国語施策・日本語教育

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議事 ローマ字調査分科審議会の中間報告および部会の設置について

佐野(ローマ字調査分科審議会会長)

 ローマ字調査分科審議会の予定に従って,わかち書きとローマ字教育のことを並行して研究審議した。わかち書きはまだここでごひろうする程度になっていないが,教育は話合いをする段階に達したので御報告し,御意見を承りたい。わたくしはからだぐあいが悪いので,教育のことは有光委員に主宰してもらっている。本日の報告も有光委員に頼む。

有 光

 佐野分科会長の代理をしてきたが,このまえの総会以後の報告をする。分科会として審議しなければならない問題が三つある。つづり方は御承知の経過をもって統一が実現したため,教育とわかち書きが残っている。教育に関しては,前国語審議会のローマ字教育部会から昨年4月報告されたが,その場で決定するということでなく,審議はその後設けられたローマ字調査分科審議会に引き継がれた。まえと違っているのは,つづり方がともかく一本になったことと,昭和22,3年以降ローマ字教育を実際に行い,実験学級の経験に基いて審議を進めることができることである。このたびはただちに部会を設けることなく,全員で話合いを行い,総会の形で3回開いた結果,次のようにだいたいの方向がまとまってきた。


  1.  ローマ字教育は国語教育の一環とすべきことが,数か年の経験で有力に出てきた。
  2.  現在のところ,学校長の随意であるローマ字教育を必修にしたほうがいいという意向が強い。
  3.  ローマ字を必修にする場合は,言語教育の立場から,できるだけ早い時期から始めるべきで,1学年のころからということも考えられる。

 ローマ字教育の問題を審議する際,ただちに国際問題と結びつけて考えることは避けた。ただ,ローマ字が能率の面,国際的な面をもっている点はじゅうぶん考える必要がある。そこで審議方針を一応文書の形にまとめるため,遠藤・田口・波多野委員から提出されたものを参考資料(1)とし,小林委員のを資料(2)とし,(1)(2)をまとめたものを資料(3)として,お手もとに,説明資料として配布してある。


(資料3を読み上げる)


 教員養成・指導要領・時間数など技術的なものも出てくるので,今後は部会を設けて審議すればよく,部会の設置について総会にはかりたい。
 わかち書きについては,相当専門的事項になるため,部会の設置を希望したが,総会の承認が必要なため,とりあえず小委員会を設け,議題を決めず,広く具体的に考慮して審議中である。この二つの部会について考慮のうえ,正式の部会として認めていただきたい。

土岐会長

 参考資料(3)を中心として御発言願いたい。

金田一

 これは,低学年からローマ字の学習指導を行うことが望ましいかどうかを審議するのか。

有 光

 行うことが望ましいということは決まった。こうした方向を実現させるのには,技術的・専門的な段取が必要となり,それについての御意見を伺いたい。

金田一

 参考資料(2)(3)いずれももっともで,そのとおりであるが,当用漢字を覚えさせるのさえ困難だというのが小学校の現状であるのに,そのうえ,英語を知らないこどもにローマ字を教えこむことはどうかと思う。中学時代から教えるのなら抵抗が少ないが,小さいこどもに,抵抗の多い時代に教えることが,小学校の経験からだいじょうぶだという決定的なことに基いてこの御意見が出ているのか。

有 光

 ごもっともな質問であるが,ローマ字を習うと,こどもの語意識がはっきりし,特別の興味がわき,かえって漢字・かなも早く覚えるとのお話も出ている。ここ数年間の実際の経験からも,漢字・かなだけで教えるよりも効果的であり,負担も重くない。ローマ字教育でどういう実績をあげてきたかについて,遠藤委員などのお話もあり,こうまとまった。

金田一

 経験に基いて,ローマ字教育をやれば国語教育の効果があるということは,ありがたく承る。

小 林

 だそくであるがつけ加えると,わたくしも初めは金田一委員と同じ不安をもっていたが,実際の説明を聞き納得した。英語の習得の際,フォネティック サインを覚えさせられる。覚えることによって英語の上達が早くなる。しかし実際はこれによって文を作ることはできない。たとえば,家を建てるときの足場であって,覚えてしまえばとりはずしてしまう。ローマ字は足場であるが,あとでいらなくならず,いつまでも役にたつ。また,ローマ字には国際性があり,英語を習うときにも役にたち,初学年から教えておけば非常に効果がある。

