国語施策・日本語教育

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次第 漢字部会(岩淵部会長)

前田会長

 次に,ただいまから部会および小委員会からの審議経過報告を承ることとする。なお,あらかじめお断わりしておくが,報告は,各部会とも審議の内容が,書面にまとめるまでには至っていないので口頭で報告される。まず漢字部会長からお願いする。

岩淵漢字部会長

 ただいま会長からお話がありましたように,部会として書面でまとめるほどのところまで至りませんでしたので,口頭で御報告申し上げたいと思います。漢字部会は8回開きました。そのほかに現行の当用漢字表の音訓を審議するため,音訓小委員会というものを,これも同じく8回開いております。御承知のように漢字部会の委員は22名で,総会でこの委員が決まりますと同時に部会を開きました。漢字部会の審議の中身は,前期の継続審議であるというたてまえで考えてまいりましたが,しかし新しい委員もだいぶ加わりましたので,これからどのように審議を進めていくかについて話し合いをし,特に少数の委員にお願いしまして,その後の運営についての話し合いをいたしました。
 その結果,漢字部会の中に,前期の審議を引き継ぐ音訓小委員会というものを設けることになりました。この音訓小委員会の委員といたしましては,前の期の阿部委員,石割委員,大野委員,小野(忍)委員,志田委員,柴田委員,中田委員,そのほかに新しく小野(昇)委員,それから実方委員,山田委員,それに私,全体で11名でございます。音訓につきましては,この音訓小委員会のほうで審議いたしました。しかしその前に漢字部会のほうで音訓についての基本的な考え方を討議しておこうということになりました。音訓について前期で行なってきた事がらを報告いたしまして,それに基づきまして音訓に関する基本的な態度について議論いたしました。音訓は一般社会のために考えるか,あるいは義務教育のために考えるかというようなことが前期で問題になりましたが,前期では一般社会のためであるということで仕事を進めてまいりました。このことは今回も前期のとおりであるということを確認するとともに,音訓につきましては,必ずしも義務教育期間に学習させなくてもいい特殊なものも多少あるのではないかということから,一般社会のためにと考えましても,その中には学校教育における学習には取り上げないというものも考えておくべきであるということでございました。念のために申し上げておきますが,一般社会と申しましてもその中身はだいたい新聞とか,放送などに用いる場合という考え方でございます。
 それからもうーつ,音訓については,これも大きな問題でございますが,前期から音訓というのは語の表記のためである,別のことばで言いますと,正書法として必要なものであるということから審議を進めてまいりました。これもこんどの漢字部会でだいたい確認されたと思います。この正書法のほかに,これも前期から問題になっていることでございますが,読むための音訓というものを考えるべきではないかという意見が出ました。それに漢字の意味の理解を助けるような訓も取り上げるべきではないか,ことに新しいことばをつくるという場合に,漢字1字1字の意味の理解というものがじゅうぶんでないと困るのではないかという意見が出まして,正書法のための音訓ということを考えると同時に,読むため,あるいは漢字の意味の理解を助けるためのものを考慮すべきだという意見が出ました。ことに柴田,山田両委員からは,この際,正書法を示す,いわば表記辞典,あるいは語表記一覧表とでも言いましょうか,そういうものと,いちいちの漢字に即した音訓表というものと,この二つを別々につくるべきであろうという考えが出てまいりました。これについても漢字部会でいろいろと議論いたしました。こういうふうな議論をもとにいたしまして,音訓小委員会のほうに問題を移しました。さらにきめの細かい議論をするため小委員会でも最初に正書法に関する問題と,それから漢字1字1字の音訓に関する問題ということについて話し合い,各委員からいろいろの議論が開陳されました。
 その結果,いちおう前期の続きをやることにいたしました。前期にやってきた仕事はまだ完全に終わっていません。といいますのは第8二期で審議をいたしました漢字の字数はだいたい800字ぐらいでございます。当用漢字1,850字のうち,わりに使用度数の多いものを最初に検討していくということで,使用度数の多い800字については審議をいたしました。そこで当用漢字全体について,いちおう目を通す必要がありますので,1,850字について目を通すということを始めたわけでございます。その場合に資料として取り上げましたのは,前期には主として国語研究所でまとめました雑誌九十種の用語・用字を材料といたしましたが,今回はそのほかに各新聞社などが実際に使っていたり,あるいは新聞社が使いたいと考えているようなもの,あるいは文芸家協会の意見,そのほか,各方面から意見や要望というふうなものも材料に加えまして,それをもとにして1,850字1字1字について検討を加えております。こういうように検討を加えていきますとそうとう時間がかかりそうなので,もう少し早く検討を済ます方法がないかというような意見も出ました。これは前期に御報告中し上げたわけですけれども,音訓というものを考える場合の考え方というようなものを最初にまとめましたし,最後の総会のときには,その中での原則的なことを幾つか考えてみました。そういうものにつけ加えまして,今期の小委員会でもいろいろ原則的な考え方が出てまいりましたので,そういうものをまとめまして,その原則的なもので処理ができるものは処理してしまう,それが処理できないものについては議論をするということで検討を進めれば,あるいはもう少し仕事が早く進むのではなかろうかという考え方を,現在いたしております。この会の途中では,進行について違った意見が出ましたけれども,いちおうさきほど申し上げましたようなことで現在進行いたしております。だいたい1,850字のうちの約5分の1か,6分の1程度の検討がすんだというようなところでございます。

