国語施策・日本語教育

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次第 前回の議事要旨の確認/漢字表の具体的検討について(報告・協議)

福島会長

 第89回国語審議会総会を開会する。
 最初に前回総会の議事要旨の確認をお願いしたい。前もって差し上げてあるので,御覧いただいたことと思う。御自身の発言について,修正を要する点があったら,お知らせいただきたい。(発言なし)発言がないので確認したものとする。
 次の議題に入る前に一言申し上げたい。本日の議題としては,漢字表の問題と字体表の問題の二つが予定されている。いずれも漢字表委員会,問題点整理委員会からの報告に基づいて,本日の協議をお願いするわけであるが,議事を進めるおおよそのめどとして,まず漢字表の問題について,約1時間程度で報告と協議をお願いして,続いて字体表の問題を残りの時間でお願いしたいと思う。
 1月25日に開催された前回総会以降,漢字表委員会には何回も会合して検討を進めていただいた。その経過等について岩淵委員から御報告いただきたい。

岩淵主査

 前回の総会以後に,漢字表委員会を月2回の割で第2回から第6回まで計5回開いた。その5回の会議で出たことを簡単に報告する。
 まず,総会で決定した「漢字表の具体的検討のための基本的方針」の確認のための協議をした。それに関連して,鈴木委員と森岡委員から資料が提出され,それについての意見の交換をした。
 次に漢字表と学校教育との関連の問題について各委員の考え方を大体統一しておくために,現在の学校教育における漢字の取扱いなどについて文部省の関係官から説明を聴いて,いろいろと意見を交換した。
 それから,漢字表委員会の議事の進め方について話合いをした。この進め方については各委員の考えをはっきりつかむために,意見を文書で提出していただき,それを中心に考えた。それ以降は,会議の進め方の大体の見通しがついた。これについては,資料1「漢字表の具体的検討に当たっての主な観点及び関連資料」に基づいて少し説明したい。

1  基本的な態度
 我々がこの漢字表を検討する基本的な態度として大体次の三つの事柄が話合いでまとまった。
 1番目として,「漢字表の具体的検討のための基本的方針」の「漢字表は現代の国語を書き表すためのものとして考えるものとする。」ということについて,いろいろと意見が出て,これをそのままそのとおりに受け取ることは,多少問題がないわけではないが,総会で決定したものは一応これを了承して,問題点については,これからの審議の過程の中でまた議論をすることにして審議を進めることを了承した。
 2番目として,日本語における漢字の意義とか役割とかいうものについて十分な認識を持ちながら審議を進めることを了解した。
 3番目として,教育に関することについては,国語審議会でどの程度取り上げるか問題があるので,一応教育問題を直接取り上げて議論することはしないが,漢字表と学校教育とは関連が深く,どうしてもそれに触れざるを得ないことも起こってくるので,絶えず教育の問題を念頭に置きながら,漢字表の審議を進めていくことを了承した。
2  主な観点
(1)当用漢字表を具体的に考えていくのに,現在ある当用漢字表に即して議論を進めていくという行き方と,これにこだわらないで,新しく漢字表を考えていくという二つの行き方があるわけだが,現在の当用漢字表はもう既に20年以上使われて,いろいろな点で重要な資料なので,これも資料の一つとして踏まえながら,ほかのいろいろな資料をも併せて漢字表を考えていくことになった。
(2)具体的には,現代の新聞・雑誌における漢字の使用度数の観点と,いままでいろいろの観点から選定されてできた漢字表の重なり具合とか違い方とかいうことを踏まえた観点の二つを総合して検討を進めることにした。殊にこれについては,あとでお話しするように森岡委員の労作があるので,単に漢字の問題というだけではなくて,漢字の概念というようなものを考えながら,漢字表を選んでいくことができるのではないかと思う。
(3)このほか,次のようないろいろな観点を加えて具体的検討を進めていくことになった。
@  語彙の観点――根本的に漢字表を考える場合には,語彙の点から考えなければいけないわけであるが,特にそこに書いてあるような点について考えていく必要がある。
ア 現行の当用漢字表が制限的なもののために,次の例にあげるような,言い換え,書き換え,仮名書きということをしている語をもう一度見直してみる。
 ・言い換えの例「職」→「汚職」
 ・同音の漢字による書き換えの例「義捐金」→「義援金」
 ・いわゆる交ぜ書きの例「洗濯」→「洗たく」
 ・仮名書きの例「挨拶」→「あいさつ」
イ 漢字の機能度から考えていく。
 機能度というのは,例えば「屋」という漢字は,「家屋」「魚屋」「屋根」といろいろに使われるが,漢字がどういう言葉を構成し,形づくるかという観点から,漢字の重要度を測ってみることである。括弧の中の説明に「単独で,あるいは他の漢字と結び付いて,語彙を形づくる度合い」と書いてあるが,「単独で」というのは,例えば,「式を挙げる」の「式」とか「役に立つ」の「役」とかを指している。
ウ 和語の名詞,接続詞,副詞などだけに使う訓専用の漢字を再検討してみる。大体,現行の当用漢字の性格からいうと,訓専用の漢字は余り取り上げないという方針があるようだが,やはり訓専用の漢字も一応当たってみる必要があるだろうということで考えた。例えば「肌」「棚」など当用漢字にはないようなものについても一応見てみるということである。

