国語施策・日本語教育

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次第 前期国語審議委員会の報告についての説明/その他

宇野委員

 ただ今のあいさつの中で,前期は一般的な審議であり,中身の検討は今後にと申されたが,次官は前期の一般的なものについての審議の方向を決定的なものと考えていられるのか,あるいは,その方向についてまだ問題があるとお考えになっていられるのかうかがいたい。

阿部会長

 わたくしからお答えする。前期で,一般的基本的なことについての意見がまとめられたが,今期でさらに具体的な審議にはいったさい,なお不足な点が出てくれば,その点について補うのにやぶさかでないと考えていいであろう。

宇野委員

 前期の報告の不備を補うというだけでなく,その中に論点がふじゅうぶんと思われる箇所がある。第6期の報告を絶対の路線とし,その線に沿って今後審議を進めるというのであれば,個人的にもかなり考慮しなければならなくなる。具体例についていえば,たとえば,「第2文字」の中に,表音文字に関して,表意文字と等しい機能を発揮することができるというような断定的な記述があるが,これには疑問がある。前期で決定しているような点でも,今期さらに議題になりうると考えていいか。

阿部会長

 報告全体を根本的にくつがえすのでなければ,細部の疑問の点をなお検討できると考えてよい。

市原委員

 わたくしは,もっと根本的に考え直していただきたいと考えている。きょうは最初の総会であり,今後個々の具体的な問題にはいるのであるから,その前に提案しておきたい。

阿部会長

 提案の前に,前期の審議などについて,調査局長から報告をしてほしい。

天城局長

 前期の審議結果については,限られた時同内に詳細な報告はとてもできないので,報告全文を印刷して配布してあるから,ごらんいただきたい。会長,次官のあいさつに述べられたように,今期は,前期の基本的な考えをさらに具体的に進めていけばいいのであるが,そのさい,審議会の規定によれば,専門調査員を委嘱し,資料収集その他を依頼することができること,また,問題によっては部会を設けて審議することができるのである。前期は,三つの部会を設けたが,今期も部会を設けて審議することになるのではないかと考えている。
 なお,今期は特に教育上の問題についてご配慮のうえご審議願いたい。

市原委員

 今期は,まず,戦後の国語変革の諸施策をいちおう白紙に返して,それからその施策の可否を検討してほしいということを提案する。
 その理由の第1として,国語の変革は一国の文化にとってきわめて重大なことであるから,国会や国民一般の討議にかけ,文化人等有議者の意見を徴したのち慎重に学校教育に行なうべきで,官庁の手続き上は順当であったとしても,国民会議にかけなかったのは民主的文化国家のやり方としては失態であった。次に,理由の第2として,国語の変革の結果,国民全体が不幸になったということである。それは変革以後の教育を受けた者は,それ以前の書物を読むのが困難になり,伝統に対する切断が生じているからである。外国語でもつづりと発音が一致しないものが少なくないが,それを合致させる運動がほうまつのように消えるのは,自国の文化的遺産の断絶に国民が堪えられないからである。外国では国語がむずかしくても習得できるのに,日本では国語がむずかしいとして問題になるのは,日本の少国民が劣等で,やさしい文字でなければならないためなのか。わたくしは,日本は一流国中の一流であると信じている。日本は当初,文字こそもたなかったが,記紀万葉に示されているようなすぐれた国語をもち,さらに中国から漢字というすばらしい文化的所産を道具として取り入れたのである。さらに,この漢字をもとに,表音文字のかなを発明したもので,以来,漢字とかなで日本人の意志,感情を示すようになった。万葉集,源氏物語の作られた時代と当時の諸外国の状況を考え合わせると,いずれの点からみても,日本人が外国人より劣っているとは考えられない。明治維新以来,ヨーロッパの文化を吸収して先進国に比肩できるようになったのも,古来からもっている文化的素質と中国,インド等の文化を受けた結果であり,美しい漢字かなまじり文を用い,漢字とともに合理的論理的な歴史的かなづかいを採用した結果ともいえるのである。戦後の驚異的な発展も例外でなく,決して便宜的表意的な考え方の所産ではないのである。むしろ,便宜主義的な考え方こそ,文化を衰退させるものであろう。どんどん漢字を採用しむずかしいものにはルビをふればいいのであって,漢字の自由な使用を制限し,使用を禁止するようなことは許されない。こどもの命名の漢字を制限するのは,基本的人権の破壊ではないか。むずかしい漢字や歴史的かなづかいは決して障害にならず,やさしくすれば日本の文化は表えることを指摘した高名な学者もいる。さらに,もし,戦後の変革の内容がいいものであるのなら,すでに皆がそれに従っているはずであるが,一流の文学者,思想家,評論家は,昔のままの漢字かなづかいを使っているのが現状であり,しかも,それらの人の作品,論文が若い人に読めなくなっていることをつけ加えておく。変革以来20年近くたち,学校教育に実施されているので,文化人の中にもここまできたのではしかたがないと反対するのをあきらめる者がいるが,不合理なものの使用を黙認していては,当代に生きるわれわれの責任が果せないと思う。わたくしは,以上のことを先輩,友人たちと相談のうえであるが,ここに提案する。

