国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第9期国語審議会 > 「送りがなのつけ方(案)」(部会報告)

「送りがなのつけ方(案)」(部会報告)

前田会長

 引き続いて,かな部会の報告をお願いする。

佐々木かな部会長

 かな部会の報告は,「改定送りがなのつけ方(案)」にまとめ,参考資料として「現行の『送りがなのつけ方』と『改定送りがなのつけ方』との対照表」を作成した。そして「改定送りがなのつけ方(案)」は「前文」と「改定送りがなのつけ方」とからなる。「前文」は,先の両部会の合同会議で出た意見をも取り入れて多少修正した点もある。また,「改定送りがなのつけ方」そのものにも,修正部分,あるいは新規に加えた部分があるので,いちおう要点だけを説明する。
(国松国語課長,以下の,「改定送りがなのつけ方(案)」の「前文」を朗読。)


前   文
1  性格
「改定送りがなのつけ方」の性格を次のように考えた。
(1) この「改定送りがなのつけ方」は,法令・公用文書・新聞・雑誌・放送を含む一般の社会で,現代の国語を書き表わす場合の送りがなのつけ方のよりどころを示すものである。
(2) この「改定送りがなのつけ方」は,当用漢字改定音訓表の音訓によって語を書き表わす場合の送りがなのつけ方を示すものである。
2  改定の方針
 現行の「送りがなのつけ方」に対する社会のさまざまな意見や批判を考慮して,次のような改定の方針を立てた。
 法則をできるだけ簡明にするとともに,一貫性を保つようにする。
 ただし,
(1)慣用を尊重する。
(2)表記上の実際に即して弾力性をもたせるようにする。
3  内容
 この「改定送りがなのつけ方」は,次のように,本則,例外,許容の三つに分けて考えた。
(1) 本則
 言語の表記に関する基本となる法則は,言語の性格とその実態に基づくものでなければならない。
 この基本的な考え方から,わが国の言語(国語)と漢字を産み出した中国の言語とを比較すると,活用という語形変化が国語にはあるのに,中国語にはない。したがって,国語の語形変化の部分(活用語尾)を表わす漢字がないのは当然である。そこで,活用語尾を表わすためには,漢字を表音的に用いない限り,表音的なかなを用いることとなる。ここから必然的に,「活用語は,その活用語尾を送る。」という送りがなの最も主要な原則が導き出されてくる。また,これに関連して,「活用のない語は,送りがなをつけない。」という本則を立てることができる。
 また,表音的な文字であるかなには,漢字に添えて用いられる場合に,漢字の読みを助ける働きがある。このことから別に,「副詞・連体詞・接続詞は,最後の音節を送る。」という本則などが成り立つ。
(2) 例外
 送りがなのつけ方における法則は簡明であり,かつ,一貫して適用できるものであることが理想である。しかしながら,社会で既に長い間自然に行なわれて慣用の固定しているものの中には,本則を適用できないものが多分に存在する。
 また,一方,法則を一貫して適用しようとすると,かえって,読みまちがえるおそれのあるものが出てくる可能性も多分にある。
 そこで,これらの現実を直視して,通則ごとに例外を設けて,その処理について次のような方針を立てた。すなわち,例外とすべき事項について,ある分類基準の立てられるものは,その基準に従って処理し,分類基準の立てられないものについては,個々の語をあげて,その用例を示した。
(3) 許容
 慣用が固定しているかどうかの判定は微妙であって,個人個人の判断がまちまちである場合が非常に多い。二とおり以上の送り方が行なわれている場合,これを一つの送り方に限定することは慣用を軽視することとなる。そこで,ある場合には,二とおり以上の送り方を採用することとした。ただし,このように一つに定めがたいものでも,将来への統一を志向する意味で一を本則とし,他を許容とした。
 読みまちがえるおそれがあるかどうかについても,常にそのおそれがあるものと,文脈によって,また,場面によっては必ずしもそうでないものとがある。本則を適用したときに,読みまちがえるおそれのあるときは,本則の送りがなにさらにかなを加え,そのおそれのないときは,本則の送りがなの一部を省くことを許容することとした。
4  構成
(1) 「活用語は,その活用語尾を送る。」を最も主要な原則とし,これに付随して生ずるものを加えて,9項の通則を立てた。通則ごとに必要に応じて,例外,許容を設けた。
 これらの関係は,次のようである。
    通則
    本則
    例外 「ただし,……。」とし,本則によらず,これによることを示した。
    許容 「なお,……。」とし,本則のほかに,これによってもよいことを示した。
 なお,これ以外に留意すべきことを「(注意)」として掲げた。
  (2) 適用する語の分類を品詞別にしないで,便宜上,大きく「単独の語」と「複合語」とに分け,さらに,これを「活用語」の場合と「活用のない語」の場合とに分けた。なお,ここでいう「単独の語」とは,漢字1字の音または訓を単独に用いる語をいい,「複合語」とは,音または訓を複合させて用いる語をいう。
5  運用
(1) この「改定送りがなのつけ方」を,法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等で用いるにあたっては,これをよりどころとして,各分野で必要に応じて,一貫した運用が行なわれることが望ましい。また,学校教育への適用は,教育的配慮を加えて行なわれることが望ましい。
(2) この「改定送りがなのつけ方」は,文章を書き表わす場合のよりどころになるものである。漢字を記号的に用いたり,表に記入したりする場合などは,これによらなくてもよい。
(3) この「改定送りがなのつけ方」は,人名・地名等の書き表わし方を対象としていない。
6  現行の「送りがなのつけ方」との比較
(1) 現行の「送りがなのつけ方」では,「活用語およびこれを含む語は,その活用語の語尾を送る。」,「なるべく誤読・難読のおそれのないようにする。」,「慣用が固定していると認められるものは,それに従う。」の三つの方針を並列させて掲げ,通則の立て方もこの三つの方針を織り込んで処理している。この「改定送りがなのつけ方」では,「活用語は,その活用語尾を送る。」ことを最も主要な原則とし,これに付随して生ずるものを加えて,9項の通則を立てて法則に一貫性を持たせた。もちろん,「誤読・難読のおそれのないようにする。」ことと,「慣用を重んずる。」こととは,じゅうぶん考慮に入れ,特に許容の範囲を現行より広くした。
(2) 現行の「送りがなのつけ方」は,法則が複雑多岐で理解しにくいとの一般の批判にかんがみて,この「改定送りがなのつけ方」では,極力,単純化,簡明化を図った。すなわち,現行の「送りがなのつけ方」が26項の通則から成っているのに対し,この改定では9項の通則にまとめた。これは,現行のものが品詞別に定めたものであるのに対し,今回は,「単独の語」と「複合語」,「活用語」と「活用のない語」に大別して定めたことによるものである。
(3) 「改定送りがなのつけ方」は,現行のものに比べて大幅に許容の範囲を拡大した。これは,法則の一貫性を保ちながら慣用を尊重するとともに,送りすぎにならないようにとの配慮を加えたためである。なお,慣用については,古くからの慣用を尊重するとともに,現行の「送りがなのつけ方」についても,その使用が定着しつつあると認められるものについては,これを新しい慣用として尊重することとした。 
 また,誤読・難読についても,文脈・場面の上から,そのおそれがあるかないかによって本則によらなくてもよいことにした。

