国語施策・日本語教育

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議事 各部会長の中間報告

佐 野(ローマ字調査分科審議会会長)


 ローマ字調査分科審議会は委員21名で構成され,わたくしが会長に選ばれた。ことしの春に開かれた国語審議会の総会から,まず三つの案件を受け継いだ。すなわち,ローマ字のつづり方・わかち書き・教育の問題である。分科審議会は7月7日に第1回の会議を開き,全員でつづり方について審議することになり,委員改選前の審議会つづり方部会で決まったいわゆる第1読会案を基礎として審議を始めた。
 すなわち『「シ」はsiまたはshi,「チ」はtiまたはchi,「ジ」はziまたはjiと書く。』など10項目にわたるものを基礎として審議を始めた。ところがさらに重要な意見が強く出た。それは,siとshiとともに公認されるというのはどんなものだろう。ローマ字のつづり方としては,ローマ字教育や地名とか国際上等の立場から一定でなければばらない。なんらかのよりどころが示されることが絶対に必要である,ということである。これには全員が異論なく,大勢が自然にそういうことになった。そこでたとえば,「siまたはshiと書く」という,またはまえの部分をまとめて第1表とし,あとの部分をまとめて第2表として最初の審議すべき案ができあがったわけである。すなわち「国語のローマ字つづり方は第1表による。ただし第2表のつづり方を用いてもよろしい。」として,第1表・第2表を並べた案が提出されたのである。これについてはほとんど全員が承認し,この表について審議することになった。第1表にはダ行があり,初めはdi,du;dya,dyu,dyoなどを入れてあったが,審議の結果,これは第二表に入れたほうがいいだろうということで第2表に移した。第2表には第1読会案ではtsu,fuがなかったが,審議の結果,やはり入れたほうがいいということになったので入れた。このようにしてつづり方については,第1表・第2表ともに公認され,その正副が決まり,教育上,国際上一定したよりどころができたわけである。「あとがき」についてはおおむね,はねる音・つまる音・長音・大文字など6項目を審議し,少数意見としては異論もあったが,大勢はこのように決まったのである。
 以上7回にわたる会議で一応この表のとおり決定した。しかし会議には常に全員が出席していただくことは不可能であったから,審議の慎重を期するために,全員に対し,文書をもって修正意見を求め,来年1月中に第8回の会議を開き、提出された修正意見を参考として最終決定をするつもりである。こういうわけで,この案については修正があるかもしれない。御質問・御異議等を承って最終決定の資料にしたい。

保 科

 佐野分科審議会長の御報告はまことにけっこうだと思う。ちょっとわたくしの希望を述べさせてもらいたい。教育は第1表によるということをつけ加えていただきたい。

照 井

 わたくしも保科委員と同じ希望を強く持っている。

佐野分科会長

 ちょっと保科委員に伺いたい。教育は第1表によるということをつづり方の案のどこかに入れろということか。案が決まれば検定基準等は文部省で決めるだろう。文部省に対する希望か。

保 科

 そうである。教育では第1表をよりどころとする,という希望をそえていただきたい。文部省が取り上げるかどうかは別だが。

時 枝

 佐野分科会長におたずねする。このまえのローマ字教育部会の最終結論の条項を引き継いだのか,あるいは新しく審議しなおしたのか。

佐野分科会長

 引き継いだと考える。

土岐会長

 ローマ字の問題はこのくらいでよければ次の漢字部会に移ろう。

原(漢字部会長)

  漢字部会は今まで7回開いた。第1回には四つのことを決めた。第1に,当用漢字表をその制定当時の精神に基いて守りぬくこと,ということを基本態度として確認した。第2には,守りぬく方法として,過去5年間の実施経験を経ている歴史と現状に即して,諸方面からの意見・要望・資料にかんがみて,とにかく当用漢字表を検討してみよう。そこでいくらかの修正を施さなければならないかもしれない,ということになった。これらについては二つの立場から意見が出た。一つには教育の立場から,児童の学習能力に応じて,現在より減らすべきであるというのと,もう一つは,一応検討してみたうえでなくてはわからないという意見であった。けっきょく,あとの意見に従って当用漢字表を慎重に審議し続けており来年もこの方向で続けていくつもりである。

時 枝

 このまえ,わたくしが部会長であったときには,削りたいという意見と,ふやしたいという意見が出て,その間にわたくしが立って困って退散した形になった。「守りぬく」という説明であったが,ふやせという意見はなかったか。

 5年間の実績によって,基本態度を守ろうということを決めたのであって,ふやす,減らすは,まだなんともわからない。

時 枝

 基本的態度を守るということは,ふやさないということか。

 いや,検討の結果,ふえるか減るかわからない。

時 枝

 このまえの部会で,実態調査を必要とすると報告の中に入れたが,今度はどうなっているか。

 継続中である。

土岐会長

 次は標準語部会の報告をお願いする。

金田一(標準語部会長)

