国語施策・日本語教育

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福島会長

 これは,新しい漢字表の表外字についても字体整理の問題があるのではないか,それをどう考えるかということで,先ほど説明があったわけである。これについて御質問,御意見があったら,伺いたい。
 この問題については,将来の状況を見た上で国語審議会として態度を決めるべきであり,今回は特定の方向を出さないということは,全然言及しないということか。どこかにこういうことを書くということか。

三根谷主査

 表現が難しい。触れないことも一つの表現といえるかもしれない。

松村問題点副主査

 これは二つの考え方が併記してあると思う。何も示さないものとすると書いてあって,そちらの方が大方の意見で,この方向に向いているように思うが,一方で下のような意見もあったということである。
 試案の段階では142ページ「字体について」の5番に「新漢字表は目安であるから,表に掲げてない字でも,字体を考える必要がある。うんぬん」とあって,こちらの方はある程度方向を示すということが出ている。このことは,新しい漢字表を考える上で当然出てくる考え方だろうと思う。
 「当用漢字表」は,はっきり制限した形で,その範囲の漢字で考えるという意味だから,表に掲げてない字については触れなくてもいいわけだが,「新漢字表」は目安なので,表に掲げてない字も当然出てくるということになる。そうすると,ある程度審議会としての考え方を出した方がいいと思うが,今度は大方の意見はむしろ示さないというふうになっている。この点について漢字表委員会の意見を伺いたい。

三根谷主査

 示すというのと,示さないというのと,両方の意見があるが,目安であるから表外の字についても考える必要が出てきたという試案の142ページの5の趣旨は皆了解している。ただ,その場合に「へん」「にょう」などは,新漢字表の字体に準じて統一することができよう,というところまで書いてあるが,「へん」「にょう」などはできる限り改めるということになると,今余り使わないような活字まで全部一括して鋳造し直さなければいけないのかというような非常に厄介な問題も起ってくる。
 それでは,どの範囲の字種にまで及ぼすかということになると,表外の字について更に検討を加えていかなくてはならないという問題が生ずる。そこで,こういう問題はそれぞれの分野において必要に応じてどうしても使わなければならないような字でそれが従来の活字の形で使って非常に目ざわりであるというようなものについては,自然に新しい統一をとったような字体が生まれてくるものであろうというような考え方をして,こちらから積極的な指示をしない方が好ましいだろうというのが,大勢を占めているということである。
 本日,総会で広く御意見を承って漢字表委員会で更に検討を重ねていきたいと考えている。

松村問題点副主査

 やはり「新漢字表」は目安であるから,こういう「へん」や「にょう」など表外字の字体についても,当然表内の字の問題に派生するものとして,何らかの委員会としての考え方を示すことが必要ではないかと思う。もちろん表現の仕方は慎重にして,それを無理に規制するような方向でやってはまずいが,この点,漢字表委員会で更に検討してほしい。

三根谷主査

 御意見として承っておいて,漢字表委員会で検討したい。

福島会長

 ほかに御意見はないか。

小西委員

 これは何かの方向で示した方がいいと思うが,ただ在来の字を全部この字に改めろとか,こうせよという形で示すのではなく,将来こういうふうになっていったらいいのではないかという程度の方がいいのではないか。
 なぜかと言うと,普通考えるのは,活字印刷ということが頭にあったわけであるが,これからはコンピューターによって印刷するという技術が開発されている。パターン認識の技術が日進月歩であるので,今の段階でもがんばれば5,500〜5,600字ぐらいはコンピューターで印刷できると思う。今のところは活字に比べて字体が多少スマートでないという欠点があるが,大量生産という時代になると,コンピューターによる印刷ということを考える場合には,表外字についてもある程度今の表内字に準じたようなものをやっておくと,パターン認識が非常に楽なわけである。将来はそちらの方向を頭に置いて──といって今すぐに将来の活字を新しくしろというのではなく,将来進むべき方向はこういうことではないだろうかという意味でサンプルを示すというふうな指導はあってもいいのではないか。

黒羽委員

 私は主文の方で,今回は示さないものとするという意見がいいのではないかと漢字表委員会で述べたが,それには理由が二つある。一つは,国語審議会というのは,なかなか権威のあるものだから,現在直ちに強制するものではないという示し方をするにしても,我々新聞社としては活字をすぐ鋳造しなければいけない気持ちになる。そうすると大変費用もかかることになる。もう一つは,下に書いてある程度のことは,今すぐ強制するということではなくて示すことは,非常に結構だと思うが,今期の国語審議会は来年の3月までであるし,まだやることが多いので,こういう各論に入ると,時間もかかるし,物理的に無理ではないか,だから次期の課題にしたらよいのではないかと考えたのである。