遠 藤

 資料提出者として一言申し上げる。「漢字だけでも覚えないのに」というお話は,実は3・4年からやるから負担になるので,1年からやればかえって抵抗はないと思う。1クラス50人のうち5・6人から10人はどうしても漢字を覚えないものがあり,ローマ字からやるとこれを救うことができる。1・2年はことばに興味をもち,文字にはそれほどでない。まず興味を起させて,あとから漢字を覚えさせるのがいいというのは,実験報告からも同じことがいえる。現在4年の時間配当は窮屈で,1年は比較的に自由で時間が余っており,低学年からやればうまくいく可能性がある。国語教育の一環として低学年から入れたほうがいいと思う。

舟 橋

 資料(3)を読むと,「話しことばを主とし,それはローマ字で書いたほうがいい」というのは,話しことばをローマ字にするという下心があるように思われる。国語教育上効果があるということよりも,この文面は大胆で強い。皆の言っているのは言いわけで,これだけ読むとあまりにことばが強い。国字をローマ字にしてしまうのならそれでもいいが。

有 光

 ごもっともな御意見であるが,分科審議会でローマ字教育について審議を進めた結果,国語教育の一環として行うためには必修にすること,必修にするのなら低学年からという線でまとまったため,本日,一応,中間報告をしたのである。これは国語教育の問題として扱い,国字とは関係させまいという空気が強く,かりに国語教育に有効なものでも,非近代的な,煩雑なものであれば採用できないが,ローマ字は能率的であり,国際的であるので,採用したいという意見になったのである。もともとの考え方は,ローマ字運動と切り離して考え,これと結びつけることを警戒する心が強すぎ,あまり遠慮しすぎたのではないかというのが実情である。

 総会にかける議題は部会を設けることではないか。

土岐会長

 これを皆さんに報告し理解していただいたうえで,この方針に沿って部会で具体的にやったほうがいいとあれば,部会設置を認めていただきたい。ローマ字調査分科審議会でここまで到達したのである。総会でこの方針を承認した形となれば,分科審議会としては本懐だと思う。

 方向まで承認するのは手続上飛躍してないか。部会設置を事前承認でやるという提案ならいいが,部会における審議の内容までも事前に決定するというのはおかしい。委員からこうした提案があったとの話だけならいいが,その結果を承知せよというのは飛躍で,わたくしには少し無理に思われる。こんど作られる新しい部会は,こうした事がらについて審議せよというのならいい。

有 光

 この前の審議会にローマ字教育部会ができ,その結果を総会にかけたが,質問や意見が出て総会で決定にならなかった。教育部会が解消し,ローマ字調査分科審議会がそれを引き継いだが,まず分科会全員で意見の調整をやり,専門的意見を述べ合って,分科会としての方向づけを行ったが,分科会としてはこうした意向であることを総会の席で御報告し,国語審議会として,このだいたいの方向はいいとか,無理だとか,この趣旨はけっこうだとか,御意見を伺えれば,それを参考にして安心して審議を進めることができると考えたからである。審議会の意向をできるだけ尊重するつもりでお話ししたのである。

 ローマ字調査分科審議会の意向を総会で説明することと,その内容を認めろということとは別のことではないか。

有 光

 分科審議会の一致した意見はこうであり,部会がこうした方針で進めていいということと方針を,御承認いただければありがたい。

 政令からいって,分科会の意向を総会にかける必要はない。部会設置の問題に,分科会の審議の結果を承認せよということを追い込んだような気がする。

有 光

 なにもたくらみがあるわけではない。部会としていい結論を出したいばかりに,それでは困るとなれば早く伺っておきたいし,それでいいのなら審議が促進される。中間的にでも一応まとまった意見を報告しておくのである。

 お気持はわかるが,これは重大な問題である。ローマ字の側に立っても決して利益にならない。事前にとにかく承認させることは手続上必要ない。部会を設けるということにおいて内容も承認せよというのは,両方とも承認せよということになりはしないか。事実上は,部会の内容まで認めたことになってしまう。

佐野分科会長

 有光委員の言われることと完全に一致していないようなことを言うのはおかしいが,ことばの違いぐらいであると思い,一言申し上げる。わたくしは会議にはあまり出席できなかったが,御報告を聞くと,総会に臨む分科審議会の心持としては,国語教育の一環としてやる,早い機会にやるということに皆の意見の方向が決まり,そのことに関するかぎり,中間報告をして皆の意見を聞く。つごうが悪いとあればその点をよく伺い,いいとなれば同感で喜ばしいと思う。これは皆,話し合ったらこうなったという報告をして,ただ皆さんの御意見を伺うことと理解している。
 部会はその問題とは別で,全員で審議の方向を考えてみようと思っている。部会に対しては方向を示すもので,拘束するものではない。また,分科会の意見を聞く必要もあろう。部会を設けるだけの御承認を得ておいて,御意見は方向を拘束するものではないということにしたらどうか。

