国語施策・日本語教育

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次第 今後の進め方について

福島会長

 ただいまの説明に関連して,質問・意見等をお聞かせいただきたい。来月でこの審議会の委員の任期が終わるので,当然次期委員に申し送ることになるので,今期の審議会としてはどのような形にまとめるかを考えることが必要であろう。

小谷委員

 今の字体が「標準」か「目安」が。およそ使われている漢字は随分多いと思うが,漢字表が目安である場合,表外字を使うこともあるし,表内字でも仮名で書くこともあるということで,ゆとりというか,目安とすることは十分意味があり得ると思う。しかし,字体となると,その文字を,いわばこれといって定義するという要素を含んでいると思う。それは,目安という以上に標準と目安とはどう違うかということも考慮しなければならないと思われるが,あるスタンダードのようなものを示すこととなると思う。目安ではぴったりしないという感じを持つ。
 次に質問であるが,「選定の方針に関する具体的観点」というものをまとめられたが,これは漢字表の問題点を指摘して次期の検討を助ける,その資料にするという立場で次期審議会へ引き継ぐのが適当であると考えたのか,それとももう少し方向を示して,こういう関係に関しては漢字表の中にこういう観点から,ある類型に入るようなものはなるべく採用するような方向で検討を続けてほしいという考えなのか。

岩淵漢字表委員会主査

 ただいまの問題は,使用度数というものを中心としながらいろいろな観点からながめて,ある程度の方向づけをしなればいけないのではないかと思うが,今期はそこまで検討する時間的余裕がなかった。恐らくそういうことは来期の問題になるのではないか。
 ただ,今期としてはこういうふうな観点があるということと,そういう観点で見ると問題点としてこんなものがあるというようなことをまとめる程度ではなかろうかと思っている。また,それと関連して新しい漢字表の性格をどうするか,つまり「目安」で良いのか,あるいは,漢字表委員会で日本語の基本漢字という考え方をすべきであるという意見も出ているが,どちらかを取るかの問題が残されており,このことを詰めるのに今後かなりの時間が掛かりそうである。

福島会長

 今期の委員の任期は11月16日までである。したがって,次期審議会に今期の審議経過を引き継ぐということが,問題になる。今後の手順としては,11月の適当な時期に最後の審議会総会を行う。その際に,次の期に申し送る内容等について意向を伺って決めたいと思う。
 大変恐縮であるが,11月の最終総会の前に,全員協議会を催したい。それまでに漢字表委員会,問題点整理委員会に次期審議会に申し送る文書の案をまとめていただき,それを全員協議会で審議していただき,修正すべき点があれば修正して,11月の最終総会で申し送りの内容を決定していただこうという手順を考えている。

鈴木委員

 11月の任期の終わりまでに,余り時間がないならば,残された時間の使い方として,今期のまとめには,漢字表の問題と字体表の問題のどちらを主として報告とするのかということを決める必要がある。個人的には,字体表は非常に技術的な細かい問題なども含んでいるので,これを従とし,漢字表については,ある程度具体的なことまでも報告できると思うので,これを主とすることにして,議論を漢字表の方に集中するのが良いと思う。

福島会長

 漢字表の方は検討状況について,字体表の方は問題点を整理したという程度の申し送りになるということも考えられる。

遠藤問題点整理委員会主査

 字体表の問題については,その状況から見ると,今後の審議の素材として,アンケートのまとめを次期審議会に送って,それを通じて,更に字体審議の問題の所在あるいは,その方向を見いだしていただきたいという意見をつけて,現在のまとめをそのまま次の審議会に申し送るという程度と考えるが,意見を伺いたい。

福島会長

 大体2年間かかって,ここまで来たわけだが,文化庁当局としては,この先時間的には大体どのくらいを予定しているのか。

安達文化庁長官

 非常に重要な問題であるので,特にどうしても急がなければならないということはないと思う。この前の当用漢字音訓表,送り仮名の付け方は,約6年間,3期を要した。したがって,その例でいくと,なお2期ぐらいを要するということが見込まれるということである。
 今後の計画としては,次期に具体的な案を作成し,それを一般に公表し,これについての意見を検討して,更にこれを最終的なまとめにしていただくというような手順ではなかろうかと思う。