岩淵主査

A  漢字の構成要素の観点――漢字の字形を構成する要素から見ていくということである。
 例えばそこにあげてある「岡」は,これだけでいろいろに使われるほかに,「金偏」を付ければ「鋼」として,「糸偏」を付ければ「綱」として使われるというようなことである。
 これらに関連する資料として,次のようなものがある。
(1) −@「現代雑誌九十種の用語用字」(国立国語研究所報告・刊)−
−語彙及び漢字についての調査
  A「現代新聞の漢字調査」(国立国語研究所中間報告)
  B「語彙調査四種」
(2) 「語彙調査四種の使用度による漢字のグループ分け」
(3) 「漢字の層別」(森岡委員提出の資料)
(4) 「新・用語用字集」(日本新聞協会)――各新聞社などで当用漢字に基づいて,言い換えとか,書き換えとか,いろいろな工夫をしたもの。
(5) 「同音の漢字による書きかえ」(昭和31年 国語審議会報告)

 次に資料2から5までをなるべく簡単に説明したい。
 資料2「語彙調査四種の使用度による数字のグループ分け」(国立国語研究所で行った4種類の度数調査を材料にして段階別を施したもの)
 各調査ごとの使用度数の順位を1番から500番,501番から1,000番までというように,500ごとに切ると各調査とも字数が3,000ぐらいなので,各6段階に分けることができる。そこで順位が1番から500番までのものには0点を,501番から1,000番までのものには1点をというように点数を与えていくと,4種類なので0点から24点までに分けることになる。例えば表外字の「此」,婦人雑誌では使用度数の順位が大変低いので,階級点数は4点,総合雑誌では使用度数の順位が高いので1点,雑誌九十種では2点,新聞では,当用漢字表外字なので出てこないため6点ということで,合計13点と考えていくわけである。
 資料2−第1表 最初のA欄には,教育漢字が0点から24点までの階級別でどのように分布しているかということが示してある。
 以下B欄には準教育漢字(小学校6年で加わる教育漢字以外の115字)が,C欄には教育漢字以外の当用漢字が,D欄には削除補正の字(補正資料で削除したいとしたもの)が,E欄には追加補正29字(28字に「灯」を加えたもの)が,F欄には人名用漢字が,G欄には一般の表外字が同様に示してある。累計すると300字はどの表でも500番以内に入っているということになる。更にこの第1表で見てみると,10点までを累計すると1,551字に,15点までで2,089字に,20点までで2,804字に,全体では3,917字になる。この第1表から分かるように,教育漢字でも割に階級点の高いものもあるし,当用漢字以外のものでも割に階級点の低いものもある。概して当用漢字のようなものは,大体階級点の低い方に固まっているということはいえると思う。
 それから階級点0点であったもの,つまりどの表でも500番以内に入っているのはどんな字であるかというのは,次の第2表に示されている。これで見ると,教育漢字がほとんど大部分を占めているが,いわゆる115字の準教育漢字も5字,一般の当用漢字からも5字入っている。そのほかでは人名用漢字の「藤」が入っている。
 資料3「現代雑誌九十種の漢字調査」(調査述べ字数28万字,異なり字数3,328字)
 これは雑誌の性質によって,T評論・文芸 U庶民 V実用・通俗科学 W生活・婦人 X娯楽・趣味という層別に分けてある。
 ただ,雑誌というものは,いろいろなものが一つの雑誌の中に入っているので,厳密な分類にはならないと思うが,大体のことは雑誌の分類をすることによって見当はつけられると思う。
 で,この資料3から見られることについて説明する。
 表1の使用度数の分布表に使用度数が1,001回以上のもの,1,000回から501回までのものというように分けて出してある。この表1の累計欄には,非常に使用度数の多い41字は,全体の漢字の使用度数の22%を占めるというようなことが示してある。つまり,100字漢字が出たとすると,22字までは1000回以上出てきた度数の字であるといったことを示しているわけである。更に累計の異なりが1,491字で,全体の使用度数の96.1%を占めることになり,100字あるうちの96.1字までは約1,500の字で占められているというようなことも示している。
