国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第4期国語審議会 > 第33回総会 > 議事

議事 懇談

藤 井

 国語の表記上いろいろ問題があるが,送りがなの表記の問題が国語を混乱させる一つになっているものと思われる。ことし,読売新聞で日曜クイズを始めてから各新聞社とも取り上げているが,これをやるたびに読者から投書がある。その内容は送りがなの不統一を問題にしたものが多く,その処理に困っている。方式はいろいろあり,同一人の書くものの中でも統一されていない場合もある。方式があるのかないのか,わからない人も多いので,その方式を決めるよう取り上げていただきたい。

土岐会長

 今の問題については,国語審議会の7月5日(第3期の終わり)の総会で,正書法についてまとめて報告してある。かなづかいが中心ではあるが,当用漢字を含めて表記の基準が必要だと考えたからである。送りがなも正書法の中で当然考えられなければならないとすれば,具体的に細かにどう決めてゆくかということは第4期の審議会で考えるべきことと思われる。
 文部省では調べてまとめたものはあったが,社会的に基準として使われていないので,今の御発言になったものと思われる。

実 藤

 現代かなづかいが制定されてから相当の年月がたつが,まだ実行されていない方面がある。特に文壇では抵抗が多く,実行されない人が多い。文学作品は影響するところが大きいため,学生も混乱している。
 審議会としては,文学者に御協力願うようにはどうしたらよいか考えるべきであり,できることなら,うちそろってやりたいものである。

土岐会長

 現代かなづかいの文芸方面の適用についてもっと積極的であれとの意見である。文芸家協会の当用漢字,現代かなづかいについてのアンケートの結果をみると,この数年来情勢が変わってきたように思われる。なお,よい方法があれば考えたい。

舟 橋

 文芸家協会でアンケートをとった結果,全部というわけではないが,多くの会員は数年前に比べると国語審議会に協力する形をとるようになったと思われる。わたくしはすでに6年ばかり委員になっていて,できるだけ協力できるようにと思っているが,時間もないし,なかなか思うようにならない。しかし,いつの間にか比較的熱心になってしまった。こんど推薦委員になって文士の中でいちばん反対しているのは芸術院会員だから,その中からひとりでもはいってもらいたいと考えた。今のところ作家ではわたくし,芹沢,内村君が委員になっているが,そうした人よりも強力に原文のままを主張しているかたがたを推薦したいと思ったが,遺憾ながら先方からことわられたとのことである。芸術院会員となると相当有力なものだから,そうしたかたがたが皆さんと反対では困るのではないかと考えている。ついでに新しい委員もいられるので,国語審議会の内部のことについて申し上げると,この中ではわたくしが最右翼であり,松坂委員が最左翼ということになっている。この左右が激しく論争するこの二つの中間に土岐会長がいる。会長に4選された土岐委員はなかなかりっぱである。
 ローマ字については,もっとも過激な左翼にいながら,この会では中立派である。あと2年ぐらいたって,はじめてだれが中立かわかってくるだろう。中立派は政治的になる傾向がある。これは正書法の場合でもそうであり,「ツ」の濁音の場合も政治的に両方をとってから,基本的なものでなく政治的なものを突っ込んで処理されたもののように思われる。次に副会長に有光委員が金田一委員に代わられた。これはこの会の新しい表情である。有光委員は官僚出身で考え方が公平である。そのため,土岐・有光両委員を会長・副会長とする審議会は非常に中立的な感じになる。
 ただ,わたくしとしては,金田一委員に出ていただいてぶつかって議論するのは,はりあいがあっておもしろかった。
 以上が裏で描いたというか,平たく書いた国語審議会の現状である。特に新しい委員のかたに現状を理解していただきたいと思い,申し上げた。松坂委員の議論ばかりでなく,あちこちからいい意見が出て時間がむだにならないようにしたいものである。

土岐会長

 金田一委員の本日の欠席は学士院の会議があるためで,残念ながら出られない旨連絡があった。念のため一言申しておく。

塩 田

 舟橋委員の話によると,何でもしゃべってよいように思う。
 実藤委員の意見は純粋で筋が通っている。文壇の一部では,現に相当の人が現代かなづかいを使っていない。これは歴史的かなづかいがよいというのでなく,使わずにはいられないからだろうと思われる。表記法は使っている人にやめろといったり,使っていない人に使えということはどうかと思う。地方に行くと当用漢字のことをいろいろ聞かれる。模擬試験などでいわゆる正字で書いた場合どうするか,当用漢字で書かなければ×にすべきかどうか,あるいはどっちでもよいのかお答えいただきたい。

