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第79回国語審議会総会(昭和47.5.24)議事要旨

 議事要旨の確認
 前回の総会の議事要旨を確認した。
 「改定送りがなのつけ方(案)」の審議
 かな部会長が報告した「改定送りがなのつけ方(案)」を審議し,答申の原案とすることを決定した。
(1) かな部会長から,審議の経過,案の要点,および,現行の「送りがなのつけ方」との相違などについて,おおむね次のとおり報告した。
 第8期国語審議会で,かな部会が設けられ,「送りがなのつけ方」を検討しはじめてから6年,その間に部会を104回,小委員会や整理委員会を25回,その他合同部会,説明会などを開き,このような「改定送りがなのつけ方(案)」をまとめた。
 審議の経過としては,現行の「送りがなのつけ方」に対する意見や批判の検討からはじめ,できるだけ簡明な法則で一貫するため「活用語は活用語尾を送る。」という法則だけで処理できるかどうかを審議し,次に,語の構成の上などからみて71の語群に分けて,群ごとに多くのことばにあたるという検討をした。そこから導き出された数か条の本則と,それに伴う例外,許容をまとめ,それを骨子として試案を作成した。
 第9期の最終総会では,総会の了解を得て,「改定送りがなのつけ方(案)」を,部会の試案として世間に公表した。第10期は,試案に対する各方面からの意見を参考にして試案の再検討を行ない,今回の案にまとめた。
 内容は,すでに説明会その他で,承知のことと思うので,ここでは要点を三つばかり述べる。
(ア) 適用範囲
 「法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など,一般の社会生活で」と改め,後に,漢字部会長から説明のあるように「当用漢字改定音訓表(案)」の前文と表現を合わせた。
(イ) 方針
 前文の〔方針〕にあるとおりである。具体的には,現行よりも許容を多くして,なお,許容の使い方にはいろいろ意見があったので〔運用〕の第1に,本則と許容の使い方を掲げた。ゆとりを持たせるようにしたことが今回の案の特徴である。
(ウ) 構成
 現行の「送りがなのつけ方」は,品詞別になっていて,26項の通則が掲げてあるが,改定案では,「単独の語」と「複合の語」とに分け,七つの通則にまとめてある。
 現行の「送りがなのつけ方」との相違については,参考として配った資料のとおりである。なお,試案との相違についていえば,前文が簡潔になっていることと,本文では,通則を試案の9項目から7項目にしたこととの2点が大きな点である。
(2) 案に対するおもな意見および質疑応答は,次のとおりである。
 これをそのまま答申案にすることは賛成できない。その第1の理由は,送りがなのつけ方は,わかりやすい,使いやすいものであるべきだが,「この『案』では,かえって,むずかしくするおそれがある。」との意見があったのに対し,それに対する考慮をしたようにみえない。
 第2は,通則7を通則として立てることが全体の構成上おかしいということである。また,通則7の内容を決めるためには,多くの語を調査すべきである。約1万6,000語を調査したとのことであるが,わたしの判断するところでは重複があるので,1万語以上調査していないように思う。普通の国語辞典は約7万〜7万5,000の語をおさめているが,その中に送りがなに関係のない語が約半分あるので少なくとも3万5,000語ぐらいは調べておく必要があると思う。また「慣用が固定していると認められるかぎり,類推して同類の語にも及ぼすのである。」といっているが,「慣用の固定」をだれが認めるのか。
 行き届かない発表をするということが日本語の表記を不安定にすると思う。法制局は,「案」をもとにして具体的な案を作るということだが,法制局や新聞社のように,そのための人と組織を持っているところはよいとして,国民の大ぜいもやはり正しく書きたいと思うだろうが,この「案」では満足に送りがなをつけることができない。あと2年かけてでも,2万〜3万ほどの語に1語1語あたって,「これはこう書く。」という表を作るべきである。ことに通則7を充実させなくてはいけない。
 「わかりやすく,使いやすいということがたてまえ」というのは,そのとおりである。かな部会には,言語学者も,国語学者も,国文学者も,国語教育学者も,報道関係のかたがたも,各方面の者が集まっている。そして,それぞれの立場で議論したうえで合意に達した。構成をこのようにしたのは,現行の品詞別よりわかりやすいと試案の際に賛成意見もあったためである。また,送りがなのつけ方を用例集で1語1語示すというやり方はとらず,法則で示すことにした。それは,送りがなのつけ方が用例集をみないとわからないのでは,望ましくないという考えからである。
 通則7は,前文にあるように,通則6に対して例外に当たるが,該当する語が多数にのぼるので,別の通則を立てたのである。また,慣用の度合いが強いという意見もあり,いろいろな点を考慮して,部会で最終的に一致した意見である。通則7の適用に迷う場合は,通則6によることにしている。もっと多くの語にあたるべきだという御意見だが,部会としては,資料による語をずっと見渡して検討した。これでほぼ類推できると思う。
