国語施策・日本語教育

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議事 「町村の合併によって新しくつけられる地名の書き表わし方について」の建議案について

下 村

 この建議案は,松坂委員に原案の作成を頼み,法律公用文部会・国語課の協力を得て,数回にわたる協議の結果できたものである。
 この案については,これが通過したとすれば,自治庁から各府県に通達し,なんらかのしかたで実現に向かうことと思う。さらに,その地元町村の町村民すべての理解が必要であるから,新聞・言論界の協力,その地方を選挙区としている衆参両院の国会議員のかたがたにもわかってもらわなければならない。
 この建議とは違うが,奄美(あまみ)大島の改名を当局に話している。「あまみ」は琉球(りゅうきゅう)の開祖「あまみこ」を日本語にあてはめ,むずかしい字をあてたのだが,書紀には「海見」と見え,「庵」(あん)の略かもしれない。わかりやすい「天見」(あまみ)にしたらどうか。この際簡易化して末長く利便に浴させたい。
 建議案の趣旨については御異議がないと思うが,文体その他についてお気づきの点は,御意見を聞かせていただきたい。なお,この建議を出すだけでなく,あらゆる方面で御協力を願いたい。

土岐会長

 お手もとにある建議案をもう一度読んでみることにする。
 (建議案を朗読)
 趣旨について反対のかたは御発言願います。(発言なし)趣旨には御異議がないものと認めます。文面については国語的におかしいと困るので,御意見を伺いたい。たとえば「趣旨」ということばと「趣意」ということばが短い文の中に使い分けてあるのは,意識して使い分けてあるのだろうが,こういうことについて,何か御意見はないか。

前 田

 建議の趣旨に反対ではないが,どの程度地名をなおすのか。ひどい程度,なおす程度はどのへんからか。

土岐会長

 合併しない町村名については現状のままである。これは新しく名をつけるものに関する建議である。

千 種

 「趣旨」か「趣意」かの問題は,「趣旨」のほうがポピュラーであろう。

下 村

 「主旨」ではどうか。ともかく一つにまとめたほうがいい。

小 林

 上の「趣旨」は次の何か条とアイテムを示し,下の「趣意」は精神を示している。原案者は多少のニュアンスを考えたのではないか。

舟 橋

 「趣旨」と「趣意」は違う。

土岐会長

 今のような趣意なら,原案どおりでいいのか。区別がつけばいいと思うが。

緒 方

 意味がちょっと違うくらいなら変えたほうがいい。

桑 原

 国語審議会の建議文だから,紛らわしいのは避けるべきだ。下のほうを「精神」に改めたらどうか。このままでは困る。

 「趣旨」は発音しにくい。

緒 方

 上の「趣旨」を「趣意」に,下の「趣意」を「精神」にする。

大 住

 「趣意」は精神ばかりでなく,実体形がはいっている。

桑 原

 精神が広く理解されたから広く行われたので,「精神」でいい。

千 種

 当用漢字表制定の精神がわかったので,当用漢字表が広まったのだ。

小 林

 「趣旨」を「要領」,「趣意」を「精神」とする。

大 住

 別紙は「要領」ではない。

千 種

 「精神」ははっきりしすぎる。どっちでもいいことで,議論するほどのことではない。下の「趣意」も「趣旨」にしたらどうか。

土岐会長

 御趣旨を体して部会長と相談することに決めたいが,御異議はないか。(一同賛成)
「またとなくよい機会」は,このままでいいか。

金田一・保科

 「またとない」のほうがいい。

大 住

 「なく」が「よい」にかかるのなら「なく」である。

緒 方

 「ない」でいい。「この上ない」と同じ形だ。

三宅事務官

 「よい機会」を(無二の)好機会とみず,「よい」と「機会」を離して(絶好の機会)みれば「なく」でいい。

緒 方

 建議案はお願いするものなのか,勧めるものではないか。

保 科

 下のほうから上のほうに文書を出すときの役所の慣例である。

緒 方

 審議会から願う筋のものではない。

土岐会長

 総理大臣は自治庁の責任者としてで,手続上こうなっている。

緒 方

 「決定されるようお勧めしたい」ではどうか。

松 坂

 原案者として発言する。地名の決定は大臣・自治庁の権限でなく,決定は地元にあり,それへの取次を願うのである。

千 種

 決定は合併町村事体でやる。それで,ほんとうに頭を下げるのではなく,言いまわして柔らかくなったにすぎない。

緒 方

 それでは舌足らずでないか。そういう処置をしてくださいという意味にとれる。

松 坂

 法律も合併促進法となっている。

千 種

 文部省から希望を述べる体裁である。

緒 方

 「勧めるように適当な処置を願います」ではどうか。

田 口

 人名の登録をする場合,当用漢字でないと受けつけない。受けつける側はこの趣旨を当然知っていなければばらばい。この際「まちがわないよう御注意願います」でいいではないか。

千 種

 人名については,受けつける戸籍吏が規則を知っているだけである。

田 口

 通達は戸籍吏にじかにいくのか,市町村を通じていくのではないか。

千 種

 法律上,戸籍吏だけが知っていることになっている。人名と地名とは別で,当面の問題ではない。

土岐会長

 政府のしくみがわかっていれば,「お願いします」でおかしくない。部会長会議で話し合った結果,了解ずみである。

小 林

 日本の文章が卑屈すぎる。これが官僚主義を助長する。「希望する」と男性的なはぎれのよい表現でありたい。「お願いする」という表現は,自分の利益を得るような気がする。こうした表現は,なるべく公用文から省いてほしい。

緒 方

 潜在意識にある。

大 住

 英語にだってI beg, much obliged などという言い方があるが,卑屈でもなんでもない。

土岐会長

 これを考えておくことにして,ローマ字調査分科審議会のことを考えていただきたい。

保 科

 別紙に一項目加えたい。

土岐会長

 あとにまわす。

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