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国語の改善について(報告)

これまでの国語施策について

 法令,公用文,新聞など国民の共通の場や義務教育では,漢字かなまじり文の行なわれている現状に即して,ことばや文字の使用上の基準を定めることが必要である。こういう立場から見れば,戦後の国語施策は,新しい時代の国語表記の基準を示したという意味で,社会的教育的意義があったと考えられる。しかし,個々の施策の内容については問題となる点がある。ただ,個々の施策の実施にあたっては,これまでじゅうぶんに趣旨の徹底がはかられなかったための誤解も少なくなかった。たとえば,学術,文芸などの方面にも一律早急にこれを強制するかのように受け取られたことも,その一つであろう。したがって,今後の問題としては,個々の施策について問題点がどこにあるかを見きわめて,それらを検討すると同時に,個々の施策の趣旨をさらに徹底するよう処置する必要がある。問題点を検討するにあたっては,専門の委員会などでじゅうぶんに調査研究し,世論の動向を考え合わせて,慎重に審議することが望ましい。

〔当用漢字表〕

 当用漢字表は,わが国で使われる漢字の数があまりに多いのでこれを制限して,現代国語を書き表わすため日常使用する漢字の範囲を定めたものである。
 当用漢字表については,地名・人名等固有名詞に使われる漢字の取り扱いが大きな問題である。特に,都道府県名に使われる漢字について考える必要がある。また,「当用漢字補正資料」その他の問題についても考えなければならない。ただ,固有名詞の漢字を採り入れることや,補正資料などによって補正することは,当用漢字選定の方針に関連するところがある。(注1・注2)したがって,将来これらの問題を考えに入れて,当用漢字表を改めて検討する必要がある。

(注1) 当用漢字表では,固有名詞については別に考えるという方針であった。その後,新しくつける人名・地名については,「人名用漢字別表」(昭和26年建議,内閣訓令・同告示)「町村の合併によって新しくつけられる地名の書き表わし方」(昭和28年建議)がある。
(注2) 当用漢字表では,日本国憲法に使われている漢字は全部採り入れる方針であった。補正資料では,それらのうち,日常必要でないと考えられたものを削っている。
(注3) 都道府県名の漢字のうち,当用漢字表にはいっていないものは,阪・奈・岡・阜・栃・茨・埼・崎・梨・媛・鹿・熊・潟・(なわ)の14字である。この中で,奈・鹿・熊の3字は,人名用漢字別表にはいっている。
(注4) 当用漢字補正資料は,昭和29年,国語審議会が,当用漢字表について28字を出し入れし,ほかに音訓各1を加え,字体1を変更した試案である。

〔当用漢字音訓表〕

 当用漢字音訓表は,漢字の複雑多様な使い方を整理して,現代国語を書き表わすため日常使用する漢字の音訓の範囲を定めたものである。
 音訓表については,音訓の整理をする必要があること,ことにあて字や同訓異字を原則として使わないという考え方は認めるとしても,現在社会で普通に行なわれている音訓で,採られていないものが少なくないところに問題がある。その点について,漢字の表意性などを考えて,改めて検討する必要がある。
(注)
 現在社会で普通に行なわれているもので,音訓表に採られていない例としては,次のようなものがある。

礼――ライ(礼賛)  吉――キツ(不吉)  茶――サ(喫茶)
財――サイ(財布)  街――カイ(街道)
角――かど  空――あく  記――しるす  探――さがす
脚――あし  魚――さかな  街――まち  遅――おそい
お父さん――おとうさん  お母さん――おかあさん
兄さん――にいさん  姉さん――ねえさん
一人――ひとり  二人――ふたり  七夕――たなばた
日和――ひより  相撲――すもう  海人――あま
時計――とけい  部屋――へや

〔当用漢字字体表〕

 当用漢字字体表は,漢字の字体の不統一や字画の複雑さを整理して,現代国語を書き表わすため日常使用する漢字の字体の標準を定めたものである。
 字体表については,現代社会である程度行なわれている簡易字体で表外のものの中から,適当なものを採り入れることについて考える必要がある。簡易字体の採用は,むしろ漢字を広く生かす道であると考えられる。
(注)
 現在社会である程度行なわれている簡易字体で,字体表に採られていないものの例としては,次のようなものがある。

仂(働) 卆(卒) (曜) (濁) 畄(留) (第)
(簿) (職) 貭(質) (選) (離) (類)

〔現代かなづかい〕

 現代かなづかいは,だいたい現代語音にもとづいて,現代語をかなで書き表わす場合の準則を定めたものである。いわゆる歴史的かなづかいは,語の発音と書かれるかなとがあまりにもかけ離れていて複雑なので,これを国民が日常使用するのには困難が大きい。そこに,現代かなづかいの制定された意義がある。
 現代かなづかいについては,「じ・ぢ」「ず・づ」の使い分け,「おお・おう」「こお・こう」の類の書き分け,また「ワ」「エ」と発音される助詞は「は」「へ」と書くことを本則とし,「わ」「え」と書くことをも認めている点などに問題があるので,さらに検討する必要がある。
 なお,現代かなづかいは,歴史的かなづかいとの関連において説明されている部分があるが,その点にも検討すべき問題がある。
(注)
 現代かなづかいの問題点をさらに具体的にあげると,次のような問題がある。

  1. 「じ・ぢ」「ず・づ」の使い分けを残し,その適用についてさらに検討するかどうか。また,「じ・ず」一本にして,その使い分けをやめるかどうか。
  2. 「おおきい」(大きい)「こおり」(氷)などを「おうきい」「こうり」などと書くように改めるかどうか。また,改めるとしても,一様にそうするのか,あるいは特定の語は別に考えるのか。
  3. 助詞「は」「へ」を「わ」「え」と書くことを認めるという許容の事項をどうするか。

〔送りがなのつけ方〕

 送りがなのつけ方は,当用漢字,現代かなづかいを使って現代国語を書き表わす場合の送りがなの標準を定めたものである。これまで,法令,公用文,新聞,教育などの各方面で送りがながまちまちであったので,それを整理したものである。
 送りがなのつけ方は,送りがながだんだん多くなっていく傾向――ことに教育の面では多く送る――に即して考えられている。したがって,全体として送りすぎている点,また例外や許容が多い点などが,全般的な問題としてあげられる。特に,複合名詞の送りがなが問題となる。
 これらの点については,漢字の性質を考えて,改めて検討する必要がある。

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