福島会長

 ほかに意見はあるか。

小谷委員

 漢字表の問題について,次期あるいはその次の期に答申が出る場合には,複数の漢字表が出される可能性は,やはりあるのか。あるいは今期において,残り短い期間ではあるが,今期の総意として,漢字表を一つの表にするか,複数の表にするかをまとめる考えはないか。
 これに関連して質問したい。前期答申「当用漢字改定音訓表」の前文に,「原則として,漢字は実質的意味を表す部分に使い,仮名は語形変化を表す部分や助詞・助動詞の類を書くために使ってきた。」という文章がある。この表現には,これが国語の表記の正常な形であるという意識があると思うが,もし,これを引き継いでいくとすると,意味のある言葉,すなわち名詞・動詞,ある種の副詞等は漢字で書くのだという建前となる。この建前を持ち続けつつ,かつ日本語の豊富な語彙を生かして使うということが必要だと考えるとすると,そのための漢字表は,非常に漢字数の多いものにならざるを得ないのではないかと思う。この点は,漢字表が制限ではなく,目安であるということであるので,それほど心配しなくてもいい,しかし,また逆に動植物名とか副詞・接続詞とかを仮名書きにすることを正式のものと認めるかどうかというような問題があると思う。
 この問題は全体として正書法に関連のある問題であるが,この点について何らかの方向を見いだすことが必要なのではないか。最初にこのような一般的な方向から進んでいくと,多分,抽象的な議論がいろいろ出て収拾がつかなくなるということもあるので,漢字表委員会では,具体的な観点から検討を深めていると思うが,どこかの段階で,日本語をどう書くのか,どう書くのが日本語としては望ましい形なのかということにやはり触れておいて,漢字表をつくるときの背後にコンセンサスを持つ必要があるのではないかと思う。漢字表を作る哲学ともいえる基本的な考え方について,もうそろそろ合意が得られないものかと思うが,どうか。

岩淵漢字表委員会主査

 根本的問題であるが,まだ漢字表委員会では話し合っていない。いずれ議論すべきであると考えている。今期内にできるかどうかは分からないが,順序としては話し合う必要があると思う。

福島会長

 ほかにあるか。

八木委員

 新聞人として参考になったが,個人的な感想をいうと,「選定の方針に関する具体的な観点」には,当用漢字表外の字がかなり挙げてあるのは問題であると思う。観点については参考になるが,具体的にどういう字を選んでいったらいいのかは,なかなか難しい問題があるのではないか。
 また,新聞の実務面からいうと,現在,漢字テレタイプの文字盤に収められる漢字は2,000字弱のようなので,実際問題として,漢字の字種が増えたとき支障なく取り入れていけるかということも,考慮して今期の審議経過報告のまとめをしていただきたい。

福島会長

 御発言のようにその点が問題であるが,今期内に報告をこしらえる今の段階では,恐らくそこまで検討できないであろう。いずれ国語審議会の答申などをまとめるときには,審議の過程においてその問題についても審議しなければならないと思う。今期はその途中の段階として,一字一字の字について相当の数を検討したというにとどまっている。どれくらいの字数を採用するかが大きな問題であることは明らかであるが,最後に残る問題であって,これについて,今期はある方向を出すまでにはいかないと思う。ほかにどうぞ。

木内委員

 今期の報告は次期への申し送りになるので,その書き方について意見を述べたい。
 字体表の問題については,当用漢字字体表が昭和24年に公布され,その後これが定着したという言葉が時々使われるが,実際にはこれにかまわず使っていることもかなりあるようなので,世の中で字体はどのように使われているのか調べる必要があるということも触れておくことが大事だと思う。
 漢字表の問題については,漢字表委員会の研究は優れたものであると思う。明治以来の漢字表から入りいろいろ調査しているし,各種の語彙調査,使用度数・機能度等に分類した資料もあるわけで,それをどう使うかは次期の方の判断であろうが,なぜ,そういうところから審議に入ったのかということが分かるように書いておいた方がよいと思う。

