国語施策・日本語教育

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2. 固有名詞の書き方の問題 国内の地名・人名について3

 かな書きにしてもよい範囲については,「さしつかえや支障は,長い間かかって解決したい。かなでもいいという結論を発表するだけでいいのではないか。」という意見があった。これに対して,「原則として,かな書きのほうがわかりやすいとしても,そのことから,すぐにかな書きのほうがいいということにはならない。人によって了解に食い違いが起こるのは問題だから,かな書きにしてもいい範囲,かながきにしてはさしつかえる範囲をはっきりさせなければならない。」という反論があった。しかし,「さしつかえる場,さしつかえない場を具体的にいちいち示すことは事実上不可能であるから,けっきょくは,個人個人のそれぞれの場にあたっての判断にまかせるよりほかないのではないか。」という考えに落ち着いた。
 次に,かな書きするときの一般的な方式のうち,基準とすべきかなについては,「かたかなかひらがなの一方だけを基準とするのは問題である。」「機械はかたかながおもであるが,これは地の文もかたかなである。しかし,筆で書く場合もあり,各人の好みもあるので,決めないほうがよい。」「かたかなのほうが合理的であるから,将来大勢は,かたかなの方向になると思う。」というような意見がいろいろ出た。しかし,けっきょく,一般的な意見としては,特に一方を望ましいとしないで,「一般的に文章はひらがなで書かれている。そこに地名・人名をかなで書く場合には,かたかなで書くほうが区別をつけやすいと思われる。」というところに落ち着いた。
 かなづかいについては,ジ・ヂ・ズ・ヅの書き分けに関して,「現代かなづかいの連濁の規定を地名にあてはめるのは妥当でない。」という主張と,「地名だからといって特に連濁を認めないのは不穏当である。」という意見の対立があった。前者の理由とするところは,「地名の漢字は,本来あて字が多く,同じ呼び方の地名が,東・吾嬬・吾妻などとなるが,これを,かな書きにするときに,東はアズマ,吾嬬はアヅマとするようなことは意味のないことである。地名は本来1語なのだから,連濁はないと考えるべきである。」というのである。後者の考え方は,「初めはあて字であったかもしれないが,長い間それぞれ意味のある漢字をあてて書いてきた伝統も忘れてはなるまい。語源はどうあろうとも,舞鶴には舞うツルを考え,沼津のズはツ(津)の意味があるというように考えて,マイヅル・ヌマヅとするほうが,マイズル・ヌマズとするよりは実際的ではないか。」というのである。しかし,「現代かなづかい」の規定そものもからは,舞鶴・沼津・吾妻などの場合を2語の連合によって生じた「ぢ・づ」として扱うべきかどうかについての決め手は発見することができない。だから,ズで書くかヅで書くかは,けっきょくは,それぞれの人の考え方によって決まることである。しかも,「公用文作成の要領」には,「地名をかな書きにするときは現代かなづかいを基準とする。」とあるから,もし,地名の場合に2語の連合によって生じた「ぢ・づ」は「ぢ・づ」と書くという規定を適用しないと決めるとすれば,ここで特別な処置を考えなければならないわけである。そこで,これらの事情を考慮に入れて討議を進めた結果,個人的にはどう書こうとも,一般的にはこれまでのやり方を改めるまでもないということになり,かなづかいに関するその他の問題も含めて,「地名・人名も,やはり現代かなづかいによることをたてまえとすべきであろう。」という結論に落ち着いた。
 その他の基準については,いちおういろいろの意見が出たが,実際問題としては,かな書きがもっと多くなってから改めて考えればよく,今決める必要はあるまいということになった。
 なお,このほかに,結論のまとめ方について,次のような提案があった。
 「当用漢字表を決める際に,固有名詞の問題は後日別に考えることとして除いた。そのために,1,850字では固有名詞が,まかないきれない。それを補うために,人名用漢字を決めたが,地名についてはこれまでふれていない。当用漢字補正資料なども,当用漢字表をよりよいものにしようとして検討した結果であった。今度の審議もこの意味から固有名詞の漢字の処理の問題として当然しなければならなかったことともいえる。そのことを説明するのはどうか。」
 しかし,これについては,次のような反対論があった。「そのような説明はいらない。なぜかと言うと,今度の審議は,そのような当用漢字表制定に続く仕事という前提で始めたのではない。わたくしどもは,むずかしい漢字はやめて,かなで書くようにするのだなどということは考えてもいない。これは,単に,漢字ではわかりにくいものがあるから,実務上の不便を除く便宜の処置と了解してやってきたのである。もし,今の話のようなことなら,改めて審議しなおさなければならないのではないか。」
 その結果,「当用漢字表は,固有名詞に使う漢字の問題をはずして考えてきた。」という説明は,報告には加えないこととなった。
 以上にように,「地名・人名をかなで書いて通るのだという見解を積極的に示す必要がある。」という立場と,「認めるだけであるから,強い基準を打ち出すことには賛成できない。」という二つの考え方が,最後まで対立したのである。そして,この両方の意見をともに含む部会全体の結論として,総会に報告されてものが下記である。

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