吉田委員

 会長のあいさつや説明によると,前期は基本的な,地ならしのための審議,今期はそれを掘り下げて具体的にという審議方針のようである。それでは,基本的な路線についての検討の余地があるかどうかはっきりしないため,新委員が疑問に思うのも当然であろう。
 前期に,わたくしは,国語審議会が審議する国語,日本語について何を正則とするかということを規定してほしい趣旨を文書で提案し,その趣旨が第1会の審議報告にじゅうぶん生かされるものと期待していたが,必ずしもじゅうぶん論じつくされたとは思われない。したがって,今期,もう一度同じ趣旨の提案をし,漢字かなまじり文を正則とすることを決めていただきたいと思っているし,また,そうしたことが許されるという了解を得たい。

石井委員

 市原委員の提案の中に,国語審議会の諸施策の内容や実旅方法について,事実と違うような発言があったように思う。そこで改めて審議会の性格,任務や従来の旅策の内容などについて説明を聞く必要があろう。その提案の中で,たとえば,文部省だけで施策を決めたというような点は誤解である。すなわち,文部大臣が審議会の建議を受けたのであるが,所定の手続きを経て,内閣訓令,告示等の処置をしたものである。名づけ漢字についても,決して国語審議会が制限しようとしたものではない。明治時代の作品のかなづかいの問題にしても,原文を,発行にさいして歴史的かなづかいに改めたものがある。また,かな書きの読みやすい文章のほうが,漢字の多いものや漢文などよりも低級なものであるようなご意見もあったが,わたくしとしては,それに対し必ずしも同感できない。

中田委員

 国語審議会の審議が外部に誤り伝えられていることについて一言したい。たとえば,外部では表音派と表意派が対立しているとして,かってに両派を定義づけし色分けしているが,前期の審議のさいいわゆる表音化を意図した発言は一度もなかった。事実に反した報道をされると,末端では児童の漢字学習意欲が失われるばかりか,日本文化の将来にも、決していい影響を与えないと思う。真実の報道をされるよう提案する。

細川委員

 最初から対立した意見の衝突では議事が進行しない。会長や文部省側に議事運営についての予定計画があれば示して,議事の進行をはかってほしい。

阿部会長

 それもそうだが,多年審議してきた結果を根本からひっくり返せというような意見が出たので動転しているところだ。よくお話を聞いているうちに,道が開けるであろう。

石井委員

 議事進行のため,まず審議会令の説明から始めてはどうか。

吉田委員

 中田委員の発言に賛成である。国民が等しく関心を持っている国語の問題の検討であるから,会議を公開にしてほしい。もし非公開にするのであれば,じゅうぶん納得のいく説明が必要である。

細川委員

 憲法調査会や選挙制度審議会は公開である。そのため,これらに対する国民の関心が高まり,無用の誤解が生じていないと思う。国民全体の国語審議会であるから,公開にするという提案に全面的に賛成する。

阿部会長

 格別,秘密にしなければならないとは考えないが,過去において非公開でやってきたことも,必ずしも悪かったとは思わない。それは公開でないために,委員が外に向かって発言するということがなくなり,審議がなめらかに運ぶといった利点もあった。

千種委員

 第5期までの国語審議会令には,公開するという条文があった。それが政令の改正とともに削られたが,改正は,文部省が行なったもので,国語審議会がその条文を削ったのではない。この点は,文部省から削った趣旨の説明を受ければはっきりすると思う。おそらく,他の審議会令等に公開の条文がないことなどから,改正に際して削られたものと思う。わたくしは,公開,非公開いずれの意見を主張しているのでもないが,この点,説明してもらってはどうか。

