国語施策・日本語教育

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議事 その他

土岐会長

 ただいまの報告について質問はないか。この報告を了承いただいたこととし,第5期までは,今までやってきたことを考えながら,今後の仕事をやっていくこととなる。

宇野委員

 報告の中に,建議と報告ということがあるが,これはどう違うか。

土岐会長

 審議の結果が部会から総会に提出された場合,総会でこれを了承し,建議することに決まると,文部大臣その他関係方面に出される。したがって,建議の形で出されると,関係方面に連絡されて実施面の形が表われる。関係大臣への報告の場合は,審議の結果,国語問題をこう考えるということを報告するということで,必ずしも実施されるということではないが,しかし,総会を通して社会に伝わり,これが世論の対象となることもある。

高橋(健)委員

 第19回の「町村の合併によって新しくつけられる地名の書き表わし方について」は,総理大臣に建議,文部大臣に報告となっているが,「人名漢字に関する建議」のように内閣訓令・告示によって出されるといいと思うが,重ねて手続きはとれないか。

白石課長

 この建議の趣旨は,「新しく市町村名をつける場合にはこういう考慮をしてほしい。」ということであるが,関係官庁である自治庁は,市町村に対してこうしろということが言えないしくみになっているので,内閣訓令・告示の手続きがとれない。自治庁では,市町村合併推進本部に連絡した。また,その会議の席に文部省から初等中等教育局長が出て説明があった。その後,都道府県の地方課長へ勧奨した。地方自治体に対して,勧めたりお願いはできるが,こうするようにとは言えないしくみになっている。

千種委員

 人名漢字の場合は,法務省で戸籍法施行規則の改正として実施できたが,町村合併に対しては,今の説明のように,どこにもそうさせる権限がない。しかし,これを実行するよう働きかけはやっているし,今後も努力したいと思っている。

高橋(健)委員

 どうかそう希望する。

土岐会長

 この報告もひっくるめて,今までの国語審議会のあり方についての批判なり,また今後,第5期審議会で何をやったらよいか,お考えになっていることを何でも述べていただきたい。

西本委員

 さきごろから問題になっている郵政省を逓信省とすることについてどうなっているか。

北岡局長

 自由党政調会の内閣逓信部会で,郵政省設置法の改正案の省名変更の条を削ることになったということである。

西本委員

 見通しとしてはどうか。

北岡局長

 よくはわからないが,自民党で強くやる意向なら,自民党単独で修正できるのではないか。

西本委員

 この際,さらに国語審議会としてなんらかの態度を示さなくてもいいか。

颯田委員

 この問題は,名まえが悪いということと字が悪いというとこがごっちゃになってきている。「逓」の字が悪いということなら,国語審議会としてよい字を教えてやればよい。

松坂委員

 ただいまの意見はいちおうもっともである。大事なことは補正案で削ると決められたものを用いるということが問題である。「やめてくれ。」という建議を出すことが考えられる。

千種委員

 具体的に名を示さないで,省名などをつけるときは国語審議会で認めたもの(当用漢字表内の字)で考えてくれということである。「逓」の字は,当用漢字表からはずすという字である。

百瀬委員

 「逓信省」については,新聞では反対運動をやった。その後,自民党のほうで引っ込めるというような形なので,一段落ついたと思っている。しかし,まだ正式に決まったのではないから,当用漢字の方向に足並みをそろえることを建議することができれば,ぜひやってほしい。今度できた戦没者墓苑についても,「苑」の字は当用漢字表にない。今後関係官庁でそういうことをしないようにしてもらわないと,世間では戸まどいを感じる。政府関係だけはちゃんと守ってほしい。

土岐委員

 この問題を取り上げるかどうかおはかりする。

西本委員

 念には念を入れる意味で,そういう改正をしないように適当な方法をとっておくことを動議として提案したい。

土岐会長

 その場合,「苑」の字のことも含めてやるか。

池田委員

 西本委員の意見に賛成する。補正案にあるなしにかかわらず,国語の将来の見通しをつけてやる必要があると思う。たとえ当用漢字表で認められていても,むずかしい字は使わないほうがいい。

