国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第8期国語審議会 > かな部会審議経過について(部会報告)

かな部会審議経過について(部会報告)

〔かな部会審議経過報告〕

第1 審議経過の概要

 かな部会は,24回の会議を開いて審議してきた。

 かな部会の審議事項には,「現代かなづかい」の問題と「送りがなのつけ方」の問題があり,それぞれについていちおう問題を検討したが,社会一般の実状をみると「送りがなのつけ方」のほうにより多くの問題があることが認められた。
 すなわち,送りがなのつけ方に関する社会一般の実状はおおよそ次のとおりである。
(1)  公用文―告示「送りがなのつけ方」に基づいた「文部省公用文送りがな用例集」によっている。しかし,実施の実状をみると語によっては不統一がみられる。
(2)  法令―告示に準拠して法制局が制定した「法令用語の送りがなのつけ方」によっている。語によっては,告示の許容範囲内で,送りがなを少なくしている。
(3)  教科書―「教科用図書検定基準内規」には,告示に準拠すべきことは掲げられていない。一つの教科書のなかで不統一がなければよいことになっているが,実際にはほとんど告示の送り方と一致しているといえる。
(4)  新聞―統一したものといえば,日本新聞協会編「新聞用語集」の「送りがなのつけ方」がある。これは,おおむね,告示に準拠している。 それとは別に各社ごとに送りがなの基準があって,ほとんど告示の範囲内で規定しているが,新聞社によっては,告示とは別に独自の送りがな(告示より少なく送る傾向がある。)を用いているものがある。
 以上のような実状と,解決を望む要望等を考え合わせて,かな部会としては,「送りがなのつけ方」の問題を先に審議するほうが適当であると判断し,まず,この問題を取り上げることとした。
 審議の経過は次のとおりである。
(1)  送りがなのつけ方について検討するにあたって,まず,告示の送り方以外のもの,すなわち過去の送りがな法や各新聞社などで行なわれている送りがなのつけ方などの語例の比較検討表を作成し,告示の送り方との相違を明らかにしながら告示の語例についてひととおりの検討を行なった。検討の過程において,過去の送りがな法や各新聞社の送り方と比較して,告示の送り方には,送りすぎのきらいがあるなど,問題のある語例を具体的に検討した。
 また,告示の問題点は,告示のまえがきに掲げられてある3か条の方針である。すなわち,活用語尾を送るという方針と,誤読・難読を避けるという方針および慣用を重んじるという方針は,互いに矛盾するものであることを確認した。
(2)  そこで,活用語尾を送るという原則によって処理したら,送りがなのつけ方の実際がどうなるかということについてさらに一語一語にあたって検討した。その結果,活用語尾以外の部分でも送ったほうがよいと考えられるものや,また,活用語尾であっても送らないほうがよいと考えられるような語もあり,この原則だけで,送りがなを決めることは適切でないという結論に達した。
(3)  次に,新しい送りがなのつけ方の法則を考えるために,現行の告示のような品詞別にまとめること以外に単独の語と複合した語,活用する語と活用しない語などの別の観点も加えて,語を分類しなおしてみた。こうして作ったいちおうの語の分類表とその分類に従った語例についての送りがなのつけ方を検討したが,これらについては,なお多くの複雑な問題があり,さらに検討する必要がある。
 今期の部会は,以上のところまで審議を進めてきて,いまだ送りがなのつけ方の新しい法則をたてるまでにはいたっていないが,これまでの審議の過程で明らかになった点は,次のとおりである。

