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国語に於ける伝統の尊重について
昭和39年3月13日
提案者 委員 吉田富三
議案
「国語における伝統尊重の具体的方策を審議すること」提案理由
従来,国語審議会は,「ことばは,思想,感情を表現し,これを他人に伝達媒介する手段である」との認識のみに立脚し,この立場から,国語の平明簡素と能率とを一方的に追求し,漢字の制限,現代かなづかひ,音訓表の制定等を実現して来た。
然るに,第6期審議会の報告書「国語の改善について」に於ては,「ことばは社会的伝統的歴史的なものである。人々は感情,思想をそのことばによつて養い,文化の伝承と創造の基礎も,ことばによつてつちかわれる。したがつて,ことばは単なる手段以上のものであるといわなければならない」と述べてゐる。これは国語審議会の言語認識の一大進歩といはなければならない。
第7期審議会に於ては,この新しい認識に基き国語の伝統の尊重を具体的政策として打ちだす為の審議を慎重になすべきであると考へる。
敢えてこの提案をなす理由は,右報告書には,右の如き認識は記されてはゐるが,それに基く新しい態度,熱意は,全文を通じて現はされてゐないからである。全文は,従来実施した施策の難点の改善にのみ急であつて,基本的問題に対して,具体的に触れる所が少ない。国語の伝統の尊重は,たんに言葉で述べておけば済む様な問題ではないと考へる。国語の伝統尊重のための具体的施策として審議すべき問題は多数あるので,これを審議することを提案する。