 総会が部会の審議の方向を示したことになるので,別個にしたい。ここでそうした内容をもった部会を設けるとなると,拘束しないといっても,結果は同じことになる。

土岐会長

 審議会の方針について御意見が出たが,これについては重大なものがあるので,今のは報告の意味である。部会の設置について御意見を伺いたい。

照 井

 まえのローマ字教育部会の答申の場合と違ったのは,つづり方のことが決まったことだけである。最近教育に関して数回会合を開き,いくらか話合いをした程度である。材料としてはローマ字教育部会の材料を取り上げただけで,中間報告ということにはならない。これには専門的な知識と実際的な経験が必要であり,部会が作られればそれによって審議が進められ,そのとき中間報告がなされるべきではないか。

有 光

 ローマ字調査分科審議会全員の自由な話合いにより,だいたいの方向がわかった。部会が設置されしだい,本来のたてまえにもどって審議していきたい。原委員の御意見のとおり,他の部会の中間報告のように,ローマ字に関しても分科会としてこうしたところまで意見の一致をみたという今までの報告をするのが務とも思った。かまわないからやりなさいと言われればそれでいいし,他の御意見が出れば,部会でも特にそれに注意して審議したい。ただ,部会の審議の結果をまたなければ,中間報告をすることができないというのであれば,それもやむを得ないが,部会の審議が総会の空気と遊離しないで運べたらばという審議の進行についての望しょく気持ちから申し上げた次第である。

千 種

 総会の議題は部会の設置である。それに関連したもの,内容については,総会の議題にはならない。

舟 橋

 今までのお話を聞き,ローマ字運動ではないかという印象を受けた。審議会の審議はローマ字運動についての審議でなく,ローマ字教育に関することが問題であるべきだ.少なくとも成文のうえで,ローマ字運動ではないという点をはっきり認識しておきたい。このままでは紛らわしくていけない。審議のあり方から逸脱している。

 部会設置については,内容と切り離していただきたい。

土岐会長

 こういうような部会を総会が作ることを決めた。その部会で何をするのか理解しておいてもらいたいと思い,単にローマ字が重要であるから,総会としてはっきりさせたいと考えたのである。

千 種

 判決でいえば,部会設置が主文であり,そのほかが理由にあたる。

土岐会長

 ただいま4時5分,あと25分時間を延ばすことをおはかりしたい。(一同賛成)それから,部会を作ることはお認めいただけたと思う。わかち書き・ローマ字教育の両部会を作り,ローマ字教育部会では,今までの審議の経過を材料として審議したい。

 それは違う。低学年にまでという内容を認めるのは困る。

土岐会長

 同じだと思う。

 審議の経過を材料として審議するのは,内容まで拘束するのでないか。

土岐会長

 それでは,部会がそれを材料として取り上げるのはどうか。

 それは総会としては関知しない。

大 塚

 ローマ字調査分科審議会の中の部会になるのか。

土岐会長

 ローマ字調査分科審議会の中に部会を二つ作るのである。

小 林

 部会の委員はローマ字調査分科審議会の委員がなるのか。

土岐会長

 そうである。ローマ字調査分科審議会の結論は総会にかける。わかち書き委員会も部会にしたい。

 ここで,ローマ字教育部会の委員を次の14名のかたにお願いする。
有光,遠藤,大塚,北浜,木下,金田一,小林,佐野,照井,時枝,長沼,波多野,堀内,吉田

わかち書き部会は現在の小委員会の人になっていただく。
遠藤,大塚,金田一,小林,田口,中島,長沼,堀内,松坂

 時枝委員は,わかち書き部会はお引き受け願えなかったが,教育部会なら出ていただけると思う。

田 口

 わたくしは,わかち書きよりも教育部会のほうがいいが,定員の関係でもあるのか。

土岐会長

 定員はない。それでは,田口委員は教育とわかち書きの両方にはいっていただく。
 1 部会の設置,2 各部会長報告がすんだので,建議案の文面にもどる。保科委員長の御意見を伺いたい。

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