 統計的に度数が8以下のものは,ここに数は出してはあるが,1回や2回出てきたからといって,それは特別の意味を持たないということで,……線が引いてある。参考までにいうと,この雑誌九十種の用語用字の調査で全く引っかからなかった字は,(もちろんそうだからといって全く使われなかったというわけではないが)教育漢字では「蚕」と「弐」の2字であった。教育漢字以外の当用漢字では13字ばかりあった。
 表2からは,婦人雑誌,娯楽趣味の雑誌といわゆる総合雑誌的なものとは,かなり漢字の使い方が違っていて,大体において婦人雑誌,娯楽・趣味の雑誌の方には当用漢字以外の字がかなり使われている傾向が見られる。
 最後に,これはサンプルだが,一字一字について,その字がどういう言葉で使われているかということとか,その回数とかが示してある。例えば一番上に出ている「無」という字は,順位は136番目で実際の出現度数は,436回,そのうち「ブ」として使われたものが35回で(その35の次に斜線があって8とあるのは,「無事」「無精」といった8種類の語に「ブ」が使われているということである。また「無事」についている9という数字は,頻(ひん)度数が高くて9回使われているということであり,その他の語で数字の付いていないのは使用度数が1回くらいということである。)「ム」と使われていると思われるもの356回であるといったことが示してある。
 資料4「現代新聞漢字調査」(中間報告)は,昭和41年の1年間,朝日,毎日,読売の3種の新聞からサンプルを取ったもので全体の3分の1だけ処理したものである。延べ字数63万字,異なり字数2,879字になるが,全体の処理が済むと異なり字数ももう少し増えると思う。
 これからでも,雑誌に比べて新聞の方が異なり字数が少ないという傾向は見られると思う。

岩淵主査

 この処理をするのに記事面の話題によって12の「層別区分」を立てた。第1表は雑誌九十種と同様に標本全体の使用度数の分布を調べたものである。
 表2は新聞と雑誌の使用度数分布の比較をしたものである。これによると新聞は1,500字で98.4%になるが,雑誌はやや低く,96%であるといった違いが分かる。
 表3は層別の使用度数分布の比較を示したものである。これで,最初の1,500字でどのくらいのものを賄っているかという見方をしてみると,例えば政治欄では99.8%@の商業広告98.4%Aの三行広告99.6%となり大体どの欄でも1,500字ぐらいでかなりのものを占めているということがいえると思う。
 それから,ついでに新聞の3分の1の調査で全然出てこなかった字を,一つの話題として申し上げてみたいと思う。表1の「当用漢字」の欄の下の区分に「補正漢字」とあるが,この漢字は新聞社では使わないことにしたものである。実際には19字は使われているが,9字は全く出てこなかった。そのほか,当用漢字では14字が出てこなかった。
 最後の表は,それぞれの字がどれくらいの使用度数,使用率になっているかということと,各記事面でどのような出方をしているかということが分かるようにしたものである。例えば上から14番目の「細」の字は,どのように各記事面にばらまかれているか見ると,大体どの記事面にも同じような数字が出ているが,Aの三行広告だけは使用度数が多くて,253という数字が出ている。これは三行広告で「委細面談」という使い方をするので,こうした偏りが出てきていると思う。同様なことが25番目の「曲」の字にもいえると思う。芸能面の記事だけに378回も出ているのは,「歌謡曲」,「音曲」という使い方によると思われる。
 このように新聞の記事面別に見ると,割合にどの面にも使われている字と,ある特別な面にだけ使われている字とがある。したがって,我々が字の使い方を考えていく場合に,全体の使用度数だけではなくて,どのようなところでどう使われているかということも見なければならないと考えている。
 資料5 「漢字の層別」(森岡委員提出の資料)
 森岡委員はaからjまでの10種類の漢字表を資料として漢字をいろいろと層別に処理した。

