国語施策・日本語教育

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次第 本文について補足説明

佐々木かな部長

 それから,次の「本文」であるが,これも,もうしばしば御説明申し上げてあるので,今日はこの説明よりも,むしろ現行とどう違うかを,お目にかけたほうがよかろうと考えて作ったのが,お手もとにある「参考」という2枚とじの刷り物である。これは御覧のとおり,1は「構成」である。この「構成」には,ただいま申したとおり,現行は品詞別で,全体で26項目あるのを,改定案のように分けたことが著しい現行との相違であると思う。
 第2は内容の問題であるが,これをいくつかに整理した。第1は,現行にない許容を設けた点である。資料の中で「活用語」とあるのは「活用のある語」に御訂正願いたい。その中で「ア」は現行では,許容は認められていないが,今回の案では,たとえば「浮かぶ」の「か」を省いて「浮ぶ」とするというように,「活用のある語」にも許容を設けたという点が,大きな一つの違いであろうかと思う。同様に,その次の「複合語のある活用のある語」でも,たとえば,「書き抜く」は「書抜く」というように,「き」を省くことができるようにしてある。「聞き苦しい」,「待ち遠しい」も同様で,こういう複合の語については,前部分の送りがなを省く形もあるし,3番目のように「打ち合わせる」を,その不活用語尾を省いて「打ち合せる」とし,あるいは,「打合せる」というような形を許容として設けたのも,一つの相違だろうと思う。それから,その下にあるように,同じ許容であっても「現行にも許容はあるけれども,さらにその幅を広げた。」ものがある。資料の点線より下が現行ではないものである。こんなぐあいに改定案では,かっこ内のような許容を認めた点が,特色といえると思う。それから複合の語の名詞では,「現行」でも点線の上のように,通則19には許容はあるが,今回はもっと広げて,「売り上げ」の場合に「売上げ」だけではなくて,「売上」,「取り扱い」に「取扱い」のほかに「取扱」という形を掲げるというように幅を広げたわけである。
 それから第3の点は,「現行で本則としているものを許容とし,別の形を本則としたもの。」として,次の「表わす」,「現われる」等々で,6語掲げてあるが,改定案では,「表す」とか「著す」とかが本則で,「表わす」,「著わす」と書いてもいいというようになった点である。これはいろいろと論議を呼んだ点であるが「改定送りがなのつけ方(案)」の「本文」の通則1には,かっこをして「通則2を適用する語を除く。」という除外例を置いて,「活用のある語は,活用語尾を送る。」とあるが,この本則を適用するといずれも「表す」,「著す」ということになるわけである。しかし,現行では,左のような形が使われて,もう10年以上経過しているので,相当慣用が固定している事実をどうするかということで,そのための処置として,いちおうこれらは許容の形で現行との調和をとろうとしたわけである。ほかの許容の場合は,「読みまちがえるおそれのない場合は……省くことができる。」とあるのに対して,これはむしろ逆に送りがなを加えるのである。次に「押える」と「捕える」であるが,現行ではこのように書いているのを,改定案では「押さえる」,「捕らえる」を本則とし,「押える」,「捕える」という許容を認めた。これは,「押さえる」は「押す」との「捕らえる」は「捕る」との対応があるということで本則はこのようにし,許容を設けることになったわけである。
 それから「現行の送りがなを別の形に変更したもの。」というのは,現行ではこれらはいずれもこういう送りがながつくことになっているが,改定案では送りがなをつけないことにした。それから,「次の語は,送りがなをつけないものとして語例に明示した。」とあるが,これは通則7に当たる語で,そのように御承知おき願いたいと思う。現行では,たとえば「売り値」は許容として「売値」があるが,改定案では,通則7で「売値」とするという形をとった例である。
 その他,細かいことになるが,「改定案で新たに加えた事項。」に,たとえば,現行でも取り扱っている副詞のほかに連体詞や接続詞を加えて,通則5として掲げた。第2は「複合の語の副詞,その他」を加えたというのであるが,これは,たとえば,本文の「次々」,「常々」,「近々」,「深々」,「休み休み」,「行く行く」などの語であるが,これらをも加えたという点である。その次は,「『当用漢字改定音訓表(案)』で新しく採用した音訓を用いて書き表わす語。」とあるが,これは当然であろう。それに「当用漢字改定音訓表(案)」には,付表があるから,特にその点を1項加えてある。それから最後に「適用上の注意事項」を入れたことが,だいたい現行と違うおもな点であろうと思う。
 これを要約すると,細かい点はあるが,第1は構成の上で,品詞別であったものを構造別にしたこと。第2点は,かなり許容が多くなったこと。この2点が現行と違う点であるが,許容がどれほど多くなったかということは,ただいまの表でだいたい御了承いただきたいと思う。なお,いま一つ申し上げたいことは,昭和45年の「試案」との違いであるが,大きくみると,第1に「試案」の前文よりは,かなり簡潔になっているといえると思う。「試案」の前文は,部会としてもずいぶん論議をしたし,また,説明会でも,熱心なかたがたの御意見もあったので,それらを率直に受け入れ,参考にして手を加え,従来より簡潔に,いっそうわかりやすくなっていると思う。それから本文をみると,試案では9項目になっていた通則を,今回はさらに整理して,7項目にしたことが違いの大きな点であると思う。その他,こまごましたことをいうと,たとえば,送りがなをどのように考えているか,とか,あるいは,単独の語とか,複合の語をどのように考えるか,というようなことも,今回の前文に盛り込んであるが,大きな点はこの二つであろうと思う。
 以上,大綱を御説明申し上げたわけであるが,あるいは,お聞き苦しい点があったと思う。先ほど申したように,わたしどもの部会は,各界のかたがたがお集まりになって,それぞれの立場立場でほんとうにじっくりと,熱心に,しかもなごやかに審議を進め,6年かかったが,この最終案に到達したわけである。本日,ここに御報告申し上げて御承認をいただき,すみやかに答申されることを,切に切にお願い申し上げて,私の報告を終えたいと思う。

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