローマ字のことはどうなっているか。

土岐会長

 訓令が死んだとか殺されたとかは思えない。国語問題は占領とは関係がない。

堀 内

 率直に言うとなんだかもやもやしているようだ。現に昭和25年の記録にも,安藤委員が近く統一の機運があるとあり,各委員が統一しろという意見もだいぶ強い。ここではっきりしてうれしい。
 行政協定の中で駅名の掲示にはヘボン式でやれということが出ているかどうか,事務当局で調べてもらいたい。

原課長

 まだ調べてないが,調べてみる。

江 尻

 審議会が国語を最終にはどういう方向へもっていくか聞きたい。

土岐会長

 「国語問題要領」の中にある。

江 尻

 審議の最終の具体的な姿がどういうものか伺いたい。

土岐会長

 簡易化・合理化という方向に進んでいき,国語がよりよくなっていけばいいと思う。

大 住

 本などを読んでいると,「また」「および」「したがって」「ならびに」「かかわらず」などという接続のことばがかなで書いてあると,なかなか読みにくい。ああいうのは,漢字を生かしたい。
 新かなづかいはたいへん便利でいい。自分の会社でもすべて新かなづかいを実行している。しかし,文学者があまり実行していないようだが,これからは新かなづかいを用いるように推進されたい。
 ラジオで対談などを聞いていると,ふだん文章がうまいので尊敬しているかたが,ずいぶんぞんざいなことばで話すのでがっかりする。話すことばをもっと指導されたい。

保 科

 「また」とか「しかし」など当用漢字表にもあるが,いろいろの字で書かれるので,かなで統一して書いていくほうがいいということからかなにしたのだ。「必ずしも」などの副詞も当用漢字表にある字でもかなで書いていきたい。文芸方面などで,字はあまりむずかしくないが,どう読んでいいかわからない字が多い。1字でもわからない字が出てくると不快になって続けて読むのがいやになってくる。一般の民衆に読ませるためには,一般民衆に読める字を使っていただきたい。その点文学者は自覚してほしい。

舟 橋

 まえまえから,総会のたびに発言しているが,委員のメンバーに作家としてわたくしひとりなので肩身が狭い。作家と審議会とは対立している形になるので恐縮千万である。第2次米国教育使節団の報告があった直後,文部大臣に会って,当用漢字や現代かなづかいは強制力のないことを確かめた。進歩的な作家でも旧かなづかいを使っている。われわれもわかりやすい文章を書くということは,率先してやっているが,小説は読物であると同時に芸術であるから,素材となることば・文章は,われわれの自由によって持ちこまれるべきものだと考える。われわれの意志に反して,修正されると,そこなわれた感じがして不快である。われわれは感覚が古いせいか,旧かなづかいを使うものが多い。その点漸進的にやらなくてはならないと思う。わたくしは新聞に書く場合妥協するが,純文学の立場からは妥協できない。

渋 沢

 漢字制限・新かなづかいなどの趣旨がよくわからない。よけいな知恵を使わないですむようにするためか。英語のできるこどもは国語もよくできると聞いている。

保 科

 趣旨の一つは教育面にある。日本の小学校の児童が漢字を学ぶのは非常な負担である。イギリス・フランス・ドイツなどでは,児童は文字を習わなくてもいいといえるくらいである。われわれは日本語というものを学校で正則に学べないで家庭・社会から習っている。そういうことでは世界情勢に順応していくのは困難であり,世界の文化の競争にも負けてしまうので,そのためには学習負担の軽減をはかることが必要である。
 新聞が無制限に漢字を使うと,1千万個の活字を用意しなければならず,経営が成り立ちにくい。いろいろまだ申し上げたいことがあるがこのへんにしておきたい。

渋 沢

 よくわかった。漢字制限は,われわれのこどものときからもあったが,それは程度問題である。現在,どの程度の制限が適当であるかという科学的・心理学的なしっかりした調査があるか。漢字を少なくすると知能が下がるのではないか。