三根谷委員

 今のような意見がかなり多く出たが,その他に余り表外字の字体のことを言うと,表外字の使用が自由になり過ぎるような印象を世間に与えるのではないか,何も言わない方がさっぱりしていいかもしれないという意見が,第14回漢字表委員会で出されている。こういう意見もあって,将来の状況の推移を見て態度を決めるということが大きな方向となってきたのである。

下中委員

 これは資料1,2にわたってのことになると思うが,要するに新漢字表は字種,字体,音訓を併せ示す,そして新漢字表に示す字は通用している明朝体を採用する。そうして,今度漢字表の中に出てくる字については,これはあくまでも骨格であるとか,デザインを拘束するものではないとか,ということを解説する。そこにかかわってくることとして表外字と字体との問題がもし表現できるのなら,その場所で説明すればいいのではないかと考える。

阪倉委員

 質問であるが現在の学校教育では,字体として教科書体を主として教えているのか。あるいはいわゆる明朝体が主なのか。かねがね疑問に思っているのは「しんにょう」である。教科書体は「しんにょう」であるが,これが学校教育で教える「しんにょう」なのか。あるいは明朝体のように「しんにょう」という形を現在教えているのか。参考までにそのことを教えてほしい。

上岡国語課長補佐

 初めに事務的な説明をして,そのあと専門の視学官に答えていただくことにする。
 まず教科書体であるが,原則として小学校の教科書には教科書体活字で示すということを義務づけている。中学校については,明朝体ということになっている。しかし中学校1年生のほんの数か月の単元のところでは小学校とのつながりを示す意味で教科書体を使っている教科書も一部ある。
 学校での教え方については藤原視学官に答えていただきたい。

藤原初等中等教育局視学官

 「しんにょう」については,明朝体活字は「当用漢字字体表」に出ているような形に作られているが,学校教育で昭和20年前後まで伝統的に教科書体を教えていたのは,途中で曲がったような形であった。
 それで昭和33年に初等中等教育局通達が出ている。人・入など7種類の文字やしんにょう等の字の部分をなすものについて,学校教育での手書きを指導する場合の形──というより,小学校の場合は教科書体活字で教科書が作成されているので,教科書体活字のデザインについて通達が出ている。教科書体活字はその7種類の字や,しんにょう等については,当用漢字字体表並びに明朝体活字とは異なった形で作られている。
 したがって,指導の場合においても,教科書体活字を標準にして小学校の児童や中学校の生徒にはそういう形にのっとって書かせるというように指導している。

村松委員

 質問というよりも教えていただきたいのだが,資料1の最初のページに「字体は文字の骨組みと考える」という表現があって,2ページ下の方では「「つくり」などについて表内字の字体に準じた整理を及ぼす場合は」云々(うんぬん)とあるが,例えば「」という字で「」が「噂」となっているが,私にはこれは骨組みの違いと思えない。これは書体の違いになるのではないかと思うが,そのところを明確に説明していただきたい。

三根谷主査

 この骨組みの問題については漢字表委員会の中でも意見が違う。一方ではそういう方向が変わっても,点画の組合せの変更でなくて,同じ骨格であるから,「益」の上は「」でも「」でもよかろうし,もっと極端に言うとしめすへんは「」と書こうと「」と書こうと,しめすへんなのだから骨格は同じであるとか,更にしんにょうは「しんにょう」でも「しんにょう」でもしんにょうであるというように,段々に違った意見が出てくるので,ごく一般の常識として,だれが見てもこれは違うのではないかという,そういうところに落ちつけざるを得ないのではないか,余り専門的な知識,あるいは特定の定義を加えて骨格論をやっていったのでは,一般の社会の通用の文字の問題にふさわしくないのではあるまいかというので,そういう点ではかなり厳密性を欠いた議論になっているかと思う。
 骨格の中の点画の組合せというようなことで議論は進めるが,最終的な提出の仕方としては,余りに学問的な厳密さを追求しない表現をとりたいと考えている。

