国語施策・日本語教育

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議事 審議

土岐会長

 では,議事を続ける。さきの問題は原理的には通るというのなら,このままにしておいてはどうか。あるいは(a)と(b)と分けないで一つの文章にしてはどうか。

松 坂

 どちらでも同じことと思う。

大塚分科会長

 そこは,結びの研究題目に入れていただきたいと思っていた。

土岐会長

 今の説明のようにして,原案どおりでいいか。

岩 下

 問題は結びのところまで含めててであるか。

土岐会長

 問題はここだけについてであるが,報告の「そのまま」ということを,機械をそのまま早く使えるということではどうか。

岩 永

 インドの情勢を見ると,インドでは英語でやってきたが,英語教育をやめヒンズー語,ベンガル語にかえたところ,思想内容を表わすことができないため学力が低下したということである。日本の場合をみると,日本語には漢字をもとにしてできた語がある。ローマ字にするとことばが制限されるが,近ごろの新聞などを見ると,原子力や人工衛星関係のものなど新しいことばが出てくる。それらの語は漢字の意味内容をもとにしている。新語を作る場合,英語やドイツ語などは原語をそのまま使ってもよいというような指針があってよいのではないか。

大塚分科会長

 「素粒子」とは「原子核」とか新しいことばという場合,物理のほうでは漢字を念頭においている。「粒子」という語はもともとあったもので,それに「素」の「element」という意味と「ソ」という音を認め,合わせて使っている。また「メゾン」などは訳さないで使っていることもある。「中間子」といってみても,説明しなくてはわからない。どちらにしても説明が必要である。漢字にしろ英語にしろ内容を表現できればいいのではないかと思う。

岩 永

 新聞社や通信社では,ローマ字で記事をやりとりしているワールドフィールドだけならさばけるが,日本語全体にわたって考えると,通信社の仕事などはわりにやりやすいけれども,思想内容の点についても並行して考えてゆくべきだと思う。

有光副会長

 学術用語分科審議会では,新しいことばに対して適当な訳語を作ろうという場合,もとからあることばはそれをもとにして作っていたが,現在は翻訳しないで原語をそのまま使うことも多くある。漢字の素養のある人にはわかるが,他の者にはわからないので,たとえば,「函数」を「関数」にしようというような傾向もある。一般の学術用語でも同じような問題に当面している。いちいち日本語に訳すことは困難であるから,原語をそのまま用いることがふえてきている。

土岐会長

 将来の造語の問題については,ローマ字論者の間でもいろいろな意見がある。今の報告の中に漢字とローマ字との問題を入れたらどうか。

岩 永

 それがあればいいが,たいへんなことだろう。

大塚分科会長

 ラジオなど話しことばで伝えることばには限界がある。話しことばでわかることばは音素文字でわかるが,話しことばでわからないものは音素文字で書いてもわからない。現代の社会では話すだけで納得できるようでなくてはいけない。

岩 永

 「音素」など漢字でならわかるが,漢字と縁が切れたらどう表わすか。将来漢字を使わないで出る場合の解決策を考えておく必要がある。

稲 富

 それは大問題である。明治以降外国語を訳すのに漢字の意味をあてはめたので,その語ができた。漢字は語源的に意味が表われている。学術用語もでたらめに作られているのではない。漢字がなくなってローマ字だけでということになると,外国のことばでは,ラテン語やギリシア語からつけるほかはないだろう。それは漢字で生活してきたものにとって相当な時間を要することである。

高 木

 報告には,原理と実験の結果はこうだということを加えたうえで,結びをどうするかということが問題になる。このままでは,すぐに実践に移してよいととられることになりはしないか。さらに実験を加えて正しい方法を出すべきものではないか。これだけではどうも納得がいかない。学術用語とちがって,日常語としてはうるおいということも必要ではないか。また,文学の面では感情生活を表わすことなど,実験の面を加えるということを条件としてならいいが。それでいろいろとそういう面も別にあるが,ここではふれないというような考慮が必要である。

