国語施策・日本語教育

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次第 協議〔その4〕

森岡委員

 読むための目安となる漢字という言い方については,それだけしか書かないから読むのはそれだけの漢字の範囲になり,その基準になる書くための漢字があれば,読むものもそれに大体限定されるというように,裏返しのことになるとの意見があり,それはそれでよろしいが,気になるのは書くための目安とか読むための目安とかいう,非常に実用的な考え方が今まで国語政策に流れてきた思想じゃないかと思う。つまり,漢字というのは非常に負担が多いから,その負担を軽減するという考え方が明治以来続いていて,そのためにそれを制限して,もっと負担を軽くしようというふうなものが国語政策ではなかったかと思う。それを押し詰めていくと,結局,日本語の音声文字化というか,ローマ字化というか……。要するに制限して漢字について極端に負担を少なくするという思想は,漢字をなくせというふうな考え方につながるのではないかと思う。
 漢字というのは,果たしてそういう実用的なものなのかどうか。明治以来漢字を制限してローマ字にしようという動きが随分あったわけだが,私たちはほかのものはみんな捨ててしまっても,漢字だけからは離れられないのは,やはり私たちの日本語の体系の中に漢字が入り込んでいて,それでどうしても漢字を捨てるわけにはいかない。それならやはり書くとか読むとか言わないで,日本語の字母として漢字をこの際確定したらいかがであろうかというふうに考えるので,どうしても実用主義的なニュアンスのつきまとう書くためとか,読むためとかという,そういう修飾語を取りやめていただきたいと考える。

阪倉委員

 適用分野ということで,今日は(2)の専門用語は検討されないと思うが,この適用分野には法令も入っている。法令用語はある意味では専門用語ではないかと思う。法令の場合には専門用語にはならない,ということになるのか。そしてまた,書くということにすると,法令を書く人は一般人の中には非常に少なく,読むことが大部分である。法令を書くという人は恐らく専門家に類する人ではないかと思う。
 ただ今の御発言とちょっと関連して,その点どのように考えればよいのか,お教え願えればありがたい。

福島会長

 法令を書く人は確かに専門家が書くであろう。それは公用文書を役人が書くのを同じだろうと思う。しかしこれは基準として一般向けに書く筋合いのものであり,いわゆる(2)の専門用語というのは,差し当たり私の承知しているのは,例えば学術用語である。学術用語といったような,限られた社会というと穏やかでないかもしれないが,限られた人たちの間のみで使う文章ということではないという意味で,むしろ(1)の方へ法令が入っているのだと,私は理解している。
 問題点整理委員会の段階ではいかようなお話が出たか。

遠藤問題点整理委員会主査

 整理委員会では前から法令は当然考えていたので,そういう本質的な問題は討論しなかった。
 しかし,私の感じでは,法令というのはなるべく大衆に理解されるように書くべきであるという考え方がどこかにあるので,恐らく,ここへ入れたのではないだろうか。それは専門的かもしれないけれども,なるべく一般にも理解されるように書いてほしいというので,こうなったのではないかと,私は考える。

小谷委員

 今の話と関連するけれども,私はこの範囲を法令・公用文書というのをまず出すべきだと思う。その意味では,国民として政府から出るものを知る権利があり,知る義務がある。そういうものに対しては,まずこの漢字表が適用される。理想は,それが義務教育で消化されればよろしいのだが,残念ながらそうはできないと思う。しかし,国民の大多数が,その程度の知識,技術をもっていて,国民としての権利,義務にかかわるというような文章については,できるだけ広い理解,広い使用が許されるような形での表記がなされることを,国民は権利として望むのではないかと思う。
 そういう意味で,この法令・公用文書と,その次の,いわゆるマスコミと言われる方面とはちょっと異質であろうと思う。そういう方面を含むのは大変結構なのだけれども,政府機関として取り扱ってまず言えることは法令・公用文書であろうというふうに考える。それで,それを国民の権利義務というような観点から思うことを,ちょっと申し上げた。

田中委員

 私は現代の国語を書き表すことでいいかというときに,読み,または書くという意見を申し上げた一人である。
 私の読むという意味は,理解するという意味であって,読んでそしてそれを書くというときは,読む段階と書く段階には,読んで書くという間に必要なものだけを書くというような感じを私は受けた。現代の言葉をよりよく知るためには,まず読む能力がなければならない。そしてそれから次に書くという段階がくるような気がする。読み,また書くということがほしいと思う。
 そして,現代という言葉は刻々と変わると思うので,これからというふうに限定せずに,現代というものは,明日はまた明日の現代になり,明日は今日が過去になるから,現代という言葉で私はよいと思う。
 それから,今どなたかの発言があったが,私も動植物の名を仮名にしない方がよいということを書いた一人である。例えば読むということの段階の中で,植物の名前が仮名でまとめられてしまうと,私たちの日常生活を理解することが大変難しいのではないかと考えている。今のこういう方針で教育を受けた子供たちには,例えば,私どもは稲を作って米を食べている国民であるが,では稲という字,禾本科植物であって,禾偏にこれこれこういう旁(つくり)だといっても,禾本科の「禾」がないため分からない。「禾」というやさしい言葉を稲作民族である私たちが簡単に捨ててしまったのはどういうことかと思う。
 それから,ある出版社の編集者が額田王の「茜(あかね)さす紫……」という歌を全部片仮名に直したが,そうすると本当に読むことができないのではないかと思う。また,この間「早春に木瓜(ぼけ)の花が咲いた。」と言ったら,ルビが振ってあって「……木瓜(きゅうり)の花が咲いた。」となっていた。(笑声)植物の名を片仮名で統一することは,植物を愛する国民性が無残に破壊されてしまうような気がする。

