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「当用漢字改定音訓表」(答申)

1 前文

〔漢字仮名交じり文と戦後の国語施策〕
 我が国では,漢字と仮名とを交えて文章を書くのが明治時代以来一般的になっている。この漢字仮名交じり文では,原則として,漢字は実質的意味を表す部分に使い,仮名は語形変化を表す部分や助詞・助動詞の類を書くために使ってきた。この書き方は,語の一つずつを分けて書かなくとも,文章として,語の切れ目が見やすい。それは表意文字である漢字と表音文字である仮名との特色を巧みに生かした表記法だからである。しかし,漢字に頼って多くの語を作り,漢字の字種を広く使用した結果,耳に聞いて分かりにくく,国民の言語生活の向上にとって妨げになるところがあった。
 国民の読み書きの負担を軽くし,印刷の便利を大きくする目的をもって,漢字の字種とその音訓とを制限し,仮名遣いを改定するなどの国語施策が,戦後実行された。それは二十余年の実施によって相応の効果をもたらしたものと認められる。しかし一方,字種・音訓の制限が文章を書きにくくし,仮名の増加が文章を読みにくくした傾きもないではない。漢字仮名交じり文は,ある程度を超えて漢字使用を制限すると,その利点を失うものである。


〔当用漢字音訓表の改定〕
 そこで戦後の国語施策の改善のための具体策を諮問された本審議会は,当用漢字について字種・字体・音訓の面から検討を重ね,まず当用漢字音訓表の改定に着手することとした。改定に当たっては,昭和23年内閣告示の当用漢字音訓表の持つ制限的色彩を改め,当用漢字改定音訓表をもって,漢字の音訓を使用する上での目安とすることを根本方針とした。すなわち先の音訓表は,表示した音訓以外は使用しないという制限的な精神によって定められたものであるが,それに対して,今回の改定音訓表は,一般の社会生活における,良い文章表現のための目安として設定された。従って,これは,運用に当たって個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである。


〔適用の範囲〕
 ここに言う一般の社会生活における音訓使用とは,法令・公用文書・新聞・雑誌・放送などにおける音訓使用を指している。科学・技術・芸術,その他の各種専門分野における音訓使用や,個々人の表記にまでこれを及ぼそうとするものではない。又,ここに言う一般の社会生活における音訓使用は,義務教育における学習を終えた後,ある程度実社会や学校での生活を経た人々を対象とする。従って,義務教育でどの程度,どの範囲の音訓を学習すべきかは,別途の研究に待つこととした。


〔書くための音訓〕
 改定音訓表の音訓は,現代の国語を書くために選定した。従って,これは過去の著作や文書をいかに読むかを示すものではなく,又,過去に行われた音訓を否定するものでもない。それら改定音訓表以外の読みのためには別途の工夫が必要と思われる。振り仮名の使用などもその一法と言えよう。
 本来,音訓表において,現代普通に用いられる語すべてにわたり,その書き表し方を示すことが望ましいのであるが,改定音訓表では「例」の欄,及び「備考」の欄に音訓使用の実例を示すにとどめた。


〔音訓の選定の方針〕
 今回の音訓の選定は,現行当用漢字表の漢字1,850字についてだけ取り扱った。又,固有名詞のための音訓は,音訓表に関係なく使用されるものであるから,ここでは取り扱わないこととした。
 音訓の選定に当たっては,音訓を漢字一字一字のためのものと見ず,語あるいは語の成分を書き表すものと認め,且つ文章の流れの中で,読み分けが可能であるか否かに留意した。一語一語として取り扱う限り他との区別が不明確と思われる音訓も,文脈の中では読み分けられるものが少なくないからである。
 以下,音訓選定の方針を具体的に記しておく。

  1. 現代の国語で使用されている音訓の実態に基づいて,使用度・使用分野・機能度を考え合わせる。
  2. 語根を同じくすると意識される語で,且つ,同一の漢字で書く習慣の強いものは取り上げる。
     煙・煙る・煙い,  分ける・分かれる・分かる・分かつ
  3. 新しい慣用の訓も取り上げる。
     危―あぶない, 易―やさしい, 触―さわる, 試―ためす
  4. 感動詞・助動詞・助詞のための訓は取り上げない。
  5. 副詞・接続詞としてだけ使用される訓は,広く使用されるものを取り上げる。
    (注)和語の副詞・接続詞は仮名でも書くが,「一体全体」,「多少」,「突然」,「決して」,「切に」など,漢字の字音による副詞は,漢字で書く。
  6. 異字同訓はなるべく避ける。しかし漢字の使い分けのできるもの,及び漢字で書く習慣の強いものは取り上げる。
  7. 二字以上の漢字による熟字や,いわゆる当て字のうち,慣用の広く久しいものは取り上げる。
    田舎,為替,五月雨,相撲,眼鏡,景色,時計,お父さん,お母さん

2 表の見方

  1.  改定音訓表は「本表」と「付表」とから成る。
  2.  「本表」には,当用漢字表の漢字1,850字の一つ一つについて,その音訓を,例と共に示した。「付表」には,漢字二字以上で構成されるいわゆる熟字訓のように,主として一字一字の音訓として挙げ得ないものなどを掲げた。
  3.  「本表」の漢字は,字音に従って五十音順に並べ,同音の場合は,字画の少ないものを先にした。字音を取り上げていないものは字訓によった。字音は片仮名で,字訓は平仮名で記した。「付表」の語は,便宜上,その読み方を平仮名で示し,五十音順に並べた。
  4.  音訓欄で,一字下げで示した音訓は,特別なものか,又は,用法のごく狭いものである。
  5.  音訓欄に,動詞の連用形で掲げた字訓は,名詞としてだけ用いるものである。
  6.  語根を同じくし,何らかの派生・対応の関係のあるものは,同じ漢字を使用する習慣のあるものに限り,適宜,音訓欄又は例欄に主なものを示した。
  7.  例欄に掲げたものは,音訓使用の具体例を示したものであるが,それぞれの音訓の使用例の一部を掲げたに過ぎない。
  8.  例欄の語のうち,副詞的用法,接続詞的用法として使うものであって紛らわしいものには,特に〔副〕,〔接〕という記号を付けた。
  9.  他の字又は語と結び付く場合に音韻上の変化を起こす次のような類は,音訓欄又は備考欄に示したが,すべての例を尽くしているわけではない。
     納得(ナットク)    格子(コウシ)
     手綱(タヅナ)     金物(カナモノ)
     音頭(オンド)     夫婦(フウフ)
     順応(ジュンノウ)   因縁(インネン)
     春雨(ハルサメ)
  10.  備考欄には,個々の音訓の使用に当たって留意すべき事項などを記した。
    ・異字同訓のあるものを←→で示した。
    ・その漢字を含んでいる熟字訓・当て字など(付表にあるもの)を念のため掲げた。

〔注〕例欄の語の送り仮名は,「改定送り仮名の付け方」の通則1から通則6までの本則・例外,通則7及び付表の語に示すところによった。

3 本表

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