国語施策・日本語教育

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次第 庶務報告/前回の議事要旨の確認/協議〔その1〕

福島会長

 第86回国語審議会総会を開会する。
 初めに,事務当局から庶務報告がある。

石田国語課長

 第8期以来の国語審議会委員,時実利彦委員が去る8月3日死去された。慎んで報告する。

福島会長

 時実委員のために御起立をいただき,黙祷(とう)をささげたい。(黙祷)ありがとうございました。
 続いて,前回の議事要旨の確認をいただきたい。修正があったら発言をお願いする。発言がなければ,確認していただいたものとする。
 本日の議事は,まず前回に引き続き「学校教育との関連について」をご協議いただき,その後,「固有名詞に用いる漢字」その他8項目についてのアンケートのまとめについて問題点整理委員会の報告を受け,引き続いて時間に応じて協議を続けたい。
 前回の総会では,「学校教育との関連について」,主としてこの当用漢字表の取扱いをめぐり御意見をいただいたが,今回も引き続き「学校教育との関連について」の基本的な考え方を論議していただきたい。前回は問題点整理委員会でまとめたアンケートの概要を説明申し上げ,意見を出していただいた。中心となったのは,「当用漢字別表」をどう扱うかという問題であった。前回の協議の経過については,議事要旨の9ページから11ページに記録してある。これらを御了承いただいた上で,学校教育との関連に対して発言をいただきたい。問題は,この審議会総会において,各委員の意見をできるだけ拝聴し,それを問題点整理委員会によってある程度整理し,更に御確認を願いながら,後日なるべく早い機会に字種問題あるいは漢字表についての小委員会を設置し,実際の作業にかかるように取り運びたいと考えている。総会としての了解点をできるだけ明確にしておく方が,小委員会での作業がしやすかろうという建前で,総会での各委員の意見をできるだけ拝聴し,共通している点を抽出していきたいという考え方である。
 漢字表を検討するに当たって,学校教育との関係をどう考慮するか。この問題については,別の機関の検討に待つことにするという意見,その他があった。前回伺えなかった委員の意見も,この際出していただきたい。
 遠藤主査,前回以来の資料を整理した結果は,学校教育との関連については別の組織で検討していただいた方がよろしくはないかという意見の方がおおむね多数であったか。

遠藤問題点整理委員会主査

 そうである。他の機関で検討願うけれども,そこにお願いする前に審議会でも参考程度は検討するという意見も加えると,他の機関で検討していただくというのが非常に多い。
 ただ,小委員会で将来検討していただくとしても,今,当用漢字別表(教育漢字表)を作るのか作らないのかについては,意見が三つに分かれている。
 (1) 当用漢字別表のようなものはいらないという意見,(2) やはりそういうものはいるという意見,(3) 別表ではないが,それに似た基礎漢字表(名前は別である。)を漢字表を決めるときに決めたらいいという意見とがある。それらについて,小委員会にお願いするにしても,総会での意見を十分反映できるように意見を伺いたい。

福島会長

 具体的な漢字表の原案に関しての作業を小委員会(これはあと2,3回の総会を経てからということになるかもしれないが。)にお願いするに際して,学校教育との関連,つまり当用漢字別表というようなものは別の機関で検討願うとするか,あるいは別表というものは全然いらないということになるのか,あるいは別の機関にお願いせず,この委員会で別表も検討してからの方がよろしくはないかとか,いろいろ御承知のとおりに意見は分かれている。
 おおむね,教育用の漢字については,学校関係の別途の機関で検討願っていいのではないか。その問題は別の機関にお願いするとして,小委員会には,当面の漢字表の具体的検討をお願いするということでどうかという問題だろうと思う。
 特に意見がなければ,小委員会の当面の作業は漢字表ということで始められる。学校教育については別の組織で別に検討を願うとしても,それをどうするかについて更に御検討いただくということになるかと思う。