馬淵委員

 前の適用分野にもどるが,適用分野を国語審議会が決めると,どれだけの法的な拘束力があるものなのか。もし拘束力がないとすると,各界の参考に供する程度のものではないだろうか。適用範囲をこちらで決めてやれといったところで,適用されるのかどうかわからない。どの程度拘束力があるかということをお教え願いたい。

福島会長

 これは事務当局に聞いた方がよいかと思うけれども,私の承知している限りでは,この漢字表ができあがった暁に,目安ということになると思うが,そういう表現で説明されていても,役所,公務員の用に供するためには,今までの漢字表と同じように,目安として使ってほしいという訓令が出るように聞いている。訓令が出されれば,少なくとも法令・公用文書はこの表を目安として使うということになるだろうと私には思える。
 それからまた,新聞なり雑誌なりということになると,私の承知しているのは新聞だが,雑誌もおおむね同調するのではないかと思うが,新聞協会というところで,新聞関係者が集まり,この漢字表を目安として,自分たちはどういう使い方をするか,どういう範囲で文字を書くように心掛けるかということを決めると思う。
 したがって,この漢字表がそのまま適用されるということではないが,それぞれの分野が自発的あるいは自律的に目安として自分たちの使い方を定めるという効果は出てくるように思う。

石田国語課長

 国語審議会から御答申いただき,国語施策を実施に移すその実施の方法については,第8期の国語審議会で,小委員会の問題として御検討をいただいているわけである。
 その小委員会で「国語施策の実施の方法について」という報告がまとめられ,昭和43年5月の総会に報告されている。それによると,内閣告示というものは,内閣が必要と認めた事項について一般に知らせるために公示するものである。従来の国語に関する内閣告示は,法令に基づく指定その他の処分ではないから,単に公示するにとどまるということである。
 それから,先ほど,福島会長から話が出ている内閣訓令であるが,これは一般的な性格として,上級の行政庁が下級行政庁を指揮するための命令であるとされている。これは政府部内のもので,一般の国民を拘束するものではない。なお,この小委員会で,国語施策の実施方法としては,今後とも内閣告示・内閣訓令の形式によることが適当と考えられるということを御報告いただいているわけである。
 したがって,答申の実施の方法としての内閣告示は,政府として決定した国語施策を広く知らせるものであり,法的性格として,一般国民に対して強制力をもつものではない。ただ,この場合,政府の考え方として,こういうものを広く世間で,あるいは関係の方面で尊重してやっていただきたいという意思を表明していることになると思う。

福島会長

 真田委員,いかがてしょう。

真田委員

 大体は今国語課長の言ったとおりであるが,国語審議会で答申が出ても,それ自体はもちろん法的な意味の拘束力が伴われるものではない。それぞれそれを受けて,政府部内であれば訓令であって,訓令の力によってこの内容に従ったことが行われるということになるし,また新聞であれば,新聞協会等の申合せがあれば,その申合せの力によって,これが実行されるということになるのだろう。
 この答申の内容それ自身が実行性のあるというものではない。そうであるならば,なにもここに適用範囲など書かなくて,各界の参考に供するという,そういういき方でもいいのではないかという御発言はごもっともだと思う。
 ただ,それと違って,私の理解するところでは,国語審議会で一応の答申を決めて,これをいかようにでも御参考になってくださいというにとどまらず,国語審議会としてこれこれの分野については非常に関心をもって,ここでは是非使っていだたきたいという意思というか,希望というか,意気込みというか,それを表すというところに意味があるのだろうと思う。
 それからもう一つは,ここで適用分野という項目が出てくるゆえんのものは,ここに書いていない,例えば私人のやりとりの手紙であるとか,小説であるとか,そういうものについては,そこまで希望を言うようなおこがましいことはしない,というような反面の意味も出てくるだろうと思う。

