国語施策・日本語教育

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次第 字体表に関する問題点等について(報告及び協議)

福島会長

 では続いて問題点整理委員会の今日までの経過について,報告願いたい。

遠藤問題点整理委員会主査

 前回総会で,字体表に関する具体的な問題点についてアンケートを行うことが了承されたので,7月30日に問題点整理委員会を開き「字体表審議の問題点アンケート」を作成し,早速全委員に送付した。9月初めまでに37通の回答があった。そこで9月17日に開いた問題点整理委員会で整理し検討を加えてアンケートをまとめ,それを総会に先立ち全委員に送付する手続きをとった。なお,「アンケートの回答まとめ」にも添付したが各項目の選択肢(し)ごとの意見の数とそれに付された意見の数も挙げたが,各項目の選択肢ごとの意見の数だけを重視しないで,付された意見をよく読んでいただいて全体的な関連の中で御判断いただきたいという意味のことを書き添えたわけである。
 アンケートの結果に関して全般的に申し上げると,これは問題点整理委員会の反省であるが,アンケートの作り方にいくら不手際の点があったということである。そのために答える方で,どういう返事をしていいのか,あるいはどこの項にこれを加えていいか,ということが多少混乱するような面もあったかと思う。
 例えば,「2字体審議の基本的方向」と「6字体整理の具体的な問題について」との中にそれぞれ略字体のことが書いてあり,双方関連しているというような点があった。
 それから,アンケートに用いた用語の中には意味がはっきりしないものがあるから,こういう用語では答えられないというような意見も,中には見られた。その中で特に大事だと思われるのは,「目安」と「標準」という言葉である。これを一体どういうふうに解釈していいのか。そういう点にやや不明確なところがあったのではないかと反省している。
 それから,選択肢の選び方で,例えば,アとイの間があいまいであったり,その関係が近いというようなことで,明確に答えられないというようなものもあった。
 また,各委員の意見は,このまとめでは項目別に分けられているので,個々の委員の全体的な意見を理解していただくためには,項目別にお答え願ったコメントを通して見ていただく必要があるというようなことも考えられた。
 このアンケートの結果は,今後の審議の素材としてそのまま総会に報告する次第であるが,更に,これからの審議を通じて問題の所在を明らかにしていくことが必要であるかと思う。
 一応各項目の概要を簡単に説明したい。
 アンケートは37名の方から回答をいただいたが,「1字体表の必要性」については,回答無記入1名,選択肢二つに及んで回答の方1名であった。選択肢中の,ア字体表というのは何らかの意味で必要である,32名。イ必要でない,0名。ウその他,5名である。しかし,この5名の方の意見を拝読すると字体表は要らないという方の数は非常に少ない,ほとんど全員の方が字体表というのは何らかの意味で必要なのではないかといっている。ただ,その字体表はどういう形のものか,つまり,字体表を独立させるか,あるいは新漢字表と一緒にして考えるかは,今後の課題として残っていると思われる。「ア」のほとんど全員の方々が,何らかの意味で字体表はあった方がいいということだが,その内容については,いろいろ立場が違っている。例えば,「文字は一定の字体があるべきだから必要だと考える。」「言語生活上の不便を避ける意味で,自分は必要と考える。」「それは,社会生活を営む上での約束の一つだから必要である。」という方もある。先程の標準と目安の問題になってくるが,「新漢字表が目安ということになるならば,これも恐らく目安であろう。そうすれば,目安としての意味で字体表の必要に賛成する。」あるいは「字体表は筆写体としてのみ必要である。」という意見の方もあった。そういうふうに理由等においてはいろいろの立場,いろいろの考え方があるが,この字体表の必要性については,ほとんどの方々が何らかの意味で必要であるとしている。
 「2字体審議の基本的な方向」については,ア現行の字体表のままでよい,3名,イ必要に応じ,最小限度の修正を加える,21名。ウ一層簡略化を進める,4名。エ現行の字体表にかかわりなく,新しく考え直す,7名。オその他,2名。という結果が出ている。これも理由等を読むと字体表についていろいろの意味で新しく考え直すという意見もあるが,一度定めた字体は社会の慣用や教育の上から見ても軽々しく変更すべきではないなどの考えから,現行の字体表に見られる矛盾,あるいは新しく加わる漢字があればその字体について検討し,部分的に修正する程度でよいという意見が多くを占めている。
 「3字体を考える範囲」については,ア新漢字表に掲げる漢字に限定する,20名。イ新漢字表外の漢字にも及ぼす,15名。ウその他,2名である。これらの理由等を読むと字体を考える範囲については,新しく考えられる漢字表外の漢字については及ぼさないという意見とそれについても及ぼして系統性を考慮するという意見とがそれぞれ相当ある。このことについては,「8新漢字表外の字体との関連」と表裏をなす点もあるので,これらと併せて十分協議すべき問題と思われる。
 「4字体表の性格」については,ア現行の字体表と同様に標準とする,21名。イ目安程度のものとする,15名。ウその他,1名となっている。これらに付されている理由等を読むと,結局,字体表の性格については,現行の字体表と同じく「標準」とするという意見と,「目安」程度のものにするという意見とがそれぞれ相当ある。このように意見が分かれたのは,「標準」,「目安」という言葉の理解の仕方の違いによるものと考えられる。
 「5字体表の使用分野」については,ア新漢字表の基本的方針と同じにする,28名。イ字体表では特に定めない,7名。ウその他,2名である。これも理由等を読むと,特にその使用分野を定めないという意見もあるが,新しく考えられる漢字表との関連を重視して,「法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など一般の社会生活において使用するものとする」という意見が多くを占めているということであると思われる。