宇野委員

 しかし,せっかく自民党から補正案が出ているということであるから,それでいいのではないか。

西本委員

 この際だから,なおやるべきでないか。

大塚(嘉)委員

 西本委員の意見に賛成する。役所が国語審議会の決めたことを守らなのはよくない。

塩田委員

 わたくしは,宇野委員の意見に賛成する。こういうことは一般論としてやるならいいが,あまり個々のことに口を出すことはしないほうがいい。こういう問題は将来起こりうることであるから,何かの形で政府に要望することはいいと思う。

土岐委員

 建議をするということを先に決めないで,こういう形ではという文案を出してもらって,まずその文案を審議していてはどうか。(賛成)

千種委員

 文案を考える場合,相手かたによって違ってくる。郵政省の問題だけにするか,将来のことについて政府一般に対してやるか。わたくしは抽象的に文字はこういうふうに使いたいものだというようにしたい。

土岐会長

 逓信省をきっかけとして一般論とするか。

西本委員

 わたくしは逓信者だけにしぼるべきだと思う。この時機を失して政治の情勢を知らずにいて,今国会の最後のところで復活しないともかぎらない。倉石副会長は,何か事情をご存じではないか。

倉石副会長

 わたくしは,事がらとして意見を述べたことはあるが,内情は何も知らない。

西本委員

 衆議院が通って参議院にいっているが,ここでも修正すべく努力はしたが,こうなったという可能性がある。

土岐会長

 まず文案を作ってみてはどうか。

前田(賢)委員

 対象をどこにするか。自民党であるか,政府であるか,今は政府の手を放れているだろう。あるいは,参議院に出すのであるか。

千種委員

 参議院に,そういう案を通すなということになるか,あまり細かい点に深入りするようになる。

西本委員

 そうなると,そのまま通ることも考えられる。

実方委員

 今は修正の方向にあることはけっこうなことだということで,立場を明らかにすることはどうか。

前田(賢)委員

 名まえを変えるなと申し入れるのであるか。政府に一般的なことを言っても,国会で審議されたことに対して効果があるかどうか。
こういう意見があることを,会長かだれかが非公式に自民党に申し入れて,改名しないように話し合うことはできないか。書面で出すことは,かえって逆効果になりはしないか。

土岐会長

 きょうのこの会で申し合わせのようなこと,また今後のことについて,こう考えているというようなことを文書にしておくことはどうか。そうすれば,世論の中でこう考えているということも出る。

西本委員

 それがいいと思う。国語審議会が何も意思表示しないことは,みずからの方針に対して不忠実である。

宇野委員

 「郵」の字がむずかしいか,「逓」の字がむずかしいかということは,水かけ論でどっちともつかない。また,いまだに「逓」の字がいいというのなら申し入れするものいいだろうが,新聞や世論で効果が表われようとしているときに,正面切ってやることはどうも妥当ではないのではないか。やるとすれば,会長からしかるべき筋に申し入れするほうがおだやかでいいと思う。

岩下委員

 会長の談話ということで,総会で出た意見,自民党で取りやめることとしたのはけっこうなことだ,なお,今後こういうことのないようにというようなことを新聞発表してはどうか。

土岐会長

 皆さんの意見をまとめて,文章を考えてみてはどうか。

塩田委員

 文書にしなくても,口頭ではいけないか。

西本委員

 文書にすることをどうして遠慮しなくてはならないか。

稲富委員

 当然国語審議会として世間と発表しなければならないことではあろうが,この問題が起こったときは,第4期国語審議会は解散していて,事実上は会がなかった。その時にこういう事件が起こった。もっと早く起こっていれば,世論の反対を受けて否決することに努めただろう。今となって,新たに起こった問題のように反発する必要はないのではないか。少し時期を失している感があるので,会長談として大臣へ申し入れするなどの処置をしておけばいいと思う。

