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次第 前回の議事要旨の確認/漢字表の具体的検討について(報告及び協議)

福島会長

 第91回国語審議会総会を開会する。
 最初に前回総会の議事要旨の確認をお願いしたい。議事要旨は前もってお送りしてある。また,黒表紙の最後にとじ込んであるので御自身の発言について,修正を要する点があったら,お知らせいただきたい。(発言なし。)発言がないので確認したものとする。なお,修正の必要があったら,事務局にお知らせいただきたい。
 次の議題に入るが,今期審議会委員の任期は11月16日までなので,中間ながら審議状況を取りまとめるという段階に入りつつある。
 前回総会以降,漢字表委員会及び問題点整理委員会で更に検討を進めていただいたが,本日は両委員会からそれぞれ報告いただき,それについて御協議願いたい。
 それでは岩淵主査,どうぞ。

岩淵漢字表委員会主査

 前回総会以後,漢字表委員会1回,小委員会3回開き,国立国語研究所が行った4種の語彙(い)調査,明治以来の10種の漢字表等の資料に出てくる総計4,236字のうち,残っていた約2,350字について今回,一応検討を終えたのでその結果を報告したい。
 検討の過程で各委員から出た問題点をもとに,更に整理して「選定の方針に関する具体的観点」という表にまとめた。なお,これは時間的な都合で,小委員会と漢字表委員会で意見が出たものをもとにして,志田副主査と私とでそれを少し整理したものである。
 まず,この資料に挙げている漢字の実例は,問題点を明らかにするための例示なので,これを採用するとかしないとかということではない。また,前回,問題点は羅(ら)列的に並べたので総会でもその点について意見があった。今回は整理して,1漢字の使用度数,2漢字の機能度,3固有名詞,4漢字の表す意味,5漢字の表す語の品詞,あるいは漢字そのものに属する直接の問題等大きく幾つかにまとめ,その中を細かく分けた。
 この「選定の方針に関する具体的観点」の〔注〕の記号,〔外〕は当用漢字表外の字,〔内〕は当用漢字表内の字であることを示すものである。なお,人名用漢字別表とか補正資料とかは,ここでは一応表外字として扱っている。
 まず,「1使用度数」の点から漢字を一字一字検討したが,その中で気が付いた点を少し申し上げたい。
 例えば,「福祉施設」の「祉」は現在非常に使用度数も高いと思われ,最近の資料で1,500番か2,000番以内の順位に入っているが,森岡委員の「漢字の層別」では6類,つまり余りたくさんの漢字表には出ていないというところに入っている。また,大西雅雄の「日本基本漢字」(昭和16年発行)によると,これは3,000番以外の字である。これは,やはり時代の違いで,その当時は3,000番よりももっと低い字であったが,近年になっては相当高い順番になっているというようなことが分かる。
 それから,「魅力」の「魅」という字も「基本漢字」には3,000番より下なので出てこない。
 また,「原子核」の「核」という字も「漢字の層別」によると6種に属しており,「基本漢字」では2,000番から3,000番までの間に入っている。最近の度数調査では1,000番以内に入っている。やはり時代の違いが相当あるということが,度数調査で分かる。
 次に,「2漢字の機能度」について説明する。(1)語構成能力――熟語を作る力というようなものは,機能度という言葉で問題にしてきたが,そういう機能度の高いものもあれば,機能度の低いものもある。(2)音訓両用のもの――音でも使うし訓でも使うというのは,結局漢字の働きの高いものではないかと考える。(3)主として訓で用いるもの――音ではあまり用いないで,訓で用いるものというものも考えてみた。(4)主として特定の語を表すのに用いられるもの――例えば「矛」と「盾」は,語構成能力は非常に低く,ほとんど「むじゅん」という言葉を書き表す場合だけに使われる。このような類のものがかなりある。時代の違いから来ると思われるが,表外字でも,やはり「生涯(がい)」などという言葉は使用度数がかなり高く,「現代雑誌九十種の用語用字」で見ると,21回出てくる。それから「煤(ばい)煙」は19回,「椅(い)子」は19回出てくる。
 次に「3固有名詞」については,当用漢字表では「別途に考える」ということになっているが,その中で,(1)人名に関するものは別に調査しないと具体的な例は出せない。(2)地名に関するものは,例えば,当用漢字表以外の字で都道府県名を表すのに使われている字は考えてみる必要があるのではないかとの意見が出ていたが,それは,そこに挙げてある14字である。また,県庁所在地などを見ると,そこに4字だけ加わってくる。
 「4漢字の表す意味から」というのは,次のとおりである。(1)地形・地勢の関するもの。(2)自然現象に関するもの。(3)動植物に関するもの――これは,当用漢字表では「なるべくかな書きにする」というふうな取扱いである。しかし,それでもかなり動植物名を表す字が,当用漢字表の中にも含まれているが,使用度数が低い漢字である。(4)身体に関するもの。(5)親族名に関するもの――この中で,表外字の「曾(そう)」は「曾祖父」とか「曾祖母」とかに使う「曾」であるが,検討した資料の中では度数は非常に少ない。(6)日常の実生活に関するもの――これも時代の違いで,現在の当用漢字表には「薪」という字が出てくるが,出現度数は非常に少ない。(7)人事・心情に関するもの。(8)色彩・形状・数量に関するもの――メートル法が行われるようになって以来,「匁」「勺」「斤」等,最近使わなくなってきた字である。