小谷委員

 別表のようなものはいるだろうと思う。別表のようなものを審議会で作るかどうかという問題より前に,漢字表を作成するときに学校教育との関連を考えておかなければならないと思う。
 すなわち,我々がこれからの作業で,例えば,いわゆる漢語というか,音で読む2個以上の漢字によって作られている言葉を仮名と漢字とで交ぜて書くことはしないというのが正しい書き方であるということを決めるような空気はかなりあると思う。このことについては,すべての漢字を使えば可能であるとしても,義務教育あるいは義務教育を終えた段階で,そういうことをどう配慮するのか。すなわち,そういう場合に一方の漢字は義務教育で出て,他の漢字は出ないという場合は仮名書きをすすめるのか,あるいは仮名と漢字の交ぜ書きをすすめるのか。そのほか,いろいろの問題,これは字種であるから,今,直接の問題ではないが,異字である音訓の問題も背後にあって,異字同訓を減らすということもあり得ると思う。そういうときに,義務教育としてはその中の一つの漢字を広い意味に使ってもいいのか。例えば,「よい」という言葉に「良い」と「善い」とを書き分けるとし,その上に仮名で「よい」と書く場合も認めるのか。それらに「好(よ)い」を付け加えることもあるかと思う。そういうときに,義務教育に対しては「良い」あるいは「善い」という漢字を一般用漢字としてそれぞれ使うことを許容するのか。それとも,その書き分けを堅持して「好い」は現在は入っていないが,そういうものがまだ義務教育で学習されないとすれば,それは仮名で書くべきであるというふうに考えるのかどうか。学校教育,特に義務教育について,私は7月17日の総会で配られたアンケート回答の資料の5ページ13にそういうことを書いたが,義務教育としての段階においては一種の正書法的態度で教育が行われるので,義務教育段階における一種の正書法を考えなければならないであろうと思う。漢字表を作るときに,義務教育段階で考えられる正書法と矛盾してよろしいのか。又は絶対に矛盾してはいけないのか。そういう問題に関し,あらかじめ個々の字種のどれを別表に入れるか入れないかという問題としてではなく,全般に通ずる問題として考え,同時に,義務教育においてあるまとまりをもたせる必要があるように思う。その本質を考えるならば,ここで定める一般的な了解や規則のようなものが義務教育の段階では矛盾しても許容するのか,それとも,矛盾してはいけないのか,そういう点について態度を決めておく必要があると思う。

倉沢委員

 現在,進めておられる当用漢字音訓表の学校教育への適用についての調査研究の作業の過程で,どのような問題点が出ているか,文部省の関係の方に伺いたい。というのは,音訓表の作業とはやや違うかもしれないが,別表を作るか作らないかという際の参考にはなるだろうと思うので承りたい。

林主任視学官

 ただ今,初等中等教育局に「音訓等調査研究協力者会議」というのが設けられ作業を進めている。
 学習指導要領で決まっているとおり,高等学校卒業までにはすべての音訓が読めるようになるということを目標にしている。それまでに音訓の指導をどのようにしていったらいいかということを考えているわけで,その作業の際にどういう問題があったかについては,差し当たって困っているという問題にはまだぶつかっていない。
 ただ問題は,小学校で習わせることにしている字ではあるけれども,その中の音訓には必ずしも小学校向きでないものもあることは明らかで,それをどのような形で,小学校の上級でやるか,あるいは中学校にもっていくかというようなことについては,工夫しなければならないと考えている。
 例えば「天」という字に「あめ」という訓があるが,「あめ」という訓を教えようと思っても物語等で「天鈿女命(あめのうずめのみこと)」か何かを出すということならばできるが,その他ではなかなか出せないというようなことがある。そのような関係から,もしできれば別表というようなものも,教育的な観点からもう一遍見直すということを我々自身がやってみなければならないのではないかという気がしている。今のところは,別表というものは内閣告示で動かせないものとしてあり,その中でどのようにやったらよいかということを工夫する段階である。差し当たり,困っていることはない。

福島会長

 ほかに御意見があったらどうぞ。この問題については,おおむね別の機関の検討に待つとする意見の方が多かった。その辺を基準にして,小委員会における漢字表の検討の作業を始められるのではないかと思う。進行の度合いで,また最終的に審議会の意向を決定する段階で,更に確認を願う。また,別途の方式というものをどういうふうに考えるかとか,別表そのものが不要であるという意見とかは,逐次必要な時点までに意見がまとめられればよろしいかと考えている。
 学校教育との関連は,前回のアンケートの結果に従ってよろしいというような体制ではないかと思う。さように承知した上で,今後の進行を図りたい。
 それでは,議題を進捗(ちょく)させたいと思う。前回総会以後の問題点整理委員会の経過,またアンケートの結果,その他についての説明をこの際お聴きしておいた方が諸事便利かと思うので,遠藤主査どうぞ。

