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町村の合併によって新しくつけられる地名の書き表わし方について(建議)
この決定に基いて,「町村の合併によって新しくつけられる地名の書き表わし方について」(建議案)を作って,第19回議会(昭和28.10.8)に提出した結果,可決し,これを内閣総理大臣に建議した。
建議は次のとおりである。
〔文調国第328号〕
昭和28年10月8日
内閣総理大臣 吉田 茂 殿
国語審議会会長
土岐 善麿
町村の合併によって新しくつけられる
地名の書き表わし方について(建議)
政府では,こんど全国の市町村の合併を促進されることになったと承っています。
ついては,この機会に,別紙の趣旨をお含みのうえ,合併後の市町村名の書き表わし方が,できるだけわかりやすく,読みちがいの起らないようなものに決定されるよう,適当な処置をとられることを希望いたします。
地名の漢字については,国民生活一般に影響するところが大きいので,当用漢字表選定の際にもいちおう問題となりましたが,法規その他の関係上,その解決は後日に見送られることになって今日に至りました。しかし,すでに当時から7年を経過した現在,当用漢字表制定の趣旨も広く一般に理解されるようになってきました。ちょうどこのとき町村の合併が行われるということは,地名の文字をわかりやすいものにするうえに,またとないよい機会であると思います。よって,ここに建議いたします。
〔別紙〕
- むずかしい漢字が用いられている例
長崎県の豆酘(ツツ)村 , 鹿児島県の頴娃(エイ)町 , 宮崎県の中埣(ナカゾネ)村 , 石川県の羽咋(ハクイ)村 , 山梨県の棡原(ユズリハラ)村 , 岡山県の呰部(アザイ)町 - 文字はやさしくても,読み方のむずかしい例
和歌山県の学文路(カムロ)村 , 愛知県の挙母(コロモ)市 , 京都府の間人(ダイザ)町 , 茨城県の行方(ナメカタ)村
ことに北海道には,この種の地名が多い。
神戸は,
兵庫県ではコウベ , 三重県ではカンベ , 鳥取県ではカンド , 岡山県ではジンゴ , 東京都ではカノト
そのほか,コウトとかゴウドと読む地名が各地にある。 - 地名の書き方を平易にした例
長野県「茅野町」は「ちの町」とかな書きした。東京都では区を合併した際「飛鳥区」「春日区」などの案を退けて「北区」「文京区」とした。 - 教育上
むずかしい漢字,むずかしい読み方の地名は,むかしから学習上非常な負担となっていたが,今後も教育上大きな不便を感ずる。 - 通信・ラジオ・交通・事務上
地名のむずかしさは,通信・交通・事務上に手違いを起させる。ラジオなどで地名を聞いても,理解することができないことがある。文化の発達に伴い,この問題の解決の必要が切実に感じられる。 - 印刷上
地名にむずかしい漢字があるために,使用度の少ない漢字を数多く備えなければならないし,活字を拾うためにも手数がかかり,印刷能率の向上に支障をきたしている。 - むすび
以上のようなわけで,全国の地名の中には,書き表し方をできるだけ早く改善する必要のあるものが多い。とりあえず,今度の合併によって新しく決定される市町村名について,この点につきじゅうぶんの考慮を払われることが適当であると考える。
〔付記〕
この建議は,その後総理府から,担当官庁である地方自治庁に回付された。地方自治庁では,町村合併推進本部に委員として参加している各委員に,建議文の写を配布し,また,第2回の委員会の席上では,文部省初等中等教育局長から趣旨の説明があった。また,昭和28年10月30日には,都道府県の地方課長会議が自治庁で開かれ,その際,自治庁側から建議文の写について説明があった。新聞や雑誌でも,国語審議会の建議以来,しばしば地名をやさしくする問題が取り上げられ,建議の趣旨は,順次各方面の理解を得,新しい市町村名を決めるにあたってもしだいに考慮されてきているようである。
(『国語審議会報告書―付 議事要録―』<昭和29年9月>)