 当用漢字表(国語審議会)
 当用漢字別表(国語審議会)
 標準漢字表(昭和17年 国語審議会)
 常用漢字表(大正12年 臨時国語調査会)
 日本基本漢字(大西雅雄著。材料を教科書,新聞,雑誌,単行本等いろいろなものに取って,80万字を処理して,それを頻度数によってランクづけしてある。例えば,使用頻度数の高い1,000字を第1とし,以下2,000字まで,3,000字までというようにランクづけしてある。)
 国民学校の国語教科書に使用された漢字1,647字
 カナモジカイの選んだ「500字」
 チェンバレン編「文字のしるべ」に提出された漢字2,490字
 尋常小学校ニ於テ教授ニ用フル漢字(文部省令第十四号)
 福沢諭吉著「文字之教」三冊に使用されている漢字802字

 以上の10の資料の全体にどの程度出ているか,10の資料のうち,どれとどれに出ているかといったことを整理している。その整理の仕方が次に示してある。
1 「群」への分類

  第1群  音でも訓でも使う字
  第2群  音だけで使う字
  第3群  訓だけで使う字
  第4群  音訓に関係なく一般的にはほとんど使われない字

2 群の細分
 第1群と第3群は,漢字を訓読した場合の和語の品詞によって更に分けている。
 第2群は漢語を構成する能力によって更に3種に区別する。

  (1) 字音専用の漢字1字で語を形成しうるもの
  例 「役」
  (2) 字音専用の漢字1字では語にならないが,接辞・助詞・補助用言を付して派生語を形成しうるもの
  例 「お嬢さん」
  (3) 字音専用の漢字1字では語も派生語も形成し得ず,単に漢字熟語の要素としてのみ機能しているもの
  例 「農」

3 各群に属する漢字の類別
 これは各群の中を類別していくということである。

  第1類  aからjまでのどの漢字表にも出てくる漢字
  第2類  主として学校関係のために選定された漢字表に共通して採用されている漢字
  第3類  主として一般社会レベルの漢字表のすべてに登録されている漢字
  第4類  当用漢字表に出てくると同時に,4表(c+,d,e1+e2,h)のうちの3表に出てくる漢字
 c 常用漢字1,034字
  準常用漢字1,321字 
 e1 日本基本漢字3,000字のうち使用頻度の高い1,000字
 e2 同1,001〜2,000字
  第5類  当用漢字表と4表のうち2表に出てくる漢字
  第6類  当用漢字表と4表のうち1表に出てくる漢字
  第7類  資料aからjの10表の中にはあるが,第1類から第6類までの条件を満たさない漢字
  第8類  資料aからjまでの10表の漢字表になく,「朝日新聞社特別選定追加漢字」にある漢字

 以上の群,類を組み合わせて,その類を勘定したのが次の第1表である。
 第1表の横欄には,1類,2類というように類が示してあり,縦の欄にはローマ字でN(名詞),V(動詞),A(形容詞・形容動詞),CA(連体詞・副詞・接続詞),F(形式語),P(付属辞),E(熟語の要素)という品詞別が示されている。
 更に付表で具体的なことをつかめるかと思う。
 以上で漢字表委員会の報告及び説明を終わりたいと思う。多分足りない点があると思うので,漢字表委員会の他の方々から補っていただきたい。

福島会長

 漢字表委員会で進行中の具体的な検討についての中間報告があったが,その内容なり,検討の進め方になりに質問,意見,要望などがあったら,発言いただきたい。
 なお,森岡委員あるいは漢字表委員会の他の委員の方で発言の希望があれば補足していただきたい。(真田委員挙手。)どうぞ。