岩淵漢字表委員会主査

 「5漢字の表す語の品詞」により分けてみる。名詞を表すものはいろいろあるので省略する。(1)動詞・形容詞に関するもの。これも,当用漢字表内の漢字の例は省いたが,動詞や形容詞の語幹が1音節になると仮名書きにした場合,分かりにくくなるというようなことが起こってくるのではないかということで,1音節のものと2音節以上のものとを分けて考えてみた。(2)代名詞に関するもの。これは,当用漢字表では「なるべくかな書きにする」となっているが,その例外として「私,君,彼,何,我」は当用漢字表にある。(3)連体詞・副詞・接続詞に関するもの。当用漢字表では連体詞という言葉は特に挙げてないが,これらは「なるべくかな書きにする」ということになっている。ある程度,副詞・接続詞に関するものの漢字が出てくる。あるいは,こういうのは,そういう副詞などに使うだけではなくて,ほかの漢字と結び付いて熟語を作るというふうな関係から取り上げられたのかもしれない。表外字の中では「或(ある)」というのは仮名で書くと非常に分かりにくいし,検討資料を見てもかなり使用度数が高いというようなことが指摘された。(4)形式名詞・助詞・助動詞に関するもの。例えば,「事」とか「物」とかの形式名詞として使われるような場合。あるいは助詞とか助動詞とかいうふうなものが,やはり当用漢字表では――形式名詞のことは挙げていないが――「かなで書く」という取扱い方をしている。表外字として使用度数が非常に高く出てきたものに「頃(ころ)」がある。
 「6漢字の用法上特別のもの」(1)漢字一字で音読して語を表すもの。漢字一字で音読し,訓がないという点では漢字の働き方が低いといえるが,逆に仮名で書くと分かりにくくなることがあるのではないかというようなことで考えてみる必要がある。(2)漢字一字で一音節の和語を表すもの。これも仮名で書くと分からない場合が起こるので一応検討してみる必要がある。(3)意味が似ている同音の漢字。例えば,一番最初に出ている「廻(かい)」の字は当用漢字表外で,表内には「回」の字があるというようなことである。(4)同訓の漢字。これは幾つか出てくる。例えば,「はだ」には「膚(はだ)」と「肌」がある。ただ,「膚」を「はだ」と読む例はわりに少ないようである。(5)同字と言われるもの。例えば,「衿(えり)」「襟(えり)」。こういうような場合には,どちらか一つ選べば良いというようなことになるかもしれない。(6)外来語に当てた漢字。当用漢字表では外来語は「かなで書く」となっているが「頁(ページ)」とか「罐(カン)」というふうなものが,実例としては出てきたということである。
 「7漢字の構成」(1)字画の多いもの。当用漢字表では,字画の多いものは取り上げないというふうな方針だったようで,「鬱(うつ)」「籖(せん)」「餐(さん)」などは,その例である。(2)漢字の構成要素となるもの。これは表内字にもたくさんあるが,一応省略した。表外字でも,幾つかあり,「巾,皿,牙,屯」などがその例である。
 「8当用漢字表で憲法漢字とされているもの」これは,実は当用漢字表には何も書いてはいないが,当用漢字表を説明したものには「以下のものは憲法に載っているので,当用漢字表に採用した。」として,「且,享,但,准……」等21字掲げてある。
 このように問題点を整理し,度数だけからでなくいろいろな観点から漢字の使い方というものを見ていくことが必要ではなかろうかと考えたわけである。
 このほかに言い換え・書き換えの例などの資料とか,各方面で実際に使われている例などとかも検討することになっていたが,そこまでできず,今後の検討課題として残された。
 それから,漢字の検討に当たって,いわゆる「目安」という言葉の意味が話題になった。昨年の総会で承認されたように,新しく考える漢字表の性格は制限的なものとはしないことになっているが,そのことを指す言葉としていわゆる「目安」の具体的な意味については,@制限的ではない,A場合によっては新しい漢字表外の字を使っても良いし,あるいは,表内字だからといってそれをどうしても使わなければいけないというほどのものではない。B新聞,放送,公用文などの各種の分野で目安として作られたこの表をもとにして,それぞれの分野で用いる表を作っても良い。Cあるいは振り仮名を付けて漢字を使っても良いというようなことが,目安と言われている言葉の中の具体的なことではないかと思うが,この語の意味について,更に詳しく漢字表委員会で議論したいと考えている。なお,目安という言葉について批判的な考え方もないわけではないことを付け加えておく。以上である。

福島会長

 漢字表委員会の今日までの検討の経過について,何か御質問御意見はないか。(発言なし。)

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