望月委員

 来るべき漢字表というのがどういうものであるかということが,お互いに十分まだ知らされていないので,この機会に,その時点において適用分野を考えるということは,いろいろ難しい面もあろうかと思う。しかし,また逆に適用分野が先にくるのがいいだろうという御意見もよくわかるけれども,ただ,学校教育との関連の問題がある。これについては,別に考えることに決定したわけではないだろうが,これがどういうふうになるかを考えないわけにはいかない。ここでも幾人かの方から既にそれに関連した御発言が出てきてしまっているのではないかと思う。
 いうまでもなく,漢字表は,その学習が学校教育を度外視しては考えられないものであり,学校教育自体から考えられていくのが自然である。またそれ以外にないわけなのである。そういう点を後回しにするというか,それは一応,何らかの時点では問題にするのだろうが,それをいつの時点からやるのか,そういう点等についは,多少危惧(ぐ)の念があるような感じである。
 それから,現代の国語を書き表すためのものということについては,これも既に御承知のことであるが,小学校の教育目的が列挙されている学校教育法第18条第4項に「日常生活に必要な国語を,正しく理解し,使用する能力を養うこと。」と書いてあるわけで,その日常生活に必要な国語ということと,ここでいっている現代の国語を書き表すためのものということは,全く同じものではなさそうに私は印象づけられている。そういうことでよろしいのかどうか。つまり学校教育というものを別にして考えた場合には,そういう事態が起きはしないか,そんなことをちょっと考えるわけである。何か御指示いただければ有り難いと思う。

福島会長

 最初に言われた学校教育との関連の問題を後回しにするのでは…というお話については,これは後回しにするという趣旨ではない。資料の5に掲げてあるように,この審議会で学校教育の関連をどう考えるかということを審議願ってからでないと,小委員会で検討できないと考えているわけで,たまたま物理的というか,時間的に今日の審議にはまりそうもないということで,次回の審議の予定になっているというだけである。
 その内容については,頂いたアンケートの御意向その他を分析しているわけである。学校教育の問題は,学校教育関係のしかるべき機関・組織によって検討されるべきものであろう。その際にここの審議会で決める漢字表が相当に参考にされるはずであるというようなことが考えられているのではないかと思う。もっとも正確には,この次の会議の際に,学校教育との関連をまともにこの審議会として取り上げるときに申し上げられると思う。
 ちょっと違っているかもしれないけれども,私の聞いているところではこの国語審議会で学校教育の具体的な内容を決めようなどということは考えられないのではないかという意見が多いようである。いずれその際に申し上げることになると思う。
 分野の問題について言及された一般日常語という問題も,それに関連して学校教育の面は考えられるのであろうと思う。
 私自身の感じから申しても,学校教育の具体的な内容その他にわたって国語審議会が決めるという筋合いではないというような感じをもっている。いずれこの次の総会の際に検討をいただくことになると思う。
 時間がなくなったので,本日の会議は終わりとしたい。
 本日差し出した資料で1,2,3それから4の(1)について,一応御意見を伺ったわけであるが,これはこれで済んでもう決まってしまってむし返しは許さない,などというようなことを考えているわけではない。なお,アンケートの結果,問題点として各委員から寄せられた問題,学校教育との関連が一番大きな問題であろうが,専門用語との関連とか,あるいは固有名詞との関連とかの問題について,できたなら,この次の総会,もしできなかったら,更に一回ぐらいはよろしかろうと思うが,総会でできる限り多数の方々の御意見を聞いてまいりたい。そして,審議会全体の意向はおおむねこの辺にあるということを承知願った上で,一字一字の漢字を検討して漢字表を考える段階に進みたい。これについては,申し上げたように,若干人数の少ない小委員会的なもの,それもできるならばなるべく専門家の方々で御検討願うようなことにしたいと思っている。5,6に書き出したこと,それと4の(2)の専門用語の関係,更にまた,その他の問題点なども意見が出てくると思うので,後2回,あるいは更に延びても結構であるが,総会での御検討を続けていきたいと考えている。
 ところで,更にアンケートをお願いすることがあるか。

遠藤問題点整理委員会主査

 今までいろいろいただいたが,これから後検討する4の(2),専門用語以下学校教育関係の問題,その他の問題は,既にお手もとに差し下げたのに掲げてある。しかし,まだ少ないので,遠慮のない御意見を出していただきたい。この前は26通いただき,会の進行に非常に役立っているのではないかと思う。

福島会長

 それは専門用語,学校教育との関連,固有名詞など,ここに4,5,6として書き出してあるものについて御意見をお寄せいただきたいということか。

遠藤問題点整理委員会主査

 たくさんあるので,あるいは今後の場合は4の(2),5それから6もいただけたらありがたいが,主として5までのところになろう。

福島会長

 いずれも事務当局の方からアンケートについては御案内を差し上げると思うので,できる限り御意見をお寄せいただくようにしたいと思う。

遠藤問題点整理委員会主査

 事務当局から皆さんが意見を提出するのに都合のようように,幾らかテーマを取り上げたものをお送りすることとしたい。それにこだわらず,長々とお書きいただいたらなお結構である。よろしくお願いしたい。

福島会長

 それでは,本日予定した関係はおおむね意見を伺ったので…。これで何も審議会の本決まりというわけではない。全部終了したところでもう一度確認するという手続が必要だと思う。本日予定した項目については意見を拝聴して,おおむね共通の理解にたどり着きつつあると考えている。
 先ほど申し上げたが,学術審議会から歯学関係の用語の案をつくったということで,国語審議会に連絡があった。取りあえず報告しておく。この次の総会のときに御検討をいただくようにしたい。
 この次の会議は,1ヶ月おきということになっているので,7月17日に開きたい。
 それでは,本日の会議はこれで終る。どうもありがとうございました。

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