真田委員

 資料1-2-(2)に「次の二つの観点を総合して具体的検討を進める」とあり,「@現代の新聞,雑誌における漢字の使用度数の観点から考えていく」とあるが,新聞,雑誌だけでなしに法令,公用文における漢字の使用度数の観点からもお考えいただきたい。

福島会長

 漢字表委員会では別に法令,その他については必要ないという意見はあるはずはないと思うので,御要望は漢字表委員会で検討していただき,次の機会に御報告を願ってもいいのではないかと思う。岩淵主査何かあったら,どうぞ。

岩淵主査

 法令,公用文では,今紹介したような資料ができていないと思うので,これから作らねばならない。多少時間がかかるのではないかと思う。(真田委員挙手)

福島会長

 どうぞ。

真田委員

 法令用語についても漢字表が公にされ,内閣の告示・訓令が出ると,なるべく協力してその限度からはみ出ないようにと努力してきた。しかし,どうにもしかたないときには,言い換えをしたり,仮名書きにしたりしていろいろ苦労している。今回は漢字表全体の見直しをする機会であるということであるし,昨年,最近1年くらいの間に作られた法令を資料として現在の当用漢字表に載っていない文字を使った例を若干集めもしたので,これを何らかの形で提出したい。ただ内閣法制局というところはもともと調査研究をするための役所ではないし,人手もないので,科学的に悉(しつ)皆調査をしたわけではない。いわばその場限りの簡単なものである。現在の当用漢字表に載っていない文字を使った例はこれくらいあるというおおよそのめどくらいはつかめるという程度のものであると思う。それで,国立国語研究所の方にでももしそういう用意があったら,是非法令についても悉皆調査をやっていただきたい。

福島会長

 お手もとの資料については,事務当局を通すなりして御提出いただきたい。また,その他の要望についても国立国語研究所その他にしかるベく伝えたい。ほかに質問はないか。(築島委員挙手)どうぞ。

築島委員

 資料3と資料4について質問したい。現代雑誌及び新聞についての非常に克明な調査で,大変有意義な資料になると思うが,この資料の対象を見ると雑誌は昭和31年,新聞は昭和41年のもののようである。いずれも当用漢字が公布された後,相当期間を過ぎたもののようである。それで恐らくこれらの内容については,当用漢字というわくの中に押し込めて表記したものが相当多いのではないか,むしろ大部分それのみではないかと思う。もちろんこういう調査は,基礎的で大事なものの一つであるが,当用漢字がまた行われなかった時期(具体的には昭和21年以前)のものとか,あるいは当用漢字が公布された直後のまだ過渡期(具体的には昭和22年〜25年ころ)のものとかも併せて調査し,その違いについて歴史的に考える必要があるのではないかと思う。もう1点,資料3の現代雑誌の評論T・芸文の12誌「世界・中央公論・新潮・群像など」について質問したい。こういう種類のものの中には,当用漢字が一般に行われているにもかかわらず,ある種の作家たちが意識的にそういうものにとらわれまいとして書いているものをまず集めている雑誌もある(例えば新潮)。この中では,旧字体を使うということがあったと思う。これに対して,同じの部類の中でも「世界」などは,恐らく当用漢字に比較的準拠しているのではないかと思う。この点から見ても,T評論・芸文と一括すること自体少し問題があるのではないか。むしろこういう雑誌の性格によってどのようなゆれがあるかというようなことを区別して示していだだくと,当用漢字が世間全体にどういう影響を及ぼしているか,あるいはどういう傾向を生じさせているかということがもう少しはっきり分かるのではないかと思う。

福島会長

 漢字表委員会の検討の態度としては,「現在の当用漢字表を検討の重要な資料としつつ新しい漢字表を作るという考え方で検討を進めていくこととする。」としているので,統計的な資料3,4については,これが検討の方針の説明ということではなくて,あくまで使っている資料の説明であるというように了解している。要望のあった点なども漢字表委員会で考えていただけるのではないかと思う。ほかに意見はないか。(小谷委員挙手)どうぞ。