 語例については,できるだけ多数あたるように努力した。しかし,送りがなのつけ方は,語数だけではいかないところがある。1語か2語検討しただけで,すぐ送りがなのつけ方の原則の問題にぶつかる。多数の語を集めたからといって,送りがなのつけ方が解決するわけではなく,実社会における送るか送らないかの資料がほしいのだが,それが容易でない。部会としては,できるだけ資料を集めて審議した。
 送りがなのつけ方の問題は,非常にむずかしいものである。しかし6年間かけて104回も会合を開いて審議し合意に達したものであるから,この際,この案を答申案として承認するのが妥当だと思う。国語の実態は流動的なものであって,ある時点で固定化して考えることはむずかしい。したがって,慣用を重んじながら弾力的にこれを考えていくという答申案の方針は,妥当だと思う。いちおうけりをつけ,数年おいて,国語の慣用が変わったならば,また,取り上げたらどうか。
 国語問題には,さらに多くの問題が残っている。送りがなのつけ方は,ここでいちおう,決着をつけ,新しい問題に取り組んでほしい。
 通則7について,かな部会長の説明では,該当する語が多数あり限定列挙でないこと,また,慣用の度合いが,他の例外と比較して強いので,「例外に当たる」が,「別の通則を立てた。」と聞いた。しかし,「『複合の語』の送りがなには,『単独の語』にない省き方のできるものがあり,また,送りがなをつけないことが慣用となっているものがあるので,例外・許容について,以上の事実に応じた取り扱いをすることとする。」とあり,わたしは,これを「例外・許容」を設けることによって,「単独の語」にない省き方を処置するように読みとったが,そうすると,そこに微妙な差がある。説明をお願いしたい。
 「複合の語」の場合は,「単独の語」の場合をそのまま応用できる場合もあり,「単独の語」と違った扱いをしなければならない場合もあり,そこに段階的な違いがある。前文では,例外・許容について「単独の語」の場合とは同じようにいかないので,それについては,例外の取り扱い方,あるいは,許容の取り扱い方について,特別の扱い方をすることを述べた。また,通則7を一つの「本則」として立てるという考え方も出るが,全体の体系・系統を考えると,やはり,通則6に対しては,通則7は,例外にあたるので,そのことを述べた。
 国語は流動するものであるから,数年たったら,また,これを問題にしたらよいではないかという考えについては,賛成できない。というのは,送りがなのつけ方とは,結局,正しい語の書き方の問題であり,もう一つ,かなづかいもそうであるが,語を目で見た形で安定させ,安心して早く読めるようにしたいという要求から出ている問題だからである。「ことばは流動する。」というが,語いは流動し,意味も場合によっては流動するが,表記というものは比較的安定させることができるものである。そういうことを考えたとき,国語は,流動するのだから,また数年たったら変更したらよいという考え方は,この送りがなのつけ方の問題には適当でないと思う。
 送りがなを改定することについて,もう変えないでほしい,変えることにはともかく反対という意見が試案のとき出たが,これは多少自分にとって変であっても,覚えるために目で見た形を安定させたいということであろう。また,学校教育では,これを適当に配慮して使ってもらいたいとあるが,これが公になると,すぐ教科書に響き,また,テストに取り上げられ,影響するところが大きい。それだから,よりよいものを作るために,時間をかけることが必要で,決して急ぐべきではない。
 以上の意見が述べられたあと,会長から次のような発言があり,「改定送りがなのつけ方(案)」を答申の原案とすることを決定した。
 いろいろの意見が出たが,それらの意見に深い乗り越えられないみぞがあるとは感じなかった。意見の趣旨を勘案しながら,全体として,「改定送りがなのつけ方(案)」が作られたと考える。ただ,国語の問題は,わが国での根本的な問題であるから,ただいまのいろいろな発言は,記録に残し,将来の参考に資したいと考えている。この「案」を答申の原案とすることを決定したいが,御賛成願えるか。(賛成。)
 「当用漢字改定音訓表(案)」前文の修正
 漢字部会長から昭和46年12月20日,第78回総会で答申の原案として決定された「当用漢字改定音訓表(案)」の前文の適用範囲に関する記述の修正について,提案をし,提案どおり修正した。
 なお,「当用漢字改定音訓表(案)」の例欄の語の配列などで,じゅうぶん整っていない点があるが,手直ししたい旨発言があり,了承した。
 今後の取り扱い
 会長から「当用漢字改定音訓表(案)」および「改定送りがなのつけ方(案)」の最終答申の表記は,改定案によって修正するが,その作業は両部会長と事務当局にお任せ願いたい旨の発言があり,了承した。
 また,次回総会には,文部大臣の出席を願い,正式に答申することを了承した。

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