国語施策・日本語教育

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2. 固有名詞の書き方の問題 国内の地名・人名について1

国内の地名・人名について

 これについての意見は,次の二つの傾向に分かれた。


[1] 地名や人名の漢字に当用漢字表以外のものがあったり,当用漢字でもその読み方がわからないものが多いために,事務能率が非常に妨げられている。「公用文作成の要領」には,地名・人名をかなで書いてもよいということになっているが,役所でもなかなか実行されない。民間では,いっそう理解されないために,かなで書いたものを無効だといって受け付けない向きもある。このようなことがないように,かな書きでもよいのだということを広く知らせるようにする必要がある。また,地名をかな書きにするときには,こう書くのだというような方式を決めて示すことも望ましい。「じ・ぢ」「ず・づ」の書き分けの問題なども,何とか一貫できないものだろうか。「かなで書くことにする。」と決めるのでは,みんなかなになってしまうと心配する向きがあるから,「かなで書いたほうがよい。」という程度のことを決めるだけでもよいと思う。

[2] 漢字が不便だというが,それは,新聞や印刷関係が不便だというだけであって,読者が不便だということではない。固有名詞の漢字のうち,使用度の高いものを準当用漢字とするのならばいいが,それをかなで書けという方向には賛成できない。全国の村とか字とかの名の正しい読み方を,すべての国民がいちいち覚える必要はない。また,読めないから書けないからといっても,だからすぐに漢字を止めてしまえという議論にばかりなるとは限らない。漢字をもっとしっかり教えようという考え方のできるわけである。
また,表記をやさしくすることが,そのまま能率化にはならない。手紙のあて名を国民がみんなかなで書くようになったら,郵政省はこまるのではないか。かなだけで書いたものは読みにくいし,世間の慣習にも反する。それぞれの分野で関係のものをかなやローマ字で書くことは自由であるから反対しない。しかし,内閣訓令などで全体を縛ったり,積極的にかな書きを奨励することには賛成できない。教科書に出てくる地名・人名なども,かなで書いたほうがよいとか,かな書きでなければ検定が通らなくなるというのでは困る。むずかしいものには,ふりがなをつけたらよい。かなで書いてもいいというところまでなら妥協できるが,かなで書いたほうがいいとはいえない。」


 以上のような趣旨の議論が,種々の観点からかわされたのち,地名・人名の書き方については,けっきょく,「さしつかえのない限り,かなで書いてもよい。」という「公用文作成の要領」の規定を公用文以外にも適用してもよいという見解を部会としてとることが承認された。
 また,議論の混乱を避けるために,審議の範囲をいちおう日本の地名・人名に限定しようという了解もこの間にできた。
 このようにして,審議の目標はしぼられてきたが,以上の了解は,形式的には「公用文作成の要領」の規定以上に少しも出てこない。したがって,実質的な前進を考えるためには,規定の趣旨が広く知られるようにする必要があるから,そのことを適当な文章で表現するのがよいという意見が出た。しかし,それを行なうためには,実際に地名がどう書かれているかを研究したうえでなければならないということになった。そこで,「公用文作成の要領」の内容,国語審議会が昭和28年に建議した「町村の合併によって新しくつけられる地名の書き表し方について」の建議文の内容や建議後の当局の処置,それから初等中等教育局でとっている社会科での「地名の呼び方と書き方」に関する方針などについて研究した。また,全国の地名の書き方の実例を種々の資料に基づいて詳細に検討した。

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