西原委員

 世論のだいたいは,国語審議会の方針をもとにしている。こういうことは時機を失してはいけない。声明なり,申し入れなり,文書にしてやっておくのがよくはないか。その場合,あまり細かい問題について強く取り上げることはよくない。なるべく一般的なことを,あまり相手を刺激しないような方法でやることがいいと考える。

前田(雄)委員

 わたくしは,西本委員の意見に賛成ではあるが,現在,世論の実際面と見比べて,自民党は省名復活のことは引っ込めかけている。省名だけの問題はそう憂慮しなくてもいいのではないか。現段階から見て,会長の意見のように,文書にまとめて意思表示するのがいいと思う。

土岐会長

 今まで出た意見をまとめて文章にするための起草委員を設けることについておはかりする。なお,予定の時間も少し延ばしていただきたい。(賛成)


 起草委員として,池田,宇野,西本,西原,松坂,百瀬各委員にお願いする。これに,会長・副会長が加わり,ただちに起草することとする。その間,少しの間休憩願いたい。

(4時15分休憩,4時35分再開)

土岐会長

 再開する。ただいまは文案だけについての審議とし,これの取り扱いについては,さらに考えることとしたい。
 (文案)「郵政省を逓信省と改称することは,国語政策のうえからまことに残念だと思っていたところ,最近関係者において考慮された結果,この案を撤回される方針を決められたように伝えられます。
 この種の問題は,今後もいろいろ起こるかもしれませんが,その際はぜひ国語政策の面からよく考慮されたいものと思います。」

前田(賢)委員

 「この案を撤回……」は,提出した人が撤回するということにとれる。「改称されないようになった。」というようにしてはどうか。

千種委員

 撤回は政府がするのか意味がよく通らない。取りやめるなどとしてはどうか。

池田委員

 「改称を取りやめる……」としてはどうか。

土岐会長

 なお細かい点についてはお任せいただいて,できるだけご意向に沿うよう努力したい。また,これをどういう方法によって出すかはなかなかむずかしい。けっきょく,本日総会があり,この問題が出て,こういう考えが出たということである。あとの取り扱いは,効果のあがるような方法を考えたい。

大塚(嘉)委員

 これは申し合わせということになるか。

土岐会長

 きょうの総会の記録という形で残すことになる。申し合わせだと積極的に出すことになり,それでは多少めんどうになる。記録として文部大臣に伝えるということで了承願いたい。

松坂委員

 新聞発表のときに出してほしい。

西本委員

 わたくしの観測は悲観的である。改称が実現しないように努力してほしい。

高橋(健)委員

 えんきょくであってほしいが,はっきりしたところは,あいまいでなく伝わるようにしてほしい。

西本委員

 問題は,方針ではなく具体的なことであるから,はっきりしてほしい。国語審議会は何を決めても決めただけで,積極的に実行する意思がないのであろうと考えられてもしかたがない。

土岐会長

 補正案にしても,なんらかの方法を早くとったらよかったと思うが,これは,世論が社会的の良識によって自然の傾向をとることを見るように努めているのである。

西本委員

 今は,世論が国語審議会の方策を支持している。国語審議会は,支持されていることを喜び,支持にこたえる態度をとるべきだと思う。

千種委員

 その間には,いろいろの問題もあることだから,会長に任せることにしてはどうか。

岩下委員

 新聞発表するときは,この問題が出た当時は国語審議会はブランクであった,本日の総会で新しく問題になったことを表示してほしい。

西本委員

 新聞には発表してほしい。やる人の勇気づけと反省になる。

土岐会長

 いろいろお話を伺ったが,方法については,なお国会方面などの情勢も見たうえで考えなければならない。そのへんのところは,当局ともよく話し合って取り計らうことにしたい。
 次の総会を4月中旬に開く。今後の審議の課題などについて,お考えおき願いたい。では,このへんで閉会する。


午後4:50閉会

(総会での議論の記録については,同日文部大臣に報告された。)

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