国語施策・日本語教育

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小委員会審議経過報告(部会報告)

〔小委員会審議経過報告〕

第1 まえがき

 本小委員会は,当用漢字表その他戦後の一連の国語施策について,それらが教育の場や一般社会に対してどの程度の拘束力,すなわち制限的性格をもつべきかあるいは制限的色彩を緩和すべきかという問題を検討し,また,これまで国語施策実施の手続きとしてとられてきた内閣訓令・内閣告示という形式の法的性格を明らかにし,今後の実施の手続きをどのようにすべきかという問題を検討した。本小委員会は,1か月余りの間に5回の会議を開催して慎重な審議を重ねた。
 この際,本小委員会は,国語施策の基本として,国語を平明にするという見地から国語の表記についてのなんらかのよりどころとなるような基準が必要であると認めるが,国語の美しさ・豊かさ・正しさ・厳密さを保つために,その基準を厳密に制限的なものとしない配慮が必要であると認めた。このような基本的な考え方にたって,大要次のような結論に到達した。

第2 現行施策の性格および適用分野について

 当用漢字表は,日常使用する漢字の範囲を定め,法令・公用文書・新聞・雑誌および一般社会で使用する漢字の範囲を定めたものとされ(告示),それ以外のものの使用を制限するような趣旨となっている。当用漢字音訓表は,日常使用する漢字の音訓の範囲をおおむね定めたものとされている(告示)。また,送りがなのつけ方については,各行政機関においてよるべき標準を定めたものとされ(告示),現代かなづかいは,現代語をかなで書きあらわす場合の準則を示したものとされている(告示)。
 そこで,その性格や適用分野を異にして実施されているそれぞれの施策について,その実施の現状と改善の方向について述べることとする。

1 当用漢字表および当用漢字音訓表について

 (1)実施の現状

  ア 当用漢字表

  • (ア)法令・公用文書・新聞では,同音の漢字による書きかえ,まぜ書き,かな書き,言いかえなどをして,当用漢字表の範囲で漢字を使用している。ただし,例外的に表外字にふりがなをつけて用いる場合もある。なお,新聞では,いわゆる補正資料によって当用漢字表を部分的に補正して使用している。
  • (イ)雑誌および一般社会では,当用漢字表の範囲でまかなっているものもかなり見受けられるが,全体としてはこの範囲でまかなわれているとは必ずしもいいがたい。
  • (ウ)教育の場では,まず教科書に使用する漢字は,学習指導要領と教科用図書検定基準内規によって,原則として,小学校では別表の漢字に,中学校・高等学校では,当用漢字表の漢字に限ることとしている。しかし,固有名詞や教科に関する専門的用語にやむを得ず用いる場合または原典をそのまま載せる必要のある場合には,初出の際に読み方を示して別表外または当用漢字表外の漢字の使用を認めている。
     次に,漢字の学習については,学習指導要領により別表に定める漢字を小学校および中学校において読み書きともにできるように指導すべきものとしている。中学校では,別表以外のおもな当用漢字に読みなれるようにし,また,その他の当用漢字も読めるように努めることとしている。高等学校では,当用漢字がじゅうぶんに読め,おもな漢字が正しく書けるようにするとしている。
  • (エ)すでにある地名・姓名については,当用漢字表以外の漢字でもそのまま使っている。新しくつける子の名に用いる漢字は,戸籍法および同施行規則において,当用漢字表および人名用漢字別表に掲げる漢字に限ることとされているので,それ以外の漢字は使用できない。
  • (オ)専門用語については,当用漢字表を基準として整理することが望ましい(当用漢字表の使用上の注意事項)とされているが,学術用語については,文部省の学術用語の審議会で,各分野ごとに審議され,すでに実施されている分野もある。

  イ 当用漢字音訓表

  •  法令・公用文では,当用漢字表の場合と同様に制限的に実施されている。新聞では原則はこれによっているが,「慣用表記」(「海女」を「あま」と読むようなもの。)を認めているほか,実際の紙面ではある程度自由な音訓が使われている。教育・雑誌および一般社会における実施の現状は,当用漢字表について前記(イ),(ウ)において述べたところと同様である。

 (2)改善の方向

  •  当用漢字表および当用漢字音訓表の改善の具体策については漢字部会の審議にまつものであるが,その改善の方向として次のように考える。すなわち,当用漢字表および当用漢字音訓表については,前記第1まえがきにしるした基本的な考え方にたって厳格に制限的なものとせず,基準とすることが妥当と考える。ここで基準という意味は,今後文章を表記するにあたって,なるべく当用漢字表に掲げられている漢字または当用漢字音訓表に掲げられている音訓でまかなうことであって,これ以外のものは,どの字,どの音訓でも使用を禁止するものではないが、なるべく用いないようにしたい。つまり,努力目標としてこれを尊重するという趣旨である。
     法令・公用文はもとより,公共的性格を有する一般の新聞・雑誌等においても,当用漢字表および当用漢字音訓表を基準として尊重することが望ましい。
     義務教育や高等学校教育の場における漢字および音訓の取り扱いについては,教育的見地にたった考慮を払うとともに,一般社会との関連にも留意して慎重に検討すべきものと考える。