阿部会長

 これについては,総会でいちいち決をとるということでなく,前期のように運営委員会を設けて話し合うことにしてはどうか。運営委員会では,審議事項の内容についてではなく,会議の運営や議事の進行などについて相談する。

宇野委員

 その前に,千種委員の発言に関して,文部省側の説明をうかがいたい。

天城局長

 率直にいって,第5期の最後の総会で,次期委員の推薦をめぐって,いろいろな意見があり,審議会の性格,政令等についても意見が出てきたもので,文部大臣としても国会や国民に対して責任をもつというたてまえから,大臣の諮問機関という性格をはっきりさせるために,政令の改正に踏み切ったものである。改めるに際して,文部省にある審議会,委員会等で公開の原則を法令にうたったものはないし,公開の原則を削ったからといって,絶対に非公開とするとは限らないのであるから,ことさら公開を明示しなくてもよかろうということで削ったものである。

阿部会長

 実際には,総会のつど運営委員会で検討し,そのときどきの情勢なども考慮して決めたわけである。

宇野委員

 条文になくとも公開できるのであれば,原則として公開にしてほしい。その理由は,吉田,細川委員の発言にもあったように,国語は国民のものである,国民は,審議の状況を正しく知る必要があるからである。

吉田委員

 運営委員会にかけてもいいが,公開非公開のような問題は,総会で各委員の意向を開いてお考えいただきたい。

阿部会長

 公開の問題については,これまでに出た意見も含めて慎重に論議をつくして考えたい。

細川委員

 それらを含めて,運営委員会を開くとよい。ただ,総会の意見がわからないとと,運営委員会も決めにくいのではないか。あまり非公開にこだわらずにお考えいただきたい。

宇野委員

 運営委員会では,公開の問題のほかに,部会の設置についても話し合われるのか。

阿部会長

 まだ部会を設けることについての提案がない。提案があったのちに,それについて検討する必要がある場合におはかりする。

天城局長

 総会で出されたいろいろな意見を整理していくと,これこれの問題が重要であるということになり,それを扱う部会が必要になるということになるのではないか。総会で議題にならなかったものを運営委員会で取りあげて決めるというようなことはない。

宇野委員

 現在のところ,運営委員会では,会議の運営についてはかるだけと考えていいか。

阿部会長

 そうである。

波多野委員

 会議で意見が対立するのはいいとして,もう少しなごやかにできないものか。世間には,表音派,表意派の対立というような形で報道されているが,全体の空気を前期のようになごやかにするよう委員各位の良識をもってお考えいただきたい。前期でも最初のころはなかなかたいへんであったが,従来の施策の内容や審議会の性格などがわかってからは,お互いに理解ができるようになった。
 なお,国語の問題については,文学者や文化的遺産や伝統に関する問題と,将来の若い人の教育の問題とを混同して議論されがちである。将来の教育のことを考えるさいに,知能指数のあまり高くない人たちのことも忘れてはならないと思う。また,世の中が進むということも考えてもらいたい。だからといって,漢字をなくせというのではないが……。よろしくなごやかな会にしてほしい。

市原委員

 話し合いがたいせつであることはよく承知しているが,同じ意見にまるくおさめることが,いちばん大事なことではない。教育のととも大事だが,一国の文化の問題はさらに重大であろう。なによりも合理的で美しい国語を守るということがたいせつである。

吉田委員

 会議では,会長に対しても自由活発に意見を述べるほうがいい。わたくしが公開を主張するのは,知能の低いものも含めて,国民とともに考えていこうというためである。

波多野委員

 きょうは,主として新委員のかたがたの,とかく一方的な発言が多く,なにか不思議な会議のようにわたくには思えたので,さきほどのような発言をしたのである。

遠藤委員

 わたくしは,演劇を専門とする者であるが,日本語として,どのような、ことばが美しいのかというようなことについて,まだはっきり決められていないようである。オーストリアでは,その国語の教科書が決まっており,それを正しく読む修練が始められており,国立の劇場で話されることばがいちばん美しいとされている。日本語の習得は何を教科書にして何から始めたらいいかということについて,検討のうえ決めていただきたい。一度決めてみても,もし,あとで誤りがあることがわかったら,そのつど正しいものに改めていけばいいのである。
 かなづかいについては,旧かなづかいで書かれたものと新しいかなづかいのものは,ことばの個々の発音は同じでも,ことば全体としての発音が少し違うように思える。
 従来,ここの審議は,文字をいかに書くかということに主眼がおかれていたようである。文字以前のことばの問題についても,取り上げて審議していただきたい。

