国語施策・日本語教育

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次第 漢字表の具体的検討のための基本的方針について(協議)〔その3〕

木内委員

 これは議事進行に対する提案にも内容的なことにもなるが,段々議論しているうちに,一体漢字表をなぜ作るのか,また,書くための漢字表とは何なのかということが問題だということが分かってきた。そこで,先ほどから,漢字表作る場合には「書くため…」があった方が便利だということだったが,本当を言うと,私は読むための漢字表の方がよほど必要だと思う。しかし,それをいきなり作るというわけにはいかない。というのは,前期までの審議で既に音訓表以来「書き表すため」ということで流れているわけだから,この流れを途中で急に変えるわけにはいかない。むしろこの流れのまま進んでいった方がいい。また,表現があいまいだという意見もあったが,こういうものはむしろ漠然たるところが長所であって,この方が弾力的な審議ができる。そこで,とにかく小委員会を発足させてはどうか。その間に,この書き表すための漢字表の審議と並行して読むための漢字表の検討をしてもいいと思う。つまり,古い小説とか新聞に出るような小説の漢字はどうするかとかいうような条件を考えながら,読むための漢字表を作ったらどうなるかといったようなことも並行して審議してはどうかということである。そこで,このインストラクションで動く小委員会をなるべく今日作り,その上でいかなる革命的な提案があってもそれを審議し,それが適当でなければ採用せず,リーズナブルであったらそれを持っていくというようにしたらいい。今「読むため」の方が大事だからといってすぐこれの検討を始めると,また一年ぐらいかかってしまう。とにかくこの案で小委員会を発足させ,そこで漢字表の審議と同時に,別途もっと大きな見地からものを考えてもいい。そして小委員会を発足したからといって,決して「読むため」のものに関する意見を封ずるものではないという形で進んでいただいたらいいと思う。

古賀副会長

 長官から皆さんに申し上げたいことがあるということである。

安達文化庁長官

 長官という立場より,この審議会に41年以来出席してきた者として,この問題についての従来の考え方,この案が出てきた背景というものはこういうふうに解釈されるのではなかろうかという私の感想を述べたい。
 現行の当用漢字表は,恐らく余り難しい字を使わないようにしたいということが出発点であっただろうが,それが非常に制限的で,それ以外の漢字を使ってはいけないというようなことにしたため,日本語の圧殺というか,日本語そのものの点でどうかということから,これはやはり制限的なものにはすべきではないということが今回の再検討の基調になっていたと思う。そこで,一応漢字表は作るが,それだけでは万能ではないから制限的ではないものにしておく。そして例外的というか,表にないものが非常に使用されることになれば,次の段階において漢字表の改定ということにもなろう。やはり漢字表は新聞やその他の面で一応の目安として必要だが,漢字表の適用を厳格にしては日本語そのものの圧殺になるから,そういうことにならないように,いわば一種の突破口のようなものとして漢字表を設ける,しかし,それは制限的なものとはしないというお考えではなかろうかと思う。
 それから,「2」については,漢字表を作るとたとえそれが制限的でないにしても,あるゆる国民生活に対して影響力を持つから,おのずから範囲を区切っていく必要がある。そういうことから,いわゆる公の社会生活ないしパブリックな面を考えることとし,個人的な面にはタッチしない,つまりプライベートな手紙などは関係がないということとする。また,専門の分野等については,特殊な用語等もあり得るわけだから別にする。先ほど申し上げた一種の突破口のような意味もあるので,一応一般的な公の社会生活というものを一種の対象範囲と考えて進めていくが,この問題としてはその辺にとどまることがむしろ賢明ではないかというのが「2」の意味であろうと思う。
 その場合において,書くための漢字表が制定されるとそれが読む方にも影響することは当然である。書くための漢字は当然読むことができなければ意味がないわけであるから,書くための漢字ということは,同時に読むことも自由にできる漢字であるということが前提になるだろうと思う。しかし,読むための漢字ということになると,これは非常に広い範囲,つまり古典からその他すべてにわたるわけだから,これについては国語審議会というか,漢字表としてはタッチしない部面にしてあると思う。それはいわば自由の範囲ということだろうと思う。そうなった場合に,そのことは,結局教育の問題にも関係してくる。もし教育で当用漢字以外は漢字を教えないということであれば,非常に不都合になるわけだが,しかし実際は漢文やその他の古典を通して,いわゆる当用漢字にない漢字も教えている。そのような関係で,読む漢字がこの世の中で相当行われていると思う。しかし,その辺のことは一応今までのところ黙っておいて,一般の教育の問題にゆだねるというようなことが従来の考えではなかったかと思う。したがって,そこから「3」の問題が出てくると思う。漢字表をどういうものとして考えるかという場合に,もし読むためということになれば,あらゆる日本の古典から中国の古典を含めて相当なものを考えなければならない。しかしそれは本来の目的というか,従来の国語審議会の範囲外ではないかというようなことが一つの前提になって,現代の国語を「書くため」の漢字表であるというようなところに絞ってこられたのではないかと思う。漢字表を作る場合に,これを読むためであるとすると,それは全く別な観点から考えなければならない。そういうことから,やはり書き表すという点が明らかでないと,小委員会での作業ができにくいのではないかということで「3」があると思う。

