国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第10期国語審議会 > 第78回総会 > 次第

次第 再審議

前田会長

 これらの相違については,さらに後ほど資料を作ってお送りしたいと思う。
 では全体としてこの案を御承認願えるか。

倉沢委員

 たびたび御説明いただいたので,わたし自身はわかっているつもりであるが,総会の席なのでいちおう確認しておきたい点がある。それは〔適用の範囲〕の上から3行目に「ここにいう一般の公共生活における……」とあるが,試案ではこのあとに「当然」という語がはいっていた。また今回の案には試案にはなかった「学校生活」が社会生活の次にはいっている。そこでこの部分の文章の意味というか趣旨は,これだけの音訓を義務教育で学習することはできないという考えが背後にあるようである。わたしはこれでいいと思うが,そうすると高等学校についてはどのように判断しているのかが問題になる。先ほどの「学校生活」という部分が高等学校をも含むものと理解できるが,この部分があることによって,高等学校に関して何も触れていないわけではないという程度の理解だとすると,ここに高等学校関係の委員もいらっしゃるわけだから,当然専門の立場から何か御発言があるかとも思う。高等学校については審議会はどういう態度を示したのか一応確認したい。
 それから,次の行の「義務教育で……別途の研究に待つこととした。」の部分であるが,この「別途の研究」というのはいちおう文部省の初等中等教育局でするものと理解していいと思うが,このままだと,研究をだれにしてほしいかということが述べてないし,さらに,「研究に待つ」といっても,その待ち方についてすら,すぐやってほしいとも,あるいは強力に研究を進めてほしいともここでは積極的にうたっていない。そこで「別途の研究に待つ。」というのは,具体的にはどういうことを含んでいるのか,この点についてもいちおう確認したい。

伊藤委員

 倉沢委員から高等学校のことで御意見があったが,現場の立場から申し上げると,学校教育との関連はきわめてぼうばくとしており,その点が非常に気になっていたので,説明会でもそのことをお尋ねしたわけである。その時の資料では新しく「ある程度の学校生活を経た…」ということばがはいっていたが,その学校生活の中には高等学校もはいっているという話だった。しかし「ある程度の……経た」ということがなんだかはっきりしない。この「ある程度」というのはどの程度のことをいうのかが不明である。現に高等学校の指導要領が改訂になって,その中では当用漢字の音訓すべてが読めることが必要になっており,同時に,すべての当用漢字を書くことも規定してある。そこで,義務教育についてはあとのほうに述べてあるが,それとの連関で高等学校のほうも,もう少し明確にしておいていただかないと現実の面では非常に困る。
 先ほど大野委員から指摘があったように,日本の国語教育の時間数はおそらく世界のどの国々に比べてもあまりにも少ない。国語教育の団体などが一生懸命陳情しているが,結局いちばん大きい問題は学校へかかってくる。
 漢字の読み方がふえるということは,われわれも異存はないが,それではこれに対して国語の時間数はどうなるのかというと,実際には特別ふえていない。高等学校の標準時間数は,だいたい現代国語が7時間しかないのである。この時間数で事実上日本の国語教育をささえていくことができるかどうか。これについては,審議会から「国語の教育の振興」に関する建議が出ると聞いているが,これは当然のことと思う。しかし,そこに書いてあるものは,きわめてあいまいで抽象的な表現でしかない。そういう点から考えると,一般に対しては「目安」ということで済むが,われわれの現場のほうではそれぐらいでは済まないわけである。教育の現場でははっきりしたわくであって,たとえば入学試験の問題一つ作る場合でも,当用漢字音訓表などにあるかないかということをいちいち調べないと作れないということでたいへん苦労しているのである。そこで高等学校にはいってからの学習をどうするのかを,この前文の中からどのように読みとったらいいのか,そのへんが明確でなかったので,説明会でこの点の説明をお願いしたわけであるが,結局,表現はそのままでいいだろうということで,今回の案に収まったということを聞いている。この点について何か明確になるような説明をいただきたい。

岩淵漢字会長

 われわれとしては,言語とか文字とかいうものの性質上,これを学校でその全部を教育することはむずかしいというか,あるいはそこまで考えるのは行き過ぎではないかと考えたわけである。したがって,むしろ一般の社会生活を営む過程でこれらを覚えていくのが普通ではないかと考え,義務教育はいちおう別にして,ある程度の社会生活を経た人々が使ったり理解したりすることを前提にして検討した。ところがそうすると,義務教育だけで高等学校が抜けてしまうということで,「ある程度の学校生活を経た」ということを入れた。これは具体的には高等学校がそこにはいっているものと理解している。ただ高等学校でこれらを全部やらなければならないのかどうかということまでは,話を詰めていない。もしその点を具体的にしていく必要があるなら,何か手を打たなければならないと思うが,しかし,前文の中でそこまで書くのがはたしていいかどうかという気がする。たとえばこの部分の「または学校生活……」を「または高等学校……」に変えてしまっていいかどうかは多少問題であるということで,「学校生活」というあいまいな表現に落ち着いたわけである。
 次に「別途の研究に待つ。」は,文部省の初等中等教育局と国語課のほうで連絡をとって,できる限り早い機会に義務教育で取り上げるべき音訓について考えてほしいと思う。ある程度までは国語審議会としても研究に協力する必要があるだろうし,また意見もいう必要があるだろうと理解している。研究主体をはっきりさせなかったが,中心は,おそらく,文部省の初等中等教育局が検討されると思う。具体的に,前文の書き方でここはこう直したほうがいいという意見があれば,それを言っていただければ幸いである。

