国語施策・日本語教育

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次第 協議〔その2〕

宇野委員

 お尋ねしたい。「アンケートの回答 まとめ」(昭和48年9月)10ページの女の子の名前の末尾に「子」が多いが,こういう字を使ったらよかろうというので最後に「乃」という字があるが,これは当用漢字にないのではないか。それから,11ページ12番の最後のところの字形の問題であるが,最後の画が縦に棒になっている「玲」なら認めるが,点を打った「」はいけないという例がある。私の知っている範囲ではそういうことはないように聞いているが本当ならば大変な問題だと思う。事実を伺いたい。もう一つは,13ページの14番,上から5行目「これから人名として用いる漢字は当用漢字表の中から選んで決めた方が他人に正しく読んでもらえるという点でよい。」とあるが,今の人名漢字の付け方は音訓を全然含んでいないので,どう読もうと勝手なわけである。だから字が制限されてくると,ある普通の字を使っていながら,非常に特殊な読み方をするという例が事実としてある。これはかえって難読になるのではないか。むしろ当用漢字に入っていなくても普通の人間ならだれでも知っている字がいくらでもあるわけで,そういう字を使った方が一般の人には読みやすいのではないか。「正しく読んでもらえるという点でいい。」という理由は私には承服いたしかねる。この三つのことについて,御意見をいだたきたい。

福島会長

 その点は問題点整理委員会で問題になったか。

遠藤問題点整理委員会主査

 問題点整理委員会としては整理するが,内容的なことは問題にしないという立場をとっている。

福島会長

 この今のテクニカルな問題であるが,「乃」の件だとか,「玲」の件だとか,文部省関係の方でだれか御承知の方はいないか。最後の御意見は,なまじ制限すると読み方が分からなくなるであろうという点はごもっともなように思う。阪倉委員どうぞ。

阪倉委員

 「玲」の字の問題は,京都府の丹後地方にある松尾寺の住職から私に問い合わせがあったもので,私の回答の中に書いてある。その和尚さんのところへ住民から自分の子供に「玲子」という名前をつけたときに,最後の画は点を打って村役場に届けに行ったところ,受け付けないというので相談があった。そこで,小学校の先生に尋ねたところ,かまわないという意見なので改めて届けに行ったけれども,やはりいけない,という。今度は中学校の先生に尋ねると,まっすぐにしなければいけないという。どうも意見が分かれたので,ということで私に問い合わせがあった。私は,延ばしても,点を打ってもよいと思うと回答し,和尚さんが再度その意見をもっていったところ,やっと認められたということであった。

福島会長

 この関係は戸籍法第50条に,「子の名には,常用平易な文字を用いなければならない。常用平易な文字の範囲は,命令でこれを定める。」とある。アンケートによれば12名の方は,こういう戸籍法の規定は改正の必要があるという意見である。アンケートの結果によると,別表はいらないという方の数がかなり多い。多少の違いはあるが,これを合計すると数字に関する限りは,別表は一般的にいらない,人名用の漢字は制限しないというグループに属する意見の方が約20。何かの形で人名用漢字表というものはいるであろうという方が15ぐらい。20と15ということでこだわるわけではないが,こういう結果になっている。このアンケートの結果を作業部会に引き継ぐことになると思うが,引き継ぐに当たって,特に意見のある方は伺わせていだたきたい。

飯島委員

 宇野委員の御指摘になった9ページの3は当用漢字表がやや定着している現在,なるべく当用漢字の範囲内に限りたいという基本的な考え方がちょっと頭を出しただけで,深い意味はない。そうすると使用できる文字の数が少なくなるということは,組み合わせた場合に同じ名前の子供が多くなるのではないかと考えられたので,組み合わせた数を多くするためということで一例として女子の名前をあげたわけである。私が母から聞いたところによると,明治の初めに,昭憲皇太后であったか,皇后陛下から日本の女の子の名前は最後に「子」で止めるように,これがいい,いうお話があったそうで,それから女子の名前の末尾に「子」というのが多いようである。由来は多少違うかもしれないが,現実にはそうである。そこで組合せの数を多くするために,最後の字を幾つか,昔から使われていた字を多く奨励すれば,その点は,救えるのではないかという単純な考えで例として挙げたわけである。