安達文化庁長官

 ただその際,先ほど森岡委員からも御指摘があった漢字を選ぶ態度であるが,例えば日本の言葉を表すためとか,日本の漢字を知るための基本的なものを中心にして選んでいくべきだという考え方は,別の問題というか態度の問題としてあるだろうと思う。しかし,それは必ずしも書き表すためのものということと矛盾するものではないかと思う。つまり,選ぶ場合にどういうようなものとして選ぶかという目的を考えると,それは一応書くという点に着目して選ぶということである。したがって,漢字として基本的なものを考えるということについては,また別個の考え方として小委員会で十分御検討いただければいいわけである。本来漢字表というものがどういうことを目指して作られるかがはっきりしていないと,小委員会での作業がしにくいと思う。そこで「1」から「5」までの項目が出てきたのではないか。したがって,先ほど木内委員のおっしゃったような意味で,読むための漢字表についてはまた別な観点でお考えいただくこととして,国語審議会がそこまでいくべきかどうかは別に考えた方がいいと思う。そこで,従来の系統での作業から出発して審議会の能率を上げていただくには,何らかの共通理解の上に立って作業しないと先へ進まないのではないかと思う。
 以上大変失礼ながら,従来私がこの審議会に出席していて理解し得た範囲で,この案についての考え方,それから今後の運営などについての希望を申し上げた次第である。

古賀副会長

 今までいろいろ話し合いをしていただいたが,この辺で小委員会を作り,そこで具体的な検討をお願いしてはどうかという皆さんの御意向だと考えてよいか。

鈴木委員

 ただ今副会長から小委員会の話が出たが,私は委員会の発足時期については,早過ぎも遅過ぎもしないと思う。
 結局,どういうふうに文章を書いても,具体的に最後に出てくる漢字表については,はっきり言えば,字数が非常に多ければいくら制限だと言ってみても実際の制限性は少なくなるし,また,制限しないと言っても,今の漢字表よりずっと字数が少なくなればいやおうなしにいろいろな意味で制限的になってくる。したがって結局は,漢字表の実際のもう一歩具体的なところへ進んでみないと議論がはっきりしない。小委員会が発足してしまったらもうチェックが利かないというわけではなく,いつでも総会で意見を述べる機会があるわけだから,私はこの辺で小委員会を発足させ,何か具体的なものを作った方が話の焦点ができていいと思う。
 実は私は整理委員会の委員ではないが,1回欠席した以外はボランティアとして整理委員会に出ていたが,その印象では,整理委員会が総会をリードするというような方向ではなく,どちらかというと非常に慎重でまったくの整理役であったと思う。むしろ生ぬるいぐらいの態度であって,総会の趣旨を大変尊重していた。したがって,こういうレベルの審議をいくらやっても余り変わり映えがしないと思う。そこで,とにかくやってみて,悪ければ…というふうにお考えになった方がいいのではないか。漢字表がどのような性質であろうと,非常に沢山の字が入れば音訓の問題もほとんど片付いてしまうし,読むためとか書くためとかいう問題も,極端に言えば漢字を全部並べてしまえば何の問題もなくなってしまうわけである。したがって,一番大事なことは,どの範囲の字が入るかということである。そこで各委員のお考えが具体的に出てくると思う。結局どんな表ができるかによってほとんどの問題がもっとはっきりした形をとってくるのではないか。したがって小委員会を作ることを今日決めることに賛成である。