大野委員

 この部分のことは,音訓の検討にあたって,どの程度音訓を広げるべきかということを考えたときに,この音訓の範囲を,義務教育の期間内に教えられる範囲内にとどめることができるかどうかということが議論された。結局社会で使う言語というものを義務教育,つまり中学3年までの教育で正確に全部教え込んでしまうということは,いくら時間をかけてもことがらとしてできないことであり,われわれが実際に社会で使ういろいろなことばを義務教育の範囲内では全部教えられるとは考えられないということになった。したがって,われわれとしてはこの音訓を決めるときには,すべての音訓を義務教育で教える必要はないし,またできないということを前提にして,義務教育以降のいろいろな学習を予想して,音訓の範囲を考えるべきだということになったわけである。そこでわれわれは,義務教育でどの程度の範囲を学習すべきかについては,この音訓表のある部分,つまり基礎になる部分にとどまるものと考えた。この前提のうえで音訓を審議してきたわけである。
 義務教育を済ませたあと,すぐ社会生活にはいる人もあるし,また学校生活を続ける人もあるだろうが,そういう人たちを考えて,その人たちが成人として,また社会人として読み書きする音訓をという意味で,今回の音訓を考えたということをここでは言っているのである。

前田会長

 先ほども申し上げたが,今回のものと試案との相違は後ほど資料としてお送りしたいと思う。
 なお,教育的な問題は,教育課程その他時間数との関係もあるのでここでは別にしたい。
 それでは,この「当用漢字改定音訓表(案)」を,国語審議会としてこの総会で決定するということに意義がなければそのように取り運びたいが,いかがか。(意義なし。)
 なお,長岡委員やその他今日まで御発言のない,あるいは御出席のないかたでも例の「はぐくむ」について御意見もあるかと考え,この総会でその問題を取り上げたわけであるが,今回それを採用しなかったからといって,決してこれを拒否するという意味ではないので,その点を御理解のうえ,全体としてこの総会がこの音訓表を最終決定するということに参加していただければ幸いである。
 岩淵部会長からこの音訓表について二,三の訂正の説明があるので,お聞き取りいただきたい。

岩淵漢字部会長

 先ほど申し上げたほかに,用例などで並べ方の順序を変えたりしたほうがいいのではないかという意見が出ている。なにぶん非常に印刷を急いでいたので,もしほかにこのような例が出てきた場合には,そのように変更を加えてもよいということで御了承いただければ幸いである。

前田会長

 それでは一応この総会として,ただいま全体的に審議した「当用漢字改定音訓表(案)」を採択するという決定をくだしたいと思う。

長岡委員

 「育」の「はぐくむ」はどうなったのか。

前田会長

 それはこの前文によって事実上生きているわけであるが、いかがか。

長岡委員

 「育」の訓として「はぐくむ」は生きるのか。

前田会長

 目安としての例示の中にははいっていないが,実際活用上は生きることになるのではないか。

長岡委員

 そうすると,この音訓表に載せられるのか。

前田会長

 そうはならない。なお,審議を始めて以来その途上で多少不満のある委員もおられたかと思うが,きょう全体としてようやく終着駅に着いたわけである。そういうことでとくに長岡委員には了承をいただきたい。
 なお改定送りがなのつけ方については,11月10日に説明会が行なわれたが,これについては次回の総会で全体審議をお願いしたい。
 本日の決定にはある意味では答申前の漢字部会の原案を採択したということである。次回の総会で送りがなのつけ方のけりがつけば,そのあとで最終的な総会を開き,そこでこの改定音訓表と改定送りがなのつけ方の最終決定を行ない,これを答申の基礎とするという方向で議事を進めたいと思っている。また,答申の際は決定した新しい表記で文章を書いて両者に不統一のないようにしたいと考えている。
 一方,一般問題小委員会ですでに検討を終わりつつある「国語の教育の振興について」の建議案は,最終総会でその決定を行ないたいと思っている。
 それでは先ほども言ったように,次の総会では「改定送りがなのつけ方(案)」について部会の案を議題として取り上げて議事を進めたい。
 以上の順序あるいは方針等で今後の議事を進めていくということで,委員各位の御理解をいただきたいと思う。
 これで閉会とする。

トップページへ

ページトップへ