成 瀬

 この報告は,機械を使った場合こうした結果が出た,機械科学についてローマ字が世界的性格をもっているという範囲内でならけっこうである。さきほどの岩永委員の意見のようなことにふれるとたいへんな問題である。分科会としては,それらにふれないということでなら了解する。

土岐会長

 もう少しほかの意見との関連を考えてみて結論にもっていってはどうか。

舟 橋

 これは単なる報告ではなく,決議,承認するということであるか。

土岐会長

 この報告は分科会の意見がまとめられたもので,総会で承認されれば総会の意見となる。

舟 橋

 そういうことであればさきほどの正書法部会の報告のほうにも問題があるのではないか。あのままで通ってしまったのではよくない点がある。部会で考えていることを総会に出して,総会で調整していく必要がありはしないか。このまま承認したのでは問題がある。さきの二つの部分を中間報告だけに終わり,ローマ字分科会の報告だけを承認するというのはどうか。報告したうえで調整するならいいが,それなら正書法部会,話しことば部会の報告も同じように取り扱ってほしい。

土岐会長

 総会として調整修正を施すことは当然ありうる。これまでの発言によって,造語の問題,文化一般のことなどを考えたうえでいっそう妥当な,完全に近いものとなるわけであろう。

舟 橋

 いろいろの問題は,関係方面でもっと考えるという段階ではないか。学校教育の時間の配当などまでに立ち入ることはゆきすぎであると思う。

土岐会長

 国語審議会では,ローマ字教育についてこういうふうに考えたから,学校教育での時間配当,検定基準などについても国語審議会の考えを入れてもらいたいということである。そうでないと国語政策・国語問題のうえからじゅうぶんな処置がとられないと思う。
 現在はローマ字は必修でないが,必修にする場合時間・程度・分量をどうするかということをじゅうぶん考えるべきだということを出しておく必要があるのではないか。

舟 橋

 必修にすることを前提としてそういうことをするのであるか。現在はまだそこまでいっていないのではないか。

有光副会長

 これは必ずしも時間や分量をふやせといっているのではない。今の教科書は活用されていないから,もっと能率のあがる教科書が必要である。現在は,義務教育の中で選択科目になっているが,ローマ字は社会的に必要なものであるといいながら,実際はローマ字教育が思ったほどに行なわれていない。あらゆる点で将来のこどもにもう少しローマ字に親しめるようにしたい。いいことをやれといっても準備なしにやることは困るから,もっと効果があがるような方法をとることが必要である。ローマ字の将来性を考えながら,漢字かなまじりの教育もやる。ローマ字をやることから漢字の習得またことばの習得にプラスになることは認められている。一方ではローマ字教育はやめろという声もあるが,いい面が多い。実効があればもっと能率のあがる方法を検討すればいいだろう。たとえば,算数などの教科書をローマ字で出すとか,日記や手紙などに応用するとかいうことが考えられる。ローマ字を使う人がふえると,漢字に対することばも,もっと別の面から出てくるかもしれない。それにもう少しローマ字に親しみをもたすことが必要である。今までやっていることに対してもっと力を入れることが必要であると思う。

舟 橋

 今の話はあまりにも一般的で客観性がない。副会長個人のローマ字論である。

有光副会長

 ローマ字実験学級の調査による報告である。

舟 橋

 それは特殊なモデルケースとしてならいいが,それをもって既成事実としてやられたのでは困る。それは少し宣伝的に聞こえる。

藤 江

 報告の,社会の情勢……というところが宣伝に聞こえる。単にこうやっているということを出せばいいのではないか。報告の結びを見ると単なる報告ではなく,審議会の要望と考えられる。

大塚分科会長

 報告は,前のほうでは分科審議会でやったことについて事実を述べた。
 社会の情勢……というところは,なるべく客観的にと考えた。現在のローマ字教育の状況は実際には効果が上がっていない。やるからにはこうしたらいいのではないかという意味でこう上げたのである。国語審議会は政策を立てるところであるから,現在は少なくともこういう時期にきているのではないかと考えたところで,こういう結びを出したのである。