佐々木かな部会長

 本日の報告内容と,これまでの合同会議等で報告した内容とのおもな変更部分を説明したい。まず「前文」から取り上げる。
 「1性格」の(1)に「…送りがなのつけ方のよりどころを示すものである。」とあるが,この「よりどころ」という表現にしたのは,最初,かな部会では「標準」ということばを用いようとしたが,漢字部会の「基準」ということばとの違いが論議になった。その結果,両部会とも「目安」に変更しようということになったが,これについても,また意見が出て,結局,「標準」ということばはややもすると誤解を受けやすいので,「よりどころ」という弾力性のあることばにしようということになったものである。
 (2)の「当用漢字改定音訓表の音訓によって……。」という表現は,合同部会での案では( )書きにしていたことを平たく書いたものである。   
 次に,「2改定の方針」については,表現を改めた。「規則をできるだけ簡明にするとともに一貫性を保つようにする。」という柱を立て,これにただし書きをつけた。また,「(2)表記上の実際に即して弾力性をもたせるようにする。」とあるのも,前回の合同部会で意見があったので表現を改めた。
 「3内容」の「(1)本則」は,ある程度,詳しく説明することとしたが「(2)例外」,「(3)許容」の説明部分にはそれほどの修正はなかった。「4構成」,「5運用」,「6現行の『送りがなのつけ方』との比較」も同様である。
 「改定送りがなのつけ方」は,従来の品詞別の分類ではなく,便宜上,大きく「単独の語」と「複合語」とに分け,さらにこれを「活用語」の場合と「活用のない語」の場合とに分けて構成した。そして「単独の語」の「活用語」を受けて「通則1」と「通則2」がある。
 「通則1」のほうは単純な活用語,「通則2」は,やや複雑な活用語といったところである。また,「通則1」の中に「ただし書き」として例外が,「なお書き」として許容が規定されている。「通則1」で,現行の「送りがなのつけ方」と違っている点は「表す(表わす)」,「著す(著わす)」,「現れる(現われる)」,「行う(行なう)」の類である。
 現行では,かっこ内の送り方になっているが,この点についてはいろいろ議論があった。しかし,要は,なるべく活用語は活用語尾を送るという法則の一貫性を尊重するということで,今回はこういうことになった。
 ただ,現行の送り方も昭和34年の制定以来,ある程度定着しているということから,かっこ内のように,活用語尾の前の音節から送ることができるということを許容として取り上げることとした。いずれにしても,この点は,世論に問うたうえで最終決定にもっていきたいと考えている。
 「通則2」については,「なお書き」の許容あたりが現行と違うところである。「通則3」では,「ただし書き」にある「辺り,幸せ,便り,自ら」などが,現行と違う点で,これらは,今回,新たに音訓の加わったものである。また,なお書きで「公け」などを許容することにした。「通則4」のただし書きは,現行のもの以上に送りがなをつけないとするものを4段に分けて書いた。「通則5」については特に申し上げることもない。
 次に,「通則6」から「通則9」までは「複合語」に関するものである。「通則6」は主として複合の動詞または形容詞といった活用を伴った語である。これに対して「通則7」,「通則8」,「通則9」は,名詞である。「複合語」の中でも,特に複合名詞についてはいろいろと問題があり,議論の分かれるところもあったが,結果としては,このようにまとまったものである。法則のたて方からいえば,「通則9」などは「通則8」のただし書きになるべきものとも思われるが,(1)該当する語数が多いこと,(2)実際に世間で通用していること,(3)現行でもこうなっていること等を考え合わせて,特に「通則9」を設けたものである。
 時間の関係で細かく説明することはできなかったが,もし言いまちがいや補足する点があったら,かな部会の委員のかたから御発言願いたい。

トップページへ

ページトップへ