遠藤問題点整理委員会主査

 第85回総会で,問題点整理委員会としては,現在の当用漢字表の前文にある8項目のただし書を中心にして各委員方の意見を伺っておけば,漢字表を決めていく際の参考になるのではないかと考え,7月24日に第7回問題点整理委員会を開き,前文ただし書8項目に関連したアンケートの草案を作り,それを委員の方々に検討していただいた。
 細部については多少の訂正もあったが,大体こういうアンケートでよろしいだろうという御意見であったので,そのアンケートを7月28日に全委員に発送したところ,34名の方々から御返事をいただいた。それを9月21日の第8回の問題点整理委員会でまとめ,総会の審議資料として配布してよろしいかを検討した結果,よいということでまとまった。それは,皆さんのお手もとに差し上げてあるとおりである。その後,植松委員から遅れて回答があったので,黒表紙の資料中に差し込んである。
 なお,今後,アンケートをとるとすれば,字体に関するものである。他は大体整理を終わったので,これをお読みの上,審議していただきたい。

福島会長

 主査から8項目についてアンケートの形でまとめた御意見の大要を伺ったわけであるが,これについてそれぞれの意見をいだたきたい。
 最初に,順序に従って「1 固有名詞に用いる漢字について」,「問1 地名・人名等の固有名詞のための漢字についてどのように考えるか。」については次のとおりである。

 ア  特に一般の漢字表の中へは採り入れないでよい。 ……17名
 イ  ある程度一般の漢字表の中へ採り入れる。 ……19名
 ウ  その他 ……0名

 以上,アとイとを合計すれば,これが大多数になる。次は,固有名詞の取扱い方。これは何もかもすべて入っていなくてもよろしいのだという考え方が大勢を占めている。例えば,いつぞや岡村委員から御発言があったように,岡山の「岡」の字もない現在の漢字表であるが,格別不自由はないということであった。固有名詞のうち,地名だけでも網羅(ら)するのは実際上不可能であるならば,全部入っていなくとも,ある程度入っていればよろしいのだということにならざるを得ないように思う。審議会がこれから現実の作業に移るに当たり,地名の件は全部入っていなくてもよろしいということに格別異議がなければ,人名関係などに続いて御検討願いたい。

小谷委員

 固有名詞に関しては,これは現代の国語を書くための漢字という立場から,地名に関する漢字のうち府県名程度の漢字は入れたいと思う。ただし,例えば,「岡」という字が固有名詞という立場を離れて,漢字表に入れられるべきであるという審議の結果であれば入れてよい。また,ある漢字が固有名詞という意味においてのみ現代の国語を書くため必要であるということであれば,やはり固有名詞用ということで漢字表に入れていただきたいと思う。
 それから,それ以下の地名,あるいは人名ということになると,書く人,その人がどこに住んでいるか,あるいはどういう人と関係をもっているかということによって,個人個人によって違うので,これは漢字表という形で入れるのは適当でないと考える。

遠藤問題点整理委員会主査

 府県名の漢字を漢字表に入れたらどうかという意見の方は相当数ある。現在,都道府県名中,当用漢字表にない字は14字ある。かなりの委員がこれを漢字表に加えるとしており,今度漢字表を作る際に考慮していくというふうに考えてよろしいのではないかと思う。

福島会長

 恐らくこのアンケートの結果による大多数の意見というのは,地名に関する文字をある程度一般の漢字表の中に採り入れるということのようである。ある程度とは,都道府県名であって,現在の漢字表に入っていない漢字14字の追加が必要であるということか。

遠藤問題点整理委員会主査

 そうである。

福島会長

 その辺は,現在の都道府県名は全部書けるように漢字表を作成するということをここでしっかり決めなくても,ある程度一般の漢字表の中に採り入れてほしい,できるだけカバーするようにしてほしいといこうとが総会の大体の意向であるということで,作業部会なり,あるいは専門委員会なりの実際の作業の際に考慮してもらうということができるだろう。