保 科

 研究調査は必要だと思う。今までは個人的・部分的の調査はあるが,全体的のものはない。

土岐会長

 反対に,教えてみたらどういう結果であるかという報告はある。それによると600字ぐらいは教えられるということである。

北 浜

 全国の小学校の先生が,新制高校卒だけの助教が4割であり,そういう先生が児童をどこまで教えられるかが疑問である。
 新しい教科書は会社によって違い,漢字の出し方も違うから,そういうことの研究も審議会ではある程度考えられるのではないか。

西尾所長

 研究所の調査にもそういう点に触れているが,まだ結果が出ていない。また国語課のほうでもそういう仕事をやっている。
 さきほど英語ができると国語もできるというお話が出たが,それは少数の例だと思う。多数の知識の水準を高めるという目標のもとに審議会の仕事を進めたのだと思う。日本の伝統を尊ぶ立場から漢字をたいせつにするが,漢字をたいせつにするということが,かえってことばの伝統を変えていく例もある。たとえば京都の「万里小路」「修学院」がそれぞれ「マリノコウジ」「シュウガクイン」と呼ばれてきていることなどがその例である。今までは漢字の重要性ということがあまり重くみられすぎたので,少し考えなおす必要がある。研究所としては来年度はお役にたつ資料を出したい。

中 島

 教育研究所でやった日本人の読み書き能力の調査によると,日本人の能力はたいへん低い。そのことは一方,文字を読む人の幅が広くなったともいえるが,当用漢字は制限漢字ではなく,これだけはせめて覚えてもらいたいという字である。

原課長

 国語課では漢字学習指導基準設定研究会を作って,教育漢字881字を義務教育で読み書きできるにはどう指導したらいいかという学習指導案を考えている。

北 浜

 「少年朝日年鑑」で,懸賞に応募した少年のはがきの誤字を調べたものがある。また,鳥取県の教育委員会からの報告も聞いた。それらによると,誤りはだいたい一定している。

渋 沢

 ピントはずれかもしれないが,日本では物の足りないための会議が多いが,ここでは多すぎてこまる漢字の部会がある。電車を待っている行列で,横から割り込んできたりすると「キサマ・・・・」とすぐやり合う。人称代名詞がけんかのもとになる国民も少ない。フィリピンの娘が日本語で「ドウモアリガトウゴザイマス。マタコイ」と言ったというが,日本語だからおかしいが,英語ならおかしくない。秋葉原で「eat more fruits」という広告を見たが,日本語では「果物をもっと召し上がれ」とでもていねいな言い方をしなければ,お客がおこるだろう。国民が自覚して,どうしたらいいことばを使うようになるのかを考えたい。
 NHKのことばの研究室などでも,ことばづかいに興味を持たない人に関心をもたせる時間や方法を考えてはどうか。

颯 田

 話しことばの部分では「いつ,どこで,だれが,だれに,いってもさしつかえのないことば」を標準にことばを選んできた。話しことばについては放送局が最もよい協力者であるが,映画のほうはまだ冷淡である。新聞は新しいことばが多くて困る。舟橋委員の書くほうの主張はもっともであるが,話しただけでわかることばがよいので,字ではりっぱでもゲイジュツ(芸術)などは音としてはきたない。目の面と耳の面との妥協が必要である。
 NHKの尋ね人の時間に,「たいへんむずかしい字ですから,かなで申し上げる」と放送したことがあったが,漢字で書くか,かなで書くかと,常に字にこだわっている一つの現れである。

中 村

 話しことばについて放送が影響することはよく承知しており,用語に関して月2回ほど会合しているが,実施の面へもっていくのはなかなかむずかしい。出演者はお客さんなのでやりにくい。放送局自身が話すのは,われわれが研究したものを入れてもらっている。土岐・金田一・小林各委員は,用語の委員会の委員であられるので,審議会の意向が放送に反映していると思う。

土岐会長

 では,懇談はだいたいこのへんにしたい。次の総会は6月30日(月)に開きたい。それまでに報告をよくごらんになって,今後の問題について,15日までに国語課あてに文書にして出していただきたい。きょうはこれで閉会とする。

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