遠藤問題点整理委員会主査

 「6字体整理の具体的な問題」は,6項目に分かれている。
 まず「(1)略字体について」ア現行の程度でよい,20名。イもっと多くの略体を採用する,9名。ウ現行よりも減らす,3名。エその他,5名である。つまり,この略字体については,現行の程度でよいという意見が多くを占めているが,その中にも現在社会に通用しているものは採用するなどの一部の手直しは必要であるという意見がかなり出されている。
 「(2)点画の整理について」ア現行の程度でよい,21名。イもっと整理を進める,7名。ウ現行のような整理は不必要,8名。エその他,1名である。ここも,結局,おおよそ現行の程度でよいという意見が多く出されてはいるものの,もっと整理を進めるとか現行のような整理は不必要であるという立場の意見もかなり出されている。
 「(3)活字体と筆写体の関係」ア一致させるのが望ましい,10名。イ無理に一致させる必要はない,25名。ウその他,2名。これは質問自体に不明確なところがあったが,結局,記された理由等により通して見ると,活字体と筆写体との関係については,現行のように,活字体と筆写体とは一致させることは望ましいが無理に一致させる必要はないという考え方が多い。なお,活字体は読むためのもの,筆写体は書くためのものであって,本来一致できないものであり,むしろ正字体と略字体の2種があってよいという意見などがある。
 「(4)系統性について」ア系統性をできるだけ貫くことが必要,14名。イ筆写の習慣を考慮して系統性にこだわらずに一字一字について考えることが必要,17名。ウその他,6名である。一見,アとイとが拮(きつ)抗しているようであるが,ここは,理由等によると,互いに相わたっており,結局は字体の系統性については,できるだけ系統性を貫くように配慮するとともに,具体的に一字一字についての筆写の習慣等についても十分に考慮を払う必要があるという考え方が多い。
 「(5)異体字の統合」ア必要である,25名。イ必要でない,6名。ウその他,5名である。これは数の上でも必要であるというのが圧倒的に多い。理由等を見ても,やはり異体字の統合は,ある程度必要であるという考えが多くを占めている。
 「(6)中国の簡体字との関連」ア関連を考える必要がある,5名。イ必要はない,29名。ウその他,3名である。記された理由等によってまとめると,中国の簡体字との関連については,略字体などを考えるに当たって,ある程度参考にし,考慮を払うことは必要であるが,日本と中国とでは,文字生活の実態,漢字の簡略化の考え方などに違いがあるので,一般的な関連を考えることは困難であろうという意見が多くを占めている。なお,漢字文化圏の関連を考えて調整できるものは調整したい等の意見もある。
 「7旧字体と新字体とについて」ア旧字体を中心として扱い新字体を許容とする,10名。イ旧字体を中心として扱い新字体を許容としない,0名。ウ新字体を中心として扱い旧字体を許容とする,12名。エ新字体を中心として扱い旧字体を許容としない,10名。オその他,5名。これは問い自体にいろいろ問題があった。すなわち,「旧字体を中心として扱い,新字体を許容とする」あるいは「許容としない」それから「新字体を中心として扱い,旧字体を許容とする」あるいは「許容としない」というふうに分けてあるが,この「許容」というものが一体どの程度のどういう意味なのかというような点に質問上の不備があった。理由等の中にもいろいろな意見が出てきており,要するに,旧字体と新字体とのいずれを中心として考えるべきかについては,旧字体(現行の字体表制定以前に用いられた字体。)を中心として考えるという意見よりも,新字体(現行の字体表に掲げられている字体。)を中心として考えるという意見の方が多い。ほかに両者を対等の関係のものとして考えるべきであるという意見もある。
 「8新漢字表外の漢字の字体との関連」ア新漢字表外の漢字については及ぼさない,イ新漢字表外の漢字についても,新漢字表内の漢字の系統(偏,冠,旁(つくり)など。)を考慮する,各々18名。ウその他,1名。これは,「3字体を考える範囲」と類似の設問となったが,新漢字表外の漢字については及ぼさないという意見と新漢字表外の漢字についても及ぼして系統性(偏,冠,旁など。)を考慮するという意見とが相当にある。「3」と併せて十分に論議を尽くす必要があると思われる。
 「9教育との関係」ア審議会としても十分に考慮する,18名。イ別の機関にまかせる,15名。ウその他,4名。理由等を読むと,結局,教育との関連については,当審議会としても十分考慮するという意見と,当審議会が教育上の具体的なことを検討するのは難しいという意見とがそれぞれ相当ある。
 「10その他」ここは19名の方から意見が寄せられた。意見としては,前述のアンケート回答と関連して,字体,字体表について,総括的にあるいは補足的に意見等を述べたもの,また漢字表や字引等の関連において部首の整理をどうすべきか等について述べたもの,漢字表に関連する見解を述べたもの,国語・国字一般について述べたものなどがある。
 この中には,国語審議会でもう少し国語全般について考えてほしい,という意見がある。私,個人的な立場で言うと,できたら国語全般についての審議を,いずれの日にしか,していただきたい,と思う。
 アンケートの項目別の報告は以上のとおりである。このアンケートによって,字体表についての大体の意見は出ていると思うが,11月には2年間の任期が切れるので,最後の総会までに字体表に関してどの程度まで整理したらよいのかが問題として残る。このアンケートの中には「字体問題は非常に重要な問題であるから慌てるな,じっくり時間をかけてやれ。」という意見があり,もしそういう立場をとるならば,今回のアンケートの結果をある程度整理し,それを次期国語審議会に渡してもいいのではないかというふうに思う。各委員の意見を伺いたい。

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