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次第 問題点整理委員会の報告について(字体表の検討の方針に関する問題について)〔その3〕

福島会長

 字体表委員会をなるべく早く出発させる必要があるだろうとは思うが,今日の意見を伺った上で,また,今,遠藤主査からは,念のためにアンケートでも出してみたいという希望の表明もあったので,もしアンケートを行ったとして,その上で,いつの時点で字体表委員会を発足させたらよいのか,あるいはもう一度総会を開催してからの方がいいのかどうか,問題点整理委員会としてもう一度検討してほしいということである。

木内委員

 そうすると,遠藤主査のいわれたこともよく分かってきた。これでアンケートを出していいかどうかという御質問であるが,私はそれはいけないと思う。なぜなら,現行の「当用漢字字体表」は,どういうつもりで何のために作ったのか,つまり,その意味はどうであるのかや字体・書体等の言葉の使い方はどうであるのか等を確かめる作業をしてから,その上でアンケートを出すのでなければ,まずいと思うし,また,アンケートを出すとどうしてもある意見が大多数であるということで数がものをいうことになるが,これもうっかりすると邪道に入りかねないと思うからである。これは意見である。
 もう一つ述べたい。今日の「字体検討資料」の下の方,「当用漢字表」に基づく活字の中で,明朝体・宋朝体と書いてあるが,これの意味するところは,要するに宋朝体はばかに幅が狭いとかいうことだけであって,内容は少しも違わない。この下の欄はむしろ人を迷わす余計なものである。字体については,昔からあった康熙字典,明朝,宋朝,清朝,及び何らかの考え方によって提出された「当用漢字字体表」の字体は要るであろうが,ゴシックは要らないと思う。昔からあったものの字体で考えるべきで,当用漢字が出てから,明朝を変えたわけでもない。「当用漢字表」の字体をただ明朝風に,あるいは宋朝風に幅狭くやると,こうなるというだけのことではないか。そういうことをここで議論する必要はない。

福島会長

 この資料は必ずしもそういう趣旨ではないかもしれない。松原専門員から説明がある。

松原専門員

 この作業をした者として申し上げる。これは遠藤主査から報告があったように,字体,書体ということをめぐっていろいろ議論があった中で,実際に目に見える宋朝体,明朝体,清朝体というような活字の字体の種類についてもたびたび話が出た。その時に,ある委員からそのような活字の種類を示すサンプルがあった方が話がよく進むので,サンプルの表を付随して出してくれという要望があった。我々はその要望を受けて準備したわけである。今後検討する場合は,現在の字体表に示されているものと,それに基づいた明朝体と,字体表が決められる以前に使われていた明朝体と康熙字典体との四者を中心に比較してみればいいということは,承知して作ったものである。

福島会長

 私はよく分からないが,各サンプルに示した活字の大小があるのは,これしかここに合う活字がなかったということであって,大きいものが重要であるという意味ではないようである。
 それから,問題点整理委員会が言っているアンケートは,字体問題に関する突き詰めた点について全委員の意見を聞きたいということよりも,今後の審議の進め方,方法についてコンセンサスを得たい。それによって字体表委員会を早急に発足させてその上で総会に報告するということにするのか,あるいはもう一度総会の議論を必要とするのかというような点の問題点を整理する上で見定めたいということであろうと思う。

阪倉委員

 ここに書かれているような形でアンケートを求められると,私は答えられない。つまり,3行目に「印刷及び筆写における字体」とまとめて書いてあるが,先ほど森岡委員のいわれたように,グラフィームについて考えると,漢字の場合には正字体もグラフィームなら,俗字体もグラフィームである。どちらもグラフィームとして認められるわけであるから,先ほど宇野委員のいわれたように,筆写におけるグラフィームを考えるのか,活字におけるグラフィームを考えるのかということを最初に確定しないと,右の備考欄に「活字体と筆写体との関係」の項目を吸収すると書いてあるが,どういう形で吸収されていくのかということが分からない。字体表の性格ももう少し総会ではっきりさせないと回答できない。

林(知)委員

 この字体の問題は,根本思想にも関係すると思うが,例えば「台」「尽」「当」という字をながめて,上の欄の「臺」「盡」「當」と比べてみると,正直にいって同じ字とはとても思えない。これは字体の問題というよりも,こういう字が新しく漢字表に入ったという理解に立ちたい。そうするとどういうことになるかというと,「台」と「臺」との字は両方とも漢字表に入ることになる。そして二つは同じであるという理解に立てば,字体表の問題ではなくて,こういう略字の問題は漢字表の問題に入るのではないか。そうしたときの問題点は,字数が幾つあるということにこだわると,なかなか出てこない。
 以上,「台」「尽」「当」という字に関しては,字体の問題というよりも,漢字表の問題のような気がしてくる。この点を総会で審議していただければと思う。