2 送りがなのつけ方および現代かなづかいについて

 (1)送りがなのつけ方

  •  実施の現状や改善策については,目下かな部会で検討中であるから,その結果に譲ることとしたい。送りがなのつけ方は,当用漢字表のような範囲やわくの問題ではなく,標準的な規則をたてる性質のものであり,現行の告示においても,これを「標準」・「よりどころ」とすると述べて,制限的な色彩をもってはいないので,「標準」・「よりどころ」とするという考え方については,おおむね現行どおりとしてさしつかえないものと認める。

 (2)現代かなづかい

  •  現代文のうち口語体のものについてはほとんどすべての分野にわたり適用されている。その改善策については,かな部会の審議にまつこととしたい。現代かなづかいも,送りがなのつけ方と同様に,範囲やわくの問題ではなく一定の規則を定める性質のものであり,現行の告示のまえがきにも,現代語をかなで書きあらわす場合の「準則」を示したものとされており,「準則」とする考え方については現行どおりとしてさしつかえない。

第3 国語施策の方法について

  1.  訓令・告示の法的性格
     訓令は,上級行政庁が下級行政庁の権限の行使を指揮するために発する命令であり,上級行政庁との関係において下級行政庁を拘束するにすぎず,一般国民を拘束するものではない。
     告示は,公の機関がその決定した事項その他一定の事項を広く一般に知らせる方法の一つで,その内容が法令に基づく指定・決定その他の処分である場合には法令の補充としての意味をもつが,その他の場合は短に公示するにとどまるものである。
     訓令・告示は,通常は,各大臣,各委員会および各庁の長官が国家行政組織法第14条により発するものである。内閣も内閣法第6条により内閣訓令を,また従来の慣行により内閣告示を発することがある。この場合,内閣訓令は,政府部内で実施することを指示するものであるが直接国民を拘束するものではない。また,内閣告示は,内閣が必要と認めた事項について一般に知らせるために公示するものであり,従来の国語に関する内閣告示は,法令に基づく指定・決定その他の処分ではないから法令の補充としての意味をもつものではなく,単に公示するにとどまるものである。
  2.  訓令・告示による実施に際しての注意
     訓令・告示という方法で国語施策を実施する場合は,上記のような訓令・告示の法的性格上一般国民に対する強制力をもつものではないが,その表現のいかんによっては,一般国民に対して強制力をもつかのような誤解を生ずるおそれがあるから,今後この点は注意しなければならない。
     また,訓令・告示で実施された国語施策の内容を戸籍法施行規則など他の法令が取り入れる場合には,強制力をもつにいたるので,このような場合は,関係者において慎重な配慮をすることが望まれる。
  3.  実施の方法
     国語施策の実施を一般社会に周知徹底させる方法については,政府の責任において考慮すべき問題である。それには,「内閣告示」によるほか,「閣議決定」・「文部省告示」・「文部大臣の決定」・「国語審議会の決定」などの方法が考えられるが,これまでの経緯や一般社会への周知徹底などを考慮すれば,内閣告示によるほかはない。したがって国語施策の実施は,従来どおり内閣告示・内閣訓令の形式によることが適当と考えられる。この場合,一般国民に対して法令的な拘束力をもつかのような表現は厳に避けるべきである。

第4 おわりに

 われわれは,戦後の一連の国語施策が国語の平明化,児童・生徒の学習負担の軽減などの点に果たした貢献を認めるのにやぶさかではない。しかし,戦後の国語施策は諸般の事情によりいささか性急に行なわれたために,その内容や訓令・告示の表現等において必ずしも妥当でないものも認められるので,これらの点について改善を加えるべきである。この場合,国語施策がすでに20余年にわたって実施され,国民の間に相当普及していることを考慮して慎重に行なうべきである。また,国語の美しさ・豊かさ・正しさ・厳密さが保たれるように配慮すべきである。
 なお,戦後の国語教育については,言語・文字の教育の面でじゅうぶんな成果があがっていないと見受けられるので,この面における改善強化に特段の措置を講ずる必要があると考える。
 また,一般社会においても,ことばや文字をたいせつにし,国語を尊重し,愛護するような気風の徹底することが望ましい。

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