遠藤問題点整理委員会主査

 「乃」は,当用漢字表にはないが,人名用漢字別表にある。それから字体は,どういうことになっているのか。

宇野委員

 私が聞いているところでは,字体は制限がない。だから今の「玲」などというのはとんでもない話で,最後の画を棒で書こうが,点で止めようが,これは活字ならば棒になっているし,手書きではたいてい点を打つ。字体のことをあまりやかましく言うのは,例えば,「木偏」の場合,下をはねたからいいかとか悪いとかいうようなたぐいで,実にばかげた話だと思うが,それを別としても,子供の名前を付ける場合に字体は新字体であろうが旧字体であろうが,それはかまわないのだと聞いている。例えば「円吉」などという名前とか,「礼宮さま」もそうであるが,「礼」や「円」という字を旧字体で書いたりした場合にそれを受け付けるかどうか。私は受け付けなければならないと聞いている。むろん戸籍係では文句を言うけれども,がんばれば通ると私は聞いている。その辺に詳しい方に伺いたい。

小林委員

 私は,その問題はむしろ戸籍法をどうするかが根本問題で,それを決めずに範囲をどうするかを議論しても,実益がどれほどあるかと思う。戸籍法で,ある基準を示すのはいいが,これでなければいけないというのは行き過ぎで,そこを直すかどうかを基本的に議論していただく方がよくはないか。文部省の関係であの戸籍法ができたのか,法務省の関係でああいうことになったのか,あの規定が入った真相を,御承知ならばお聞かせ願いたい。

福島会長

 この戸籍法は,昭和22年の法律で,今の当用漢字表が非常に制限的な性格を持って出てきたため,その時の勢いで決まってしまったような気もするけれども,これはまさか国語審議会の方針に基づいて,こういう法律ができたものでもないのだろうと思う。国語審議会としては関係がなかったのだろうと思う。その辺,御承知の方,いないか。
 この法律も再考の必要があるという時期にきているかもしれないということは,小林委員が発言したとおりで,場合によっては国語審議会としても意見を出してよろしかろうと私は思う。

石田国語課長

 ただ今の戸籍法・人名用漢字別表についての沿革であるが,戸籍法は昭和22年にできた時は,人名用漢字別表というのはなかった。その後26年に至り国語審議会の建議に基づく人名用漢字別表の内閣告示が出され,これと同時に戸籍法第50条第2項に基づく戸籍法施行規則第60条第2項が追加された。
 なお,このような人名用漢字別表についての国語審議状況も踏まえて,戸籍法の所管である法務省の意見を伺っておく必要があると考え,法務省に申し入れてある。法務省の民事局には,この戸籍関係の事務その他を審議する民事行政審議会があり,そこにも相談していずれかの時点で返事したいと,担当課長の返事があった。

福島会長

 この法律の規定は,当用漢字表が制限的な性格でつくられたころの時に勢いで決まったもののようであり,今となっては再考の必要がある時期にきていると思う。これについて,何かの時点で,国語審議会としての意見を,法務省に持ち出すかどうかは別として,まとめるのがよろしいと思う。ほかに御意見をどうぞ。

長岡委員

 現在の社会では問題となっていないと思うので,現行のままでよい。

小林委員

 要するに,そもそもここでつくる漢字表を目安にするのか制限的にするのかという問題が,この審議会では大議論になっているわけだが,仮に制限的にするとしても,今度は更に戸籍法まで,それ以外は絶対に使ってはいけないとするか,しないかという二重の問題があると思う。名前の場合,受け付けないから仕方がないということになっているだけで,そこまでする必要があるのか,ないのか。そこには,一般的に論議していい問題がきっとある。あんまり突飛な字を使わない方がいいとか,難しい字を使わない方がいいとかは,もっともと思うが,だから一応の指導的な立場に立ってあるめどを付けるのはかまわないけれども,それにしたってこれ以上はいけないということは――特に私は,人の名前については,いかがかという基本的な考え方を持っている。ところで,仮に戸籍法では絶対にある範囲以外はいけないということになれば,今度は人名漢字をもっと精密に考えて,今の字で足りるのか足りないのか,ということを,また別な見地から検討してしかるべきではないか,という気がする。
 しかし,大体のここの空気は,漢字表は制限的にせず一応のめどにしたいという考えなのだから,それなら,当然戸籍法もそういう前提に変えるのが当たり前ではないか。――これは私の個人的な意見であるが。