林(大)委員

 先ほど木内委員がいわれたことは,十分のみ込めない。なぜ,こういう字体表が作られたのかということについては,内閣訓令とか「当用漢字字体表」の「まえがき」とかに幾らか書いてあるが,それをよく御存じの上でいわれていると思うので,どういう点が,なお疑問であるのかもう少し聞きたいと思う。
 もう一つ,今の阪倉委員,林(知)委員の話に関連してであるが,標準を立てる必要があるということについては,第11期に意見が大体一致していると私は了解している。つまり,字の形について何らか標準を立てる必要がある,それを字体と呼ぶか字形と呼ぶかはともかくとして,活字になって現れている形,字を筆で書くとき,ペンで書くときの形が,何らかの標準を持っていた方がいい,その標準を示すものが字体表であるというようなことは,意見が一致しているものと私は了解しているわけである。それをただいまの「当用漢字字体表」が示し得ているかどうかということは一つの問題にはなると思うが。それから,昔の字体のまま標準を立てればいいという考え方が一つあると思う。標準としては,昔の活字のままでいい,あるいは康熙字典のままでいい,あと実際に手で書くときには別に考えればいいという考え方(これは宇野委員のお考えではないかと思うが。)である。
 しかし,別に,複雑であるから,もう少し簡単にしてもいいのではないかという考え方もある。そういうときに,印刷の活字は簡単にしようではないか,手で書くときは自由であるという考え方もあるし,手で書くときは簡単でもいいが,印刷の方は昔のままきちんとした正字の方がいいという考え方もあろうし,今の「字体表」が採用している方針のように,印刷の上で見る形と手で書くときの標準とは,なるべく一致させるような方向で考えてはどうかという考え方もある。そういう考え方について,どれを採ったらいいかということも一つの重要な問題点ではないかと思う。それを問わずに筆写と印刷の字体の標準を示せといわれると困るというのが,阪倉委員の質問ではないかと思う。
 それからまた,字体表に書いてあるような幾つもの異体がある。「叙」にしても「剣」にしてもいろいろあるが,どれでもいいというのでは困るので,どれか一つを標準に立てようという考え方についてはどうかとか,あるいは略体を採用するのに,従来使われてきた略体を採用するのか,あるいは新たに略体を採用するのかとか,点,画を整理する問題について本当に小さいところで,筆写の習慣からもう少し簡略にすること(ただいまの字体表では,例えば字体検討資料8の「」の字も一画減らして,「成」になっている。更にそれを活字の方でも同じ形にしたらよかろうということにした。)が,いいのか悪いのかとか,「半」の字も,手で書くときは「」のような形にしないで,「半」のような形で上の点を打っていたが,活字の方もそうしたわけであるが,そのようなところまで活字と一緒にしなくてもいいのではないかとか,そういう点を一々判断していただく必要があるのではないか,と私は思っている。
 結局,根本的に印刷と筆写の場合をどういうように考えたらいいか,標準を立てるということを考えた上で,印刷は別,筆写は別というように考えるか,あるいはなるべく一致させるという方針を現在の字体表のように考えていくかどうかというようなことが,ただいまの字体表の反省というか,検討ということになるのではないかと考えている。

福島会長

 いずれにしても現在「当用漢字字体表」が,存在しているので,字体表についての考えを取りまとめておかないといけないと思う。字体表委員会が組織されて,専門的具体的に検討された上で,それに基づいて総会の意向を決めるという段階が必要であろうと思うが,その前に決めなければならないことがあるかないかということの検討を今日の総会の議題としたわけである。総会がおおむね3か月に1度ということになっているので,今日の話を基礎として全委員に一応の考えを伺ってみるためのアンケートをしてみたいというのが,問題点整理委員会の意見であると思う。
 こういうことは総会でもう少し意向がまとまってからでないと返事ができないということであれば,そうせざるを得ないし,各委員の意向に沿った形での質問について,難しいかもしれないが,問題点整理委員会で更に検討願って,適当な案の見通しがつけば,質問票の実施ということになると思う。その上でまた総会で意見を聞くというようになると思っているので,含んでおいてほしい。

遠藤主査

 問題点整理委員会としては,アンケートをしたいというわけではない。先ほどの阪倉委員から意見があったように,このアンケートでは困るというのであれば,問題点整理委員会としては,そのような意向を参考にして,更に問題点を煮詰めて次の総会にかけるということでよろしいのか,それともアンケートを出した方がよろしいのか,その意向を聞きたい,ということである。

福島会長

 その点も問題点整理委員会でもう一度検討していただきたい。具体的にアンケートの案を作ってみて,今日の意向にかんがみて,このアンケートは出さない方がいいということであれば,もう一度総会で検討した上でということになるし,こういう具体的なアンケート案ならば,今日の意向に沿っているので,出せるはずだということになれば,出すということにしたらどうかと思う。字体表委員会の発足時点はまだ若干先になると思うし,その前にもう一度総会を開く必要があるように思う。

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