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議事 外来語の表記について
颯 田(術語部会長)
術語部会は昭和27年7月成立し,学術用語分科審議会から学術用語の表記について質問があり,表記部会と合同で審議のうえ,同年12月第17回総会で回答を決定した。その後は,表記部会と合同で,外来語表記の審議を続けて今日に至っている。
なお,この回答について,別紙学用分第7号「学術用語の表記について」によって,用例から「ダイアル」を削除してほしいとの依頼を受けたため,審議の結果,公然と「ダイヤル」を認めたこととはせずに,用例から除くことを決定した次第である。
保 科(表記部会長)
表記部会は,昭和27年10月以降,術語部会と合同で審議し,外来語表記の一般方針として,
- その表記が国民一般に行われやすいことをたてまえとする。
- その表記の社会における慣用の,濃い薄いを合わせ考える。
- 表記が二様にわたり,まだ固定しない語が多いため,それらの語については一つ一つについて審議する。
を多数意見に基いて決定した。この結果,19項の原則を得たが,外来語の性質上,慣用の久しく行われて表記が固定したものは例外として認め,この原則を一つ一つの語に適用する際の具体例として「外来語用例集」をつけた。
この原案が,御審議の結果,総会の承認を得れば,社会一般に普及するよう適当な処置をとられることを文部大臣に建議したいと考えている。
土岐会長
今の報告中,学用分第7号「学術用語の表記について」は,この取扱に御異議のあるかたは御発言願いたい。(発言なし)次に,学用分第9号「学術用語の制定につて」の依頼は,学術用語分科審議会運営規則に「(国語審議会との連絡)第10条 審査部会は,その成果について,国語審議会と連絡するものとする」とあり,こちらで検討するようになっているが,これについては適切な方法で検討して,学術用語分科審議会に返したいと考えている。これについて御異議があるか。(異議なし)では,学術用語分科審議会の依頼の取扱方については御承認を得たものと考える。では,術語表記部会の建議にうつる。
(建議案朗読)
小 林
細かい点について意見を述べる。
- 「外来語用例集」に原語の出自を示したらどうか。それについて英語・フランス語,英語からフランス語になるという説明の代りに,E,F,E→F等を付記してはどうか。
- 原語の複合したことばは,たとえば「オール・ウエーブ」のように,「・」(なかてん)を入れてはどうか。
- 「外来語を書くときに用いるかな,ならびに符号の表」の体裁を,「標準語のために」の「五十音の発音」のようにしてはどうか。
- 原則12の「シェ」「ジェ」は根本的には認めるのかどうか。外国語の音の中には,日本人が一般に発音することが不可能なもの,困難なもの,可能なものなど段階があり,「シェ」「ジェ」は可能なものに属すると考えられるのに,これを「セ」「ゼ」と決めることは考慮を要する。部会では少数意見で破れたが,この点はやはり反対である。
土岐会長
総会の席上で,少数意見を取り上げ,逐一審議するのか。
保 科
「・」については,現在,東京・京都というように同じ種類のことばをいくつか並べる場合に用いており,「アイス・キャンデー」と書いてよいかは相当に問題であると考える。次の部会に移して慎重に検討してもらいたい。外国語ふうの表記をとるか,国語ふうの表記をとるかについても,相当の混乱が予想されるので,次の部会に譲りたい。
土岐会長
こうした点を伏せて次の審議会に譲り,しかもこの趣旨を広く普及するとなると,建議とすることは困難であろう。原語の所属を事務的に書き込むのとは少し違うので,今までの御意見をどう取り扱ったらよいか。
小 林
「・」のことは「よい」か「悪い」で決まる。このままでは,入れないのが原則と受け取られる。
吉 田
まだ大きな問題を解決していないのだとすれば,建議は無理と考える。建議するとすれば,ここで解決しなければならない。
田 口
原則13の「ウィ」「ウェ」「ウォ」を「ウイ」「ウエ」「ウオ」と書くのは,これでは「ウ」と「オ」をはっきり発音しなければならないように考えられる。この点について,審議中異論があったことを申し上げるが,このまま発表してもさしつかえないかどうか。
大 住
外来語の日本語化したものをどう表わすかが問題で,原語の発音そのものをどう表わすかは当面の問題ではないと考える。
小 林
外来語とは,外来語の日本語化したものだとは簡単に割り切れない。日本語の現実の発音を表記するだけでも問題がある。たとえば,実際は「フェルト」か「フエルト」か,「フィルム」か「フイルム」か,また「フイルム」を既成事実として認めると,「フィルム」と書いたり,発音してはいけないのかなど問題がある。
颯 田