古賀副会長

 ただ今の御意見では,小委員会の発足は早くも遅くもない,タイミングとしてはちょうどいいということである。
 外に意見はないか。なければ,ただ今の御提案のように小委員会を発足させるということでいいか。特に意見がなければそのように取り計らうこととする。
 先ほどの鈴木委員のお話の中にもあったように,小委員会は総会の注文をうまくさばいていただくと同時に,随時適当な頻(ひん)度で総会に進行状況や内容について連絡していただき,総会の意向を反映しながら進んでいただくことにしたい。もっともこのことを字句でどういうふうに表すかは大変難しい問題だが,要は漢字表を作るに当たっては,技術的,専門的な事項を検討していただくといったふうなことではないかと思う。そこで一体委員会の規模をどのくらいにするかという問題があるが,会長は20人ぐらいでどうだろうかというように言っておられたが,この20人が多すぎるのか少なすぎるのか今のところはっきりしない。小委員会に参加御希望の有無については,いずれ文書で個別に伺うことにしたい。なお,総会のときに十分発言する機会があるから小委員会には加わらないというお考えの方もあるかもしれないと思う。しかし,客観的に言ってこんな方には参加していただいた方がいいのではないかというような方には,たとえ御本人からは積極的に参加の希望がない場合でも参加願うことになると思う。その場合には相談に乗っていただきたいと思う。どんな方に参加を呼びかけるかは,いずれ運営委員会でお考え願うことになると思う。その結果,負担の上からは相当御迷惑になるかと思うが,御相談申し上げた方々はなるべくお引き受け願いたい。それから小委員会についても整理委員会と同じように,委員以外の方でも御希望の方は随時出席していただくという建前にした方がいいと思う。御承知のように,今回やる仕事は大変大事なことであるから,会議の出席者数が少ないと会合をしてみたところで意味がないと思う。したがって,委員をお引き受けくださった方はできる限り御出席いただきたいと思う。そういうことで,一応御希望を参考にしながら運営委員会でお考え願い,会長から委員の指名をするということで御承知願いたいと思う。会議の開催回数については,今までの経験から考えて月2回ぐらいは必要だと思う。というのは,皆さんがそれぞれ大事な本務を持っておられる方ばかりであるから,今後の小委員会の間隔が余り長いと,前回の記憶が薄くなったりして話が余り進行しない恐れもあるからである。また,時間的な負担などについてはあらかじめ覚悟しておいていただくことも必要だと思う。なお,小委員会の中にごく少人数の専門委員のようなものをお願いし,そこで詰めてもらうというやり方もあろうが,私が前期の漢字部会とかな部分とに参加した経験では,委員会の下に更に委員会があると一つの欠点がかなり目立つ。それは,一番小さいグループである程度まとめられたものはその上の小委員会で先ず承認してもらい,それから今度はその決定を更に総会に諮るというふうに,仕事が屋上屋を重ねるということになることである。つまり一番小さいグループは,小委員会にどういうふうに報告するかというような原案作成で時間がかかり,今度はその小委員会が総会への報告を作るのに時間がかかることになる。そういうわけで,結局上へ持っていくための原案の作成に時間がかかり,実際の作業をする時間が非常に少なくなる恐れもあるので,そういった意味から,私の今までの経験から申し上げると,余り屋上屋にはならないようにする方がいいと思う。小委員会のことについては運営委員会でよく相談をしていただくことになるが,そのときの材料にしたいと思うので遠慮なく意見を述べていただきたい。

