国語施策・日本語教育

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第73回国語審議会総会(昭和44.12.5)議事要旨

 庶務報告
 国語課長から,委員の異動(昭和44年5月26日付けで平林委員が辞任,後任に田中(澄)委員を発令。昭和44年7月1日付けで遠藤(五)委員が辞任,後任に高橋委員を発令。)およびかな部会長の異動(昭和44年5月12日付けで村上部会長から佐々木部会長に交替。) ならびに文化部長の異動(昭和44年7月1日付けで小川部長から吉里部長に交替。)について報告した。
 議事要旨の確認
 前回の総会の議事要旨を確認した。
 学術審議会学術用語分科会からの連絡について。
 学術審議会学術用語分科会会長から国語審議会会長あてに「『キリスト教学』の用語の審査案を完成」した旨の連絡があった。
 現在,国語審議会が当用漢字表等について再検討中であるので,その連絡の内容について回答をすることはさしひかえるべきであるという意見が出たが,学術審議会と国語審議会とは別個の審議会であり,学術審議会の審議の進行をとどめるようなことも適当でないということから,おおむね次のような回答を会長名ですることとした。
 「よろしくお取りはからいください。なお,字種の問題については国語審議会でも検討中であることを申し添えます。」
 各部会,小委員会の審議経過報告について
(1) 漢字部会長から当用漢字の音訓について,おおむね次のような報告があった。
 ア 前提となる考え方
 (ア) 「制限」ではなく「基準」を定めるものである。
 (イ) 一般社会で現代の日本語を書き表わすためのものである。語または語の成分を書き表わすものとして漢字の音訓を考えるものである。
 (ウ) 現行の当用漢字表1,850字の範囲内に限って取り扱う。将来,当用漢字表が改定された場合には,音訓もふたたび検討する。
 イ 選定の方針
 (ア) 現代語を書き表わすのに必要の高いものを採用する。使用度数,使用範囲,機能度などの観点から考慮する。
 (イ) いわゆる異字同訓はできるだけ避けるが,使用上漢字で区別する必要があると考えられるものは採用する。
 (ウ) もっぱら副詞または接続詞にだけ使われる訓で,特に必要なものは採用する。
 (エ) 「金物(かなもの)」,「納得(なっとく)」,「海女(あま)」,「景色(けしき)」のような類は漢字で書き表わせるようにする。
 ウ 音訓検討の手順
 (ア) 1,850字の音訓整理表の検討,異字同訓の検討,副詞・接続詞を表わす訓の取捨。
 (イ) いわゆる熟字訓の取捨。
 (ウ) まとめの形式(使用上の注意事項を含む。)の確定。.
(2) かな部会長から送りがなのつけ方について,おおむね次のような報告があった。
 ア 基本的な考え方
 (ア) 現代国語を書き表わすためのものである。
 (イ) 一般社会を対象とする。
 (ウ) 標準を示すものである。
 (エ) いちおう,当用漢字音訓表の範囲内で検討する。
 (オ) 現行の「送りがなのつけ方」のまえがきにある三つの方針(1 活用語およびこれを含む語は,その活用語の語尾を送る。2 なるべく誤読・難読のおそれのないようにする。3 慣用が固定していると認められるものは,それに従う。)については,1を原則とし,2,3はただし書きとして扱うことが適当である。また,法則の不統一,複雑さを是正する。送りすぎにならないようにする。
 (カ) 原則として,できるだけ単純包括的な法則,しかも,原理的に一貫した法則にまとめることを第一とする。あわせて,社会的慣用を重視し,また,送りすぎにならないようにじゅうぶんに考慮する。
 (キ) 1語について,二様(三様)の送りがなが考えられる場合には,それぞれの送り方を認めてもよいと考える。この場合,(1) 一方を本則とし,他方を「……することができる。」と許容にするか,(2)両者を全く平等に取り扱い,たとえば「どちらでもよい。」とするか,の二つの考え方がある。
 (ク) 具体的適用に際して,ある程度のゆとりをもたせるために,一般的に,他の語と区別する必要があるときは,多く送ることができる。また,他の語と紛らわしくない場合は,送りがなを省略することができるとしてはどうかという意見がある。
 (ケ) 以上を通じて 最も基本的な原則は「活用語尾を送る。」ことである。これについては,「活用語尾を含め,付属的成分として,語の基本的部分から切り離すことのできる部分を送る。」と考えたいという意見がある。
 (コ) 法則の具体的適用については,「用例集のようなものを示すことが,一般社会には必要である。」という意見がある。
 イ 今後のおもな問題点
 (ア) 対応関係,派生関係にあるとみられる語の処理。
 (イ) 動詞と関連があると思われる名詞の処理。
 (ウ) 複合語の処理。
(3) 一般問題小委員会委員長から国語施策と教育との関連について,おおむね次のような報告があった。
 ア 義務教育において指導すべき漢字の字種は,一般社会に用いられる。もののすべてでなく,その中の基礎的なものを基準として定め,それに基づいて指導することが適当である。
 イ 義務教育において指導すべき漢字の基準は最低基準と考えるべきである。
 ウ 義務教育において指導すべき漢字の音訓についても字種と同様と考える。