福島会長

 この2年間で進歩した点を明らかにし,それから先をお願いするという形の申し送りになるであろうと思うので,今の指摘の点も考慮に入れて報告書の草案を作っていきたい。

鈴木委員

 報告を出す段階では,漢字表が「目安」なのか「基準」なのかということやその「目安」とはどういうことなのかという問題は避けて通れないと思う。
 そこで,「目安」といい「よりどころ」といい「基準」といい「標準」といい,これらは程度の違いはあっても規範性というものをどこかで持っている。今までの国語審議会は,このような規範性をはっかり示すという方針をとってきたが,前期の審議会からそれに対して反省があり,方向修正があって,「目安」という規範性の一番軟らかい,それだけにあいまいな言葉が採用されたのではないかと思う。個人的な考えであるが,もう一歩考えを進めて,つまり目安という言葉も使わないことにする。つまり,国語審議会で出すものは規範性という意味では理解してもらう必要はないということにして,適当で別な言葉を使うことにしたらどうであろうか。そのためには,現在の日本語を,客観的に記述して,これだけの漢字が現に使われているという,いわば実態というものを明らかにするというのが一つの方向ではないかと思う。もちろん実態といっても作成者の言語観というものが入るし,また,当用漢字表という人工的で制限性のある,それだけに強い規範性を持ったものの影響を受けた実態であることを考慮に入れた上である。だから無理があり,人工的であるような部分を我々の言語観で補正し,現在において,このぐらいの漢字が使われることが,日本語が言語して十分にしかも無理なく機能を発揮できるものと考えるというものを,できたら記述的な表として示してはどうかと思う。それを使うかどうかは読む人の自由であろう。
 それからもう一点は,今までの国語審議会で示したきたのはやはり唯一性をもった正書法なり,字体なり,漢字の使い方なりであった。例えば,動植物の名前は仮名書きにする,といったもので,つまり,「うぐいす」ときたら仮名で書くといったものであると思う。私はこれはどうも日本語の実態に合わないので「庭のうめにうぐいすが来た。」というようなときには「鶯」という漢字を使って「梅」を書いてもかまわないと思うが,しかし,それは種名とか亜種名ということを考えた場合には,漢字ではいろいろの意味の誤解が生じる。
 したがって,日本語の中の一つの言葉が違う面で使われたときに違った表記をとるのは,これが当たり前なのだという多様性があることを認識する必要がある。日本語は,どこでだれが言っても,必ず一つの表記に落ち着くべきだというのは問題であり,たまたまヨーロッパの言語はそういうふうになっているだけである。日本語には本来正書法はできないのではないかと思う。送り仮名もただ一種のものに決めることはできない。日本語の文章では漢字と仮名が適当に入りまじっていることが,句読点や分かち書きの役目を果たしているといった表記の特質も考えられると思う。本来正書法というのは日本語という言語の実態には即さない一つの考え方ではないだろうかと思う。こうした日本語の実態を把(は)握していくための論議を深めていきたいと考えている。

福島会長

 これから両委員会にお願いする経過報告の草案には,今期の審議経過報告として制限的なものとしないという考え方で,今日まで取り組んできたという表現は入るであろうと思う。次回は草案により審議することとするが,具体的な結論に到達したという点はあるいは少ないと思うが,このような取り組み方をしてきたということが,この経過報告の中で一番重要な点となるであろうと考える。心配の点もあるかと思うが,審議経過報告の草案を協議する段階で,更に意見を伺いたい。
 今後の取り運び方は,10月25日に全員協議会を開きそこで報告書の草案を審議していただきたい。その際,できる限り取りまとめて,11月8日(金)に開かれる総会で最終的に決定する。これを公表し,第11期国語審議会でいろいろな審議の状況その他を理解していただくということとなると思う。
 それでは本日の総会は,これで閉会とする。

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