第2 告示「送りがなのつけ方」の問題点

 前に述べたとおり,告示「送りがなのつけ方」のまえがきの3か条の方針,すなわち,
(1)  活用語およびこれを含む語は,その活用語尾を送る。
(2)  なるべく誤読・難読のおそれのないようにする。
(3)  慣用が固定していると認められるものは,それに従う。
   が並列的に掲げられていることが,まず第1に問題となるところである。これは,(1)を原則とし,(2),(3)はただし書きとして扱うのが適当であると考える。
 つまり,誤読を避けようとすれば,「行なった,断わった」などのように活用語尾よりも多く送ることになり,これは慣用と矛盾することにもなる。この場合,どれを優先的にとるかが規定されていない。また,これらの誤読・難読・慣用の問題は,個人によって感じ方が違うものであって,これらを「活用語尾を送る」という原則と同じに扱うことは本来できないものである。
 告示の送り方は,次のような考え方によって以下のように多く送る傾向を生じている。
(1)  活用語またはそれに準ずるものを含む語は,その含まれている語の送りがなによって送ることとしたため「浮かぶ,聞こえる,恐ろしい,勇ましい,冷ややかだ,晴れやかだ」などと送ることになっている。
(2)  送りがなによって誤読・難読を避けようとしたため,「行なう,表わす,少ない,情け」などと送ることになっている。
(3)  「活用語およびこれを含む語は,その活用語の語尾を送る。」という方針を,活用語から転じた感じの明らかな名詞や複合した語にまで,一律に適用している。そのために,誤読・難読のおそれのないものについては,送りがなを省く形をも認め,慣用が固定していると認められるものについては,送りがなをつけなくてもよいとしているとはいえ,「終わり,代わり」などや「気持ち,封切り,取り締まり,向かい合わせ」などと多く送ることを本則とする結果となっている。
 個々の通則をみると許容・例外などが入り混じっていて,一般に理解しにくい。
 また,告示のまえがきには,「……通則は,便宜上,品詞別に配列した。」とあるが,この品詞別の分類にも問題がある。
 「黄ばむ,春めく」の「ばむ,めく」,「積極的だ」の「だ」など厳密な意味では送りがなとはいえないものが含まれている。

第3 送りがなのつけ方についての考え方

  1.  送りがなは,これを本質的にみると,一語を漢字とかなで書き表わす場合に漢字を訓読することから起こる現象であって,漢字に二つ以上の訓がある場合や音読を避けようとする場合に送りがなによって読み分けようとするところから起こってくるものである。しかし,送りがなによって読み分けるということは,その語の用いられる場面や文脈によって一律にはいかないもので,送りがなを定型的に設定することは本質的にむずかしいものである。
  2.  送りがなは,これを歴史的にみると,漢文を読むための必要からつけた捨てがなから発展してきたものと考えられ,また,和語に漢字をあてることから起こってきたものもあると考えられる。このように送りがなは,その発生が便宜的なものであって,一律に法則化することはむずかしいものである。
     また,明治以降いくつかの送りがな法が考えられてきたが,その具体的な送り方については必要に応じていろいろと変化してきているのが現状である。
  3.  実用面からみると,一般社会においては,それぞれの必要に応じて送りがなを送る慣例となっていて,単一の基準をたてて,これによって統一することは困難な実状にある。

 以上のように,送りがなは,法則的にとらえ類推によって判断できるものもあるが,個別的なものも少なくない。また,送りがなは,時代によって変わる可能性も強いので,厳密な基準はたてにくいものである。しかし,送りがなが人により,また,社会の各分野によってまちまちであるということは,国語の正しい機能のうえから問題があるので,よるべきなんらかの基準が必要である。ことに学校教育の分野では,教育上の観点から特別の配慮が望ましい。
 送りがなのつけ方については,以上のような事情を考慮して,標準となるべきものを,なお慎重に検討すべきであると考える。
 なお,かな部会としては中間的な報告しかできず申しわけなく思っているが,送りがなの問題を検討してみて,あらためて送りがな法のむずかしさがわかったと感じている。最後に,かな部会の各委員が終始真剣に検討されたことに対し厚くお礼を申しあげるとともに,部会長としてじゅうぶんまとめえなかったことを心からおわび申しあげる。

トップページへ

ページトップへ