国語施策・日本語教育

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第72回国語審議会総会(昭和44.3.10)議事要旨

 庶務報告
 国語課長から昨年の12月7日に大阪で開催した「国語施策に関する意見を聞く会」の概要,および「国語表記に関する意見収集」の進行状況を説明した。
 議事要旨の確認
 前回の総会の議事要旨を確認した。
 各部会,小委員会の審議経過報告
 漢字部会長・かな部会長,および一般問題小委員会委員長から,それぞれ口頭で次のような要旨の報告をした。
(1) 漢字部会
 音訓に関する問題,字種・字数に関する問題,および字体に関する問題を検討した。音訓については,前期漢字部会での音訓の審議を継続して行なうこととし,具体的審議を進めるため「音訓に関する小委員会」を設置した。
 音訓の審議では,
 ア 一般社会を対象として考えることを確認する。
 イ 義務教育期間中に必ずしも学習させなくてもよいものを考えておく必要がある。
 ウ 音訓は語の表記のため,換言すれば正書法として必要なものである,というようなことであった。また,
 工 読むために必要な音訓や,漢字の意味の理解を助けるのに必要な訓も考慮する必要がある。
 オ また,正書法を示す,いわば表記辞典,あるいは語表記一覧表とでもいうべきものと,いちいちの漢字に即した音訓表というものと,この二つを別々につくるべきである。
 というような意見が出てきた。このような問題をふまえながら1,850字の1字1字について音訓をみてきた。字種・字数については,
 ア 漢字表の作り方。(3種ぐらいつくることを考えてみる。)
 イ 当用漢字補正資料の取り扱い。
 ウ 府県名,都市名等の固有名詞に用いる漢字。
 工 漢字の「読み」と「書き」の指導の問題。
 が話題として出た。
  次に,字体については,
 ア 中国の簡体字と日本の略字との関係あるいは関連づけ。(両方関連づけることはむずかしいだろう。)
 イ 当用漢字表の字体と表外字との関連。
 ウ 略体の字をもっと採用するかどうか。
 工 活字の字体と筆写の字体との関連。
などについて話し合い,それぞれの問題点についての認識を深めた。
(2)かな部会
 前期のかな部会の成果をそのまま受け継いで審議した。まず,送りがなの審議の対象を,現代国語を書き表わすためのものであって一般社会で用いられるもの,かつ,現行の当用漢字音訓表の範囲内で書き表わせる語を書くためのものに限定した。審議方法としては,前期にまとめられた「送りがなのつけ方に関する審議のための語の分類表」による語例審議を通し,各語群に共通する基準として考えられる一般的法則を考えていくという方法をとった。そしてこれまでに単独の語の語群のひととおりの審議を終えたが,次回からは複合の語の語群の審議にはいる予定である。なお,単独の語の語群の審議の過程で出てきた一般的な法則についてのおもな考え方としては,できるだけ単純包括的なもので原理的に一貫できるものが望ましいということから,次のような考え方がでた。
 ア 活用語は活用語尾を送る。
 イ 自他の対応関係や派生関係にある語は,もとの語の活用語尾にあたる部分から送る。
  ただし,このア,イの原則だけで処理しようとすると,社会的慣用等の上から,著しく抵抗が感じられ,また混乱を招くおそれもあるので,なんらかの措置を講ずる必要がある。
 ウ 接尾語的成分を伴っている語は,その部分から送る。
  ただし,この考えは,接尾語的成分をどうみるかという基本的な問題があるので続けて検討する。
 エ 本来の名詞は,原則として送りがなをつけない。
  ただし,語によっては必要に応じて送ることをあわせ認めることが実際的であろう。
 オ 副詞・接続詞・連体詞等は現行どおりとする。
 カ 動詞の連用形の名詞的用法のものは,動詞の意識の強いもの,名詞の意識の強いものという分類はせず,できれば送りがなをつけるというようなことで統一し,基準を明らかにしたほうがよくはないか。
(3) 一般問題小委員会