小谷委員

 2点質問したい。第1点,昭和48年10月28日総会の基本方針の了解では「書くため」の漢字表であるということになっていると思う。この「書くため」ということに対しては,恐らく「読むため」ということがあると思うが,「読むため」ということになると,明治時代の文章,作品とか古典とかといったものがどれだけ読めればいいかということが非常に問題になってくると思う。それでこの問題を一応伏せて「書くため」のということで考える漢字表を作る作業を容易にする一つの基礎があるように思う。その意味で,最後に漢字表が公にされるときには,単に「当用漢字表」というのではなく,個人的には「書くため」というような意味の形容句が入ったものであってよいと思うがどうか。更に学校教育では「読むため」のものも必要かと思うが,学校教育のための漢字表が作られる場合には,ここで我々が作ることになっている漢字表の一部分だけを学校で教えればいいということには原理的にはならないかと思うがどうか。
 第2点,資料1の2-(3)-@「語彙の観点」のウについては,これが正書法的な観点からなされるのではないかとは思う。しかし,前期の国語審議会の国語教育に関する結論などから,日本語の豊さというようなことがいわれており,その意味では日本語の語彙をできるだけ生かしたいのであるが,それに対して意味のある名詞のようなものを全部漢字で書くということであると非常に漢字が増える。そのときに表外字には振り仮名を付けるとか,仮名書きにするとか,あるいは仮名と漢字を交ぜるとか,括弧して漢字か仮名のどちらかを入れるとかいう一般的方針が決まらないと新しい漢字表の選定の仕事が大変難しくなるのではないのか。今の資料の説明のように使用頻度という観点から検討を進められていくとすると,ひんぱんに使われる漢字の表ということになるが,それでいいのか。漢字が増え,新しい漢字表が日本語のボキャブラリーを消すということになると,日本語を良くする任務を持っている国語審議会としては大変困るのではないかと思う。音訓表の前文には「この漢字仮名交じり文では原則として,漢字は実質的意味を表す部分に使い,仮名は語形変化を表す部分や助詞・助動詞の類を書くために使ってきた。」という表現があるが,今後はどういう態度をとっていくかということが決まらないと大変難しい問題が出るように思うのだが,この点について漢字表委員会の考えを伺いたい。

福島会長

 漢字表委員会は出発したばかりなので,態度の全般について検討をし尽くすというわけにもいかないと伺っている。要望の諸点も逐次検討の過程で考えられていくのではないかと了解している。(木庭委員挙手)どうぞ。

木庭委員

 資料3の「層別」は「読者層別」という意味か。

岩淵委員

 その「層別」は仮に雑誌を5種類に分けて,各層ごとに数を出してみるということで,読者ではなくて雑誌の種類別のようなものである。

木庭委員

 資料3は漢字が使われている現状についての非常に精密ではっきりした断面が出ていると思うが,先ほど指摘があった歴史的な,つまり過去からどういうように今に変わってきたかということに対する考察と将来どの方向へいくか,あるいはいくことが望ましいかというような展望とが今まで説明に欠けていたが,それはこれからあるのか。それから「層別」についてはTの評論・芸文,具体的にいうと「中央公論」「群像」のような雑誌とVの実用・通俗科学とは大体読者の教育程度は同じではないか。雑誌の性格としても「世界」なんかは専門知識がなくては分からないというものではなく,皆通俗科学だといってもいいものだと思うが,同じ程度のものが分けてあるのは何か根拠があるのか。

福島会長

 後で岩淵主査から発言があるかも知れないが,状況として理解願いたいのは,前回総会で漢字表委員会を置くことになり,今日の総会までの検討状況の中間報告をする段階であるということである。国語審議会の今後というものは,かなり時間をかけてやるべき筋合いのものだと思っているので,本日は今後の検討のための要望,その他をお願いしたい。また,報告された事項についての意見もお願いしたい。話のあった諸点も逐次検討されていくであろうと思っている。漢字表委員会の主査,副主査から特に発言があったら,どうぞ。

岩淵主査

 別にない。まだ途中なので。

福島会長

 申し上げたとおりの事情なので,関連する問題が全部尽くされて本日報告され,それに対しての意見をいただくというわけにも事実上いかないが,要望があったということをはっきり記録して,今後の検討の上で逐次取り組んでいただけるようになると考えているので,御了承いただきたい。(木庭委員挙手)どうぞ。