舟 橋

 これは一応さしもどして,別に委員会を作ってもう一度やり直してほしい。このまま承認することは無理である。

土岐会長

 問題のあったところの考えを取り入れた形で,この報告を受けることにしてはどうか。

岩 下

 報告の最後のところが単なる報告ではなく,国語審議会の要望ととれる。これをこのまま認めると,ローマ字教育を必修とすべきであるという考えを認めたようにとれる。このままでは問題である。

大塚分科会長

 少なくともそこまでは考えていない。

土岐会長

 岩下委員の意見は,このままでは承認できないが,表現を変えればいいかもしれないということである。

久 松

 中間報告は,世間に発表するのではないのだろう。

土岐会長

 総会は公開を原則とするから,この報告が世間に知れることはありうる。これまでの発言を考慮に入れて,分科会が今後の審議をつづけるということにはどうか。

高 木

 中間報告として,そういう処置をとったほうがいいだろう。

大塚分科会長

 分科会としては,総会に対して出した報告であるからそれでいい。

土岐会長

 では,もう一度分科会でよく考えてもらうこととする。なお,さきほどの正書法部会,話しことば部会の報告に対して質問なり意見があれば述べていただきたい。

舟 橋

 正書法部会の報告は,単に報告として承ったという程度でいいと思う。

土岐会長

 今までのやり方,内容についての意見は別として,正書法部会は今のままで審議をつづけていってもらうこととする。

颯 田(部会長)

 さきほど話しことば部会の報告で申し上げたように,あらゆる科目の担当教師が正しい日本語を話すことができるような処置をとることについて考えてほしい。現在,中央教育審議会で教員免許法などについて検討しているということであるから,今がいちばんいい機会と思う。このさい,国語審議会から,建議でも申し入れでも形はなんでもいいから,すべての科目の先生に正しい日本語を話すことを教員の資格の条件の一つに加えてもらうようにしたいことをおはかりする。

土岐会長

 ただ今のことについて,申し入れか建議かなんらかの形で出すことについておはかりする。

久 松

 賛成である。

土岐会長

 では,どういう形で出すか。事務当局からは連絡の形がよいだろうということである。

池 田

 どういう形で出してもいいが,せっかく出しても聞きおく程度にされては困る。出す以上は最も効果のある方法をとってほしい。

岩 下

 教員免許法の中に,そういうことを入れるのであるか。

岩 永

 そういうことに関心をもてというよりもっと強い要求であるか。

颯 田(部会長)

 もう少し強い。前に出した建議「話しことばの改善について」関連している。

土岐会長

 免許法のことまではいえないだろうが,国語の重要性から,教員はそのようにじゅうぶん養成されなければならないということを要請するのだろう。

颯 田(部会長)

 それよりも少し強い条件にしたい。

吉 田

 どの程度までということをどこで決めるのか。標準をはっきり示すことができるか。

颯 田(部会長)

 どの程度ということは実際むずかしい。

池 田

 むしろ逆ではないか。そういうことに決まれば,標準もはっきり出てくるだろう。

颯 田(部会長)

 前の建議に対して,具体的な方法がとられなかった。話しことば部会で努力して審議して出したのに,われわれの努力が報いられなかった。

藤 江

現在でも,国語教育の中に,標準語が話せるように養成することがはいっているのではないか。

颯 田(部会長)

 そういうことは熱心にやっているところと,閑却しているところがある。ことばについては野放しになっているところが多い。全部の先生がことばについて注意をむけることをやってくれればたいへんいい。

土岐会長

 そういうことを免許法にまでもっていくのは深入りすぎはしないか。実際問題としてじゅうぶん考えてもらいたいと連絡してはどうか。
それならば反対する理由はどこにもないだろう。連絡ということになれば,まず文案を作ったうえで,具体的な方法について相談したい。

颯 田(部会長)

 反対する理由がないだけに,聞きおく程度に終わる懸念がある。何かもっと強い要素をもったものにしたい。

土岐会長

 それは文案にもたせることにすればいい。部会で文案を作ることをお願いする。なお,なるべく近い時期にもう一度総会を開きたいと思う。
 きょうはこれで閉会とする。長い時間ありがとうございました。

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