木庭委員

 先ほどの主査の話で,表外字について標準を示すと何か表外字の使用を認めるような印象を与える,これは好ましくないということがあったが,それは目安の精神と食い違うように思う。目安である以上は,ほかの字を使うことは好ましくないというふうに考えるべきではないように思う。表面は目安であるから使ってもいいといって,実はいやな顔をするというのではどうも目安らしくなくなってしまうように思うので,その点を伺いたい。

三根谷主査

 先ほど読み上げたのは第14回の漢字表委員会の議事の中で,ある一人の委員の方が発言されたことであって,こういう意見もあったということを紹介したわけである。表外字の使用が自由になり過ぎるというような印象を世間に与えるのではないかという発言があって,目安を否定するようなことではない。

木庭委員

 よく分かった。

福島会長

 表外字の字体整理の問題について,もう少し意見を伺いたい。
 目安というのは,少しはみ出してもいいが,むやみにはみ出すことを奨励するつもりはないという思想はどうしてもあるから,表外字の問題であまり方針を示し過ぎると,表外字を奨励し過ぎるということになるのではないかという意見も確かにあると思う。ここに「今は特定の方向を示さないものとする」というのは,方向を示さないで全く黙っているのか,「方向を示さないものとする」ということを書くのかということになるが,その辺も全体の説明なり,前文なりの審議の際に御検討いただければいいのだと思う。

林(大)委員

 表外字の問題はなかなか一口に言えないところがあるように思う。というのは,「へん」「にょう」のようなもの例えば「示」とか「食」とか「しんにょう」は簡単に及ぼせるではないかと思われるが,及ぼしていいという程度にとどめておけばいいが,及ぼした方が望ましいということを言うと,あるゆる字にそれを及ぼすことになるというふうにとられるおそれがある。
 では,どの程度の字までやるかというと,これまた大変な問題になる。印刷関係では,実際に新しい漢字表がでたときに,表外字に及ぼすことを自主的に考えている向きもあり,そういう印刷会社では1級漢字,2級漢字,3級漢字というようなランクをつけている。2級までに当用漢字が入っている。3級は,3,000字までとか,4,000字までとかというランクをつけているわけであるが,うちは3級までは及ぼそう,4級までは及ぼそう,3級の中でこれはやめようというようなことを工夫してやっているようである。
 それを国語審議会の方で進めるのには先ほど黒羽委員が言われた点に触れるが,第2段の新漢字表,第3段の新漢字表というものを考えることになるので,今回の任期のうちには難しいことではないかと思う。
 ここに掲げてあるような字は非常によく目に触れるので,そういうものは自然に直した人が多い反面,昔からの字を使いたいということでがんばる人もあって,実際上はここで二重生活,三重生活が行われることにもなろうかと思うが,結局のところはそれをここで方向づけをしないで,自然に任せた方がよかろうというのが,我々の間での一つの了解であったかと思う。

澤村委員

 ただいま印刷業者の話が出たのでお願いのような形になるが,活字の印刷業者といっても,大変末広がりであり,大きなところもあれば,小さいところもある。それで一番気をつけなければいけないのは,こういうふうに将来は直さなければいけない,直した方がいいという印象を持たれると,それが直せるところは非常に有利になるが,直せないところは困るということで,特に中小の団体が大変問題にするわけである。教科書体活字の標準が出たときも,それが全体に明朝体にまで及ぶのではないかということで大騒ぎをしたことがある。
 そういうことなので,方向づけをされるということになると,また大変な問題が起きて,事実また混乱のもとにもなるので,この新しい漢字表にならった方がベターであるというような文言は絶対に使わないでほしい。これはほうっておいても,自然のうちにいろいろな形が出てくると思う。また方向づけしても,絶対に実行できるものでもないと思うので,そういうニュアンスを感じさせないようにしてほしい。
 ここに出ている文言の中の表内字に準じて統一することができようというような程度でも,若干そうした方がいいのだというふうにも感ぜられるので,これも余り好ましくないように思っている。
 これはできるところはそう問題がないが,できないところに大変問題が起きるということと,また現在でもお使いになる側で古い形の方がいいのだというところもたくさんあるので,余り触れないことにしていただきたいと思う。