塩田委員

 第6期の報告を読んでみたが,その中で,戦後の改革案に若干の不備,欠陥のあることを認めているように思うが,そう考えていいのか。

阿部会長

 そのように述べてある。

塩田委員

 そうであれば,今期は,まず,その不備の点を検討することから着手すべきであろう。次官のあいさつに,今期2年の間に具体的な結論の提示を要望する趣旨の発言があったが,国語問題は,年数を限ってまとめなければならないというものではないし,戦後の施策の諸案は,とっさの間に作成されたため混乱をまねいたのである。市原委員の発言については,その趣旨には賛成であるが,すべてを白紙に返してから改めて審議検討しなおせということは,実際上は不可能であろう。とすれば,当面は具体的な問題について調査審議すべきであり,それも時間を限らずに審議すべきである。
 委員の大半は国語学者でないが,委員に選ばれたのは,その良識をもって国語に関する審査結果などに基づいて審議するためであろう。従来の審議が全く資料や調査結果によらないで決められたということはいえないし,担当の国語課にも専門家がいるが,一課の限られた人数,時間などではじゅうぶんなことは期待できない。国語審議会としては,国立国語研究所の協力を求め,その調査結果をもっと積極的に活用する必要があろう。
 今後の審議を発展させるとすれば,当用漢字表,現代かなづかい等の不備を検討のうえ,これらを正していくことであり,その間に根本的な問題が出てきたさいには,すべてを白紙に返すこともありうるであろう。具体的な問題の検討の結果,根本的に話し合う必要があるかどうかということは,そのときに考えればいいことではないか。

池田(弥)委員

 中田委員の発言のように,わたくしも,報道関係者がかってに表音派とか表意派とかを決め,興味本位の記事を書くために迷惑している。新聞によれば,塩田委員とわたくしとは敵味方のように報道されているが,ただ今の塩田委員の発言の趣旨とわたくしの意見とは少しもくい違っていない。こうした誤解を避けるためにも,ぜひとも会議を公開にしていただきたい。
 第5期の審議会の空気からすれば,第6期は、審議会自身の問題,たとえば,何を審議するところか,何を審議すべきかといった点を明らかにすべきであった。今期もこの点をいっそう明確にすることが,まず,要請されるのでないか。
 現代かなづかい,当用漢字音訓等についても,個人的には全面的に賛成しているものではないか,といって,反対だからすぐいっさいのものをやめてしまえという論にも賛成できない。どう修正をしても絶対満足できないという考え方は論外として,現行のもののどこをどの程度直したら現在ほどの支障がなくなるか,その問題点を検討すべきであろう。
 話しことばについての遠藤委員の発言にはまったく同感である。国語審議会はとかく国字の問題に走りがちであるが,ことばについて問題,正しい美しい日本語は何かということも取り上げてほしい。

佐藤委員

 前期は,三つの部会でそれぞれの問題を審議してきたし,部会間の調整は運営委員会などで行なうこととなっていたが,調整は必ずしもじゅうぶんでなかったように思われる。そのため,今期は,部会が合同して審議する機会を多くするとか,他の部会にも出席できるようにして,審議会全体の意思の統一がはかれるようにご配慮願いたい。これは部会を作ってほしいという提案ではない。もし部会が作られた場合の希望を,前期の経験から申し上げるのである。

阿部会長

 ほかにご意見はないか,なければ,運営委員会についての意見をうかがいたい。

浜田委員

 運営委員会を設けることに賛成する。(賛成の声多数。)

阿部会長

 では,運営委員会を設けることはご了承いただけたものとする。次に,どのようにしてその委員を選ぶかについて発言願いたい。(発言なし。)運営委員会は,運営に関する手続き上の問題を扱う事務的ともみられるものであるから,もし,特別のご意見がなければ,会長に一任願いたい。

池田(弥)委員

 会長に一任していいのでないか。(賛成。)

阿部会長

 では,そうさせていただく,運営委員としては,古賀,相良,高木,細川,村上,森戸各委員の6人のかたにお願いし会長,副会長も出席して運営委員会を開くこととする。
 次の総会は,2月下旬から3月上旬に開き,もう一度自由討議を読けたいと考えている。部会に関することも,その席でお話が出ることと思う。なお,次の総会前に,運営委員会を開く予定である。
 では,これで閉会とする。

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