木庭委員

 そういう印象を与えたとしてら,私の話し方がまずかったので,おわびする。最も厳密な実証性を基礎にするということは必要で,そういうことが良心的なことには違いないのだが,やはり多少のビジョンがあった方がいいように思うので,つい申し上げた。

福島会長

 ほかに意見はないか。(森岡委員挙手)どうぞ。

森岡委員

 漢字表委員ではあるが,代表ではないので今までやってきたことの個人的な感想を述べたい。実は築島委員が指摘したように資料3と4は,当用漢字表が制定された以後の資料であって当用漢字のわくの中で書かれたものであるという意見も委員会では随分出て,統計が果たして信用できるかどうかという意見も確かにあった。それから小谷委員の発言のように,「書くため」の漢字ということが前総会で決まって,一応それを受けて漢字を選ぼうということで出発したわけだが,私は前総会の時から「書くため」の漢字という意見には実はこだわっていた。ただそういう根本的な漢字を選ぶ哲学のようなことを,この委員会が発足して1年間ぐらいやったとしてもなかなか意思統一できないであろう。とにかく具体的な漢字選定を進める中で段々具体的に考え方が共通になっていくのではなかろうかと考えた。「書くため」の漢字に一番こだわったのは私ではないかと思うので申し上げると,「書くため」の漢字にもしこだわらないとすると,「読むため」の漢字というようにも考えられるが,鈴木委員や私などが議論したことは,「書くため」とか「読むため」とかいう実用主義ではなく,日本語にとって漢字というのはどんな役割をしているのか,つまり日本語を書き表すというか,日本語を代表するというか,日本人の持っている言葉の概念が漢字によって象徴されているという面があるので,使用度が多いか少ないかということに関係なく,とにかく日本語にとってどうしても必要な漢字は何かという考え方ができないだろうか,根本的に日本語の概念を象徴する文字の選定というような考え方ができないだろうかということであった。こういうことを申しても私の個人的な考えであり,なかなか委員会の中での統一ができないが,そういう点で一応漢字の選定に入ったわけである。
 それからもう一つ,統計の問題にもどるが,当用漢字表制定以降の統計は非常に完備しているが,制定以前のものについては,実は明治6年の福沢諭吉の「文字之教」以来の10の漢字表が,久松先生と西尾先生が作った「国語・国字教育資料総覧」の後ろに「綜合漢字表」という付表で載っていたので,それで私は分類してみた。先ほど説明いただいたように,100年間の歴史の中ですべての漢字表に載っているのが第1類で,義務教育レベルの漢字表として選定されたと思われるすべてのものに載っているのが第2類で,大体2,000字前後で一般社会を対象としたと思われる漢字表に載っているのが第3類である。実は国語研究所で作った資料2の「漢字のグループ分け」と明治以後の漢字表と突き合わせて階級10まで調べてみると,現在の統計の中で第1類の漢字は階級8までで全部出尽くし,第2類の漢字は99%出てきて,第3類のすべての表に出てくる1,019の漢字は大体71%まで出てきている。選択の基準が非常に揺れている第4.5.6類の漢字については,第4類が25%,第5類が9%,第6類が2%という出方になって,非常に寥(りょう)々たるものになる。確かに戦後の当用漢字のわくの中で書いた資料だというように思わないわけではないが,明治以後の選ばれた漢字表に現れる漢字と現在使われている漢字との対応が非常にいいので,必ずしも当用漢字以前の使い方が,当用漢字によってすっかり壊れたわけでなく,当用漢字以外のものも相当出てくるので,当用漢字制定以前の漢字の歴史的なものも,現在の統計のようにはいかないが,こういう選ばれた漢字表を見ることによって補われてくると私は個人は考えている。

福島会長

 漢字表委員会の今後の協議の内容についても総会又は中間的にどこかで話していただく時期もあると思うので,今までの件について特に発言の希望がないようであれば,本日は時間の関係でこの際漢字表の関係を一応ここまでにして,字体関係に移らせていただきたいと思う。(発言なし)

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