福島会長

 では,人名用漢字関係は,御意見をその程度にし,次の項目「2 憲法に使われている漢字について」の「問 憲法に使われている漢字をどうするか。」についてのアンケートの結果では,次のようになっている。

 ア  すべて漢字表に入れておく。 ……16名
 イ  必ずしもすべて漢字表に入れておく必要はない。 ……16名
 ウ  その他 ……3名

 漢字表の作成を今後進捗させていくに当たって,憲法に使われている文字を全部入れるのか,全部でなくてもよろしいのか,この審議会での見当がついていた方がよろしかろうということでアンケートを差し上げたわけだが,正直なところ二つに分かれている。
 ただ,問題は,この漢字表というものを――先ほど人名用漢字関係でもあったが,今後制限的なものとは考えないとしていくようになるだろうと思うので,従来とは少々違うかもしれない。いずれにせよ,意見は大体半々に分かれているという状況である。このままで作業部会に引き継いでいくわけだが,特に発言はないか。

小谷委員

 この問題は,目安だから入れなくてもいいという観点と,別の観点としては,我々が作業しているのは現代の国語を書き表すためには必要な漢字ということであっても,憲法の漢字は読むために必要であろうと思う。理解するためにも必要である。書くため,というのは,憲法をだれが書いたか――その当時の立法者,あるいは国会議員,その他が書いたということであろうかと思う。それと,我々がその憲法を書き写すということであるが,書き写すは,書くに入るのかどうか。私は,書き写すは,古典の難しい字を書き写すこともあり,いろんなことがあると思う。漢字表は現代の国語を書くためというのなら,読みを理解することはどこかで教えられるだろうから,その建前なら漢字表にそれが入らなくてもよろしいと思う。

小林委員

 私は,憲法と漢字表の問題は別問題で,何も憲法は国民の憲法だからみんな当用漢字に載せなくてはいけないという理屈はないと考える。これは,切り離して,字として載せる必要があったら載せたらよし,そうでなければ,割り切って載せないとすればいいのではないかという考えである。

築島委員

 このアンケートの20ページに私の考えが書いてあるが,先ほどの小谷委員の意見について,私は別な考えを持っているので申し上げたい。「憲法は,書くことはないであろう。ただ読む,ないしはそれを写すことはあるであろう。その場合には,古典の難しい言葉などを写すというのもなぞらえて考えておられるであろう。」というような御趣旨を承ったようであるが,私は,憲法の場合については,古典の場合とは根本的に意味が違うのではないかと考える。憲法はすべて国民が完全に理解すべきもので,これは,日本国民としての基本的な,ある意味では義務でもあるだろうと思う。
 今の憲法は良いとか悪いとか解釈すべきでないというのとは全く次元の違う問題であって,とにかく現在,我々は憲法の下に生きているわけだから,それを完全に理解するというためには,先ほど小谷委員も発言なさったように,それを読み取るということは第一の段階で必要であり,場合によっては,同時にそれを正確に写すということも要望される。私は,完全に理解すべきものであるから,その漢字はすべて漢字表に含まれるべきものであると考える次第である。

福島会長

 恐らくこの問題は漢字表全体についての作業が進捗した段階で,全般的な字数の問題とか,あるいは,その目的――よりどころという考えをどういうふうに取り入れていくかということも関連があって,そういう段階での結論ということの方が順序であろうかと思う。
 御意見を伺い,全部作業上の考慮に反映するようにしたい。また,全般的な調整という問題もあろうかと思う。
 憲法問題についての御意見がなければ,次の点についての御意見を伺っておきたい。
 「3 漢字表に示さない漢字を用いる語の取扱いについて」というのはどういうことか。

遠藤問題点整理委員会主査

 これは,要するに,当用漢字表に載っていない漢字の取扱いについて,どういうふうに書くかということである。

松村問題点整理委員会副主査

 追加して申し上げたい。このアンケートの項目は,当用漢字表の〔まえがき〕とか〔使用上の注意事項〕とかに漢字表に付随して具体的に規定しているものに基づいている。その使用上の注意事項の「イ」に「この表の漢字で書きあらわせないことばは,別のことばにかえるか,または,かな書きにする。」というふうに具体的な指示がついているので,これから漢字表を考えるとすれば,こういうふうなものをどう考えたらよいかについて意見を出していただいて,今後の漢字表を考える上での参考にしたいというわけである。
 ただ,アンケートを作る段階で急いで,また当用漢字表の〔まえがき〕及び〔使用上の注意事項〕に少し拘泥(でい)しすぎたきらいがある。例えば,当て字などは,現行では当て字は仮名書きにするという形でとられているが,これは御承知のように,改定された音訓表では,一部当て字も付表として入っており,このアンケート自体にも若干問題があるが,そういう問題はただ本来の当用漢字表の〔まえがき〕,〔使用上の注意事項〕などの具体的な問題について一応御意見を伺うという趣旨で出されたので,不備な点は御勘弁いただいて,その趣旨の方で御意見を出していただきたい。