この問題は部会では何度となく議論したもので,今ここでくり返しても結論は出ないと考える。
土岐会長
建議案として認めていいかどうか。
小 林
無修正では困る。
土岐会長
修正するためには,さらに部会を設ける必要がある。
吉 田
部会から提出された建議案を一つ一つ取り出して議論するのは,総会の性質上なすべきことではない。
丸 野
吉田委員の発言に賛成する。
堀 内
建議するのは控えるべきだ。ローマ字で表記する場合もこれでは困る。ローマ字では「フイルム」とは書かない。
土岐会長
今の場合,外来語のかな書き表記とローマ字表記とを関係させて考えるべきではあるまい。
時 枝
大住委員の発言にもあったが,外来音を書き表わす表記か,そうでないかを,はっきりさせなければならない。「ジェ」と「ゼ」のどちらをとるかは規範の問題である。
保 科
発音が問題であるが,それによって表記が決まる。実際にはどちらが多く用いられているか判定に苦しむ場合が少なくない。「フェルト」「フエルト」などはこの例である。
吉 田
書き方によって発音が固定するのが従来の実情ではないか。建議には反対する。
松 坂
個々について議論はあろうが,教科書や新聞社などで,表記法がいろいろあるために困っているのが現状であるから,国語政策上,一応到達した成果を公表する責任がありはしないか。
堀 内
「ウィ」「ウェ」「ウォ」は認めていないように思われるが,これでいいのか。「フィルム」としてはいけないのか。
大 塚
「フイルム」は日本語として認めたもので,「フィルム」も認めたように記憶している。
土岐会長
御意見を伺っていると,このままで建議するのは困難であると思われるので,要望するというか,報告されたということにし,次の国語審議会でもう一度やってもらうことにしてはどうか。
金田一
このままで建議してもいいと思う。
颯 田
これを中間報告にとどめ,さらに検討したものを建議要望すればよい。
保 科
総会の意見として,そう決まればやむをえない。
小 林
新聞社その他で強い要望があるため,不完全ではあろうが,建議にしてほしい。
中 島
建議にしなくとも普及の方法をよく考えればいいと思う。材料としてはよくできていると考えられる。
吉 田
教科書の検定規準になるかどうか。
土岐会長
基準として取り上げるかどうかはわからない。
中 島
昔は「フィ」を「フイ」「ヒ」と書いた。それが慣用となって残っているが,現在の形で押えると,将来外来語がふえた場合に困ることが起りはしないか。一応現在のところでは,これでよいものと考える。
田 口
外来語の表記について原則をたてたが,「フィ」と「フイ」,「シェ」と「セ」など発音する際の難易はどうであるか。「ウイーク」「ウオーム」などは現在の語感意識について二重母音を取り入れているが,アナウンサーなどの実際にあたってみると,日本語の二つの読み方に混乱を起している。これが将来の語感意識に混濁をもたらすと考えられる。
以上について,部会で数回発言しておるが,常に少数意見として否決されているのは不満である。また,いつもくり返して申し上げていることだが,こうした事実を明らかにするためにも,もっと記録をとっていただきたい。
颯 田
これはアイディアの方向の相違で,どう日本語をリードしていくかと,実際の現象をどう見るのかの対立である。部会では後者が多数であった。
吉 田
まだ固定していない発音までも固定させようとすることは避けたい。その意味でこの案は承認しがたい。
土岐会長
建議はしないとして,ここでさしつかえないものと認めることさえ,困難であるのか。
小 林
標準語部会では「エイ」と書いて「エー」と発音することを認めている。字のとおり発音するのではない。
金田一
母音脱落にしても,日本語の発音を複雑にしたい気持ちがある。
小 林
リードではなく,これからの方向をつけておきたい。今までは「ヒ」と表記していても,これからは「フィ」であるようにしたいと考える。
中 島
現実に使われているものをとったという態度で,一応到達した成果を発表してはどうか。決定の形でなく中間発表とし,意見を求めるほうがいいと考える。
土岐会長
では,建議案にすることは無理だと考えていいか。(異議なし)部会で到達した成果の報告を受け,総会がそれを聞いたということにする。
時 枝
外来語表記の一つのよりどころを提供したと考えていいのではないか。「基準」は強すぎる。
中 島
「要望」は強い。
土岐会長
「望ましい」ではどうか。
宮沢副会長
中間報告であると考えれば,実質的には総会自身態度を示さなくともよい。
佐 藤
将来のことは切り離して考え,現在行われている外来語の各種の表記について,基準となる書き方を示すことは必要だと考える。
土岐会長
報告文の原案については,書きなおして御意見を伺いたい。
(「外来語の表記について」朗読)
御異議がありますか。(異議なし)では,この報告の審議は終ったこととする。