国語施策・日本語教育

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議事 標準語について

金田一(標準語部会長)

 標準語部会は,標準語についての調査審議を進めてきたが,その間,安藤・折口両委員がなくなられたこともあり,じゅうぶんな審議ができなかった。3月4日までに20回の部会を開き,その審議の結果到達した具体的事実をありのままに記録したのが「標準語のために」である。
 その第1部は,現在の東京語を素材的に取り上げて,その中に正しい形と,誤った,またはなまった形とを振り分けて,将来の標準語の姿への方向を明らかにしようと努力したものであり,第2部は,標準語としてのこれからの日本語がこうありたいと思う理想を,言語生活の各部面にわたって考えたものである。これはなお,ふじゅうぶんなものであるが,今後の審議にあたっての有力な資料と考えている。もし御賛同をえて印刷する場合には,多少の訂正を加え,あるいは,さしつかえある箇所を削ることを御了解おき願いたい。

小 林

 「標準語のために」の構想やアイディアはいいが,細かい点について疑問がある。

  1.  3ページ「五十音の発音」の項に,(簡略表記法による)とことわってあるが,それと「イ」列の表記法(kji,gji…)との関係はどうか。
  2.  4ページ,同表の「ヰ」「ヱ」の発音を〔i〕〔e〕としたのは説明不足ではないか。
  3.  4ページ,「母音〔ウ〕について」は,関西流の発音を標準とするのか。
  4.  5ページ,「連母音エイ」は,正字法として「ええ」か「えい」か。
  5.  6ページ,「母音の無声化(1)(2)」はこれを認めるのか,あるいは事実の報告にすぎないのか。
  6.  9ページ,「上一段活用」の中で「減じる,講じる‥‥」などは,上二段活用ではないか。
  7.  10ページ,「混合活用」の中で,「対する‥‥」などは上二段活用ではないか。また,「愛せよ」は,文語の命令法ではないか。なお,「諾する」は聞いたことがない。
  8.  12ページ,「いやけがさす」は,なまりと言いきれるか。
  9.  15ページ,「しけじけ,しげしげ」は,この報告ではじめて知ったが,こうした項目まで必要なのか。
  10.  16ページ,「じゅつ,じつ」はどちらを認めるか。
  11.  18ページ,「はえ」は〔ハエ〕と発音しなければならないのか。
  12.  20ページ,「ゆき方」は,自然の発音では〔イキカタ〕であるが,〔ユキカタ〕でなければならないのか。

 もっと細かい点については,質問を省略する。

土岐会長

 第2部についての質問はないか。

小 林

 とりたてて言うことはない。

金田一

 記述に不備な点はあるが,否定しない場合は認める意味である。

  1.  「五十音の発音」については「si=sji」とことわってある以上,もれのない表と認める。
  2.  「ヱ・ヲ」の発音は,五十音図について,地方の現場の先生に東京の発音を示したものである。
  3.  母音〔ウ〕は,東西で変っているので,なお,じゅうぶん考慮したい。
  4.  「えい」を〔エー〕に近く発音するというのは,東京の良識者の発音を認めたものである。
  5.  「母音の無声化」は,良識者がそう発音しているので,否定するわけにはいかない。これは,日本語の構造を複雑化したいと考えたものである。
  6. 7.活用については,小説などの用例から取ったものである。「愛せよ」は「愛せ」のほうがよい。
  7.  「いやけがさす」は,若い人があやまって発音することがあるので取り入れたが,さらに審議が必要である。
  8.  「しけじけ,しげしげ」の別は,わたくしの辞典にはある。その使い分けが,もし,無理であるとすれば,削ってもいい。
  9.  「はえ」は,良識者が〔ハイ〕といっているので,「ハイ」というのも認める。
  10.  「ゆき方」は,「いき方」が普通かもしれない。

田 口

 これは事実に基いて審議したもので,この程度のものは必要であると考えている。国語科の指導要領はよくできており,目的が書いてあるが,方法については述べていない。また,国語学習の目標は古典を読むことのほかに,一般の日常使用することばを進歩させることが必要で,その点からも,この報告は一歩前進であると考える。

土岐会長

 この報告については,いろいろ検討を要する問題もあろうが,今後,部会長を中心に審議して,ある時期に発表してはどうか。

服 部

 ここに学名は「ハエ」であると書いてあるが,学名はラテン語を用いることになっている。文部省教科書で「はい」としたのは,生物学界でこう決定しているということではなく,検定教科書では,「はえ」「はい」両方が使われている。

金田一

 学名ということは,正誤表に訂正してある。発音上では〔ハイ〕〔ハエ〕の両方を認めている。

土岐会長

 今後お気づきのことは,国語課に御連絡願いたい。

小 林

 これをこのままで発表するのか。

土岐会長

 外部には発表しない。

小 林

 「口語・文語を一致させることが望ましい」ということと,〔ハイ・ハエ〕のこと,〔エイ・エー〕のことなどの関係はどうか。

金田一

 一致させたいというのは理想で,現実とは違う。「はえ」と書いて〔ハイ〕と発音してもよい。

吉 田

 「しけじけ・しげしげ」など,知らない人が多いと思う。これなどを使い分けろというのは反対である。この報告をこのまま公表するのは不賛成であり,公表するなら,再検討の必要がある。

土岐会長

 このまま発表はしない。将来発表する機会があれば,疑問の点は,じゅうぶん審議する必要がある。

堀 内

 「はえ」「はい」のどちらを書いてもさしつかえない,発音は表記と必ずしも一致しなくてよいとなれば,われわれローマ字で音声教育をする立場からは実に困る。はっきり決めていただきたい。

土岐会長

 ローマ字との関連はやや別なことになる。これは外部には発表しない報告であることとして,この「標準語について」の審議は終ったことにする。

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