土岐会長

 国語審議会で字体を決めたのは,このほうが便利だと考えたからで,教育の方面での判定はそのほうでやっている。こちらでは新字体で全部やってゆくのがよかろうと考えるが,それを教育の面に強要する立場にはない。

塩 田

 どちらかに決めなければならないように思う。
 こことは関係のないことかもしれないが,高等学校の教科書で明治時代の口語文章を原作者の書いた原文をそのままのせると検定に通らない,現代かなづかいに直さないといけないと聞いている。この点について国語審議会としてはどう考えているかしらないが,表記の問題でもあり,文学の歴史的な扱い方の問題だと考えている。

土岐会長

 検定は教科書課が検定基準によって実施している。教科書課とは国語課から話し合いをしてもらいたいと思う。

塩 田

 わたくしは舟橋委員よりもっと右翼かもしれないから。

舟 橋

 教科書の問題がでたから発言する。当用漢字等を決めるとき,文士がもし守らなかったらどうする,つかまる危険があるのかと聞きただしたとき,いやとんでもない,そんなことはないというお答えをいただいて実は安心していた。しかし,逆に検定のほうから取り締まりがある。教科書のほうで逆にやってくるということを含んでお考えおきいただきたい。
 法令となって出てしまえば,社会に波及してたとえば戸籍・命名といったところにいって拘束をうける。新聞社では小説の中で,きょうの1回分には当用漢字外の字が五つあった,あしたは四つにしてくれといってくる。こうした点も今後の審議には考えていただきたい。ここでは純粋にやればいいんだという空気があったので申し上げた。

有光副会長

 舟橋委員の発言に関して御参考になることもあろうかと思い申し上げる。
 国語審議会はもともと執行したり強制したりするものではなく,よかろうと思うことを進言する役割を持っているのであるが,実際の面では圧力をかけ強制するというような声はずいぶんあちこちにあり,現に今,舟橋委員からの御発言もそうであった。たとえば,当用漢字を決めたときの審議会の考え方は,漢字を減らすのも日常の用を足すためにはいいことであり,固有名詞・学術専門用語はこれの適用外だと考えた。固有名詞,人名については,これからのこどもの名まえはやさしくしてはどうか,せめて当用漢字の範囲内にしてはどうかという意見を法務省方面が取り上げ,国会の審議を経て戸籍法の改正となったわけである。
 当用漢字を決めるときに,固有名詞を縛ることは考えていなかったので,その後世論にも論があって,この点はいかに進歩的な立法にしようとしてもこのままでは無理なので,「彦」等92字を余分に選定し,漢字の制限のわくを緩和し,人名用の漢字を定めた。その結果,こどもの名まえは,これ以外の字は区役所で受け付けないということとなった。
 専門用語は別だといっていたが,工学,理学等主として自然科学のほうからの必要に基づいて人文方面もいっしょになって学術用語のいくつもある言い方を一つにして用語を簡単化しようという動きがでてきた。その用語を簡単化しようとして,学会方面で協議を続けられたが,それぞれの分野の必要性をいれると際限がない。たとえば,工業方面が当用漢字の範囲内で新しく決めていこうと思っても,「凸」「凹」などはどうしてもなくては困る,この字は新しく当用漢字に加えてほしいというようなことになる。しかし,学界では,ともかくも用語を統一したい。また,その基準を当用漢字の範囲内にとどめてということにして努力されている。
 審議会としては,そこまでは考えていなかったのであるが,舟橋委員の御指摘のように,世間では基準として考えられてきているのが現状であるから,じゅうぶん注意して今後の審議をしていきたい。
 日常の新聞紙上に出る用字・用語については,読者が一般大衆であること,活字その他の便を考えて,新聞社としてこの線でいこうと初めから協力的であった。個々の折衝の場合には抵抗が感じられることがあったとしても,現在はだいぶ落ち着いてきたものと思う。
 教科書の扱いについては,本来古文は古文として義務教育以上の分野では古いかなづかい,そのままの用字用語として教えることになっている。教科書の検定基準という場合の取り扱いや考え方については,聞かせてもらえば参考になると思う。この点に関して,国語課と教科書課との間に話し合いが行なわれ,意思の疎通ができると,今後とも多くの点についてよい結果があると思う。

土岐会長

 なお,御発言があることと思うが,12月19日もういちどごつごうをつけていただき,そのおり重ねて審議するとして,きょうはこれで閉会とする。

トップページへ

ページトップへ