国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第10期国語審議会 > 第78回総会 > 次第

次第 「当用漢字改定音訓表(案)」前文

1 前文

〔漢字かなまじり文と戦後の国語施策〕
 わが国では,漢字とかなとを交えて文章を書くのが明治時代以来一般的になっている。この漢字かなまじり文では,原則として,漢字は実質的意味を表わす部分に使い,かなは語形変化を表わす部分や助詞・助動詞の類を書くために使ってきた。この書き方は,語の一つずつを分けて書かなくとも,文章として,語の切れ目が見やすい。それは表意文字である漢字と表音文字であるかなとの特色を巧みに生かした表記法だからである。しかし,漢字にたよって多くの語を作り,漢字の字種を広く使用した結果,耳に聞いてわかりにくく,国民の言語生活の向上にとって妨げになるところがあった。
 国民の読み書きの負担を軽くし,印刷の便利を大きくする目的をもって,漢字の字種とその音訓とを制限し,かなづかいを改定するなどの国語施策が,戦後実行された。それは二十余年の実施によって相応の効果をもたらしたものと認められる。しかし一方,字種・音訓の制限が文章を書きにくくし,かなの増加が文章を読みにくくした傾きもないではない。漢字かなまじり文は,ある程度を越えて漢字使用を制限すると,その利点を失うものである。

〔当用漢字音訓表の改定〕
 そこで戦後の国語施策の改善のための具体策を諮問された本審議会は,当用漢字について字種・字体・音訓の面から検討を重ね,まず当用漢字音訓表の改定に着手することとした。改定にあたっては,昭和23年内閣告示の当用漢字音訓表の持つ制限的色彩を改め,当用漢字改定音訓表をもって,漢字の音訓を使用する上での目安とすることを根本方針とした。すなわち先の音訓表は,表示した音訓以外は使用しないという制限的な精神によって定められたものであるが,それに対して,今回の改定音訓表は,一般の公共生活における,よい文章表現のための目安として設定された。したがって,これは,運用にあたって個個の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである。

〔適用の範囲〕
 ここにいう一般の公共生活における音訓使用とは,法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等における音訓使用をさしている。科学・技術・芸術をはじめとする各種専門分野における音訓使用や,個々人の表記にまでこれを及ぼそうとするものではない。また,ここにいう一般の公共生活における音訓使用は,義務教育における学習を終えた後,ある程度の社会生活または学校生活を経た人々を対象とする。したがって,義務教育でどの程度,どの範囲の音訓を学習すべきかは,別途の研究に待つこととした。

〔書くための音訓〕
 改定音訓表の音訓は,現代の国語を書くために選定した。したがって,これは過去の著作や文書をいかに読むかを示すものではなく,また,過去に行なわれた音訓を否定するものでもない。それら改定音訓表以外の読みのためには別途のくふうが必要と思われる。ふりがなの使用などもその一法といえよう。
 本来,音訓表において,現代普通に用いられる語すべてにわたり,その書き表わし方を示すことが望ましいのであるが,改定音訓表では「例」の欄,および「備考」の欄に音訓使用の実例を示すにとどめた。

〔音訓の選定の方針〕
 今回の音訓の選定は,現行当用漢字表の漢字1,850字についてだけ取り扱った。また,固有名詞のための音訓は,音訓表に関係なく使用されるものであるから,ここでは取り扱わないこととした。
 音訓の選定にあたっては,音訓を漢字一字一字のためのものと見ず,語あるいは語の成分を書き表わすものと認め,かつ文章の流れの中で,読み分けが可能であるか否かに留意した。一語一語として取り扱う限り他との区別が不明確と思われる音訓も,文脈の中では読み分けられるものが少なくないからである。
 以下,音訓選定の方針を具体的にしるしておく。

   現代の国語で使用されている音訓の実態に基づいて,使用度・使用分野・機能度を考え合わせる。
 語根を同じくすると意識される語で,かつ,同一の漢字で書く習慣の強いものは取り上げる。
煙・煙る・煙い,  分ける・分かれる・分かる・分かつ
 新しい慣用の訓も取り上げる。
危─あぶない,易─やさしい,触─さわる,試─ためす
   感動詞・助動詞・助詞のための訓は取り上げない。
 副詞・接続詞としてだけ使用される訓は,広く使用されるものを取り上げる。
(注)  和語の副詞・接続詞はかなでも書くが,「一体全体」,「多少」,「突然」,「決して」,「切に」など,漢字の字音による副詞は,漢字で書く。
 異字同訓はなるべく避ける。しかし漢字の使い分けのできるもの,および漢字で書く習慣の強いものは取り上げる。
あぶら、かわく、まるい
 2字以上の漢字による熟字や,いわゆるあて字のうち,慣用の広く久しいものは取り上げる。
田舎,為替,五月雨,相撲,眼鏡,景色,時計,お父さん,お母さん

トップページへ

ページトップへ