国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第11期国語審議会 > 第11期審議経過報告(案) > 1「当用漢字表」の改善に関する審議経過

1「当用漢字表」の改善に関する審議経過

(3)漢字表の作成に当たっての考え方

 昭和21年に制定された「当用漢字表」は,実施以来,各種の批判もあったが,社会の実用面において,それなりの役割を果たしてきたものと認められる。しかし,この二十余年にわたる実施にかんがみて,再考すべきところがないわけではない。この際,「当用漢字表」の用いられてきた二十余年の歴史を踏まえながら,国語の本質と現状に即して,新たに漢字表の再検討を行うべきであると考えられる。
 漢字表の再検討を行うに当たっては,当然,国語における漢字の意義や役割について十分な認識を持つことが必要である。漢字仮名交じり文においては,主として,表意文字である漢字は,実質的意味を表すのに用いられ,表音文字である仮名は,助詞・助動詞や活用語尾のようなものを表すのに用いられてきた。文章の中に漢字を適当に用いることによって,語の切れ目が明らかになり,語意をとらえ,ひいては文意をとらえるのに役立つ。
 漢字は造語力に富み,多くの漢語が作られた。漢字に頼って安易に漢語を作った傾向がないわけではないが,我が国の語彙の中で漢語の占める位置は決して小さくない。
 漢字には音と訓がある。漢字に訓があるために,その漢字の意味を容易にとらえ得ることが少なくない。また,訓に基づいて,和語を書き表すことも多い。本来,音で読む漢語も,それを構成する漢字一字一字の訓が,その漢語の意味を理解する手掛かりとなる場合がある。
 我が国には同音異義語が少なくないが,漢字はこの同音異義語の視覚上の識別に役立つことがある(例;さす――差す,刺す,指す,射す,插す),しかし,このような漢字の利点は,一面,漢字の用法を複雑にすることでもある。同一の字で,幾つかの音を持ち(例;行――コウ,ギョウ,アン),あるいは幾つかの訓がある(例;生――いきる,うまれる,き,なま,はえる,おう)ことなども問題の点であろう。このような漢字の用法に関しては,一面的な扱いに陥ることなく柔軟な対し方をする必要があろう。「当用漢字表」は制限的な性格や統一的指向が強かったことから,無理な書き換えなども行われ,行き過ぎた点がないでもなかったことは注意すべきである。
 以上のようなことから,漢字表の作成に当たっては,漢字仮名交じり文という国語の特質に基づいて,さまざまな角度から漢字の用法の実態と動向を明らかにしていくことが重要であると考えられる。

トップページへ

ページトップへ