岩淵漢字部会長

 音訓につきましてはそのぐらいにいたしまして,そのほか漢字部会としては漢字の字数の問題,すなわち現在の当用漢字は1,850字,その中の教育漢字881字ということになっておりますが。この漢字表というものを組み上げるのにはどのようにしたらいいかというようなことが問題になっております。前期の第8期にも漢字表の組み上げ方につきましては意見がありましたが,それを引き継ぎまして,今回も漢字表の組み上げ方をどうするかということを議論いたしました。これは漢字部会で特別に小委員会を設けずに,全体の漢字部会で取り上げました。その中で具体的に出てまいりましたことは,漢字表というものはだいたい3種ぐらいつくることを考えていくということ,それと少し違ったことでございますけれども,現在当用漢字の補正案28字というものが出ておりまして,これは案であって,正式なものになっておりません。正式な名称は補正資料だったかと思いますが,これは正式に当用漢字の中に組み込まれておりませんので,その補正資料の28字の処置,それから当用漢字表以外のもので府県名を表わすものとして特に重視すべき字が14字あります。また,大都市の名まえを表わすのに必要なものとして30字ないし35字ぐらいあるけれども,それをどうしたらいいかという問題も出てまいりました。それに関連いたしまして,現在,教育の方面で漢字の指導の場合に読み書きを同時に指導するという方法をとっておりますけれども,これを改めたらどうか,あるいは改めることを考えるような研究をしてみたらどうかという意見が出ております。この字種,あるいは字数につきましての問題は,漢字部会は1回行なっただけでございます。
 そのほか漢字部会では字体について3回ばかり検討を続けてまいりました。漢字の字体にはいろいろ問題があることは御承知のとおりだと思いますが,この字体についてどういう問題があるのかを明確にはあくするということに努めました。特に山田委員から字体に関する問題点を提起していただきまして,それを中心にして論議いたしました。現在のところは,この字体につきましては問題点を洗っている,みんなで考えているというところでございますが,その中で特に話題になりましたことを二,三御報告申し上げます。たとえば中国の簡体字と日本の略字のそれぞれの性質,両者の関係,あるいは関連づけということについての問題,ただし,漢字部会での議論では,両方関連づけるということはむずかしいだろうという話が出ました。このことについてはだいぶ前の国語審議会でも議論になったことがあるように記憶しております。
 そのほか,当用漢字内の字体と,表外字の字体との関連について,これをそのまま放置しておいていいのかどうか,関連づけることを至急考えなければいけないのではないかということもございます。具体的にいいますと,当用漢字表内の字体では,「しめすへん」は「ネ」の字になっておりますけれども,表外の字は「示」になっております。そういうような違いをこのまま放置しておいていいのかどうかという問題でございます
 それから略体の字をもう少しふやすといいますか,略体の字をもう少し検討してみる必要があるのではないかという意見も出ました。
 もう一つは活字の字体と書写の字体のことであります。これが現在,国語審議会,あるいは文部省から出ております字体表では活字の字体と,書写の字体をなるべく一致させるという方向で考えられておりますが,活字の字体は目で見るものであるし,書写のほうは手で書くものでありますから,それは別であってもよくはないかという意見も出ましたし,やはりそれは関連させたほうがいいという意見も出ました。いずれにしましても,活字の字体と書写の字体について詳しく考えてみる必要があるだろうという意見が話題として出ました。
 以上のようなことで字体の問題は終わっておりますが,この字体に対しては,さらに資料を整備しまして議論をしないと,どうも実りがないのではないかという意見が出まして,漢字部会としては,しばらく字体のほうはお預けにしまして,そのあいだに資料をいろいろ整えることとし,漢字部会の当面の仕事としましては,現在,音訓小委員会で進行しております音訓についての問題などについて議論するということをしたらどうだろうかという意見が出ております。現在までの経過はだいたい以上のとおりでございますけれども,非常に簡単に申し上げましたので,落としていることもたくさんあるかと思います。まとめ方にもずいぶん問題があるかと思いますが,きょうは各委員が御出席でございますので,漢字部会の委員,あるいは音訓小委員会の委員から補っていただければ幸いだと思います。

前田会長

 ただいまの報告に関連して,漢字部会の委員の中から御報告を補う意味での発言があればお願いしたい。

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