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語形の「ゆれ」の問題 漢字表記の「ゆれ」について(報告)1

第1部 漢字表記の「ゆれ」について



 漢字表記のゆれを整理して,その標準的なものを選ぶうえで考えるべき事がらをあげてみれば,まず原則的には,いわゆる「正しい」とされている,あるいは一般的に行なわれていることが尊重されるべきであろう。しかしながら,それだけで断定するのは適切でない場合もある。すなわち,漢字の意味がわかりやすいとか,字画が少ないとか,熟語構成の機能が大きいとか,かな書きにするほうがよいとかいうような観点からも考えられなければならない。
 これらのほかにも,なるべくなら教育漢字(当用漢字別表の漢字)であること,問題になっている漢字を使う語群の中の統一,同訓異字の整理なども,考えのうちに入れるべきであろう。
 以下,具体的な語例について考えてみる。



 「専門」と「専問」――本来は「専門」が正しいのであるが,一般の人にはこの場合の「門」の意味がはっきりしないために,「学問」の「問」などと混合して書かれているのか,あるいは字形が似ているためにあやまって書かれるのか,しばしば「専問」という用例を見かける。今日のところ,これは誤りとすべきである。したがって,この場合はゆれの問題というよりは,むしろ正誤の問題である。このように,国語の漢字表記には,他の語と混同して誤りをおかしたり,あるいは字形が似ているために,ついあやまって書いたりすることが多い。
 次に掲げる語なども,かっこの中のように書かれることがあるが,これらは今日ではまだ誤りとみなすべきであろう。

委 譲(依 譲)   会 心(快 心)
架 空(仮 空)   荷 担(加 担)
疑 似(擬 似)   決 着(結 着)
更 迭(交 迭)   口頭試問(口答試問)
根 性(根 情)   小 康(少 康)
縮 小(縮 少)   折 衝(接 衝)
善後策(前後策)   漸 次(漸 時)
忠 告(注 告)   篤志家(特志家)
特 典(特 点)   発 起(発 企)

 これらのうち,「荷担」「決着」などは,今日では「加担」「結着」の語を記載する辞典もあるくらいなので,むしろ8の例として扱ったほうがよいかもしれない。



 「記念」と「紀念」――今日では,「記念」のほうが広く行なわれていて一般的であり,「紀念」はあまり使われない。「史跡名称天然記念物」というように,「記念」を使っている。
 したがって,今日,「記念」を採ることに異論はないと思われる。このうように,漢字表記にゆれがあるといっても,その一方が一般的であるということで解決のよりどころとすることができるものもある。
 次に挙げる語なども,かっこの外のほうが一般的であると考えられる。

栄 養(営 養)   簡 単(簡 短)
観 点(看 点)   気 概(気 慨)
機 転(気 転)   規 範(軌 範)
漁 網(魚 網)   幸 運(好 運)
豪 胆(剛 胆)   作 戦(策 戦)
残 酷(残 刻)   自 動(自 働)
集 荷(集 貨)   冗 員(剰 員)
定 規(定 木)   定 宿(常 宿)
常 連(定 連)   準決勝(准決勝)
親 切(深 切)   深 刻(深 酷)
素 性(素 姓)   整 然(井 然)
折 衷(折 中)   先 頭(先 登)
奏 功(奏 効)   滞 貨(滞 荷)
端 正(端 整)   富 裕(富 有)

 これらのうち,「集荷・集貨」「冗員・剰員」「奏功・奏効」「滞貨・滞荷」などは,むしろ8の例として扱ったほうがよいかもしれない。また,「素性・素姓」は,もとは「素姓」が一般的で,「素性」は「根性」などとの混同かとも考えられるが,今日では「素性」のほうが一般的に行なわれている。

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