国語施策・日本語教育

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国語の改善について(報告)

国語改善の考え方について

T 国語改善の経過

 国語問題の解決について,政府は早くからいろいろの施策を講じてきたが,明治35年には,そのための機関として,文部省に国語調査委員会が設けられた。それに先だって,明治33年小学校令施行規則によって,義務教育に用いるかなの自体と種類,字音かなづかい,漢字の種類などにちての基準を示した。
 大正10年には,文部省に臨時国語調査会が設けられ,大正12年に常用漢字表,大正14年に仮名遣改定案が発表された。また,昭和9年には,文部大臣の諮問機関として国語審議会が発足し,昭和17年に,常用漢字表・新字音仮名遣表を答申したが,これは一般に普及するには至らなかった。
 戦後,国語審議会は,改めて審議を重ね,昭和21年以来,当用漢字表・同別表・同音訓表・同字体表・現代かなづかい,その他の案を決定した。これらのものの多くは,政府に採択されて内閣訓令・同告示となり,法令・公用文・教科書および新聞雑誌,一般事務用文書などにも用いられるようになった。
 これまでの経過をかえりみると,国語の改善については,相異なる考え方があって,一方においては,教育上社会生活上の負担を軽減することによって文化水準の向上に資するという見地から,ことばや文字を使いやすく学びやすいものにしなければならないとい主張され,他方においては,文字の伝承や創造を重んずる立場から,性急な改革は行うべきではないと主張されてきた。この考え方の相違が,国語そのものの複雑さに加えて,国語問題の処理をいっそう困難なものにしている。したがって,このさい重要なことは,個々の具体的な施策に先だち,大局的な観点に立って国語の基本的なあり方を検討し、国語改善についての正しい考え方を明らかにすることであろう。

U 国語改善の考え方について

 1 ことば
 ことばは思想感情を表現し,これを他人に伝達媒介する手段である。この手段としての機能から,ことばは平明簡素で能率的であることが要求される。それと同時に,ことばは社会的伝統的歴史的なものである。人々は,思想感情をそのことばによって養い,文化の伝承と創造の基礎も,ことばによってつちかわれる。したがって,ことばは単なる手段以上のものであるといわなければならない。ことばは,このように社会的歴史的なものであるから,それが用いられる社会とともに動き,変化するだけでなく,条件や目的を異にする政治・経済・文化その他社会の各領域の間でも違いが生じてくる。しかし,その反面,国民的な立場あるいは教育・公務,または新聞・放送などのマスコミの必要から,各領域に通ずる基礎的一般的な基準が要請される。特に将来の国民育成の立場から,学校教育においては,そのことが強く要請される。


 2 文字
 文字は一般に,思想感情を直接に表すものではなくて,思想感情を表現するところのことばを視覚的に表すものである。
 ことばが社会的歴史的なものであるように,文字もまた社会的歴史的なものである。
 また,文字は,その表すことばから簡単に切り離すことはできない。ことにわが国においては,漢字は国語と密接な関係にあって,これを国語からにわかに引き離すことができない。
 文字の中でいわゆる表音文字は,いわゆる表意文字にくらべて字数が少なく字形が簡単であるという特徴を持っている。これに対して,表意文字は,字数が多く字形は複雑ではあるが,それぞれの文字によって表わす語の意味を一挙につかむことができる,という利点をもっている。しかし,表音文字も,一つづりとなったときには,表意文字と等しい機能を発揮することができる。
 わが国では,最初漢字だけを用いていたが,やがて漢字を表音的に用いるという独自の方法によって,かなの発達をみ,国語の表現がいちじるしく自由になった。また,多くの漢語が国語として用いられ,かなとともに漢字が国語を書き表わすために用いられることによって,いわゆる漢字かなまじり文が一般化してきた。しかし,漢字は,字数が多く,字形が複雑な上にいろいろな読み方や意味で用いられたために,習得が困難になり,その解決が国語改善の重要な課題となった。なお,最近,近代社会の発展に伴って,広い範囲にわたる多量の情報を,敏速に処理するために,文字を機械にのせるさいの問題が,ことに重く考えられるようになってきた。
 文字には,習得あるいは事務処理の必要から平明簡素を要する面と,国民の精神生活や文化伝承の必要から伝統を重んずべき面との両面がある。この両面をともに考えながら,一方では,各領域においてそれぞれ必要な解決をはかるとともに,他方では,各領域に通ずる基礎的一般的な基準を設けることが要請される。


 3 むすび
 以上述べたような点から,国語の改善を考えるにあったては,国語を歴史的に形成され発展していくものとしてとらえ,過去における伝統的なものと,将来における発展的創造的なもののいずれをも尊重する立場に立ちながら,各方面の要求を考慮して,適切な調和点の発見に努めなければならない。したがって,国語の理想像を過去・現在・未来のある一定の時点に置き,国語をそこに固定させようとしたり,あるいは特定の領域の要求を特に重くみて,全体の問題を処理しようとしたりするような考え方は,採るべきではない。
 国語改善審議の具体的な目標は,国語問題の中で緊急にその解決が求められているものについて,将来を見通しつつ最も現実に即した解答を与えることであろう。その解答として,これまでとられてきた方法は,ことばや文字の使い方の基準を設定し,修正することであった。そうした基準の設定や修正は,これまでのわが国の歴史的な事情から,文字上の問題を主としてきた。しかし,今後は,これらの問題についてもさらに検討を加えるとともに,ことばの問題についても審議を進める必要があると考えられる。なお,国語の健全な成長発展のためには,基礎的一般的な基準を示すと同時に,国語に対する国民の理解を深めることについても考えなければならない。

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