馬淵委員

 「ア 特に一般の漢字表の中へは採り入れないでよい。」というのと「イ ある程度一般の漢字表の中へ採り入れる。」というのとは,一緒にならないと思う。今,会長はまとめて大多数の意見というふうにいわれたが,ちょっと違うのではないかと私は考える。いかがか。

福島会長

 この「ア 特に一般の漢字表の中へは採り入れないでよい。」というのは,現在のままでよろしいということか。

遠藤問題点整理委員会主査

 恐らくこのお答えになった方々の大部分は,今度できる漢字表は制限的な性格でないということであるならば漢字表の中に入れなくても使ってよいのではないかというお考えで入れないでよいとした方が大部分と思う。あとの方は入れたらどうかという意見で,特に14字は入れたらということをはっきりお書きになっている。

福島会長

 先ほどの私の発言はちょっと言い過ぎなので取り消すが,半分半分であるということで作業部会に考慮してもらうということになると思う。この総会でどっちかに決着をつけるというわけにもいかないし,制限的なものではないということを決めたことを考慮して,14字追加せられたいという方々も半分でがまんしていただくとか,更に少なくてがまんしていただくということもあるかも知れないが,その辺のことは,全般の漢字表を通じながら検討していただくということになるかと思う。

宇野委員

 私は,繰り返し申しているが,現在のいわゆる当用漢字表というものを,私流に言えば,最低必要漢字というものに性格を変えさえすれば,いじらないであのままでいい,極端に言えばそういうことになると思う。だから,私の一番簡単な方法は,なるべく早い機会に国語審議会の総会において当用漢字表の前書きを改めて,あれは最低必要漢字である,だから,それ以外に必要な字はいくらでも使いなさい,しかし,なるべく,これで書きなさい,そういう趣旨であるということを書いておきさえすれば,もうこの国語審議会は直ちに散会してよろしいとまで思っている。これは私の持論で,10年前からそう言っている。
 ところが,実際はそれではなかなか皆さんの了承がない。大多数の意見が,少し手直ししようかというのである。つまり,手直しというのは,今まで当用漢字表に入っていても,あまり必要のない字は少し省いたらどうか,それからもっと必要な字がたくさんあるからそれを入れたらどうかというふうなことである。私は省くことは反対であるけれども,大体の皆さんの意見はそのようであると拝聴している。そういう前提で手直しすれば,少なくとも都道府県の字ぐらいは入れなければおかしいじゃないかということになる。岡村委員はそんなものはなくても不便はないと言うが,それは御自分は不便はないだろう。私だって当用漢字は全く無視しているから,不便はない。ないけれども,これから子供を教育していくとか,あるいは社会の一般の人たちが日常の日本語を自由に書き表すとか,あるいは法律,例えば改正刑法草案が多分決まったか,今,修正中じゃないかと思うが,それに従来の当用漢字表では入らない漢字が幾つかあるはずなので,それをどういうふうに処理なさったか伺いたいとも思う。そういう問題が絡んでくるので,そういう立場から言うと私は入れた方がいい,こういう意味である。したがって,私の極端な理論から言えば,アでよろしい。けれども,現状に立脚して言えば,イ,これが私の意見である。

福島会長

 この問題は,各委員のお考えをこのアンケートに現れたままの形で理解して,作業部会に取り次ぎ,この考えを参考にした作業の案をまた我々の総会にお示し願いたいということで進め得るのではないかと思う。
 次の「問2 現在,子の名にだけ使うことのできる漢字として人名用漢字別表(92字)があるが,これについてどう考えるか。」のアンケートの結果を分析してみると,次のとおりである。

・現状のままでよい。 ……6名
・人名漢字を増やして別表存続。 ……4名
・10字内外は必要,他は不要。 ……1名
・望ましい範囲を示すもの,又は参考資料として別表存続。 ……4名
・別表は廃止,法改正して,人名用の漢字は制限しない。 ……12名
・別表は不要,常用平易な文字を用いることをうたう。 ……2名
・別表は不要,当用漢字表の範囲で命名する。 ……4名
・別表は不要,一般用の字の中に加える。 ……1名
・別表は廃止又は縮小。 ……1名

 特に御意見のある方はお出しいただきたい。この総会の初期の段階で人名用の漢字などを制限するのは憲法違反であるというお話もあったわけで,そういう関係の御意見が,ちょっと語弊があるが相変わらず多いようである。

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