国語施策・日本語教育

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〔かな部会審議経過について〕

 「現代かなづかい」と「送りがなのつけ方」のどちらを先に審議するかについては,第63回総会において意見のあったところであり,どちらを先に審議するにしてもそれぞれ理由のあるところであるが,かな部会としては,社会における要求度のより高いと考えられる「送りがなのつけ方」を先に取り上げることとした。
 この場合,これまでに示されている各種の送りがなのつけ方の比較対照表(別添資料)を参考にして,告示「送りがなのつけ方」の通則の各項についての具体的検討にはいった。
 なお,これと並行して,第63回総会で要望された事項,すなわち「送りがなのつけ方」のまえがきに示されている3か条の方針の第1「活用語およびこれを含む語は,その活用語尾を送る。」だけに従って処理した場合,どういうことになるかという点についても具体的に検討した。
 これらの検討は,まだ終えていないが,これまでの過程においてとくに問題となった点は,以下のとおりである。


1 通則1から通則7までについて

  (1)  通則1のただし書きに示されている「表わす,著わす,行なう,……」などの10語は,いずれも誤読・難読を避けるという第2の方針に基づいて活用語尾の前の音節から送っているのであるが,これらの中には,たとえ誤読されても伝達内容は変わらないし,また実際の文脈の中ではそんなに誤読・難読のおそれのない語もあるので,これらは送りすぎであるから,この種の語についてはもっと整理すべきだという意見があった。
 しかし,一方,「送りがなのつけ方」による送りがなが,現在の一般社会とくに教育の場にかなり浸透し定着していることを考えて,合理的にするというだけで無条件に送りがなを少なくすることは問題であり,実際に照らしても,「あらわす」を「表す」,「おびやかす」を「脅す」と書くのは,妥当でないという指摘もあった。
(2)  通則2では,「起こす」を「起きる」,「聞こえる」を「聞く」,「終わる」を「終える」と,それぞれ対応させて書いているが,これらを「起す,聞える,終る」と書いても,それでじゅうぶん読めるという意見があった。
 また,通則2の語例は,送る理由を対応関係から説明するように配列されているが,「動かす・動く」,「聞く・聞こえる」のように自動詞・他動詞の対応関係にあるような語と,「浮く・浮かぶ」,「語る・語らう」のように自他の対応関係とはみなされなくて派生語と考えたほうがよいような語が混ざって掲げられているので,妥当でないという意見があった。
(3)  通則5の「黄ばむ」や「春めく」の「ばむ」「めく」は,接尾語と考えれば,いちおう送りがな問題とは別に考えるべきで,実際には「黄ばむ」「春めく」以外の表記は考えられないという指摘があった。

 以上,通則1から通則7までの検討を終えたところで,「送りがなを活用語の活用語尾に限定するとどうなるか。」という問題に焦点を合わせて検討することのほうが,送りがな問題の本質に触れることができるという判断に立って,総会からの要望であるこの問題の検討にはいった。


2 「送りがなを活用語の活用語尾に限定するとどうなるか。」について

 この問題の検討にあたり,「送りがなは活用語の活用語尾を送る。」したがって「活用しない語についてはいっさい送らない。」という解釈を前提として処理した場合の,通則1から通則26までのすべての語例に関して想定される結果を示した資料をもとにして検討したが,活用しない語についての送りがなは,これとは切り離して考えることにして,次のような問題点を明らかにした。

  (1) 通則1のただし書きの語例については,「現われる,行なう,異なる,断わる,」などにこの方針をあてはめて,「現れる,行う,異る,断る」とするのはともかくとしても,「表わす」が「表す」,「脅かす」が「脅す」,「群がる」が「群る」おなるのは,誤読・難読のおそれがあって問題であるという指摘があった。
(2) 通則2では,「動かす,語らう,定まる」などが,「動す,語う,定る」などとなって,やはり誤読・難読の上から問題であるという指摘があった。
(3) 通則3の,「近づく,遠のく,赤らめる」などは,活用語尾だけ送るということからすれば,「近く,遠く,赤める」などとなるが,これらの語は,接尾語を伴なったりしてできる複合語とも考えられ,1語としての活用語尾を問題にするのは適切でなく,実際問題としても,「近づく,遠のく,赤らめる」と書く以外の表記は考えられないのではないかという意見があった。
(4) 通則5については,前掲1の(2)のとおりの意見であった。
(5) 通則6の,動詞と動詞とが結びついた動詞,すなわち「移り変わる,流れ込む」などを1語として考えて,「移変る,流込む」などとするのも問題であって,複合している語は,その成分の活用語尾も考慮すべきではないかという意見があった。
(6) 通則7の「新しい,美しい」などの語幹が「し」で終わる形容詞や,そのような形容詞を含む動詞,すなわち通則3の「怪しむ,悲しむ,苦しがる」などを,単に活用語尾だけを送るということで「新い,美い」,「怪む,悲む,苦る」と書くことについては問題があるので,文語の形容詞の「シク活用」とも関連させて検討する必要があるという指摘があった。
(7) 通則7のただし書きの「大きい,小さい」を「大い,小い」とすることは,慣用にはずれ,著しく読みにくくなること,また「明るい」が「明い」,「少ない」が「少い」,「冷たい」が「冷い」となって,それぞれ誤読・難読のおそれがあることなどが指摘されたが,しかし,一方,文脈との関係で,誤読はある程度避けられるから,慣れれば簡潔なほうがよいという意見もあった。

3 その他

 以上の審議の過程で,「送りがなのつけ方」に関する基本的な問題や関連する問題についても意見が出たが,以下はそのおもなものである。

  (1) 「送りがなのつけ方」の考え方について
 例外・許容にいちいち触れるような細かな規則にしないで,大まかな原則だけにとどめ,実施上の細部の点は,これを用いるものの自由裁量に任せたらどうかという意見があった。
(2) 通則のまとめ方について
 現行の通則の立て方に問題があるという意見が多く,品詞別の体系によらず,たとえば活用語,転成語,複合語というような分け方にしてみるとか,漢字の受け持つ音節数を決めてそれ以外を送るとかいったような新しい考え方をとったらどうかなどの意見があった。
(3) 語例について
 現行の通則の各項にわたって示されている語例の適否について検討する必要がある,すなわち音訓表にない音訓で読む語について,まったく触れないのはよくない、たとえ音訓表にない読み方をするものでも,その語が世間で普通に使われているものなら,たとえば用例集に掲げるなどの方法も考えたらどうかという意見があった。
(4) その他
 誤読・難読を避けるためといわれるが,教育における漢字指導で漢字のもっている意味をじゅうぶん理解させれば,誤読・難読の問題はかなり解決されるのではないかという意見があった。
 また,教育的に考えて,この「送りがなのつけ方」の適用分野を教育と一般社会とで区別して考えるのがよいという意見と,やはり一体化が望ましいという意見とがあった。

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