 「国語施策と教育との関連」について審議することとし,あらたに学校教育関係者の委員を審議に加えた。一般社会の「基準」と関連して教育をどのように考えるか,当用漢字別表の性格をどうみるか,今後,これをどう取り扱うかなどの問題に論点を絞って検討した。なお,この問題に関して,改訂学習指導要領の問題や国語審議会と教育課程審議会との関連についても検討を進めた。まず,当用漢字別表は,その制定当時は,一般社会で用いられる当用漢字を別表の程度にまで減らしていきたいという考え方が強かったが,現在では,そのようた考え方は薄らいできている。義務教育で取り扱う漢字は,一般社会で用いられる漢字の基礎となるべきものと考える。また,当用漢字表を「基準」とするいう考え方に対して,義務教育の場合は,「基準」と考えるべきであるが,それは「最低基準」という考え方が必要で,これだけはどうしても教えなければならないというものである。次に義務教育での漢字の「読み」と「書き」について,読み書きともに習得させるか,「読み」と「書き」を分離するかということが問題になった。読むことに対して必ず書くことを要求するのは疑問ということに対し,学習の段階では正確に書くことができないと,読みの認知も不正確となるから,少なくとも小学枚の低学年での漢字の読み書きは一致させていくのがよいという意見が出ていた。ただし,上級に進むにしたがって自然に読み書きの習得は分離していくことが考えられる。音訓については,いわば義務教育で用いる音訓表のようなものを設ける必要があろう。また送りがな・かなづかいの問題については。一般社会とのずれがないほうが望ましいが,学校教育の独自性を考慮して幅をもたせることも必要であろうという意見があった。最後に今後,義務教育で取り扱う漢字の検討は教育課程審議会と密接な関連を保っていかなければならないということであった。
(注:各部会および小委員会の審議経過報告の全文は議事要録に掲載してある。)
 自由討議
次のような意見,要望等があった。
(1) 小委員会報告に関して,漢字の「読み」,「書き」の指導は,小学校では同時に行なうほうがよいということは,結論に達したのではないと思う。漢字の「読み」,「書き」分離指導についての検討は,一般問題小委員会でも,もう少し煮つめてほしい,適当な機関で研究されるようお願いしたい。表意文字である漢字については,書く指導はあとまわしにして,読むことを先に指導してよいのではないかと思う。
(2) 漢字指導の問題は,明治以来の歴史をもつもので,国語教育はもとより日本人の言語生活にもつながる大きな問題である。結論を急ぐことなく慎重に研究してほしい。
(3) 漢字指導の問題は,すでに解決している問題ではないかと思う。低学年は「読み」,「書き」並行でなければ確実な漢字知識は身につかないし,学年が進めば自然に「読み」が非常に多くなり,そこからまた書くことの習得もできるというのは,過去の経験からも常道のことである。あらためてこの問題を研究することは比較的意義が少ない。なお,国語審議会が国語施策の検討をするときに教育のことを考慮するのはだいじなことであるが,国語教育の問題は,別の機関でやることが適当と思われる。
(4) 幼稚園の子どもでもテレビを通じて漢字が読める時勢である。過去には議論にならなかった問題も,今日では議論するに値する問題と思われるので,国語環境と国語能力についての研究をお願いしたい。
(5) 小委員会で漢字の指導法の問題を論議したのは,当用漢字別表の性格論とのかかわりあいにおいてである。けっして漢字学習の教育方法論にまで立ち入って検討しようというものではなかった。
(6) 小委員会報告に,義務教育における「最低基準」ということばが出てくるが,これは当用漢字表における「基準」ということばと紛らわしくなる。別のことばに改められないか。
(7) 小委員会における当用漢字別表の検討は,漢字部会で話題となっている第1,第2,第3基本漢字といったことと関連させて考える必要がある。
(8) 小委員会では,日本国民の将来における言語生活というか文字生活についての理念を,かつてのいわゆる国語白書のような形で示すべきである。
(9) 小委員会では,両部会の相互的な交流というような問題について考慮してほしい。
(10) 現行の「送りがなのつけ方」の成立以来,今日までの時代的変遷をみても,その間に全体を通して大きな変化が見受けられる。今後は,原理的に説明のつくことで徹底させるような方向で検討してほしい。
(11) 送りがなの審議も,国語の本質から議論すると相当の期間がかかる。当面の社会的要望に基づいて審議をしているが,漢字部会で漢字の字数や音訓の決め方についてのだいたいの方向だけでも示してもらえれば,送りがなの審議もやりやすいと思われる。なお,漢字の字数や音訓を決めるについては,日本語の基本語い的なものが必要と思う。このため現代社会の流通語いについての調査研究を行なってほしい。
(12) 科学的な審議,能率的な審議が可能になるような調査資料をそろえてほしい。
(13) 国語審議会である程度世間に示すことのできる素案ができた場合に,それを世間に公表して反響を聞き,さらに仕上げていく方法をとりたい。
(14) 各部会,小委員会の報告の速記録をみてから質問したい。戦後の国語施策の反省をしている中で,方向づけについてかなりまとまった発言ができると思う。

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