 エ 送りがなのつけ方については,義務教育と一般社会とで一致していることが望ましいが,教育上の配慮を認めることも考えられる。
 オ 義務教育における漢字の読み書き指導について,読みを優先させるべきか,読み書き並行で行なうべきかについて両様の意見があるが,これについては文部省で種々の観点から慎重に検討されることと了承して小委員会としての審議を終えた。
 (注:各部会および小委員会の審議経過報告の詳細は,議事要録に掲載。)
 なお,この報告について,次のような質疑応答および意見があった。
 (1) 熟字訓(久遠(くおん)・海女(あま)の類)については音訓表に出てくる個々の漢字ごとに示すのか,それとも熟字訓の項を設けて示すのかという質問があった。これに対して現在,漢字部会でも論議中のことで,今後に残された問題点であるという回答があった。
 (2) 漢字部会では音訓について「基準」といい,かな部会では送りがなについて「標準」といっているが,「基準」と「標準」という別々のことばを用いた理由,および意味の違いについて質問が出た。これに対して「基準」は,当用漢字表の告示にある「範囲」という制限的な表現を排除する意味で用いたものであり,「標準」は,「送りがなのつけ方」の告示にある「標準」ということばをそのまま用いたものであるという回答があった。これに関して,もともと音訓と送りがなは性格が違う事がらであるので,その考え方を示す表現にも違いが生ずることも考えられるのではないかという意見があり,また,ことばを統一するか,あるいは中身を検討してことばを決める必要があるという意見があった。
 (3) 一般問題小委員会の報告で述べられた考え方は,ア 昭和44年に告示された中学校学習指導要領でいっている漢字の指導について,別に義務教育で使用する最低の基準というようなものを設け。それに基づいて指導すべきだというのか,イ それとも審議会で検討しているこれからの字種,音訓の中から,将来,義務教育で指導すべき最低基準を考えるべきだというのかという質問があった。これに対して後者の意味であるとの回答があった。
 (4) 一般問題小委員会の報告によると,漢字指導については「書き」が正確でなければ「読み」の認知も不正確になるという意見も出ているようであるが,はたして,こういう見方が正しいかどうか,また,文部省では,この実験調査について種々の観点からどのように検討するのかという質問があった。これに対して,文部省初等教育課長から国語審議会の意向を受けて,今後検討していきたいという回答があった。また,今後も一般問題小委員会では,この問題を継続して検討していくべきだとの意見が出た。
 (5) 慣用の固定ということが問題になっているが,なにをもって慣用とするかというような判定基準の資料もしくは方法があるものかどうかという意見があった。これに対して,「現代雑誌九十種の用語用字(国立国語研究所)」に現われた使用度数も,その判定の材料の一つであろうという意見があった。
 (6) 音訓表の検討が今任期中に終わる見通しがあるかという質問が出たが,これに対して,そのように努力しているし,いまの予定では,2月じゅうに部会としてのまとめをつけたい予定を立てているということであった。
 専門調査員の任命について
 部会の審議を促進するために専門調査員を置くこととし,国語審議会令にいう「意見」については,関係部会の意見を総会の意見とすることとし,手続き等は会長に一任することとした。
 「審議を能率化するためのメモ」(木内委員)について
 木内委員から審議の能率化をはかるために,これまでの部会審議にみられるような具体的な末端からの研究よりも,まず,(1)当用漢字音訓表,(2)送りがなのつけ方,(3)現代かなづかい,(4)当用漢字表のそれぞれについて「採用すベき原則を探る」ことが必要であるという意見が述べられ,採用すべき原則について説明があった。そしてこの「採用すべき原則を探る」ための委員会を一般問題小委員会とは別に設けてほしいという提案があった。
 この提案については。その趣旨には賛成であるものの,すでに両部会とも,基本的には原則のことを考えながら国語審議会として任期内になんらかの成果を得るよう積極的な審議を進めている以上,その努力に待つほうがよいということとなり,審議を促進するため,部会としていっそうの努力をすることになった。
 なお,審議の能率化に関連して,審議を促進するためには,各種の強力な調査機関が必要であり,国語審議会は国立国語研究所とは別に,実際的な活動が期待される調査機関をもち,委員は,その客観的な資料に基づいて審議すべきであるという意見が出た。
 (注:木内委員の提案の全文は,議事要録に掲載。)
 「国語施策と国語教育との関係に関する一提案」(阿部委員)について阿部委員から国語施策と国語教育との関係を明確にせよという提案があり,特に,「国語教育は,過去のすぐれた言語文化を享受し現在の読み書き能力を高め,未来を開く目標を有するものであって,」当用漢字表のような書くための「当座用のもの」であってはならないという見地から、問題点の事例等について説明があった。
 この提案については一般問題小委員会で取り上げることとした。
 (注:阿部委員の提案の全文は,議事要録に掲載。)

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