山本委員

 今,印刷業界の御報告があったので,私は実際に活字を扱う新聞の立場をお話しして,御参考に供したいと思う。
 各新聞社によって表外字をどういうふうにするかというのは少しずつニュアンスが違う。先日新聞協会の用字用語委員会に黒羽委員と一緒に出席して,意見を交換する機会があったが,新聞社としては地名とか人名とかでどうしても表外字を使う場合があった。その場合に,表内字と表外字が例えば「へん」が違うということを非常に気にするわけである。といって,これを全部統一するのも大変だという事情もある。それで用字用語委員会としては,一体どの程度のことができるのかということを今検討しているようである。
 例えば資料2の参考のところにあるが,「祈師」という言葉を仮に使うとすると,「祈」は「へん」が「」になっているのに,「」は「示」になっていていかにもおかしいといった問題があるが,一字一字やっていくと,それこそ何千字という大作業になるので,どういう方向へ持っていくか,今非常に迷っているような印象を受けた。
 ただ方向としては,できれば表内字に準じる方向で進めていきたいという意見が強いようだが,これも固まったわけではないので,いずれにしても,新聞協会としては独自に検討は進める。したがって,国語審議会が今度の場合,表外字についてそういう方向で進めてはいけないというようなことだけは言わないでほしい。つまり,やれという必要はもちろんないわけだが,新聞協会としてはそういう意向があるようである。

福島会長

 ほかに特に承っておくことがあったらお願いしたい。
 もしなかったら,今後の総会との関連もあるが,漢字表委員会としては,字種の問題は別として,字体の問題はどういう段取りになるか差し支えなかったら,承っておきたい。
 先に申し上げたように,本審議会の任期は3月までである。
 事務的な話しになるが,新しい漢字表は,印刷その他の関係もあって,2月ごろにはまとまっていないと困る。2月にまとまっているためには,1月ごろにはそれ相当のところまできていなければならない。そうすると10月から1月まで毎月総会をやらなければならないということにもなる。毎月総会を開くということでむやみに漢字表委員会にお骨折りいただくことになっても恐縮だという気もするので,どういうふうに考えるべきかということで,伺うわけである。

三根谷主査

 字体小委員会を開いて,残っている印刷活字体と筆写の字体とのかかわり合いの問題とか,まだ検討の残っている問題とかを進める。それから漢字表委員会としては,字種についての第1読会が終って以後,最近やっと第2読会に入った段階なので,字種・字体をひっくるめてまとめて最終的な案に持っていくように,これからたびたび会合を開いていかなければならないというふうに考えている。

福島会長

 総会自体の日程としては,次回は10月ということになろう。あるいは全員協議会という形で自由にお話を願った方がいいかということにもなろう。頻(ひん)繁に総会をやられても困るという事情も漢字表委員会にあると思うが,10月に総会をやることは差し支えないか。
 日程的な関係では,総会であろうと全員協議会であろうと同じだが,総会ということになると公開というたてまえになる。いよいよ最後に字種その他を決定する際には,もう少し自由に話合いを願った方がいいから,傍聴はお断りしようということで,名前だけ変えることになるわけである。10月の終わりに総会にするかあるいは全員協議会にするか,このことを一応考えたい。

三根谷主査

 全体の会合に間に合うように漢字表委員会は勉強したい。そして最終的に字種を決定しないと,字体のこと等いろいろな問題がそれと絡んでいるものだから,なるべく10月には全員協議会のような形で字種の問題については忌憚(たん)のない意見の交換ができるようにしていただきたい。

福島会長

 漢字表委員会にはあれこれ御迷惑をお掛けすることと思うが,よろしくお願いしたい。
 繰り返しになるが,総会等も今後は月に1回ということでお願いしたい。次回は10月27日の金曜日にしたいが今の予定では,全員協議会ということで字種問題も取り上げ,自由に御発言願いたい。
 それからまた,字種のほかに前文をどう書くかとか,説明を要する部分についてどういう説明をつけるかということが当然出てくるわけである。特に前文の起草ということが重要な討議事項になると思う。前文とはいっても,サブスタンスとの関係も非常にあるので,結局漢字表委員会の手をわずらわさざるを得ないと思うので,漢字表委員会の中に前文起草委員会を設けていただくことになるかと思う。
 そこで従来の経緯もあり,審議の経過もあるので,前文の書き方について,あるいはその中身について,御意見のある方は,事務局あてに書面なり何なりで御意見をお寄せいただければ漢字表委員会に御意見を反映させることができるかと思う。また漢字表委員会で直接御意見を御開陳いただいても結構である。
 次の集まりは10月27日(金)の予定である。
 それでは本日の会議はこれをもって閉会とする。

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