 標準語部会を開くにあたり,各委員から,最初の出発にのぞみ,意見を伺うことにした。けっきょく,まえの話しことば・敬語部会の仕事を継承していくことを,方針の一つにしていくように決めた。
 第1回に部会の具体的仕事を行うまえに,まず,標準語ということをはっきりさせよう,ということで審議を始めた。そして今日行われている標準語の意味に二通りある,ということになった。一つは,たとえば京都の宿屋で,女中には標準語を使わせているというような場合で,それは東京弁の意味である。第2には,放送局でアナウンサーに標準語を話させるように苦心しているが,そういう単に東京弁ではなく、東京弁の中にあるなまりを取り除いた,模範的な正しく美しいことばという意味である。けっきょく,われわれの標準語部会としては,第2の理想的なものの意味にとった。
 そこで具体的にはどういうものをもとにして審議していこうかということで,東京の中流どころの良識ある家庭のことばを基本として審議していこうということになった。ところが,全国のことばの中で,単に首都のことばということだけで中心にするのはいけないという痛烈な反対意見が出た。しかし,全国の方言は郷土的・保守的・主観的であるが,東京語は江戸時代から全国人が集まって大都市を形成し,ひとりひとりお国ことばを慎しみ合って使ってきた,300年の歴史が作り上げたりっぱなことばだから,それに基準を置くことは適当ではないかということに意見が決まった。そこで,東京ことばのうちにもいろいろの発音や語いがあるので,そのうちどれが正しいかということを決める標準の審議を行い,次のように決まった。
 第1には文法に合うこと。ただし,ことばは歴史的に変遷するから,文法だけでは決定しかねるので,変遷の事実を認めること。
 第2に理屈に合うこと。ただし,ことばは必ずしも合理的なものではないから,慣用も認めること。
 第3に語源に合うこと。ただし,一応語源によることにも限度がある。
 第4に,とにかく良識ある社会の人々が,10人のうち9人が認めればいいということに決まった。
 第5に,「美しい」ということはそれをいう人の文化的背景によるが,どこまでも日本語に即して決定しなければならない。
 以上のように決定した。
 今後の部会のすることは,そういう立場から,混乱や誤りの多い当代のことばを整理することになるのだが,それをわれわれ10人ぐらいだけでやるということは,だいぶしょっていることであるが,二・三様あるものをわれわれで判断してよりどころを示すくらいのことはできる。決定案を得しだい総会の審議をお願いしたいと思っている。今のところ具体的には各種の問題について第1読会を進めているが,これから慎重に審議を続けたいと思っている。

小 林

 標準語の定義と判断の基準はよくわかったが,審議のしかたについて伺いたい。音韻・語法等に分けて審議するのか。ローマ字とか漢字などは材料が出ているが,標準語のほうは範囲を決めないとやりきれない。それについて説明願いたい。

金田一

 審議のしかたについては,お歴々がそろっているから,みなさんが実際に発音されたものを,今申し上げた基準に照して,発音も文法もおかしくなく通用するかどうかを判断している。こういうことは,今まで全然解決を与えていなかった。だから100やればやっただけ地方の先生に安心を与え,役に立つと思う。できればアクセントまでやりたいが,アクセントを一つ一つ審議することはとうていできない。この会には年輩者が多いから,新しいアクセントは決められない。

堀 内

 標準語と同じく,標準音ということを考慮しているか。たとえば,東北の人が「イ」を「エ」と発音していることなど,どう扱うか。

金田一

 それはむずかしい問題で,地方のなまり音まで是正することはできない。先生がた自身に勉強してもらうよりほかはない。

土岐会長

 公用文部会は千種部会長が出席できないので,松坂委員が代りに説明することになっている。

松 坂

 法律用語・公用文部会は,このまえの公用文部会を継続しているのであるが,今日まで4回部会を開いたほか,実質的な活動をしている。この部会はその仕事の性質として,実行できるものを作らなくてはならない。それで現場の声をよく聞くために,またこちらの趣旨が現場によく通じるために一昨日も各官庁のかたがた16名ばかりに集まってもらい,話合いをした。部会では,

  1.  公用文の用語と文体の統一
  2.  当用漢字表制定以前の法律文の問題―新しい法律でも,古いものが生きている場合そのままの用字を使うので,それと当用漢字表との関係をどうしていくかということ
  3.  同音異字の問題
  4.  公用文横書きの促進等について
以上のことについて審議を進めている。

 まえの会からの継続の公用文の横書きはだんだん実行されて,全官庁の半数ぐらいに達している。しかし,戸籍・土地台帳・官報などの左横書きは,行政部だけでは実行がむずかしいので,国会との話合いが必要である。さらに各方面の意見を聞き,啓発に努め,確かに実行できるものを決めていきたい。

土岐会長

 術語・表記合同部会の回答案はあとまわしにして,表記部会の報告をさきにお願いしたい。

保 科(表記部会長)

 表記部会には問題が多い。まず第1に外来語の表記から手をつけることになり,2回会議を開いたあとで,学術用語分科審議会から数項目にわたる質問が回ってきたので,術語部会と共同で審議していた。あとで颯田部会長から報告があるだろう。われわれ表記部会では,質問を受けた綱目以外にも,広い範囲にわたって審議していくつもりである。

颯 田(術語部会長)

 術語部会は今まで6回会議を開いた。第1回にはどんなことを審議するかについて話し合い,学術語を日常語で書くことはできないかということについて話し合った,第2回から,学術用語分科審議会から質問があったので,われわれと同じ目的に進む表記部会と連絡する必要を認め,第3回から4回続けて合同で審議を続け,表記部会と意見が一致することになったので,本日その回答案を審議願う次第である。

土岐会長

 固有名詞部会の下村部会長は本日欠席なので,わたくしからご報告する。
 固有名詞部会は7月と9月と2回開いた。根本論として,今のところ固有名詞はかな書きする以外に最終の案はない,ということになった。次回からは,国語課から提出される資料について審議を進める方針である。
 以上で各部会の中間報告は終った。引き続き学術用語分科審議会に対する回答案の審議を願いたい。

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