福島会長

 「3 漢字表に示さない漢字を用いる語の取扱いについて」のアンケートの結果は次のとおりである。

 ア  漢字表を制限的なものとしないという前提であるから,このような方針は要らない。 ……20名
 イ  漢字表を作る以上,できるだけ表にある漢字で間に合わせることを期待して,このような方針を示しておく必要がある。 ……11名
 ウ  その他 ……5名

 全般的には,漢字表の原案でもできた時点で,現行の漢字表の注意事項というものを,どう直すかとして審議願うことが実際的であるかもしれないが,差し当たりこのことについて発言願いたい。特になければ次の問題に移る。場合によっては,さかのぼり御意見を賜りたい。
 4番目の問題点「4 品詞によって,漢字表にある漢字でもなるべく仮名で書くことにしている現行の方針について」,「問 現行では,代名詞・接続詞・感動詞・助動詞・助詞は,なるべく仮名で書くことになっているが,このような方針についてどう考えるか。」についてのアンケートの結果は,

・現行の方針でよいとするもの ……16名
・改定音訓表の趣旨でよいとするもの ……6名
このような方針を示す必要はない(自由に任せる)とするもの ……9名
その他 ……4名

となっている。

小谷委員

 実は,3の問題は私が一番悩んでいる問題である。一方で,日本語(国語)を豊かにということは,自由に日本語の語彙(い)を使えるようにということを念頭にしており,一方でそのためには非常に多くの漢字が必要になるという私にとっては大変難しい,ジレンマに立たされる問題である。
 それで,当用漢字表にない漢字を使わなければ書き表されない語であるところの,漢語でない言葉がたくさんでてくる。いわゆる大和言葉であって,その漢字が漢字表にない,あるいは訓が入っていないという言葉が辞書で見るとかなりあるように思う。
 こういう大和言葉の場合に訓が認められているものは,その漢字を使うのがより正常な形と思うが,仮名で書くということは本当は正しくはない書き方だ,という意識をぬぐい去る必要があるのではないか。そうしないと大和言葉がだんだん滅びてしまう。そして,近年の傾向として,漢語の割合が増えているようで,その中でどのくらいの割合かは分からないが,和語を書き表すときに,漢字が当用漢字表にないということが原因になっている場合があるのではないかという気がする。
 それで,私の希望としては,国語審議会において,大和言葉で漢字で書けない言葉は仮名で書くのが当然であるという建前を採り,公に表明していただきたいと思う。
 漢語については,多くの方が交ぜ書きは一番いけない,仮名で書くことも余り好ましくないという御意見である。私は,この点については,あるものはやはり仮名書きでいいのではないかと思う。それもしかも十分日本語としてそれが熟していて,聞いても分かるような言葉の場合−−例えば「滑稽(こっけい)」の「滑」の音「コツ」は音訓表に掲げてないし「稽」は当用漢字にない。この「滑稽」なんていうようなのは仮名で書いてもさほど我々の感じとしてはおかしくない−−滑稽であるというような意識はないと思う。そういうように,使いたい言葉で漢字がないという場合に,仮名で書いておかしくないと考えられるような語については,強いてその言葉を漢字で書くためにその漢字を漢字表に入れる必要はないのではないか。そういった点についても小委員会(作業委員会)において検討していただきたいと思う。
 次に,4番の問題については,私は現行を基本としていただきたいと思う。ところどころに,改定された音訓表の方針が引用されているが,その音訓表で気になるのは,前文のところに,「原則として,漢字は実質的意味を表す部分に使い,仮名は語形変化を表す部分や助詞・助動詞の類を書くために使ってきた。」という表現がある。これは前期の漢字部会で,原案では確か現在形になっていたのを過去にしていただいたように,私は記憶しているが,例えば副詞というようなものが実質的意味を持たないかというと,実質的意味を表していると思う。

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