木内委員

 非常に具体的に何もかもおっしゃったが,それで十分ではないかと思う。

新井委員

 先ほどの副会長及び主査のお話で,今日の議題の基本的方針(案)について,多数意見をどういうふうに尊重してこの5項目をお作りになったかについてのお話はよく分かった。
 それからもう一つ,「1」で「漢字表は必要であると認められるが,その性格については,現行の当用漢字表のような制限的なものとはしない。」と言っているが,この「制限的なものとはしない」ということが,現行の漢字表の漢字1,850字という制限をもっと暖めて,例えば2,000字ぐらいにしてもいいのではないかというような意味に受け取られ,そういう印象をこの言葉から受ける人があったら,これは非常に誤解だと思う。それで,「制限的なものとはしない」ということを,現行の当用漢字表のような拘束的なものにはしないというように解釈するものならば,誤解を防ぐために,これは漢字の数を現在よりも増やしてもいいというような考えではないんだということをはっきりさせておくべきではないか。したがって,小委員会は,この「1」の文句は世間一般の間で,当用漢字1,850字をもっと増やしてもいいという意味だというような誤解が起きないような配慮をしていただきたい。つまり,「制限的なものとはしない」という意味は,拘束力の強弱の問題だということをはっきりさせるように小委員会で御配慮願いたいということである。

古賀副会長

 ただ今のお話に関連して,現行の当用漢字1,850字を相当増やすのか減らすのか,あるいは同じくらいにするのかというようなことをあらかじめ決めておいた方がいいのではないかという意見も出たりしたが,しかし現在余りこれという根拠がないうちに決めてしまうよりは,少し小委員会で仕事を始めていただき,その結果を総会に諮り,その意向を踏まえて小委員会は更に仕事を進めるというようにした方が合理的ではないかと思う。最初に,大体現行ぐらいにしようとか,余り増やさない方がいいとか,少しは増やした方がいいとかいうことは,何だか分かったような分からないような話になる恐れがあると思うので,そういう点はいずれ総会でも問題にしていただくことにして,その問題の材料になるような仕事も併せて御検討願いたいと思う。

岡村委員

 「1」のように「現行の当用漢字表のような制限的なものとはしない。」と言うと,無制限にするのかというふうに考えられる恐れが多分にあると思う。このような不徹底な言い方だと,恐らくそのつもりではないと思うが,現在の漢字表を取り払ってしまって勝手にせいということになりかねない。「制限的なものとはしない」といういい方は非常に誤解を招くから,「漢字表は,更に実状に即して再検討を加える」とかいうような言い方に直して委員会に付託するか,そうでなければ,委員会にそういう考えでやってくれという条件を付けてお願いするか,どちらかにしていただきたいと思う。

長岡委員

 去年の6月に答申された音訓表では,「憶」という字の訓は採用されれなかったが,私は,例えば楠木正成を「おもう」というような場合には「思」という字は使いたくない。やはり私の場合は,「憶」と書かなければ「正成をおもう」という追憶の意味にはならない。そういう場合には,音訓表には憶の訓がないが,それは使ってもよろしい,書く人にとってぜひともこの字でなければならない場合には,厳格な意味の制限でないのだから使いなさいというのが昨年答申された音訓表の目安の意味だと思う。制限的なものとしないというのは,無制限であるというようなことではないということがこの目安の意味である。
 そこで,すみやかに小委員会を発足させ,その委員の方々がそれぞれこういう字はやはり入れたいというような字をお持ちだろうと思うから,そういう具体的な仕事にお入りになってはどうか。

古賀副会長

 今の数名の方の発言も含め,総会の意向が小委員会に十分徹底するように取り計らいたい。
 それでは,先ほど御相談したように,小委員会の組立て方を運営委員会で相談して,そのうちに各委員に相談させていただくようにしたい。そこで,委員会の構成についてであるが,御出席の委員を含め,全員の方に参加の希望の有無の問い合わせの手紙を差し上げるので,事務的な都合も考え,11月7日(水)までに国語課あてに御返事をいただきたいと思う。
 ちょうど時間がきたので,今日はこの辺で閉会にしたいと思う。ありがとうございました。

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